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第十五夜(3)
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「……恭介くん、それって、相談でもなんでもないよね……?だってもう、答え出てるよ」
「え?」
「バイト中もずっと、その人のこと考えちゃうんでしょ?後輩さんに協力してって言われて、いいよとは答えられなかったんでしょ?」
食べ終わったハンバーガーの包みを綺麗に折り畳みながら「だからつまり、そういうことだよ」と言われて、恭介はわけが分からない。
「つまりって……、どういうこと?」
尋ねると芽衣は、嘘でしょと言わんばかりの顔で恭介を見て、オレンジジュースを一口飲む。
「あのね、恭介くんは、その人のことが好きなんだよ」
「…………え…………」
──海斗を?男同士なのに?幼なじみにのに?
危うくその全部を口に出すところだった。
でも、『好き』という言葉に、不思議と違和感はなかった。むしろ、すっと、心に当てはまった。
それよりも、恭介には大きな不安があった。
「でも、好きって言われて、付き合って、もしまた……」
そこで言葉を止めたが、芽衣は気付いたようだ。恭介の言おうとしたことを続けた。
「わたしの時みたいに、好きになれなかったら、って?」
図星だった。まんまと言い当てられて、ぐっと喉の奥が苦しくなる。
『好きだよ、恭介』と甘ったるく囁くあの声は、とても悲しそうでもあったのだ。
期待をさせておいて、もしちゃんと好きになれなかったら、芽衣のようにまた海斗まで傷つけてしまう。
恭介は海斗を、悲しませたくないのだ。悲しんでいる顔も見たくない。ましてやそれが自分のせいだなんてことになったら、とても耐えられない。
「そんなの、しょうがないと思うけど。付き合うって、そういうものじゃない?……まあ、確かに悲しかったけど、わたしは、何ひとつ後悔してないよ」
ふふっ、と照れ臭そうに芽衣は笑ったが、「……でもさ」と彼女は急に神妙な表情になった。
「そもそも恭介くんは、聞いちゃったってだけで、まだ告白はされてないんだよね?私だったら……、もしかしたら、後輩くんに揺らいじゃうかも」
「え」それは、まったく考えてもみない発想だった。
清彦が海斗にくっついたり、仲良く話しているのは、確かに、見ていてあまりいい気はしなかった。
だが、恭介の中で、海斗は自分のことが好きなんだ、という自負が少なからずあったのだ。
──もし、海斗が清彦くんを好きになったら……。
まるで恭介の心を読んでいるかのように、「そうなったら、どう思う?」と、芽衣がほんの少し意地の悪い笑顔を浮かべて聞いてくる。
「……………………ぃゃだ」
蚊の鳴くような小さな声で、ついに打ち明けると、芽衣はくすくすと笑った。
「うんうん。なんか、恭介くんがかわいいや」
よしよし、とペットにするように頭を撫でられそうになり、慌ててその手を掴んで止める。
「やめて」キッと睨むが、耳まで真っ赤な顔では迫力もないのだろう、余計に芽衣は笑いが止まらなくなってしまったらしい。
まさか、そんな様子を見られているとは、恭介は露ほども思っていなかった。
目の前のガラス越しに、ぬっと人影が2つ現れた時は心底驚いた。まさに、噂をすれば影だ。
それは、海斗と清彦だった。
「あれ?ルームシェアしてる幼なじみの人じゃない?」
一度海斗に会ったことがある芽衣が、横から尋ねてきたが、答えることができない。
じっと、海斗に射竦められ、動けないでいると、その後ろで清彦が動揺した様子で、海斗に何かを喋っている。
立ち去る海斗を、清彦が追うから、たまらず恭介は立ち上がった。
じっと恭介を見る海斗の目は、暗い海の底みたいに沈んだ色だった。
「ごめんっ俺、行かなきゃ……!今日はありがとう!」
芽衣の返事を聞いている余裕はなかった。
食べ終わったゴミを分別する時間すら惜しかったほどだ。
恭介は店を出るや否や、2人を追いかけて走りだした。
そんな恭介をぽかんと見つめ、しばらくして芽衣は、顎に手を当てて推理する探偵のように、何かを考え込んでいたのだった。
「え?」
「バイト中もずっと、その人のこと考えちゃうんでしょ?後輩さんに協力してって言われて、いいよとは答えられなかったんでしょ?」
食べ終わったハンバーガーの包みを綺麗に折り畳みながら「だからつまり、そういうことだよ」と言われて、恭介はわけが分からない。
「つまりって……、どういうこと?」
尋ねると芽衣は、嘘でしょと言わんばかりの顔で恭介を見て、オレンジジュースを一口飲む。
「あのね、恭介くんは、その人のことが好きなんだよ」
「…………え…………」
──海斗を?男同士なのに?幼なじみにのに?
