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第二章 勇者のスローライフ??
孤児院の事情
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どんっ!
「おっと、姉ちゃんごめんよ!」
通りの向こうから走ってきた子供が私にぶつかり、そのまま走り去っていく。
「ふざけないで!」
ミュウが後を追い、素早く少年の前に躍り出る。
「チッ!」
少年は踵を返して細い通りに入り込もうとするが、何かに躓いたかのように突然倒れ込む。
「ミカゲ、ありがとう。」
ミュウが少年に駆け寄り抑え込む。
「ううん、別にいいけど、何があったの?」
ミュウが追いかけたので、取りあえずバインドの魔法で少年の自由を奪ったのはいいけど、何が起きているのか理解が出来ない。
「この子、スリだよ。」
ミュウはそう言いながら少年の懐を漁り、見覚えのある革袋を取り出す。
私のお財布だった。
パーティの資金や大事なものは『勇者の袋』に入れてあるから、あの革袋に入っているのは私の個人的な買い物用に銀貨と銅貨が数枚入っているだけなので、大した被害ではないんだけど……。
「こういうのって被害の大小じゃないのよね。」
私は動けない少年の目の前に火の玉を作って見せつける。
「なぜこんなことしたの?正直に話さないと髪の毛が燃えてなくなるよ?」
「ひ、ひぃっ、ゴメンナサイ、ゴメンナサイ、もうしないから……。」
◇
「じゃぁ、皆お腹を空かせてるのね。」
「うん……モグモグ……なぁ、姉ちゃん、これ持って帰っていい?」
私とミュウに挟まれてスリの少年が肉串をかじりながらそう言う。
少年の話によれば、彼は孤児院の子で、ここ2日程碌に食べていないそうだ。
なので空腹に耐えかねてスリをしたって話なんだけどね……。
少年から話を聞くために、わざわざ串を買って与えているのに、なぜか少年は私よりミュウの方にすり寄っていて、会話もミュウとばかりで私の方を見ようともしない……買ったのは私なんだよ。
「別にいいけど、皆の分も買ってあげるから何人いるか教えてくれない?」
「うん……14人かな。」
私の問いかけに、少年はミュウに向かって答える……いい度胸してるじゃないの。
「その串、まだ生焼けみたいよ?私がしっかり焼いてあげるね。」
手の平に火の玉を出して少年に向ける。
「ひ、ヒィッ……!」
少年は慌ててミュウの背中に隠れる。
「ミカゲも落ち着きなさいよ。」
ミュウは背中に隠れた少年を引っ張り出しながら私に向かってそう言った。
「だって、その少年が失礼だから。」
「あなたがあれだけ脅したんだから、怖がってもしょうがないでしょ。」
「……いいのよ。男の子なんて大きくなって犯罪に手を染める前に、しっかりと躾ける必要があるのよ。」
「だからと言ってやり過ぎよ……いいからそのファイアーボール仕舞いなさい。」
「はぁーい。」
私は手の平の火の玉を握り潰す。
それを見て、少年はホッと身体の力を抜く。
「じゃぁ、お土産持って孤児院まで行こうか。案内してくれるよね?」
私の言葉に少年はコクコクと何度も首を縦に振った。
「ふーん、じゃぁ孤児院の事情が悪くなったのは2ヶ月ぐらい前からなのね。」
「ウン、シスターたちは半年ぐらい前から難しい顔をしていたけど、ご飯の量が少なくなってきたのが大体2か月前なんだ。」
ミュウと少年の会話を聞きながら私は情報をまとめる。
だって、少年は私の方を見ようとしないから仕方がないじゃない。
少年の話から分かった事は、半年ぐらい前から孤児院の運営事情が思わしくなくなってきたらしく、それでも頑張ってきたけど2ヶ月ほど前から見た目分かるくらいに破綻してきたって事。
つまり半年ほど前から領主?の腐敗の魔の手が孤児院に伸びていたって事なのかな?
