勇者と魔王、選ぶならどっち?

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第三章 勇者の遺跡巡り

アイちゃん日記その1

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「じゃぁ、アイちゃん、留守の間よろしくね。」
「はい、すべて心得ておりますので御安心ください。」
「それからね、新しく作った転移部屋の管理は気をつけてね。一応、許可権限はアイちゃんに任せてあるけど、むやみやたらに発行しないでね。基本的にはサキュバス族とセルアン族の救済措置みたいなものだからね。」
「はい、心得ております。」
 庭園の片隅に新しく設置された建物は、セルアン族の集落と行き来するために作られたものです。
 拠点の中のターミナルルームはミカゲ様達のプライベートルームに近いため、他人を招くには不都合があるので別に用意させていただきました。
 あちらでも拠点になるお屋敷のお庭に同じ様な建物が用意されていますので、私達が許可さえだせば、ここと向こうを行き来することが可能になりました。
 最も、しばらくの間はセシリア様を始めとしたサキュバス族の一部の方と、セルアン族の代表の方及び向こうのお屋敷で働くメイドさんだけしか、移動することはないと思いますが。
 差しあたって、こちらの拠点のお手伝いをいただくために、何名かのメイドさんには速めに来ていただきたいところですが……後程ニコと相談しましょうか。

「あ、でも危険が迫っていたら、遠慮はしちゃダメだからね。向こうから応援を呼ぶか、向こうへ逃げるかしてね。」
「大丈夫ですよ。この拠点の周りにはフィールドが張られてますので、そう簡単には入ってくることが出来ませんから。」
「うんそれは分かってるけど、でも万が一ってこともあるからね。あと、あと、今度行くところは砂漠だから、ベガを連れていけないのよ。淋しがるかも知れないから、面倒見てあげてね。」

 ミカゲ様はそう言って、横にいる真っ白な毛並みのユニコーンの鬣を撫でる。
 ベガと言うのは、このユニコーンの名前で、何でもセルアン族の集落へ向かう途中にミカゲ様が保護したらしく、懐いたのでそのまま連れてきたとのことでした。

「いい加減にしなさいっ!」
 更に何か言い募ろうとするミカゲ様を、ミュウ様が手にしたハリセンで引っ張叩き、そのまま馬車へ連行していく。
「じゃぁ、アイちゃん、行ってくるね………ニャオの事お願いね。」
 ミュウさんとミカゲ様を見送っていると、横からクミン様がそう言って二人の後を追いかけて馬車へと駆けていきます。
 マリア様はすでに御者台の上でお待ちですから,クミン様が乗り込んだらそのまま出発なさる事でしょう。
「行ってらっしゃいませ。お早いお帰りをお待ちしています。」
 私は馬車が見えなくなるまで頭を下げて見送るのでした。

「さて、今度は2ヶ月ぐらいかかるでしょうか?」
 私はそう声に出して呟くと、屋敷の中へ戻ることにします。
 ミカゲ様達が居なくても……いえ、居ないからこそやることは一杯あるのです。

「おいおい、ちょっと待てよ。」
 呼び止められた私は振り返ります。
「アンタ、俺様の世話をしろって言われてただろ?なのに放置ってのはいただけねぇなぁ。」
 ユニコーンのベガが、ニマニマしながらそう声をかけてきます。
 正直に言って品のない顔です。
 さっきまではミカゲ様の前だったから大人しくしていたのでしょうが、居なくなった途端にこれでは先が思いやられます。
 こう言うのを「馬をかぶる」と言うのでしたでしょうか?

「へへっ、そうだなぁ、先ずは膝枕でもして貰おうか?大人しくそこに座りな。」
「はぁ……面倒ですわね。」
 こういう調子づいている相手には、どちらが上なのか教える必要があります。
「どうした?早く……いっ!」
 私は拳を握りしめて、ベガの顔を殴りつけます。
「殴ったねっ!」
「殴って何が悪いのですか?」
 私はさらに殴ります。
「二度も殴ったなっ!」
「まだ分からないのですか?」
 私は一瞬の内にベガを蹴り倒し、その顔と角を踏みつけます。
「このまま角をへし折ってもいいのですよ。」
「クッ、ミカゲにも殴られたことがないのにっ!……こんな事してタダで済むと思うなよ!」
「……そう言えば、ミカゲ様は馬刺なるものを食したいと申されておりましたね。他にも素材を差し上げると大層お喜びになられます。ユニコーンの角・・・・・・・等は喜ばれるのではないでしょうか?」
 私はそう言いながら、角を踏みつける足に力を入れます。
「ま、まてっ!俺が悪かった。ちょっと調子に乗ってみたかっただけなんだよ。悪かったって……。」
 必死に謝るベガを見て、私は力を緩めます。
「分かればいいのです。毎日の餌がマンドラゴラ尽くしにされたくなければ大人しく言うことを聞くのです。」
 私は静かになったベガをその場に捨て置いて、屋敷の中に戻ります。



