ストロベリーファンド ~はずれスキルの空間魔法で建国!? それ、なんて無理ゲー?~

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いきなりダンジョンですか、そうですか……。

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 アシュラム王国、王宮前……。
 王宮だというのに入り口を守る兵どころか、付近には誰もいない。
 「結界の効果……だろうな。」
 俺のつぶやきを聞いたクリスが口を開く。
 「まさか、これほどの物とは思っても見ませんでしたわ。」
 クリスは剣を扱う前衛職だが、魔力の感知にも長けているとのことで、それだけにこの結界が発する魔力を正確に読み取っているらしい。

 「確かにこれほどの結界を張れるのは、伝説の魔王以外には無理だと思いますわね。」
 「あぁ、だからこの結界を壊す為の道具を作るのに苦労したんだよ。」
 俺は唖然とするクリスにドヤ顔でそう言ってみる。
 ハッキリ言って自慢だ……と言うか自慢位させてくれ。
 それほどまでに、この結界は厄介だったんだよ。

 「いいか、結界の穴はすぐ閉じるからな、俺に続いてすぐに潜り抜けてくれよ。」
 俺は皆が頷くのを見てから、結界破壊の魔石を取り出す。
 目の前に魔石を置くと、その魔石は宙で固定されたように浮いたままになる。
 同じように場所を変えて魔石を置いていく。
 全部で5つの魔石がセットされると俺は呪文を唱えて魔石に魔力を流し込む。
 魔石から魔力の光が流れ出し、五芒星ペンタグラムの魔法陣を描き出す。

 「行くぞ!」
 俺は『女神の剣エフィーリア』を抜き、その刃に『次元斬スラッシュ』を纏わせると、一気にその魔法陣を斬り裂く。
 「急いで!」
 俺はそのまま結界を潜り抜け、皆を急かす。
 全員が潜り抜けると同時に、空いていた空間が閉じる感じがした。

 「シンジ様、玉座の間は正面広間を通り抜けた奥にあります。」
 「了解!みんな、一気に駆け抜けるぞ!」
 俺はそう言って入り口の扉に手をかけ、一気に開く。
 扉をくぐった瞬間に違和感を覚える。
 「しまった。罠だ!気を付け……。」
 皆に注意を呼びかけようとしたが、俺の意識はそこで途絶えた……。

 ◇

 「……ん?ここは?」
 俺は何か柔らかいものに包まれて目が覚める。
 「あ、シンちゃんお目覚め?」
 俺の横から声がする。
 そこを見ると全裸の女性が俺に抱き着くようにしていた。
 「ミカ姉……なんで……?」
 「あら?何でって昨日も一緒に寝たからじゃない。」
 それに、と俺の頬を軽くつまんでくる。
 「寝言で女の子の名前呼んでたよ、える、とか、あい、とか……シンちゃん、浮気?」
 「いや、そんなわけないだろ。」
 俺はミカ姉を引き寄せると軽くキスをする。
 しかし何だろう?
 頭がぼーっとして、あまり深く考えられない。
 ミカ姉の言った「える」とか「あい」とかいう名前の女の子にも心当たりは……ない?
 何かが引っかかっている気はするが、思い出そうとすると、霞がかかったかのようにぼーっとしてきて、どうでもいいか、という気持ちになってくる。

 「どうしたの、シンちゃん。」
 ミカ姉が俺を心配そうに覗き込んでくる。
 「いや、なんか忘れているような気がして……。」
 俺が言うとミカ姉は優しく包み込むように俺を抱きしめる。
 「シンちゃんは疲れているのよ。今は何も考えずにおやすみなさい。」
 ミカ姉の柔らかい肌に包まれて、何も考えられなくなる。
 心地よくて、優しくて……このまま埋もれる様に眠れたら……。
 俺の意識がだんだん遠ざかっていく。
 「そうよ、シンちゃん。そのまま何も考えずに眠りなさい。……好きよ、シンちゃん……。」
 ミカ姉の最期の言葉に、薄れかけていた意識が微かに覚醒する。
 ……ミカ姉が俺を好きって……初めて言われたんじゃないか?

