まどかのSF(少し・不思議)体験

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第六話 誰もいない町の不思議

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 こんばんわ、私、朝岡まどか。二十歳です!
 職業カメラマン!
 ……というとカッコよく聞こえるでしょ?
 でも、実際は……ブラック企業の社畜……
 フリーカメラマンになっても、名前だけで、その実アルバイトと掛け持ちなんて話はよく聞くわ。
 それなりに有名になって、名が売れないとダメって言うのはどこの業界も一緒ってことですねぇ。


 ところで、ゴーストタウンとか、廃墟とかに興味ありますか?
 世の中には「廃墟マニア」なんて人種もいるみたいですけど……怖くないのかしら?

 でも、特に寂れているわけでもなく、ごく普通の町でただ人だけがいない……まるで町全体の人が一斉に旅行に行っていないだけ……そんなところが存在するとしたら……それも「廃墟」って言うのかしら?

 そんな誰もいない町にあなたが迷い込んだら……どうしますか?


 「だから……長崎がいいんですよ!」
 「んー、しかしだなぁ……。」
 「部長、今ならあの「軍艦島」の見学許可が下りるんですよ。このチャンス逃す手はないですよ!」
 「お前が行きたいだけだろ?」
 「それのどこが悪いんですか!」


 「おはよーございまーす……あれ、何話してるんですか?外まで聞こえてましたよ?」
 私は朝の挨拶をすると美並先輩の元へ行き、三宅先輩と清水部長の言い合いの内容を聞く。

 「あれねぇ……もうすぐ社員旅行があるの知ってるでしょ。その行先で揉めてるのよ。」
 「へぇー……って、旅行って今月の終わりか来月の頭って言ってませんでしたっけ?」
 「そうよ?」
 何か問題でも?という顔で美並先輩が言う。
 「今月末だったら後3週間後じゃないですか!なのにまだ行先決まってないって……。」
 大丈夫なんだろうか?
 「私達の仕事は結構揺らぎがあるからねぇ……あまり早くに決めてて、行けなくなったからキャンセル料だけ払うって言うのもいやでしょ?」
 だから、確実に行けるとわかった時点で行き先を決めて予約するんだそうだ。
 場所はその時に行けそうなところを適当に……予約が取れなければ旅行自体無し。

 「なんていい加減な……。」
 「まぁ、結構直前でも取れるものよ。」
 
 「まぁ、それは分かりましたけど……であれは何で揉めてるんですか?」
 「今回の行き先をね、九州にしようってところまでは満場一致で決まったんだけど……。」
 「満場一致って……私初めて聞いたんですけど?」
 「社長と部長と課長の意見がそろえば、それは満場一致なのよ。」
 「なんか納得いかなぁーい。」
 「世の中そういうモノよ。」
 「理不尽なんですね。」
 「それでね、ウチはオジサン多いから温泉は外せないのよ。」
 私の理不尽発言はスルーですか、そうですか。
 「そういうモノなンですか?オジサンと温泉。」
 「そういうモノなのよ。で、そこで三宅君が長崎にしようって言いだして……」
 アレよ、と指をさす。

 「成程です……でも、長崎に温泉あるんですか?私、九州って言ったら別府温泉か嬉野温泉ぐらいしか知らないんですけど……あ、嬉野温泉って長崎でしたっけ?」
 「嬉野温泉は佐賀県ね……長崎も、温泉は一杯あるわよ。雲仙、平戸、島原……市内なら稲佐山温泉かな?」
 「……詳しいんですね。」
 美並先輩、ひょっとして温泉マニア?

 「でも、九州で温泉あるなら長崎でも問題ないんじゃ?」
 「んー実はね……部長も課長も、一言でいえば『長崎は飽きた』のよ」
 「えーなんですかそれ?そんなしょっちゅう行っているようなセリフ。」
 「しょっちゅう言っていたのよ。」
 美並先輩がクスリと笑う。
 「部長や課長が学校担当していた頃は、このあたりの学校、みんな修学旅行は北九州だったのよ。」
 「へぇーそうなんですね。」
 「で、春と秋それぞれ1ヶ月ぐらいは向こうだからね……それが毎年となったら飽きるでしょ。だから修学旅行コースから外れている別府温泉に行きたいって言うのが部長の考え。」
 「別府温泉、いいじゃないですか。確か近くにアフリカンサファリがあるんですよね?行ってみたいですね。」

 「お、朝岡君も別府温泉がいいか。そうだよな!」
 私の言葉を聞きつけた清水部長が、我が意を得たりと言わんばかりに別府温泉押しをする。
 「まどかちゃん、酷いよ!長崎はぜひ行くべきだよ!別府温泉は、周り何にもないんだよ?」
 「確かに……今時の若者としては、周りに何もないというのは……。」
 「だろ?だろっ!」
 どうだ!と言わんばかりに部長に笑って見せる三宅先輩。
 「いや、しかし、朝岡君は別府温泉がいいと言ったぞ。」
 反撃に出る部長。
 
……ってちょっと待って。
 これいつの間にか巻き込まれてない?
 私の意見で決まりそうな勢いになってるよぉ。
 「センパーイ……。」
 助けを求めて美並先輩の方を見ると……電話をしていた。
 でも、あれ、「エア電話」だよね?発信ランプ光ってないもん……。
 
 「ふぅ……三宅先輩はどうして長崎がいいんですか?」
 「そんなもの決まってるじゃないか!軍艦島だよ、軍艦島!あそこは中々許可が下りなくてさぁ。ようやく許可が取れそうなんだぜ!」
 「はぁ……そうですか。」
 絶対に行きたくない!
 