この辺りは孤児院の運営者から話を聞いた方がいいと思うけど……素直に話してくれるかなぁ。
「着いたよ。……おーい、皆ぁ食べ物持ってきたぞー!」
少年の声に、わらわらと建物の中から子供たちが出てくる。
子供たちは少年の持っていた肉串やガレットなどを受け取るとすごい勢いで食べ始める……よほどお腹空いていたんだね。
「これは何事です?」
庭での騒ぎを聞きつけたのか、建物から一人の女性が出てくる。
あの人が孤児院の管理人さんかな?それにしては若いけど……。
推定20歳ぐらいの女性は、近くの子供達から話を聞いた後私達に視線を向ける。
「この度はかなりご迷惑をおかけしたようで申し訳ございません。よろしければあちらでゆっくりとお話をお聞かせ願えないでしょうか?」
申し訳なさそうに頭を下げながら奥へと誘う女性に私とミュウは黙ってついていく。
元々、孤児院の話を聞きたくて来たんだから断る理由は無いよね。
コンコン。
「シスターサレア、お客様がお見えです。」
私達を案内してくれた女性は、奥の扉の前でノックをしてそう声をかける。
「少々お待ちいただけますか。先のお客様が見えていますので。」
「あ、シスターサレア、私達はこれで……。」
どうやら先客がいたみたいで、暇を告げるやり取りが聞こえるけど、聞き覚えのある声だよね?
「サレアさん、本当にお構いなく……。」
先程の声とは違う少し幼さの残る声……って……。
「マリアちゃん、クーちゃん?」
「「エッ!?」」
扉の内外から驚きの声が上がる。
扉を開けてもらい、部屋の中を見てみるとそこには人の良さそうな感じの女性の向かいにマリアちゃんとクーちゃんが座っていた。
「ミカゲさん、ミュウさん……。」
「ミカ姉……。」
私の姿を見て驚く二人……って何でここにいるの?
「スザンヌ、こちらの方々は?」
「はい、実は……。」
私達の事をどう説明するか思い悩むスザンヌさん。
「お互い情報のすり合わせから始めた方がいいみたいね。」
ミュウがやれやれと言った感じでそう言うと、サレアさんもスザンヌさんも頷いた。
スザンヌさんが入れてくれたお茶を飲み一息つくと、まずはお互いの自己紹介から始める。
サレアさんはこの街の教会のシスターで二つある教会のうち、こちらの孤児院を併設した小さい教会を任されているらしい。
そしてスザンヌさんは正式なシスターじゃなく巫女見習いで、教会の仕事をしつつ孤児たちの面倒を見ているんだって。
マリアちゃんはたまに顔を出しているので二人とは顔馴染みなんだけど、流石に孤児院の状況がこんなに酷くなっているって事は知らなかったらしい。
「もう一つ教会があるなら、そっちから援助してもらえないの?」
私がそう聞くとサレアさんもスザンヌさんも黙ってしまった。
「えっと、ミカゲさん、教会内の事でお恥ずかしいのですが……。」
そう言ってマリアちゃんが教えてくれた内容によると、簡単に言えば派閥が関与しているんだって。
向こうの教会の責任者は上層部や貴族たちに取り入って自分の地盤を固め、面倒な事は全てサレアさんに押し付けた結果、教会とは名ばかりで実質孤児院のここと、教会本来の職務を担う向こうの大聖堂という様に分かれているっていうのが現状で、実際街の人もこの孤児院が教会だって事を知っている人は殆どいないんだって。
なので、こちらの状況がどうであっても向こうは我関せず、と無視しているので援助とかは望めないらしい……酷い話よね。
それから私達は孤児院の現状を知るためにここ最近の状況と以前の話を聞いたんだけど、状況が変わり出したのは大体1年ほど前からなんだって。
最初は領主様から賜る援助金の支給が少し減ったぐらいだったんだけど、だんだん、減少額が大きくなり、更には支給が滞る様になってここ3ヶ月は一切の支給援助が無かったらしい。
援助金が減っても、わずかとはいえ、それ迄の貯えがあったためそれらを切り崩しながらやりくりしていたものの、流石に援助金0となると立ち行かなくなり、街の人々の好意に縋って何とかやっているそうだ。
「それでも、街の皆様も自分たちの生活で精一杯で……最近では税が引き上げられたとかで、よけいに私達への援助は難しく、私が不甲斐ないばかりにあの子達には苦労を掛ける事になって……。」
サレアさんは、窓の外ではしゃいでいる子供たちに目を向ける。
久しぶりにお腹一杯に食べた子供達はみんな笑顔で、その様子を眺めるサレアさんの横顔はとてもやさしかった。