「えっと、ニャオは……いました。」
 私の目には、小さなネズミと対面している子猫が映っています。
 クミン様よりお世話を頼まれたニャオですが、自分の体の半分程しかないネズミを見て身が竦んでいるようです。
「これはマズいのではないでしょうか?」
 私はよく分からないのですが、文献によれば猫はネズミを補食するのではなかったでしょうか?
 私は取りあえずニャオを救い出します。
 私の手の中でプルプル震えているニャオを見ていると何やら不思議な……なんと表現すれば……これが感情と言うものでしょうか?

「それより、先ずは問題を片づけなければいけませんね。」
 私は回線をニコに繋ぎます。
『アイ、何か?』
「ニャオについての相談です。」
 私はニャオについての情報を今の出来事を含めてニコに送ります。
『なるほどね………あった。うん、やっぱりね。アイの懸念は正しいわよ。』
「何か分かりましたか?」
 私の送った情報を元に、ニコの中のデータを調べてくれたようです。
『今、そっちに送った。ついでにミニゴーレムを転移させる。』
 私は送られてきた情報を処理していく。
「百獣の王ですか……。だったらネズミを見て身が竦むなどあってはいけませんね。いいでしょう!ニャオ、あなたは私が立派に育ててみせます!」



「何をやってるのですかっ!そこで前に出るのですっ!」
 目の前には、ミニゴーレムから逃げまどうニャオの姿。
「にゃ、にゃぁ……。」
 この訓練を始めてから3時間、ニャオの動きも鈍くなり、先程から何度もミニゴーレムの攻撃に被弾している。
「……仕方がありませんね。今日はこれくらいにしておきましょうか。」
 ピクリとも動かなくなったニャオの姿を見て私はそう呟きます。
 私はニャオにポーションを振りかけ、ゴーレムへの魔力供給を止めます。
 ポーションによって回復したニャオは、よろよろと立ち上がり、ふらふら~と立ち去ろうとしますが、まだ解放するわけにはいきません。
「にゃぁっ!」
 私が持ち上げると、ジタバタ暴れるニャオ。
「フム、まだそのような元気があるのですね。ではもう少し鍛錬をしても大丈夫そうですね。」
 私の呟きが聞こえた途端、ぐったりとして大人しくなるニャオ。
「まずは診察ですね。見た所脆弱な体つきみたいですから、強靭な肉体を作り上げるための食事も考えないといけませんわね。」
 私は診察台の上にニャオを乗せると、ニャオの体内構造のサーチを始める。
 と同時に、残されている文献を漁って,猫というものについての理解を深める事にする。

「成程、天性のハンターですか。」
 幾つか辿ってみると、猫の特性について記された文献を見つける。
「音もたてずに忍び寄り、獲物が間合いに入るまでじっと待つ……狩るときは飛び掛かって一瞬で仕留める……暗闇でも良く見える目を持ち、闇夜に紛れて行動する……ハンターというよりアサシンの方が適正あるのではないでしょうか?」
 私はそう呟きながらニャオを見ると、彼女は診察台の上で丸くなっています。
 ニャオをサーチした結果でも、柔軟な体組織であり、現段階でもそれなりの俊敏さがある事が分かっています。
「得意な方面を伸ばし、苦手な面を底上げするのが育成の基本ではありますが……取りあえずはスタミナが必要ですね。」
 私はミュウ様が狩ってきた魔物肉の中から幾つかの素材をチョイスする。
 更にはミカゲ様やクミン様が採集してきた薬草をいくつか選別した後、まとめて自動調理器の中へ入れる。
「えーと、味というのが分からないのですが、取りあえずミュウ様に合わせておけば大丈夫でしょう。」
 ミュウ様はネコ科の獣人であらせられますから、特性としては相通じるものがある筈です。
「そうですね、戦闘パターンもミュウ様を参考にすればいいのですわ。」
 ミュウ様は、双剣を持ち、持ち前の機動力で相手を翻弄しながら、隙を見て攻撃を叩き込むスタイルですから、先程の文献に通じるものがあります。
「そうですね、ニャオ専用の装備を作るのもいいかもしれません。」
 用意したスペシャルご飯を、夢中になって食べているニャオを見ながら、そう考える。
 肉体を鍛え上げるのは時間がかかりますが、その間、装備で底上げしておけば、少しくらい格上の相手とも互角に渡り合う事が出来るでしょう。
「……装備もミュウ様を参考にすればいいかも知れませんね。問題があるとすれば、ミカゲ様程性能の良い物を作れないという所ですが……まぁいいでしょう。必要であれば戻られた際にお願いすればいいのですから。」
 私はいくつかの装備について思いを馳せる……。
 機動力を損なわない様に……、隠密性を高めるためのエンチャント……、各種耐性はどうしましょうか?最初から装備に頼るよりは徐々に身体に慣れさせる方がいいかも知れませんね。
 私は思いつくままにデータを入力していきます。
 そのデータを基に明日には最適な装備が出来上がっている事でしょう。