 (……好きなんです。この想いを止めることが出来ません。)
 あぁ、でもそう言われたことが……でもミカ姉がそんな事を言うか?
 (……後悔したくないから言っちゃうね。シンジさんが好き、大好きです。私の本気の恋なんですよ。)
 そう言って微笑んでいたのは、本当にミカ姉だったのか?
 
 ミカ姉と俺の関係は傷の舐め合いに近かった筈。
 今でこそ普通に生活できているが、あの事件の後しばらくの間、ミカ姉は部屋から一歩も外に出ることが出来なかった。
 そばに寄れたのは俺だけ、俺の存在が彼女を繋ぎ止めていたと言っても過言ではないと言えるほど、俺に依存していたミカ姉。
 深い関係になった後でも、ミカ姉から「好き」と言われたことは一度だって無かった。
 俺とミカ姉はそんな歪な関係だった。

 ……だったら、誰が言ったんだ?
 (シンジ様の為に、私のすべてを差し上げたい。こんな気持ち、初めてなんです……。)
 誰だ?誰がその言葉を言った?
 いつも真面目過ぎるのに俺の前で見せる少しはにかんだ笑顔……。
 
 (……照れ隠しですよぉ。分かってるんでしょ?……でも、今は本気なのですよ。シンジさんの為なら、私なんでも出来ますよぉ。)
 いつも照れ隠しで冗談ばかり言いながら、時々見せる本気の笑顔。
 ほんのりと頬を染めながら言ってきたのは……。

 (……あなたが好き……いつからか分からないけど大きな存在になった……あなたを失いたくない……。)
 俺にとって大事な人からの大事な言葉……。 
 ……え……る……。
 …………エル!?
 (あなたが好き。)
 そう言ったえるの顔が思い浮かぶ。
 (好きなんです。)
 笑おうとして失敗し、その言葉だけを必死に紡ぎ出したアイリスの顔。
 (好き、大好き!)
 真面目な笑顔……矛盾した言葉だけど、それがしっくりくる表情のリディア。

 エル!リディア!アイリス!
 俺は思わず大声で叫ぶ。
 ピシッ!
 どこかで何かがひび割れる音がした。

 ◇

 「エル!リディア!アイリス!!」
 俺は自分の声で覚醒する。
 ぐっ……動けない。
 何か糸のようなもので絡み取られていて思うように動けない。
 『空間転移ディジョン
 俺はとりあえずその場から移動する。
 『着火ティンダー
 「……って熱っつ!……水生成クリエイト・ウォーター!」
 体に纏わりついた糸を燃やして自由を取り戻すが、少し火傷してしまった。
 
 自由を取り戻し、辺りを見回す。
 俺が先までいた所に、上半身が女性、下半身が蜘蛛の姿をした魔獣が佇んでいた。
 「アルラウネか……くそっ!」
 俺は『女神の剣エフィーリア』を銃モードにして、アルラウネを撃ち抜く。
 近くに繭みたいなものが転がっていて、そこから小さな蜘蛛がわらわらと溢れ出してくる。
 俺は銃に込める魔力に火属性をのせて周りを焼き払う。
 獲物を身動きできなくして繭に封じ込めて産卵する。
 孵化した子蜘蛛は繭の中の得物をエサに大きく育つ……か。
 「ゾッとするぜ。」
 俺も危うくエサにされる所だったな。
 おそらく、幻惑と催眠系の魔法にかけられていたのだろう。
 エル達の事を思い出さなければ危ない所だった。

 「っと、エル達は!?」
 俺は周りを見回す。
 狭い小部屋だ……エル達の姿は見えない。 
 「くそっ!バラバラにされたか。」
 俺は銃モードにした『女神の剣エフィーリア』を構えたまま慎重に小部屋を出る。