私はその様子を見ながら、自分がいた施設の事を思い出す。
あそこでは最低限の生活必需品に最低限の食事……視察があるときだけは身ぎれいにして美味しいものを食べる事が出来たけど、それ以外は本当に必要最低限のものしか与えられず、後は自ら何とかするしかなかった。
それでも世間体がある為、最低限の補償があったから、この世界よりはマシだったんだと改めて思う。
「シスターサレア、色々話していただいてありがとう。これ、お礼とこの孤児院への寄進です。あの子達が犯罪を犯さない様に、笑顔が絶えないように頑張ってくださいね。」
そう言って私は勇者の袋から、ウルフの燻製肉と、ターミナル製の保存食、毛皮などの加工品をいくつかと金貨1枚を手渡す。
これだけあれば1年は大丈夫だろうけど、早めに状況を改善しないとね。
「こんなに……ありがとうございます。女神様のお導きに感謝を。」
シスターサレアとスザンヌさんは私達の姿が見えなくなるまで頭を下げていた。
◇
「やっぱり、ポイントは1年前ってところね。」
リビングのソファーで寛ぎながらミュウがそう言う。
「領主様が悪いのかなぁ……。」
クーちゃんは信じたくない、というように呟く。
「街の人の話では、1年前に貴族の間でちょっとしたトラブルがあったみたいですわ。」
マリアちゃんの話によれば、街の施設の整備を担当している貴族が変わったのが1年前で、その変更の裏側には貴族同士の派閥争いがあったとか何とかと言う噂が流れていたらしい。
「それで、その貴族がゲーマルク子爵というらしいのですが、余り評判がよくなくて、最近の税の値上げも、その子爵が関わっているって噂です。」
「っていうか、そいつクロでしょ。どう見たってそいつが原因でしょ。」
マリアちゃんの話を聞いてミュウが声を上げる。
「そうだよね。私もそう思う。」
クーちゃんもミュウの意見に追従する。
「でもね、その裏に領主が関わっているかどうかって事は別の話だよね?」
実行犯はそのゲーマルク子爵だとしても、勝手にやっている事なのか、領主の指示でやっている事なのか?
またまた、領主は知らなくても別の貴族が関わっているという可能性もあるし。
「裏で糸を引いている黒幕を見つけないと、そのゲーマルク子爵を処分しても変わらないよね?」
私の言葉に三人が頷く。
「でも、コレくらいの事ならギルドでも調べついているんじゃない?私達がちょっと聞いただけでこれだけ出て来るんだから。」
ミュウの言葉を聞いて私は考える。
確かにその通りなのよね。
メルシィさんの事だから、私達に隠している事がありそうだけど、それが何かが分からないと迂闊に動けないなぁ。
「メルシィを疑いたくないけど、ちょっと調べてみよっか。」
「そうだね……。」
結構馴染んだエルザードの街だけど、調査結果によっては逃げ出すことも考えた方がいいかも知れない。
ターミナルを放置できないけど、別の場所のターミナルを見つければここと繋ぐこともできるそうだし、エルザードの街から出る事になったらターミナル探しを目標にしてもいいかもね。
そんな事を考えながら、私はミュウ達とこれからの事について話し合っていた。
「じゃぁ、ちょっと行ってくる。」
戦闘用の装備に身を包んだミュウがそう言って家を出ていく。
これから夜陰に紛れてエルザードの街中を調べるつもりらしい。
「あ、ミュウ、これを持って行って。」
私は出かけようとするミュウを引き留めて、持っていたものを渡す。
「これは?」
「ウン、名付けて『アサシンセット』ミュウの調査に役立つと思うよ。」
ミュウは手渡された荷物を一つ一つ確認する。
真っ黒なマントに漆黒の刃のナイフと、ネックレス。
「そのマントには認識疎外の、ナイフには闇属性の魔法がかかっているの。あとネックレスは五感強化の魔法がかかっているからきっと役立つと思うよ。」
「いつの間にこんなのを……でも助かるよ、ありがとうね。」
ミュウはネックレスを付け、ナイフを腰に差しマントを羽織る。
「朝には帰るから……あんまりクーに迷惑かけない様に。」
「ウン、大丈夫だよ。」
私はそう言ってミュウを見送る。
マリアちゃんとクーちゃんは既に寝静まっていて見送るのは私だけ。
ミュウはこういう事をしているって事をあんまり知られたくないらしいんだけど、多分二人とも勘づいているんじゃないかな?