 「ねぇ、まどかちゃん、軍艦島って何なの?」
 美並先輩が聞いてくる。
 「ただの廃墟です。」
 私は一言でわかりやすく説明する。
 「廃墟って言うなよ。あそこは歴史的価値のある……」

 「長崎県長崎市にある端島と呼ばれる島。
 島全体のシルエットが軍艦の土佐に似ていることから軍艦島と呼ばれています。
 明治から昭和にかけて海底炭鉱によって栄えていましたが、閉山にともなって島民が島を離れてからは、無人島になっています。
 日本初の鉄筋コンクリート造の高層集合住宅があるという事で有名。世界文化遺産にもなっています。」
 「く、詳しいのね……。」
 私が説明してあげたのに、ドン引きとは……失礼ですよ。
 「ウィキペディアに書いてあります……まぁ、色々言ってますが、単なる廃墟ですよ。」
 「そこまで知っているなら、ほら、興味がわいてこないか?」
 「湧きませんよ、三宅先輩のような廃墟マニアならともかく……。」
 三宅先輩をバッサリと斬る……廃墟は怖いのよ?

 「あ、でも世界文化遺産とか言われるとみてみたいかも?」
 「だろ?だろ?」
 ……マズい。美並先輩が興味示すと、センパイに甘い部長の事だから……

 「美並先輩!廃墟ですよ!怖くないんですか?」
 「別に廃墟だからって何か出る訳でもないでしょ?観光地ならなおさら。」
 マズいなぁ……仕方がない。この手は使いたくなかったけど……センパイが悪いんだからねっ。

 「美並先輩……実は、以前こんなことがあったんですよ……」

 私は紙とペンを取り出す。
 この話にお不思議さは、紙に書かないと上手く伝えれないのよ。
 「ここに国道があります。」
 そう言って紙の右端の方に幅の広い線を引く。
 
 「私は、その時実家に帰ろうとしてこの国道を北に向かって走っていました。……時間は夜8時ごろです。」
 私は国道の位置に下から上へと矢印を書く。
 
 「私の実家はこの国道進行方向から見てずっと左にあるので、途中の交差点で左に曲がったんです。……この交差点をA地点としますね。」
 そして私は紙に「A」と書いて左へ矢印を書く。

 「実は私、車で実家に帰るの初めてで、道がよくわからなかったんですよ。」
 「あれ?まどかちゃんの車ナビついてなかったっけ?」
 「ハイ……例の事件の後で……ナビ外してた時の話です。」
 「あぁ……そうか。」

 「話を戻しますね、曲がった後なんかおかしいなって思ったんです。何がおかしいのかよくわからないんですけど、まず、見覚えがないって思ったんですよ。」
 「道を知らなかったら、見覚えがない所だってあるんじゃないの?」
 「そうなんですけどね、ただ、自分で運転するのは初めてですけど、何回か通ってる道だし全く見覚えがないって言うのもおかしいと思いませんか?」
 「ウーン……」

 「まぁ、いいですよ……ウチの実家はそのまま真っすぐ行ったところで別の国道に出て少し行くとあるんですが……中々国道に出ないんですね。そこで気付いたもう一つの違和感!」
 私はそう言って美並先輩を見る。
 まだ大丈夫そうね。
 「走っても走っても大きい道路に出ないのも変なんですけど……やけに暗いんですよ。回り……。」
 「そりゃぁ、田舎で夜なら暗くてもおかしくないだろ?」
 「1軒も明かりがついていなくてもですか?」
 おかしくないという三宅先輩に言い返す。
 「真夜中ならともかく、まだ夜8時を過ぎたばかりですよ?それなのに1軒も明かりがついてない町……おかしいと思いませんか?」
 美並先輩が少し震えている。

 「とにかく私は曲がる場所を間違えたんだ、もっと先の所を曲がるんだと思って国道に戻ろうとしたんです。そうしたらちょうど四つ角がありまして、右折したんです。」
 そう言って私は紙に「B」と書き、右へ矢印を書き込む。

 「今右折したので、もう一回右折してまっすぐ走れば、理論的には元の国道に出れますよね?」
 私は矢印をまっすぐ伸ばし適当なところで右に曲げ「C」と書く。

 「だから私は右折できるところを探して真っすぐ行ったんです。結構走ったかな?って頃にまた四つ角があったので右折したんですよ……そこがCね。」
 わたしはC地点を指さし真っすぐ線を伸ばすと国道にぶつかる。