 あの入り口が転移のトラップで、バラバラに飛ばされたのだとしたら、俺みたいに何かに囚われている可能性が高い。
 手遅れにならないうちに助け出さないと……。

 『天空の瞳バードビジョン
 俺は全体を見通すスキルを使う……が通路の先までは見えるがその先や全体像は分からなかった。
 まぁ、洞窟の中みたいなものだから全体像が見えなくても当たり前か。
 俺は代わりに気配探知の範囲を広げてみる。
 この通路の先に無数のモンスターの気配と、俺の良く知る気配を感じる……アイリスだ。
 モンスターに囲まれているみたいだ。
 俺は全速力で、アイリスのいる小部屋へ向かって走り出す。

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 ……夢を見ていました。
 優しいお父様とお母様、それに可愛い弟のダニエル……他に腹違いの兄や妹がいますが、私にとって家族と言えるのはこの三人だけです。
 お父様は国王様……お仕事中は厳しい顔をなさってますが、この部屋の中では優しい顔を見せてくれます。
 お母様が言うには、外で隙を見せるのは破滅に繋がるのですって。
 当時はよくわかりませんでしたが、今ならよくわかります。

 夢の中で時間が進んでいきます。
 優しかったお父様が段々怒りっぽくなりました。
 すべては王宮にあの魔術師が来てからです。
 筆頭魔術師のガズェル……私を舐めるように見る目が気持ち悪いです。 
 
 お父様が私達の部屋に訪れることはなくなり、青白い顔をしたまま表情を見せなくなるまでに、それ程の時間はかかりませんでした。

 城内ではお父様について色々な噂が流れています。
 なんの罪もない近衛隊長を辺境に追いやったとか、少し諫言をしただけの文官を処刑したとか、今までのお父様とは思えないほどの変貌ぶりです。
 ここまでくれば、あのガズェルに何かされて操られていると言うのは誰でもわかります……なのに、誰もその事について触れません。
 すべてはお父様が悪い事になっています。

 噂ではガズェルが魔法の儀式をするために、私を生贄にしようとしているそうです。
 その噂が流れ出してから、城内の私を見る目が変わりました。
 何をするにも見張られている感じです。
 私が逃げ出さないように城内全体が見張っている……そう感じました。
 もうこの城内はガズェルの思いのままになっているのですね……そう思うと私は何もできない自分自身が悲しくなってしまいました。

 夢は更に進んでいきます。
 お母様によって城から逃がされ、国を出ます。
 恐ろしい魔獣が出るという山脈を苦労して抜けた先で、シンジ様に出会います。

 シンジ様……私の運命の人。
 私の言葉を誰も聞いてくれなくなったアシュラムの王宮……私の言葉を信じてくれないミラノの街の人々……そんな中で唯一私の言葉を聞いて、信じてくれた人。
 扱いは、まぁ……アレですが、エルさんもリディアちゃんも優しくて、昔のような幸せが戻ってきた気がしました。

 でも現実は優しくないですね……。
 私は夢から覚め、現実を見つめます。
 手足を拘束されて磔にされているのが今の私の現実。
 周りにはゴブリンとオークが群がっています。
 
 シンジ様が王宮の扉を開けた途端、私も飛ばされる感覚がありました。
 意識を失っていたのは少しの間でしょうか?
 気づいたらゴブリン達に手足を押さえつけられていました。
 「いやぁぁぁー来ないでぇ―――――!」
 私は肌に触るゴブリン達のおぞましさに、そう叫んだところで意識を失ってしまいました。

 意識を失う前に、無意識に加護の結界を這ったみたいで、ゴブリン達は私を拘束することは出来たものの、それ以上手を出すことは出来なかったみたいです。
 少し離れたところにゴブリンシャーマンが何やら呪文を唱えています。
 どうやら私の加護を破ろうとしているみたいですが、シンジ様からもらった防護のアクセサリーのおかげもあって、まだ加護の結界は持ちそうです。