まぁ、どちらにしても私には向いていない事なのでミュウに頼るしかないわけで、それなら私が出来る事は、疲れて帰ってくるミュウを温かく迎える事くらいなんだよね。
「久々にハーブをブレンドしてみようかなぁ。」
私は、帰って来たミュウに美味しいって言ってもらえるように、色々なハーブを調合して新しいハーブティを作り始めるのだった。
「おっと、姉ちゃんごめんよ!」
通りの向こうから走ってきた子供が私にぶつかり、そのまま走り去っていく。
「ふざけないで!」
ミュウが後を追い、素早く少年の前に躍り出る。
「チッ!」
少年は踵を返して細い通りに入り込もうとするが、何かに躓いたかのように突然倒れ込む。
「ミカゲ、ありがとう。」
ミュウが少年に駆け寄り抑え込む。
「ううん、別にいいけど、何があったの?」
ミュウが追いかけたので、取りあえずバインドの魔法で少年の自由を奪ったのはいいけど、何が起きているのか理解が出来ない。
「この子、スリだよ。」
ミュウはそう言いながら少年の懐を漁り、見覚えのある革袋を取り出す。
私のお財布だった。
パーティの資金や大事なものは『勇者の袋』に入れてあるから、あの革袋に入っているのは私の個人的な買い物用に銀貨と銅貨が数枚入っているだけなので、大した被害ではないんだけど……。
「こういうのって被害の大小じゃないのよね。」
私は動けない少年の目の前に火の玉を作って見せつける。
「なぜこんなことしたの?正直に話さないと髪の毛が燃えてなくなるよ?」
「ひ、ひぃっ、ゴメンナサイ、ゴメンナサイ、もうしないから……。」
◇
「じゃぁ、皆お腹を空かせてるのね。」
「うん……モグモグ……なぁ、姉ちゃん、これ持って帰っていい?」
私とミュウに挟まれてスリの少年が肉串をかじりながらそう言う。
少年の話によれば、彼は孤児院の子で、ここ2日程碌に食べていないそうだ。
なので空腹に耐えかねてスリをしたって話なんだけどね……。
少年から話を聞くために、わざわざ串を買って与えているのに、なぜか少年は私よりミュウの方にすり寄っていて、会話もミュウとばかりで私の方を見ようともしない……買ったのは私なんだよ。
「別にいいけど、皆の分も買ってあげるから何人いるか教えてくれない?」
「うん……14人かな。」
私の問いかけに、少年はミュウに向かって答える……いい度胸してるじゃないの。
「その串、まだ生焼けみたいよ?私がしっかり焼いてあげるね。」
手の平に火の玉を出して少年に向ける。
「ひ、ヒィッ……!」
少年は慌ててミュウの背中に隠れる。
「ミカゲも落ち着きなさいよ。」
ミュウは背中に隠れた少年を引っ張り出しながら私に向かってそう言った。
「だって、その少年が失礼だから。」
「あなたがあれだけ脅したんだから、怖がってもしょうがないでしょ。」
「……いいのよ。男の子なんて大きくなって犯罪に手を染める前に、しっかりと躾ける必要があるのよ。」
「だからと言ってやり過ぎよ……いいからそのファイアーボール仕舞いなさい。」
「はぁーい。」
私は手の平の火の玉を握り潰す。
それを見て、少年はホッと身体の力を抜く。
「じゃぁ、お土産持って孤児院まで行こうか。案内してくれるよね?」
私の言葉に少年はコクコクと何度も首を縦に振った。
「ふーん、じゃぁ孤児院の事情が悪くなったのは2ヶ月ぐらい前からなのね。」
「ウン、シスターたちは半年ぐらい前から難しい顔をしていたけど、ご飯の量が少なくなってきたのが大体2か月前なんだ。」
ミュウと少年の会話を聞きながら私は情報をまとめる。
だって、少年は私の方を見ようとしないから仕方がないじゃない。
少年の話から分かった事は、半年ぐらい前から孤児院の運営事情が思わしくなくなってきたらしく、それでも頑張ってきたけど2ヶ月ほど前から見た目分かるくらいに破綻してきたって事。
つまり半年ほど前から領主?の腐敗の魔の手が孤児院に伸びていたって事なのかな?
