勇者と魔王、選ぶならどっち?

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第二章 勇者のスローライフ??

街の噂

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「遅い、遅いですよっ!」
 目の前で怒っているのは、ここエルザードの街にあるギルドのお姉さん……メルシィさんだ。
 エルザードの街はこの辺り一帯を治める領主が住む領都なのでそれなりに大きい……とはいっても近隣の王国の領都に比べれば小さいのだけどね。
 そしてそんな大きな街にあるギルドも当然規模が大きく、職員も数多くいるのだけど、私達が行くとなぜかメルシィさんが対応してくれる……というかメルシィさん以外対応してくれない。
 まぁ、気立てが良くて見目麗しい女性に担当してもらえるのは悪い気分じゃないからいいけどね。
 で、そんなメルシィさんが何故怒っているかって言うと……。

「昼過ぎの約束でしょう!今何時だと思ってるんですかっ!」
「え~、お昼過ぎとは言ったけど、何時って約束はしてないよね?」
「そうですけど、世間一般では今の時間を『夕方』っていうんです。間違っても『お昼過ぎ』とはいいませんっ!」
「うぅ……細かいこと言ってるとハゲるよ?」
「ハゲませんっ!……ミュウさん!」
 私では話にならないと見たのか、怒りの矛先がミュウに向かう。
「あはは……ゴメン、これでも急いだんだけどね。」
 ミュウが苦笑しながら頭を下げる。
 別に私達だってわざと遅くなった訳じゃ無いんだけどね。

「まぁまぁ、そんなことよりお話というのを聞かせてもらえませんか?お急ぎなんでしょう?」
 マリアちゃんがその場をとりなすと、メルシィさんは大きく息を吸ってから笑顔で私達を見る。
 うーん、この切り替え方、プロだねぇ……笑顔の裏に隠されたものが怖いけど。
「そうですね、皆様奥へお願いします。」
 普通の依頼ならカウンター越しで済むのに奥の部屋に案内されるってことは、つまりそう言うことで、面倒事確定ってことだよね。
「はぁ……帰っていい?」
「ダメです。」
 デスヨネェ……。
 笑顔でダメ出しをするメルシィさんの後に着いていき、案内された部屋のソファーに腰を下ろす。

「お待たせしました。」
 奥へ引っ込んでいたメルシィさんが飲み物を持って現れる。
 私達の前に果実水を置くと、そのまま正面に座る。
 今までにも何度かこの場所で話を聞いた事はあったけど、このように飲み物を出されるのは初めてで、しかも普段ならギルドマスターなり、サブマスターなり、街の偉い人なり、と話をする人がいて、メルシィさんはその仲介として脇に立っているだけだった。

「えっと……。」
 意味が分からず戸惑っていると、メルシィさんがにこやかに微笑みながら口を開く。
「お気になさらずお飲みくださいね。今回の依頼は私からなので、そのお礼だと思ってください。」
「あ、はい……。」
 訳が分からないまま、果実水に口を付ける。
 口に含んだ途端、果実の爽やかな香りと甘みが口内一杯に広がる。
 喉越しも爽やかでしつこくなく、ヘンな後味も残らない。
 これってかなり上等な飲み物じゃないの?
 私は不審に思ってメルシィさんを見る。
「お気に召しましたか?旬のオランとレーブルをブレンドした果実水で私のお気に入りなのですよ。」
 メルシィさんは笑顔を絶やさずそう言ってくる。
「ウン、美味しいけど……。」
「何を企んでるの?」
 私の言葉を遮る様にミュウが口を挟む。
「企むなんて、そんな人聞きの悪い。」
「これ、かなり高級なものよね?一介のギルド職員がそうホイホイ手に入れれるようなモノじゃないと思うけど?」
 そっか……やっぱりかなりお高いものなんだ。
 ミュウの言葉を聞いてそう思う。
 だってね、今までに味わった事が無いくらい凄く美味しいんだよ?
 これ1杯で銀貨1枚と言われても納得できるくらい……まぁ、流石にそこまで高くは無いと思うけどね。
 ……後で知った話だけど、この果実水、一瓶で銀貨1枚でした。
 ちなみに一瓶でグラス7~8杯分だから、結構お高いのに変わりはなかったんだけどね。

