勇者と魔王、選ぶならどっち?

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第三章 勇者の遺跡巡り

砂漠の街タハール~前編~

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「暑いねぇ。」
「暑いな。」
「暑いです。」
「暑いですね。」
 さっきから同じことを各自呟いて、すでに30分が立つ。
「お腹空いたよぉ。」
「腹ぺこだね。」
「お腹空きました。」
「空腹は困りましたね。」

 食料は、収納バックの中にあるんだから、取り出せばいいだけ……そう取り出せるのであれば……。
「そろそろ、現実を見るべきだと思うのよ。」
「……その通りだと思うんだけどね、何かアンタに言われると腹立つのよ。」
「ミュウお姉ちゃん、さすがに今回はミカ姉は悪くないと思うよ。」
「わかってるわよっ!でも何となくミカゲにあたらないと気が済まないのよ。」
「ミュウ酷いよぉ。」
 私とミュウは至近距離で睨み合う。
 顔がものすごく近い………このまま少し唇を突き出せばキスできそうなくらいに。
 チュッ。
「な、な、な、なにすんのよっ!」
 いきなり私に唇を奪われたミュウが激しく動揺する。
「ん、なんか顔が近かったから何となく?」
「だからってっ………大体今どういう状況かわかって………。」
「ハイハイ、二人共そこまでですよ。今のはミカさんが悪いですよ……何でいつもミュウさんばっかり……。」
「ん、ゴメン。」
「……ふぅ、もういいわよ。こんなことしてる場合じゃないしね。……って、マリアどうしたの?じっと私の顔見て……何かついてる?」
「いえ、大したことじゃないのですが……今ミュウさんとキスすれば、それはミカゲさんとの間接キスになるのかなと………。」
「近いっ、マリア顔近いって……。」
 ぐっと顔を寄せてくるマリアちゃんから距離をおこうと必死にもがくミュウだけど、狭い室内だから逃げ場がない。
「だから止めろぉぉぉ!間接じゃなくてミカゲと直接すればいいでしょっ。」
「あら、それは少しつまらないですわ。」
「ゴメンね、マリアちゃんとしちゃうと後戻りできなくなりそうというか、深みにハマりそうで怖いのよ。」
 私とマリアちゃんの説得?により後がなくなるミュウ。
「大丈夫ですよミュウさん。すぐ終わりますからね。」
「ば、ばかっ、よせっ、ヤメ……やっ………いやぁぁぁ!」
「お姉ちゃん達、いい加減にしなさいっ!」
 ミュウの唇がマリアちゃんの魔の手に落ちる寸前、クーちゃんのカミナリが落ちる。

「この後どうするかって話でしょ?」
「そうなんだよねぇ、どうしよう?」
「どうしようって言われてもなぁ、少なくとも、ここで夜を過ごしたいとは思わないな。」
 ミュウの言葉に私達は周りを見た後、一斉に頷く。

 ここは、タハールの街の中央行政局の地下にある牢屋。
 なぜか私達はここに入れられている。
 しかも、手枷足枷をつけられた状態で、だ。
「大体、悪いのはこの街だろ?何で魔導具を壊れたままにしておくんだよっ!」
「そうよねぇ、まさか両替が出来ないなんて、誰も想像出来ないよねぇ。」
「そのせいで無銭飲食ですからね。ホント困りますわ。」
 そう、私達は無銭飲食の罪で捕まってるのよ。
 しかも原因が、ミュウの言ったとおり、両替の魔導具が壊れているせいで。
 何でも、ここ最近は使うことが殆ど無いから修理を後回しにしていたんだって。
 で、そんな事を知らない私達は、この町に着いてから、先ずは美味しいものでも、と食堂に入り、それほど美味しくもなかった料理を食べた後、支払いの段階で、共通通貨が使えないことを知り、仕方が無いので両替をしようとしたら、魔導具が壊れているから出来ないと言われ……ここにいるのよ。