この辺りは孤児院の運営者から話を聞いた方がいいと思うけど……素直に話してくれるかなぁ。
「着いたよ。……おーい、皆ぁ食べ物持ってきたぞー!」
少年の声に、わらわらと建物の中から子供たちが出てくる。
子供たちは少年の持っていた肉串やガレットなどを受け取るとすごい勢いで食べ始める……よほどお腹空いていたんだね。
「これは何事です?」
庭での騒ぎを聞きつけたのか、建物から一人の女性が出てくる。
あの人が孤児院の管理人さんかな?それにしては若いけど……。
推定20歳ぐらいの女性は、近くの子供達から話を聞いた後私達に視線を向ける。
「この度はかなりご迷惑をおかけしたようで申し訳ございません。よろしければあちらでゆっくりとお話をお聞かせ願えないでしょうか?」
申し訳なさそうに頭を下げながら奥へと誘う女性に私とミュウは黙ってついていく。
元々、孤児院の話を聞きたくて来たんだから断る理由は無いよね。
コンコン。
「シスターサレア、お客様がお見えです。」
私達を案内してくれた女性は、奥の扉の前でノックをしてそう声をかける。
「少々お待ちいただけますか。先のお客様が見えていますので。」
「あ、シスターサレア、私達はこれで……。」
どうやら先客がいたみたいで、暇を告げるやり取りが聞こえるけど、聞き覚えのある声だよね?
「サレアさん、本当にお構いなく……。」
先程の声とは違う少し幼さの残る声……って……。
「マリアちゃん、クーちゃん?」
「「エッ!?」」
扉の内外から驚きの声が上がる。
扉を開けてもらい、部屋の中を見てみるとそこには人の良さそうな感じの女性の向かいにマリアちゃんとクーちゃんが座っていた。
「ミカゲさん、ミュウさん……。」
「ミカ姉……。」
私の姿を見て驚く二人……って何でここにいるの?
「スザンヌ、こちらの方々は?」
「はい、実は……。」
私達の事をどう説明するか思い悩むスザンヌさん。
「お互い情報のすり合わせから始めた方がいいみたいね。」
ミュウがやれやれと言った感じでそう言うと、サレアさんもスザンヌさんも頷いた。
スザンヌさんが入れてくれたお茶を飲み一息つくと、まずはお互いの自己紹介から始める。
サレアさんはこの街の教会のシスターで二つある教会のうち、こちらの孤児院を併設した小さい教会を任されているらしい。
そしてスザンヌさんは正式なシスターじゃなく巫女見習いで、教会の仕事をしつつ孤児たちの面倒を見ているんだって。
マリアちゃんはたまに顔を出しているので二人とは顔馴染みなんだけど、流石に孤児院の状況がこんなに酷くなっているって事は知らなかったらしい。
「もう一つ教会があるなら、そっちから援助してもらえないの?」
私がそう聞くとサレアさんもスザンヌさんも黙ってしまった。
「えっと、ミカゲさん、教会内の事でお恥ずかしいのですが……。」
そう言ってマリアちゃんが教えてくれた内容によると、簡単に言えば派閥が関与しているんだって。
向こうの教会の責任者は上層部や貴族たちに取り入って自分の地盤を固め、面倒な事は全てサレアさんに押し付けた結果、教会とは名ばかりで実質孤児院のここと、教会本来の職務を担う向こうの大聖堂という様に分かれているっていうのが現状で、実際街の人もこの孤児院が教会だって事を知っている人は殆どいないんだって。
なので、こちらの状況がどうであっても向こうは我関せず、と無視しているので援助とかは望めないらしい……酷い話よね。
それから私達は孤児院の現状を知るためにここ最近の状況と以前の話を聞いたんだけど、状況が変わり出したのは大体1年ほど前からなんだって。
最初は領主様から賜る援助金の支給が少し減ったぐらいだったんだけど、だんだん、減少額が大きくなり、更には支給が滞る様になってここ3ヶ月は一切の支給援助が無かったらしい。
援助金が減っても、わずかとはいえ、それ迄の貯えがあったためそれらを切り崩しながらやりくりしていたものの、流石に援助金0となると立ち行かなくなり、街の人々の好意に縋って何とかやっているそうだ。
「それでも、街の皆様も自分たちの生活で精一杯で……最近では税が引き上げられたとかで、よけいに私達への援助は難しく、私が不甲斐ないばかりにあの子達には苦労を掛ける事になって……。」
サレアさんは、窓の外ではしゃいでいる子供たちに目を向ける。
久しぶりにお腹一杯に食べた子供達はみんな笑顔で、その様子を眺めるサレアさんの横顔はとてもやさしかった。
私はその様子を見ながら、自分がいた施設の事を思い出す。
