勇者と魔王、選ぶならどっち?

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第三章 勇者の遺跡巡り

砂漠への序章

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「い~や~な~のぉ~……。」
 ある昼下がり、晴れた空にミカゲの叫び声が響き渡る。
「いつまでも子供みたいなわがまま言わないのっ!」
「私は細々と暮らしていくのよ~。土と生きるの~。明るい農村なのぉ~。」

「あのぉ、これは一体……。」
 今後の事を相談しようと拠点にやってきたセシリアが、側にいるマリアに訊ねる。
「あはは……気にしないでくださいね。最近ずっとこうなんですよ。」
 最近のミカゲは何故か・・・農業に目覚め、マリアが管理している農地の一部を使って農業に励んでいる。
 その為、砂塵の塔へ向かう準備もしていないので焦れたミュウがミカゲにお説教するという光景が日常茶飯事なのだと、マリアが説明する。
「そうですか、それは困りましたね。」
 セシリアは、小さくため息を吐く。
 一族の悲願の為にも、ミカゲには何としても遺跡を攻略して『ガーデン』を解放してもらわないといけないのだ。
 その第一歩となる砂塵の塔の攻略は、早目に済ましてもらいたい。
 しかし、先日話をしてから1週間、何の音沙汰もないので、こうして様子を見に来たのだが、まさかこのような状況になっているとは思いもよらなかった。
 とにかく、ミカゲには行く気になってもらわないと困るので、仕方がなくミカゲとミュウのもとへと近づいていく。

「いい加減にしないと殴るわよっ!」
「もう殴ってるよぉ!」
「あの、ミカゲ様、ミュウ様、どうなされたのですか?」
「あ、セシリア、丁度いい所に。アンタからも言ってあげてよ。ミカゲが砂塵の塔に行かないって駄々をこねてんのよ。」
「だぁかぁらぁ~、この子達は私がいないとダメだからいけないのぉ!」
 ミカゲがミュウから庇うように畑に背を向け手を広げる。
「ミカゲ様、それは?」
 正面から話しても聞き入れてもらえないだろうと感じたセシリアは、別口から切り込むために、畑の事を聞いてみる。
「これは、みんな大好きマンドラゴラよ。各種上級ポーションを作るのに必要で、高く売れるのよ。」
「流石ミカゲ様ですね。砂塵の塔の攻略には各種ポーションは必須。しかも上級じゃないとその効果は薄い。それを見越して材料になる素材を用意してらっしゃるのですね。」
「えっと、う、うん、その通りだよ。」
 セシリアの褒め殺し攻撃に、ミカゲは思わず頷いてしまう。
 あともう一押しだと思ったセシリアは、ここで切り札の一つを切る。

「そう言えば、砂塵の塔のあるタリア砂漠には、そこでしか取れない珍しい植物があるそうです。ミカゲ様なら、その植物を使った新しいハーブティを開発できるのではないかと期待しておりますのよ?」
「珍しい植物かぁ……どんなんだろう。……ってダメダメっ!私にはこの子達を育てる使命があるのよ。」
 ダメか、と思いつつセシリアは切り口を変えてみる。
「あの、ミカゲ様。よろしければ本音を話してくれませんか?私はミカゲ様に無理強いをする気はないのです。それどころかミカゲ様が悲しいお顔をされるのは……辛いのです。」
 ゆっくりとミカゲに近付き、軽く肩に手を乗せ、じっとミカゲを見つめながらゆっくりと話す。
 ミカゲに魅了チャームが利かないのは分かっているが、それでも本音を漏らす程度の効果はある筈だと信じて……。

「うぅ……そんな目で見ないでよぉ。私だってわかってるのよぉ……。」
「ミカゲ様……。」
 セシリアはミカゲをそっと抱き寄せる。
「話してくだされば、後程ミカゲ様のケアの為にメイリンを寄こしますわよ。」
「ウン、話す。」
 メイリンを生贄にすれば、あっさりと落ちるミカゲだった。

◇ ◇ ◇ ◇

「だからね、セルアン族の集落へはもういつでも行けるでしょ?だからアスカの街からお米も簡単に手に入るようになったし、鉱石も取り放題じゃない?」
「まぁ、そうね。」
 立ち話もなんだから、と畑の横に白いテーブルセットを用意し、お茶を飲みながら説明することにしたんだけど、ミュウがまだ怒ってるのよ。
 ミュウの言いたいことも分るんだけど、もっと私の事も考えて欲しいと思うのよ。
「取りあえず、生活していくには困らないし、この辺りでのんびりしてもいいと思うのよ。」
「ふーん……。」
 私の言葉を信じていないというように見てくるミュウ。
「それで本音は?」
「砂漠なんて熱いから行きたくないっ!」
「だったら最初からそう言いなさいよっ!」
 ミュウのハリセンが唸る。
「農村だ、畑だ、と奇行に走るから心配したじゃないのよ!」
「うぅ……明るい農村で暮らしたいのも嘘じゃないのにぃ。」
「まぁまぁ、それはそれとして、我々サキュバスとしては、ミカゲ様がここでリタイアされると、大いに困るのですが。」
 本当に困ったという表情を浮かべるセシリア。
「具体的には、どのような影響がありますの?」
 マリアちゃんがセシリアさんに聞く。
「そうですね、ミカゲ様がマスターを降りるというのであれば、私達は新しいマスターを探す旅に出なければなりません。あと私達の秘密は守られなければなりませんので……。」
 セシリアさんはそこで言葉を切る。
「出来ると思ってるの?」
 ミュウが剣に手をやり剣呑な表情を浮かべる。
「難しいでしょうね。でも、私達が絶滅しても結果として秘密は守られますから。」
 儚げな微笑みを浮かべてセシリアさんがミュウに告げる。
「えっと、ミュウどういう事?」
「はぁ……アンタはまったく……。」
 ミュウがガックリと肩を落とし力を抜く。
「つまりね、セシリアたちサキュバス族は、アンタが降りるなら秘密を守るために私達を殺すって言ってるの。」
「何でっ!私戦う気ないよ。」
「仕方が無いのです。秘密は守られねばなりませんから。もしミカゲ様が戦う気が無いのであれば大人しく殺されていただけると、私達も無用な犠牲を出さすに済みます。」
「だからなんでそうなるのよっ!」
「それが護り人の使命なんですよ。ミカゲ様とまともにやり合えば敵わないのは分かっていますから、その時は遠慮なく私達を一人残らず滅してくださいませ。」
「うぅ……出来ないの分かってるくせに……脅迫なんてズルいよぉ。」
「申し訳ございません。」
 そう言って頭を下げるセシリアさん。