「先程も申しましたように、あなた方に受けていただきたい依頼があります。少々厄介なので、せめてもの御礼という事でおもてなしをさせて頂いただけですわ。」
「厄介と聞いて私達が受けないとは思わないの?」
「その可能性も考慮していますが、ミカゲさんなら必ず受けていただけると確信しております。」
 え~、何そのヘンな信頼は?
 厄介なのはイヤだよ、受けないよ?
「それに、飲み干していただいた後なら、お話位は聞いてもらえますわよね?」
 メルシィさんは微笑みながらそう言うとミュウは渋々頷く。
「まぁ、話位なら……。」
「お代わり貰えれば聞くよ。」
 ミュウの言葉にかぶせる様に私は言う。
 どうせ話を聞くならもう一杯ぐらいいいよね?
「わ、分かりましたわ。」
 メルシィさんはにこやかにそう言ってお代わりを用意するために席を立つ……その笑顔が引きつって見えたのは気のせいだよね?


「依頼のお話をする前に、皆さんはこの国、そしてこの領地の事をどれくらいご存じでしょうか?」
 メルシィさんがそう聞いてくる。

 この国、イスガニア王国は、私が旅立ったアルーシャ王国の東にある国で、国土としてはそれほど大きくないけど、山脈、湖、草原、森林、とバランスよく存在する為、恵みが多く住みやすい国なんだって。
 王都のある直轄地を中心に、アルバンス、イリシア、ウールス、エルザードという4つの領地があり、私達がいるのはアルーシャ王国と国境が接しているエルザード領なの。

 このイスガニア王国の一番大きな特徴としては、亜人に対する偏見が少ない事。
 王族を始めとして国内の多くの貴族たちは亜人に対して友好的で、このエルザード領では特に獣人に対してかなり好意的なのよ。
 だから国内・領内には大小様々な亜人たちの集落があるの。
 他国では亜人に対して排他的な国もあり、酷い所では亜人を奴隷として扱う国もあるため、亜人に好意的なこの国に亜人たちが集まるのは当然の流れよね。
 その亜人たちから得られる技術や産業が、この国の特産ともなっているので、他国に対してかなり影響力がある国として一目置かれているんだって。

 そんな事をクーちゃんが話し、足りないところをミュウが補足していた。
「クーちゃん凄ーい、よく知ってるねぇ。」
 私はクーちゃんの頭を撫でる。
「これくらいは知ってて当然だよ。というよりミカ姉が知らない事の方が驚きだよ。」
「だって、興味ないモン。」
「興味なくたって、常識として知っておかないと厄介事に巻き込まれても知らないぞ。」
「うーん、その時はミュウやクーちゃん、マリアちゃんも巻き込まれてくれるから大丈夫だよね?」
「「「大丈夫じゃない!」」」
 三人から異口同音に怒鳴られる……なんで?

「まぁまぁ、よくご存じですね。」
 メルシィさんが間に入って宥めてくれる。
「それだけご存じであれば、今の領主様がどのような方かもご存じでしょうか?」
 現エルザードの領主、クレイメン=エルザード。
 領内の慈善事業に力を入れ、経済を活性化するために様々な新しいものを取り入れているやり手の領主と言う噂。

「そうなの?騙されてない?」
 クーちゃんが告げる領主像につい異議を唱えてしまう。
「もー、ミカ姉はすぐ疑うんだからっ。」
「だって、お金と権力を持った男の人でしょ?借金のカタに!とか言って若くて可愛い女の子を拐かしたり、裏帳簿を作って私腹を肥やしたりするのが普通でしょ?」
「ミカ姉、それは言い過ぎだよ、そんな事あるわけないよ!」
 クーちゃんはそう言うけどね……。
 私は無言でミュウの方に視線を向ける。
「ミカ姉は言い過ぎだよね?」
 クーちゃんはミュウに同意を求めるけど、ミュウは黙って視線を逸らす。
「えっ、えっ……違う……よね?」
 クーちゃんは縋る様な眼でマリアちゃんを見る。
「えーと、ミカゲさんのいう事は極端な例……と言えなくもなくもなく……。」
「そ、そんなぁ……。」
 マリアちゃんのフォローにならないフォローを聞いてガックリと項垂れるクーちゃん。
 クーちゃんには可哀想だと思うけど、世の中の真実というのは過酷なものなのよ。