「まずは、これからどうするかを決めようよ。」
「それはいいけど……アンタ何やってるの?」
「えっ、枷を外してるんだけど……ミュウはそのままがよかった?」
 私の手足を拘束していた枷と重りをインゴットに変えている私を見てミュウが訊ねてくる。
「そんなわけ無いでしょ………って言うか何でそんなことが出来るのよ?」
(クリエイト系の魔術の応用じゃな……フム、興味深いのぅ。)
 ミュウの疑問に、ユースティアが姿を現さず、声だけで応える。
「……私には出来そうも無いですわね。」
 ユースティアから情報を受け取ったマリアちゃんが残念そうに呟く。
(こればかりは資質の問題だから仕方無かろう。)
 珍しく落ち込むマリアちゃんをユースティアが慰める。
 その間に私は、全員の枷をインゴットに変換し、みんなの自由を取り戻す。

「で、これからどうする?」
「どうするって言われても、よく分かんないよ。ミカ姉何か考えあるの?」
「んー、別に無いよ?このまま大人しくしているか、逃げ出すかくらい?」
「逃げ出すって……それはそれで不味いような……かと言って大人しくしていてもね……。」
 珍しくミュウが悩み出す。てっきり騒ぎを起こさないように大人しくしてなさいって言うかと思ったんだけどね。
 ミュウが悩んでいる間、暇なので、クリエイトの魔法を使って、インゴットを変型させる。

(あんまり悠長な事言っておる余裕は無さそうじゃぞ。)
 ユースティアが警告をしてくる。
「何か分かるの?」
 マリアちゃんが問いかけると、ユースティアが応えてくれる。
(今、エストリーファから連絡があってのぅ、どうやらどこかに持って行かれるらしい……横流し、と言う奴じゃな。)

 ユースティアがエストリーファから得た情報によると、ここの職員が、武装解除と言って私達から取り上げた武器や収納バックなどを、コッソリと闇商人に売り渡す相談をしていたんだって。
 で、今は、その闇商人が来るのを待っているらしいのね。
 私の勇者の袋やミュウ達に渡した収納バックは、使用者制限がかかっているため、一見すると只のバックにしか見えないんだけど、破壊されたら、中身が飛び出しちゃうし、そもそも闇商人なんてのに持って行かれたら、探し出すのも苦労するのは間違いない。

「脱出一択だね。」
 私はそう言って、出来上がった小剣をミュウとクーちゃんに、メイスをマリアちゃんに渡す。
「嬉しそうね……ってかいつの間に作ったのよ。」
 渡された小剣を手にして、呆れたように言うミュウ。
「脱出なら面倒な事考えなくてもいいもん。あ、その剣は刃が無いから斬れないからね。」
 クリエイトの魔法で出来るのはあくまでも形だけであって、刃部分は鍛冶で作るように切れ味を出したり、と言うところまでは出来ない。
 勿論、クリエイトで作り出してから、鍛冶や細工で加工して斬れるようにすることは可能なんだけど、今は設備も道具も無いからね。

「でも、脱出ってどうしますの?あんまり派手なのはちょっと……。」
「どうって……ここの鍵を壊して出ればいいよね?」
「「「えっ!?」」」
 私の言葉に、3人が驚いた声を同時に上げる。
「ミカゲがそんな大人しい手段を……。」
「ミカ姉の事だから、壁をぶち抜くって言うかと……。」
「ミカゲ様、もしやどこか具合が悪いんですの?女神の癒やしを……『ヒール』」
「酷いよぉ。みんなが私をどういう目で見てるかよーーーーくわかったわ。」
「そうは申されましても……。」
「だって、ミカゲだし……。」
「ミカ姉だもんねぇ。」
 三人とも気まずそうに顔を見合わせるけど……、私ちょっとおこだからね。
「知らないっ………アシッドブレイク!」
 私は牢の扉に近付くと、強酸の液体を鍵にぶつける。
 酸により溶けて脆くなった錠前は、2度、3度揺すってやるだけで、あっさりと壊れる。
 扉をそぉーっと開け、廊下を見ると、少し離れた場所で、見張りらしい男が二人、雑談をしている。
 幸いにも、こちらに気づいていないようだ。
「スリープミスト!」
 見張りの周りに霧状の靄がかかる。
「ん、なんだこれ………。」
 突然の周囲の変化に戸惑う見張りだったが、おかしいと思ったときには、既に睡眠状態になり、その場に崩れ落ちる。