あそこでは最低限の生活必需品に最低限の食事……視察があるときだけは身ぎれいにして美味しいものを食べる事が出来たけど、それ以外は本当に必要最低限のものしか与えられず、後は自ら何とかするしかなかった。
それでも世間体がある為、最低限の補償があったから、この世界よりはマシだったんだと改めて思う。
「シスターサレア、色々話していただいてありがとう。これ、お礼とこの孤児院への寄進です。あの子達が犯罪を犯さない様に、笑顔が絶えないように頑張ってくださいね。」
そう言って私は勇者の袋から、ウルフの燻製肉と、ターミナル製の保存食、毛皮などの加工品をいくつかと金貨1枚を手渡す。
これだけあれば1年は大丈夫だろうけど、早めに状況を改善しないとね。
「こんなに……ありがとうございます。女神様のお導きに感謝を。」
シスターサレアとスザンヌさんは私達の姿が見えなくなるまで頭を下げていた。
◇
「やっぱり、ポイントは1年前ってところね。」
リビングのソファーで寛ぎながらミュウがそう言う。
「領主様が悪いのかなぁ……。」
クーちゃんは信じたくない、というように呟く。
「街の人の話では、1年前に貴族の間でちょっとしたトラブルがあったみたいですわ。」
マリアちゃんの話によれば、街の施設の整備を担当している貴族が変わったのが1年前で、その変更の裏側には貴族同士の派閥争いがあったとか何とかと言う噂が流れていたらしい。
「それで、その貴族がゲーマルク子爵というらしいのですが、余り評判がよくなくて、最近の税の値上げも、その子爵が関わっているって噂です。」
「っていうか、そいつクロでしょ。どう見たってそいつが原因でしょ。」
マリアちゃんの話を聞いてミュウが声を上げる。
「そうだよね。私もそう思う。」
クーちゃんもミュウの意見に追従する。
「でもね、その裏に領主が関わっているかどうかって事は別の話だよね?」
実行犯はそのゲーマルク子爵だとしても、勝手にやっている事なのか、領主の指示でやっている事なのか?
またまた、領主は知らなくても別の貴族が関わっているという可能性もあるし。
「裏で糸を引いている黒幕を見つけないと、そのゲーマルク子爵を処分しても変わらないよね?」
私の言葉に三人が頷く。
「でも、コレくらいの事ならギルドでも調べついているんじゃない?私達がちょっと聞いただけでこれだけ出て来るんだから。」
ミュウの言葉を聞いて私は考える。
確かにその通りなのよね。
メルシィさんの事だから、私達に隠している事がありそうだけど、それが何かが分からないと迂闊に動けないなぁ。
「メルシィを疑いたくないけど、ちょっと調べてみよっか。」
「そうだね……。」
結構馴染んだエルザードの街だけど、調査結果によっては逃げ出すことも考えた方がいいかも知れない。
ターミナルを放置できないけど、別の場所のターミナルを見つければここと繋ぐこともできるそうだし、エルザードの街から出る事になったらターミナル探しを目標にしてもいいかもね。
そんな事を考えながら、私はミュウ達とこれからの事について話し合っていた。
「じゃぁ、ちょっと行ってくる。」
戦闘用の装備に身を包んだミュウがそう言って家を出ていく。
これから夜陰に紛れてエルザードの街中を調べるつもりらしい。
「あ、ミュウ、これを持って行って。」
私は出かけようとするミュウを引き留めて、持っていたものを渡す。
「これは?」
「ウン、名付けて『アサシンセット』ミュウの調査に役立つと思うよ。」
ミュウは手渡された荷物を一つ一つ確認する。
真っ黒なマントに漆黒の刃のナイフと、ネックレス。
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「いつの間にこんなのを……でも助かるよ、ありがとうね。」
ミュウはネックレスを付け、ナイフを腰に差しマントを羽織る。
「朝には帰るから……あんまりクーに迷惑かけない様に。」
「ウン、大丈夫だよ。」
私はそう言ってミュウを見送る。
マリアちゃんとクーちゃんは既に寝静まっていて見送るのは私だけ。
ミュウはこういう事をしているって事をあんまり知られたくないらしいんだけど、多分二人とも勘づいているんじゃないかな?
まぁ、どちらにしても私には向いていない事なのでミュウに頼るしかないわけで、それなら私が出来る事は、疲れて帰ってくるミュウを温かく迎える事くらいなんだよね。
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