 ゴブリンとオーク達は私を取り囲んで、加護の結界が消えるのを待っています。
 私の魔力が尽きた時、その時が私の最期でしょう。
 加護の結界が切れた私は、ゴブリンとオーク達によって嬲られ、死ぬまで慰み物にされるのでしょう。
 「せめてもの救いは、初めてがあの化け物共じゃないってことですかね。」
 私は自嘲気味に呟きます。
 「シンジ様……。」
 つい、口から愛しい人の名前が零れ落ちます。
 私の英雄ヒーローで運命の人。
 「できれば、もう一度だけでいいから、あの笑顔を見たかったですね。」
 叶わぬ願いを口にしてみます。
 私の名前を叫びながらこの広間に飛び込んで来て、あのモンスター達を殲滅して助け出してくれる……私の英雄ヒーロー
 そんな妄想に浸りながら目を閉じます……せめて最後は楽しい思い出を胸にして……。

 「アイリスぅぅぅーーーーーーーー!」
 …………どうやら幻聴が聞こえる位まで、私の精神は壊れ始めたようですね。

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 「アイリスぅぅぅぅぅぅーーーーーーー!」
 俺は広間に飛び込むと、魔弾を放ち、焼夷弾を放り投げ、辺り全体に火を放つ。
 広間の奥には磔にされたアイリスの姿がある。
 身体全体がぼんやりと光を放っている所から、加護の結界が働いているのだろうと見当をつける。
 どうやら最悪の事態は免れているようだ。

 近くにいたゴブリンシャーマンを撃ち抜き、道を阻むオークを薙ぎ払う。
 アイリスとの距離が縮まった所で空間転移ディジョンを使い一気にアイリスの元へ駆け寄る。

 「アイリス、無事かっ!」
 俺は群がるゴブリンどもを銃で薙ぎ払いながら、アイリスに声をかける。
 「し……シンジ……様?」
 「意識はあるか、良かった。」
 俺はホッとしながら、ゴブリンの群に火炎弾をぶつける。
 着弾した場所を中心に炎が広がる。
 「これは……夢の続き……でしょうか?」
 「夢じゃないさ。」
 俺は近づいてきたオークに魔弾を撃ち込んで倒す。
 その合間にアイリスの拘束を解いていく。
 
 「ありがとうございます。」
 「あと少しでこいつらを殲滅できるから、もう少し待っててくれ。」
 「私も手伝いますね……エルさんに教えて貰ったんですよ。……光よ集え!『集光の矢ソル・レイ』!」
  アイリスが光の矢を放ち、オーク達を次々と倒していく。
 矢と言うよりレーザーだよな。
 俺はどうでもいい事を考える。
 それくらいの余裕が出てきた証拠だった。

 「俺も負けてられないな。」
 向かってくるゴブリンに銃口を向け、魔弾を放つ。
 銃口から出た魔弾は光の属性を纏い、レーザー銃の様になっている。
 アイリスの真似だ。
 そう言ってアイリスを見ると、なぜかぷぅっと膨れている。
 「私、この魔法習得するの大変だったんですよ。」
 苦労して得た魔法を真似されたのが悔しかったらしい。
 アイリスの方にも余裕が戻ってきているようだった。
 
 気づくとゴブリンの群が数匹まで減っていたので俺はまとめて焼き尽くすことにする。
 「トドメだよ。」
 火炎弾を群の中心に向けて放つ。
 着弾と共に燃え上がる炎が、ゴブリン達を包み込み焼き尽くす。
 炎が消える頃には、広間の中で動いているのは俺たち二人だけとなった。

 「ふぅ、片付いたな。アイリス……間に合ってよかったよ。」
 「シンジ様ぁ―――――。」
 アイリスが俺の胸の中に飛び込んでくる。
 「もう、会えないかと思っていました。」
 シンジ様ぁ、と泣きじゃくるアイリスを俺は優しく抱きしめて頭を撫でる。

 「無事でよかったよ。」
 俺は覚醒のきっかけになったアイリスの言葉を思い出しながら、アイリスを撫でる。
 「俺もアイリス達に助けられたんだよ。」
 「??」
 不思議そうに見上げるアイリスの唇を優しく塞ぐ。
 しばらくして離れるとアイリスは真っ赤になったまま俺に体重を預けてくる。

 「シンジ様のエッチ。」
 ……キスだけで酷い言われ様だと思ったが、敢えて気付かない振りをする。
 そしてアイリスが落ち着くまでは、このまま抱きしめていようと思うのだった。
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