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ギルドマスターが来た!?

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ドォォン……。

地響きを立てて巨体が崩れ落ちる。

「ザマァ!」

俺は、ピクリとも動かなくなったゴブリンキングの頭を踏みつけ、勝利のポーズをキメる。

「カス様、にゃんにもしてにゃいにゃ。」

「ん、隠れてた。」

……違うんだよ、隠れてたんじゃなくて、気配を遮断して奇襲をかける隙を伺ってただけなんだってば。

……まぁ、そんな隙もなく、倒されちゃったわけで、客観的に見れば、タダ隠れていただけ、と言われても仕方がないのだが………。

「いいんだよ、こういうのは気分なんだよっ!」

俺は誤魔化すように、ゲシゲシとゴブリンキングの頭を踏みつける。

ほんの数週間前、コイツにケツを狙われて逃げ帰ったことは記憶に新しい。

だけど今はご覧のとおりだ。

「あのね、高笑いしてる暇があったら、解体お願いできるかな?」

「あ、ハイ、スミマセン……。」

怖い顔をしているアスカに頭を下げ、俺はゴブリンキングの解体を始める

ただのゴブリンであれば、魔石ですら二束三文なのだが、流石にキングともなれば、その皮や牙など、使える素材はそれなりにある。

ダンジョン探索をはじめてから得た素材も、それなりに集まってきているし、村にギルドができれば即売りに出すつもりだ。

ミィナを含め6人で頭割りしても、一人頭金貨1枚近くは行くはずだ。


「明日から、6階層へ進もうか?」

俺は、解体をしながら皆に言う。

「今からでも行けるにゃ。」

拳をシュッシュッと突き出しながらマーニャが言う。

「いや、計算からすると、そろそろ転移されたモンスターが上がってくる頃合いだからな。慎重に行こう。」

ロリ女神ちゃんが、イケメン勇者の尻拭いのために、俺たちの世界に送ったというモンスター。

本来であればこの村を目指してやってくるところだったのだが、ロリ女神ちゃんが偶然見つけたダンジョン……つまりここにまとめて押し込んだため、外からやってくるのではなく、スタンピードという形でダンジョンからあふれ出すことになった。

幸いにも、このダンジョン、かなり奥が深いみたいで、そう簡単にはスタンピードが起きなくなったというのは不幸中の幸いだった。

ただ、レベルの低い魔物は上層付近に出るように調整をしてあるため、そいつらが溢れ出すという可能性はまだ残っている。


と言っても、女神ちゃんの力を借りて作った装備があるため、俺たちのパーティレベルは2ランク以上と同等かそれ以上の強さになっているため、イレギュラーがない限り、10階層のボスまでは余裕で倒せる計算になっている。

……なんだけどっ!!