 「右折してから、本当に少し走ったら、いきなり明るい交差点に出たのね。そう、この国道の交差点。」
 私は国道の所に「D」と書く。

 「このまま右折したら、戻っちゃうから左折したのよ。」
 そう言って私はD地点から矢印を左に曲げてそのまま上へと伸ばす。

 「まぁ、これだけならちょっと迷ったで済むのかもしれないんだけどね……その国道に戻っても違和感があるのよ。見慣れている場所だしおかしい所は無いはずなんだけど違和感。次の交差点で信号待ちをしたときにその違和感の正体がわかったのよ。」
 私は少し言葉を止める……ちょっと自分を落ち着かせるために。
 
 「その信号待ちをしてた交差点ね……このA地点だったの。」
 そう言って私は紙の上のA地点を指さす。
 「おかしいと思わない?ココから左折して、真っすぐ切って右折、そのまま真っすぐ行ってまた右折。そして、そのまま真っすぐ行って国道に戻って左折……」
 私はそのルートを紙の上でなぞる。
 「本来なら前に居るはずが、何故、後ろに戻ってるの?そして、この左側にあった集落……真っ暗で人一人いない集落……廃墟には見えないんだけど誰もいない場所……。」
 
 そう言って私は言葉を切る。
 正直、あの時の事を思い出すとすごく怖くなるのだ。
 口に出してしまえばチープな言葉しか出てこない。
 でもあの怖さは、あの場に居ないとわからない。
 
 「それって、単なる廃村に迷い込んだけじゃないのか?もしくは廃村間近の場所……こんな近くにあるってことは聞いたことないけど、爺さん婆さん2~3人しか住んでいない村なら8時過ぎでも真っ暗でおかしくないし、そういう所なら、まだ、それ程建物も傷んでいないだろうし……。」

 三宅先輩がそういう。
 「……、そうね、あの人も同じこと言ったわ。」
 「あの人って……?」
 美並先輩が聞いてくる……心なしか声が震えている。
 「私もね似たようなことは考えたんだけど、あの怖さだけは忘れることが出来なくて、知り合いに相談したことがあるのよ。
 そうしたら、その人が実は廃墟マニアでね。なんかそういう集まりを通じて相談しちゃったみたいなのよ。
 で、盛り上がっちゃって、その知り合いともう一人の廃墟マニアの人を案内することになったのよ。
 でもね、判ると思うけど、そんな場所何処にもなくて、それどころか、私が曲がったはずの交差点もなんか違くて……知り合いが連れてきた廃墟マニアの人が言うには、化かされたんじゃないか?って。
 私が曲がったと思っていた付近に丁度小さなお稲荷さんの祠があったしね。
 その人は廃墟マニアでオカルトマニアだったらしく、色々と話してくれたんだけどね。」

 「どんな事聞いたの?」
 「覚えてるわけないじゃないですか。そんなの右から左へと聞き流しですよ。」
 私は美並先輩にそう答えておく。
 「それでね、時間が余っちゃったからその人が、いい廃墟に案内してやるって言いだしたのよ。
 廃墟なんだけど、人が住んでるかのように荒れ果てていない場所だって。近くにあるからって。」

 「この付近にそんな場所あったかなぁ?」
 三宅先輩がつぶやく。
 「あった、のよ。……私と知り合い…・めんどくさいからKさんね……はその人……これも面倒だからAさんね……に案内されてそこに行ったの。
 そこには、確かに今人が住んでてもおかしくないって建物だったけど、誰も済んでいない廃墟だったわ。
 ……そこに行った途端、凄く寒気がして、怖くてね……だから帰るて言って帰ってきたのよ。」

 「一人で?」
 「ううん……Kさんが心配してくれて、一緒に戻るって言ってくれて……私の顔色凄く悪かったみたい。
 ちなみにAさんは、もう少しここらをブラブラしていくって言ったのでそこで別れたのよ。」

 「そんな場所あったかなぁ……。」
 三宅先輩がまだ考え込んでいる。
 「あった、の。三宅先輩なら知ってるはずよ……花谷山荘の事。」
 「あぁ、花谷山荘か、あれならよく知ってる、有名だもんな………って、あれ?あそこは数年前に取り壊されたはず……。」

 「みたいね、私あの後調べたけど、花谷山荘は7年前に崩落事件があって、それから取り壊されたのよね?」
 「そう、そう。」
 「じゃぁ、私が去年見たのは何だったのかなぁ?ネットに乗っていた写真そっくりだったよ。……あとね、Kさんに聞いたんだけどね、私が相談したところまでは知ってるけど、後の事は知らないって。
 私の話も、話半分に聞いていて本気にしてなくてスルーしてたって聞かされたのよ……じゃぁ、私が会ったAさんとKさんは……誰?」

 みんな声も出ないようだ。
 美並先輩は震えている……可哀想なので、隣に行ってギュって抱きしめてあげる。
 センパイは私をポカポカ叩き出した。
 「なんて話をするのよー、おトイレいけないじゃないの!」
 あー、センパイが可愛い。

 「だって、廃墟は嫌って言ってるのに、行きたいっていう人が居るから……廃墟って怖いんですよ?」

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