「みんな、今の内よ………ってどうしたの?」
 脱出しようと、振り返って声を掛けるけど、ミュウ達三人は呆然としていた。
「あ、ゴメン。あまりにも真っ当な手段だったから……。」
「うん、ミカ姉の事だから、派手な魔法をぶちかますと思ってた。」
「ミカゲさんは、あのような魔法も使えたのですね。」
「…………。もういいよ……知らないっ。」
 私、せっかく頑張ったのに…………。
 その場で膝を抱えて座り込む。
「道具だって、エストリーファだって、勝手に売られちゃえばいいよ……。」
「あー、ゴメン。ちょっとビックリしただけだから。」
「そうだよ。ミカ姉拗ねないでよ。エストリーファ、助けにいこ、ねっ?」
「えーと、ミカゲさん……えーと、えーと……ファイト!ですわ。」
「知らないっ!」
 三人が宥めようと、声を掛けてくるけど、私はぷいっとそっぽをむく。
「うぅ………仕方が無いなぁ…………。」
 クーちゃんが私の横に座り、腕を絡ませて私の顔をのぞき込んでくる。
「お姉ちゃん、ゴメンにゃ。機嫌直して欲しいにゃ。」
 私は、見上げているクーちゃんの顔を見つめる。
 自分の行動が恥ずかしかったのか、顔を真っ赤にし、目許にはうっすらと涙を滲ませながらも、しっかりと見つめ返してくる。
 うぅ……あざといよぉ。
 クーちゃんっていつの間に、こんなあざとい真似をするようになったのよぉ。
 あざとい演技だって分かっているけど、わかっているんだけどぉ……。
 ギュッ。
 私はそのままクーちゃんを抱きしめる。
「きゃっ………。」
 可愛いから許す。可愛いは正義なのよ。
「さぁ、グズグズしていないでいくわよ。」
 私はクーちゃんを抱えたまま走り出す。
 ミュウとマリアちゃんは、顔を見合わせ、クスリと笑い合うと、慌てて私の後を追いかけてきた。

 ◇

「どう落とし前つけてくれるのよ!」
 ミュウが、目の前にいる男達に問いかける。
 私達の目の前に座っているのが、この街の代表で、その横に副代表、逆側の横には冒険者ギルドと商人ギルドのギルド長が座っている。
「落とし前と申されましても、そもそもあなた方は無銭飲食をされておりますから……。」
 さっきから、同じ問答の繰り返しで、すでに1時間が経過している。
 要は犯罪者だから聞く耳を持たない、とそういう事ね。
「それはこの国の通貨を持っていなかっただけで、そもそも両替が出来ないっていうのがおかしいでしょうがっ!職務怠慢じゃない?」
 ミュウが言うと、両ギルド長がさり気無く顔を背ける。

 そう、そもそもの話、全国チェーンであるはずの冒険者ギルド、商業ギルドに預けてあるお金が使えない、って事がおかしいのだ。
 悪事に加担しているか、何らかの弱みを握られて脅されているかのどっちかだと思うけど……そんな面倒な話どうでもいいや。
 吹き飛ばしちゃえばそれでいいよね?

「わわわっ、ミカ姉、抑えて、抑えてっ。」
 私がこっそり魔力を貯めていると、感づいたクーちゃんが止めに入る。
 それに気づいた、マリアちゃんとミュウも、慌てて止めに来る。
「ミカゲ、我慢してっ。ここで騒ぎを起こしたら後々面倒だから。」
「ミュウ、大丈夫だよ。いい言葉を教えてあげる『バレなきゃ問題ない』ってね。」
「そう言う問題じゃないっ!」
「そうですよ、ミカゲさん。ここ吹き飛ばして、生き残ってるのが私達だけだったら、後始末が面倒になりますわよ?」
 そう言う問題でもないよ……とミュウが頭を抱え込む。

「じゃぁ……。」
 私がちらりと代表たちの方を見ると、彼らは青ざめた顔を引きつらせていた。
「こ、これ以上ここで騒ぎを起こすなら、重犯罪者としてしょ、処分するぞ。」
 街長が声を震わせながらそう言う。
 はぁ……めんどくさいけど、平和的解決しますかぁ……面倒だけどなぁ……。
「分かったわよ、要は、飲食代を払えばそれでいいわけね?」
「いや、それに加えて、相手との示談金や諸々の手数料を含めて払ってもらわないといけませんなぁ。」
 調子を取り戻した副街長が、ニヤニヤしながらそう言ってくる。
「総額いくらなのよ?」
「そうですなぁ、金貨2枚ってところですな。勿論この町で使える『タハール金貨』で、ですぞ。」
 ミュウが聞くと、調子に乗った副街長が笑いを堪えながらそう言ってきた。
 ちなみに副街長の話では、タハール金貨と共通金貨のレートは1:10だそうで、どこまでもふざけている。
「高っ、何なのよ、それっ!」
「そうは申されましてもねぇ、ここでは水を始めとして様々なものが品薄で、その分価格が跳ね上がっているのですよ。」
「ッ……。」
 あまりにも慇懃無礼な物言いに、キレかけたミュウを私が止める。