俺は自分の不幸体質を信じている。

絶対計算通りにいかないってことが分かっている。

だから、10階層までのボスが余裕、と言われても、絶対その前に何かが起きるに違いない。

6階層や7階層でドラゴンが出たと言われても俺は驚かないぞ。

というか、それに近いことが起きると確信している。

なので、この先は、念には念を入れて、慎重に進みたかった。


「なにも泣かなくても……。」

明日香が仕方がないなぁというように頭をなでてくれる。

「えっ、俺今声に出してた?」

俺がそういうと、アスカだけでなく、レイナたちも神妙に頷いている。

マーニャに至っては、気まずそうに視線をそらしていた。

「と、とりあえず、上に戻ろうか。」

解体を終えた俺は、ボス部屋の奥の扉を開く。

そこには『ワープポータル』と呼ばれる転移の魔法陣が光を放っている。

ダンジョンコアの情報によれば、5階層ごとのボスを攻略すると、作動する魔法陣で、これを使えば一瞬で地上と行き来が出来るらしい。

つまり、次回からは、一気にここから先へ進めるというわけだ。

と言っても、スタンピードが始まってしまえば、場合によっては1階層か2階層で殲滅戦をしなきゃいけないので、状況によっては、しばらく使うことはなさそうだけどな。

俺たちは、一度だけ、ボス部屋を振り返った後、光に包まれて地上へと戻ってきた。




「おかえり~。」

いつものように、ミィナが出迎えてくれるが、その顔色は悪い。

「どうした、何かあったのか?」

「あ、ウン……中に入れば……わかるわ。」

いつもと違って歯切れが悪いミィナ。

俺達は、訝しげに思いながらも、屋敷の中に入るのだった。



「遅い!」

屋敷の応接室にはプリプリと怒っている女性がいた。

「誰?」

「さぁ?」

「知らない。」

「不審者にゃ?」

「私が知るわけ無いでしょ?」

俺が聞くとそんな答えが返ってくる。

「カズトさん、本気で言ってます?」

ミィナが呆れた声を出す……が、そんな事言われてもなぁ。

「レミリアさんですよ?」

「あぁ、レミリアさんね……って、誰だっけ?」

「カズトさん、本気で言って………ますね。」

ミィナは、はぁ、と大きく溜息をついてから教えてくれる。

「レミリアさんですよ。アインの街でカズトさんが貢いでいた……。」

そう言われて思い出した。

しかし、貢いでいたとは、人聞きが悪い。アレは情報の対価だしぃ。

「あぁ、あの裏切ったメス豚だな。」

「ちょ、酷いじゃないっ!誰がメス豚よっ。」

「うるさいっ!俺を騙した女は等しくメス豚なんだよっ!」

今までの経験から、同じ女に二度と騙されないよう、相手を女性じゃなく、メス豚だと思うことで身を守る防衛術なのだ。
……もっとも、別の女に同じ手口で騙されているので、あまり効果はないかもしれない。

「それに騙したわけじゃないわよ。あなた達の情報を売っただけだから。」

「この人サイテーね。」

今まで黙っていたアスカが、ポロッと本音を漏らす。

「とにかく、私をこんな目に合わせたからには賠償を請求するわっ!」

「こんな目って言われてもなぁ……。」

そもそも、なんでレミリアがここにいるのかも聞いていないのだ。

「カズトさん、実はレミリアさんは、……罠にかかっていたんです。」

ミィナが困った表情でそう教えてくれる。

「罠って……あのトラップゾーンのか?」

俺がそう尋ねると、ミィナはコクンと頷く。

なんでも、罠に掛かっていたところをベンが発見し、どうしようか判断を俺の所に丸投げに来たらしい。

しかし俺が不在だったため、ミィナが対応することになり、現場に行ったら、あられもない姿で逆さ吊りになっているレミリアと再会した……ということらしい。

「どうしようか?」

俺はレイナたちに聞いてみる。

彼女たちには、レミリアのことを、俺達が逃げ出す原因となった貴族の手下だと簡単に伝えてある。

「あの人のせいで、ミィナおねぇちゃんが、困ったんですよね?だったら追い出すべきです。」

「ん、罠に戻す。一晩もすればウルフ達が集まる……エサにちょうどいい。」

「友釣りにゃ。明日はお肉鍋だにゃ!」

意外にも敵対心むき出しの三人娘。

その原因が、あのお山だってことは……ないよな?

「ちょっと、あなた達落ち着きなさいよ。」

今にも襲いかかろうと身構えている三人娘をアスカが抑える。

……これが持つべきものの余裕というやつだろうか。

「処分する前に、背後関係だとか調べておかないと、後々厄介よ?お肉鍋はその後。」

……違った。より現実的でした。

「なら、拷問にゃ!」

いつの間にかレミリアの背後に忍び寄っていたマーニャが、あっという間にレミリアを縛り上げる。

……ウム…見事な亀甲縛り……っていうかどこで覚えたんだよ、そんな縛り方。

齢11歳の娘に底しれぬ恐怖を覚える俺であった。

「ちょ、ちょっと待ちなさいよっ。私はこの村に派遣されてきたギルドマスターなのよっ。こんなことしてギルドが黙ってると思うのっ!」

レミリアの言葉に、俺達は顔を見合わせる。

そしてすぐさま結論を出す。

「ダンジョンに捨てましょう。」

「ゴブリンの苗床にゃ。」

「そうだな、ギルドには、まだ人が来ないのか?って、連絡をしておけばいいか。」

「ん、後は勝手に判断してくれる。」

俺達は、縛り上げたレミリアを担ぎ上げてダンジョンへ連れて行く。

「ちょ、ちょっと、本気で言ってるの?…………あわわ…ごめんなさい、ゴメンナサイ……今までのこと謝るから……お願い、許してっ!」

最初は強気だったレミリアも、ダンジョンが近づくに連れ、言葉を無くし、ダンジョン内でゴブリンを目撃してからは泣いて許しを請い始めた。

……結局、ここでレミリアを処分しても、1Gの得にもならないので、レミリアによる今までのことの謝罪と、今後、遺恨なく、ルールに基づいて常識の範囲で、真っ当に付き合うことを約束させて、手打ちにすることにした。

まぁ、全く知らない人物がギルドマスターとして派遣されてくるよりは、少しはマシだろう。

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