「今はゆっくりお休みなさい。明日から少しハードに行きますからね。」
 食事を終え、丸くなっているニャオに声を掛けます。
 彼女は深く寝入っているようで、ピクリとも動きません。
「安心してくださいね。この私があなたを、クミン様の横に並んでも見劣りのしない最強の戦士に育ててあげますから。」

『アイ、今大丈夫?』
 ニャオを眺めていると、ニコから通信が入ります。
「ハイ、何かありましたか?」
『えっと、ニャオの事なんだけど、新しい情報が入ったから知らせておこうと思って。』
「そうですか、ありがとうございます。それで、その情報とは?」
『ウン、何でも育てる時にね、センジンノタニとかと言う所に突き落として這い上がらせるんだって。』
「センジンノタニ……ですか?なんなのでしょう?」
『よく分からないから、セルアン族にも聞いてみたら、ある種族の古の儀式にそう言うのが残っているみたいなのよ。』
「儀式ですか?それは一体どういうものなのでしょうか?」
『えっと、ちょっと待ってね……ややこしいからアーカイブ送る。』
「ありがとう……あ、これですか……これは……何とも過酷ですね。大丈夫なのでしょうか?」
『ウン、確かに危険と隣り合わせで、帰ってこない者もいたらしいんだけど、それを乗り越えてこそ、真の戦士なんだって。』
「成程……猫という生き物は可愛いだけじゃダメなのですね。よく分かりました。」
『そのニャオって、ご主人様の大事な従者なんでしょ?だったら他人事じゃないから、私も出来る限りの協力をするからね。』
「ハイ、宜しくお願いします。当面はゴーレムの調達をお願いしますね。」
『ウン、任せておいて。じゃぁね。』
  ニコとの通信を終え、私はふぅーっと大きなため息を吐きます。
「センジンノタニですか……ニャオのこの過酷な試練は大丈夫なのでしょうか?」
 ニコから送られてきたアーカイブに再度目を通して考えます。
 そこには、あるネコ科の獣人の種族が成人を迎える時に、魔物の巣窟に身一つで放り込まれる姿が描かれています。
 周りが獰猛な魔物たちと戦い、勝ち抜いて見事脱出できたものだけが成人として認められるという儀式……何と過酷な試練なのでしょうか。
「大丈夫です。私がこの試練を乗り越えられるぐらいまで鍛え上げて見せます。」
 私は決意を新たにします。
 これこそがクミン様にニャオを託された、私の使命なのですから。

◇ ◇ ◇ ◇

「ニャオ大丈夫かなぁ?」
 クーちゃんが、置いてきた子猫の事を心配している。
 数日前に森で迷っていたのを拾ってきてから、ずっと可愛がっていたから心配なのも分るけどね。
「アイちゃんに任せておけばしっかりお世話してくれるよ。」
「ウン、それは分かってるんだけど……あの子淋しがり屋だから。」
「気持ちは分かるけど、砂漠に連れて行ったらそれこそ危険だからな。大丈夫、帰った時には元気に大きく育ってクーを出迎えてくれるよ。」
 ミュウもクーちゃんを元気づける様にそう言う。
「そうだね、あ、でも、あの小さい頃の姿がもう見れないのは、なんだか淋しいな。」
「それなら大丈夫よ。アイちゃんに日々の成長記録を保管しておくように伝えてあるから。」
 子猫の成長は早いから、今は手の平にのるくらい小さいニャオでも、戻った時にはかなり成長しているはず。
 でも、小さい時の姿は可愛いからね、それはしっかりと残しておくように伝えてあるのよ。
「そうなんだ、それは楽しみ。」
 私の言葉を聞いて少しだけ元気を取り戻すクーちゃん。
「出来るだけ早く帰れるように、さっさと砂塵の塔をクリアしようね。」

 周りの気温が段々上がってきている。
 最初の目的地、砂漠都市タハリンまであと1日という所かな?


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