「じゃぁ、払えばいいわけね、ここに商業ギルドのギルド長さんもいるしちょうどいいかな。」
「いえ、その、先程も申した通り両替えは今出来なくて……。」
「両替えなんて言ってないよ。それよりこれ、いくらで買ってくれる?」
 私は、今、即興で作ったマグカップを二つ、商業ギルドのギルド長の前に差し出す。
「……これは?」
 何の変哲もないマグカップを眺め、ギルド長が聞いてくる。
「これはねぇ……。」
 ギルド長からマグカップを返してもらい、取っ手の所にあるくぼみを見せながら説明する。
「ここに手を当てて魔力を流すとね……。」
 私が軽く魔力を籠めるとマグカップの中に水が溢れてくる。
 私はマグカップを床に向けてさかさまにし、水が零れるのを見せる。
「こっちも同じ様にね……。」
 もう一つのマグカップに魔力を流すと、こちらは、カップの中に氷の塊が出来る。
「今みたいに、直接魔力を流してもいいけど、魔石を嵌め込めば誰でも使えるよ。ここに嵌る大きさの魔石一つ分で、カップ一杯分ってところかな?」
 私の説明に驚くギルド長達。
 冒険者ギルドのギルド長は魔力操作が出来るみたいで、早速魔力を流して水を出し、口に含む。
「フム、交じりっ気のない純水だな。しかしこのような素材にこの大きさで……。」
「どう言うものかご理解いただけたようですね。ところで、これはいくらで買ってもらえるのかな?」
 私はそう言って、ミュウに後は任せたというように目配せをすると、ミュウも軽く頷いてくれる。

「そ、そうですね、これは素晴らしいですが、素材や装飾の無さから言って銀貨20枚という所でしょうか?」
 副街長が横からそう口出しをしてくる。
「アンタバカ?その眼は節穴なの?……仮にも商業ギルドの長なら、コレがどれだけの価値があるか分かるよね?」
 ミュウは商業ギルドのギルド長に向かって、そう言い放つ。

「水が貴重なこの砂漠の街で、殆ど価値のないクズ魔石があれば、誰でも、生み出す事が出来る水と氷……その価値は、タハールの通貨でいくらなのか興味がありますわね?」
 横から、何でもない風を装いながら、はっきりと、聞こえるように呟くマリアちゃん。
「そう言えば、街に着いた時、屋台のおじさんが『この街では、氷なんていくら金貨を積まれても買えねぇぞ』っていってたね。」
 クーちゃんが、マリアちゃんに応える風を装いながらそんな事を言う。
 皆役者ねぇ……。私はそんな事を思いながらギルド長を見る。
 流石にここまで言われては、値切る事も出来ないだろう。

「二つでタハール金貨2枚だ。これ以上は元が取れん。」
 悩んでいる商業ギルド長を横目に見ながら、冒険者ギルドのギルド長がそう言ってくる。
「俺がタハール金貨2枚で買わせてもらう。……それでいいだろ?」
 冒険者ギルドのギルド長が、他の三人を睨みつけると、コクコクと頷く。
「じゃぁ、そういう事で。お金はそのまま街長さんに払ってもらえばいいかな?それで私達の件は解決って事でOK?」
 ミュウが街長に詰め寄ると、街長はコクコクと何度も首を縦に振る。

「よかったですね。これで一つ片付きましたね。」 
 マリアちゃんが、いつものようにほんわりとした口調でそう言うと、張詰めていたその場の空気が少しだけ和む。
「そうね……それで、どう落とし前つけてくれるのかな?」
 そして、少しだけ和んだ空気の中に、私はもう一度爆弾を落とすのよ。
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