「それでどうしますか?殲滅するなら武器を用意しますが?」
 何故かバズーカを持ち出すアイちゃん。
「しないよっ!取りあえずその物騒なのしまってきなさい。」
「はぁーい……。」
 渋々と立ち去るアイちゃん、その背中には、グレネード弾や対物ライフルなどが多数揺れていた……最近アイちゃんの思考が分からないよぉ。

「分かったわよ……砂塵の塔に行けばいいんでしょ。……うぅ、私の明るい農村計画がぁ……。」
「ミカゲ様、伝承ではガーデンの力を解放すれば、何物にも邪魔されない楽園への扉が開かれると言います。明るい農村とやらは、その楽園で行えばよろしいのでは?勿論お許しいただけるのなら、私たちサキュバスの一族もお供いたしますわ。」
 セシリアさんがそう言って慰めてくれる。
 伝承がどこまで本当か分からないけど、もしそんな楽園があるなら、そこでひきこもるのもいいかもね。

「マリアちゃん、食材の在庫はどう?」
「そうですね、足りないものもありますから2~3日時間をいただけますか?」
「ミュウの方はどう?装備に不備はない?」
「こっちは大丈夫だけど、クーの奴をそろそろ引き剥がさないと。」
「えっ、クーちゃんまだ籠ってるの?」
「最近は食事の時も出てこないよ。」
「はぁ……クーちゃん引き離して身ぎれいにさせないと。出発は1週間後でいいかなぁ。」
「そうね、それでアンタはどうするの?」
「うん……それなんだけどね……。」
 私は後始末の事を考えて、そっと溜息を吐いた。



「で、これを全部引っこ抜けばいいのね。」
「うん、私がやってもいいんだけど、ちょっとね……。」
「こんな野草の一つや二つ……。」
 ミュウはそう言いながらマンドラゴラのヘタに手を掛ける。
「あ、ミュウ、引き抜くときは……。」

『ギャァァァァァァ~~~~~~~~~!』

 周りに甲高い悲鳴が響く。
「遅かった。」
「何なのよこれはっ!」
 ミュウが耳を押さえながら叫ぶ。
「えっとね、マンドラゴラは引き抜くときに叫ぶから気を付けてって言いたかったんだけど……。」
「早く言いなさいよっ!で、どうすればいいわけ?」
 ミュウが聞いて来るけど私は静かに首を振る。
 対処の方法は何もない。
「えっとね、慣れるしかないの。叫び声を聞いてるとちょっと罪悪感があるけど、ミュウなら大丈夫!」
「何が大丈夫なのよ!こんなの放っておけばいいじゃない。」
「それなんだけど、マンドラゴラは収獲期を逃すと、近くの株と融合して大きくなるのよ。その後株分けして繁殖して、また融合してを繰り返して大きくなっていくの。それで人間の2/3位の大きさの株がある程度増えると、別天地を求めて移動するのよ。だから放置して砂塵の塔に行っちゃうと、帰ってきた時は……考えたくない。」
「何でそんな物騒な物植えるのよっ!……もうっ、やればいいんでしょ、やればっ!」
 ミュウが再びマンドラゴラのヘタに手を掛ける。

「所詮は植物でしょっ!」
 力任せに引き抜くミュウ。

『ギャァァァァァァ~~、タスケテクレェ~~~。』
「煩いっ!」
 引き抜いてそのまま放り投げ、次の株に手を掛ける。

『ヒトゴロシィ~~~~~~~~。』
「人じゃないでしょうがっ!」

『ヤメテェ……オカネナラアゲルカラァ……』
「何でお金持ってんのよっ!」

『ムスメダケハァ、ムスメニハテヲダサナイデェ~~……。』
「娘いるのっ!」

『クッ、コロセェ~~~……。』
「どこの女騎士よっ!」

『イヤッ、ヤメテェ~、ソコハダメナノォ~~~~』
「エロいっ!」

『ハジメテナノ……オネガイ、ヤサシクシテ……。』
「何をっ!」

 マンドラゴラの叫びが、段々おかしくなり、聞いているだけで心が荒んでいく。
「ミュウ、ゴメンねぇ。」
 その叫びをモノともせずに、次々と引き抜いていくミュウに申し訳なく思い頭を下げる。

「ハァハァハァ……終わったわよ。」
「うぅ……ミュウぅぅ、私はずっとミュウの味方だからねぇ。」
 私はミュウに抱き着く。
「いくら汚れても、ミュウの心が綺麗だって事、私だけは知ってるからね。」
「勝手に汚れにすんなっ!」
 ミュウのハリセンが閃く……ひどぃ。

 取りあえず、一番の懸念事項がなくなり、安心して砂塵の塔へ向かう準備を進める事が出来そうね。
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