「ま、まぁ、この街の領主様はその様な方では無いのですが……。」
「だよね?だよね?」
 メルシィさんの入れるフォローに縋りつくクーちゃん。
「お姉ちゃん達はもっと人を信用するべきだと思いますっ!」
 クーちゃんが胸を張ってそう言うけど、メルシィさんの続く言葉に打ちのめされることになる。
「実は依頼というのはですね、その領主様に最近黒い噂が付きまとっていまして、その真偽を調査してもらいたいのです。」
「そ、そんなぁ……。」
 ガックリと項垂れるクーちゃん。
「よしよし、権力を持った男にいい人はいないんだよ。一つ勉強になってよかったね。」
 私がそう言って宥めると、困ったような表情をするメルシィさん。
「いえ、そう決めつけられると困るのですが。」
 
 メルシィさんの話では、今の領主様は孤児院への多大な援助などの慈善事業、上下水道や街灯の設置など街中の改革などの事業に力を入れているらしいんだけど、最近その事業に関しておかしな噂が広まっているらしい。
 例えば、孤児院に多大な寄付をしていると触れ回っているにもかかわらず、飢えて乞食のような真似や窃盗をする孤児が増えているとか、街中の整備の為と言って徴収が頻繁にあるにもかかわらず一向に整備が進んでいなかったりだとかするらしい。

「それって、着服しているに決まってるじゃないの。」
 ミュウがそう言うが、メルシィさんが首を振る。
「それが、そうとも限らないのです。」
 ギルドが内密に調べたところ、領主の金銭の動きに怪しい所は無く、不正が行われている証拠も見つからなかったそうだ。
「ギルドが調べた以上の事が、私達に出来るとは思えないんだけどね。」
「えぇ、でもあなた方なら、何らかのトラブルに巻き込まれて、結果としてそのあたりの事情が明るみに出るんじゃないかと思っているんですよ。」
「イヤイヤ、人をトラブルメーカーみたいに言わないで。」
 私がそう反論するけど、ミュウ達はそれなら仕方がないかと、ため息をついていた。
 って、何その反応、おかしいでしょ?

「そういう事なら……でも解決できる保証はないよ。」
「えぇ、大丈夫です。あなた方が動けば何かが起きるって私の勘が告げてますから。」
 ミュウの言葉に、メルシィさんがにっこりと笑ってそう答えた。
 う~ん、結局なし崩しに依頼を受ける事になったけど、釈然としないのは何故?

 ◇

「で、依頼を受けたのはいいけど、まず何からやればいいのかな?」
 依頼を受けた翌日、私は市場の片隅の休憩所で、街行く人を眺めながらそう口にする。
「ン、取りあえず孤児院にでも行ってみる?」
 屋台で買った肉串を頬張りながらミュウがそう言う。
「私は教会で信者さん達から情報を集めてみますわ。」
 マリアちゃんがそう言うと、クーちゃんもそれに続く。
「私はマリアお姉さんの手伝いをするね。」
「じゃぁ、マリアちゃんとクーちゃんが教会、私とミュウで孤児院で情報を集める。夕方にはお家で情報交換って感じでいいかな。」
 私がそう纏め、二手に分かれる事にする。

「ところで、孤児院ってどこにあるんだっけ?」
「えっ?ミカゲが知ってるんじゃないの?」
「私が知るわけないでしょ?自慢じゃないけど街にいるより引きこもってる時間の方が長いんだよ?」
「確かに自慢じゃないよね。」
 私達の調査は一歩目から暗礁に乗り上げてしまったようだった。
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