危うくその全部を口に出すところだった。
でも、『好き』という言葉に、不思議と違和感はなかった。むしろ、すっと、心に当てはまった。
それよりも、恭介には大きな不安があった。
「でも、好きって言われて、付き合って、もしまた……」
そこで言葉を止めたが、芽衣は気付いたようだ。恭介の言おうとしたことを続けた。
「わたしの時みたいに、好きになれなかったら、って?」
図星だった。まんまと言い当てられて、ぐっと喉の奥が苦しくなる。
『好きだよ、恭介』と甘ったるく囁くあの声は、とても悲しそうでもあったのだ。
期待をさせておいて、もしちゃんと好きになれなかったら、芽衣のようにまた海斗まで傷つけてしまう。
恭介は海斗を、悲しませたくないのだ。悲しんでいる顔も見たくない。ましてやそれが自分のせいだなんてことになったら、とても耐えられない。
「そんなの、しょうがないと思うけど。付き合うって、そういうものじゃない?……まあ、確かに悲しかったけど、わたしは、何ひとつ後悔してないよ」
ふふっ、と照れ臭そうに芽衣は笑ったが、「……でもさ」と彼女は急に神妙な表情になった。
「そもそも恭介くんは、聞いちゃったってだけで、まだ告白はされてないんだよね?私だったら……、もしかしたら、後輩くんに揺らいじゃうかも」
「え」それは、まったく考えてもみない発想だった。
清彦が海斗にくっついたり、仲良く話しているのは、確かに、見ていてあまりいい気はしなかった。
だが、恭介の中で、海斗は自分のことが好きなんだ、という自負が少なからずあったのだ。
──もし、海斗が清彦くんを好きになったら……。
まるで恭介の心を読んでいるかのように、「そうなったら、どう思う?」と、芽衣がほんの少し意地の悪い笑顔を浮かべて聞いてくる。
「……………………ぃゃだ」
蚊の鳴くような小さな声で、ついに打ち明けると、芽衣はくすくすと笑った。
「うんうん。なんか、恭介くんがかわいいや」
よしよし、とペットにするように頭を撫でられそうになり、慌ててその手を掴んで止める。
「やめて」キッと睨むが、耳まで真っ赤な顔では迫力もないのだろう、余計に芽衣は笑いが止まらなくなってしまったらしい。
まさか、そんな様子を見られているとは、恭介は露ほども思っていなかった。
目の前のガラス越しに、ぬっと人影が2つ現れた時は心底驚いた。まさに、噂をすれば影だ。
それは、海斗と清彦だった。
「あれ?ルームシェアしてる幼なじみの人じゃない?」
一度海斗に会ったことがある芽衣が、横から尋ねてきたが、答えることができない。
じっと、海斗に射竦められ、動けないでいると、その後ろで清彦が動揺した様子で、海斗に何かを喋っている。
立ち去る海斗を、清彦が追うから、たまらず恭介は立ち上がった。
じっと恭介を見る海斗の目は、暗い海の底みたいに沈んだ色だった。
「ごめんっ俺、行かなきゃ……!今日はありがとう!」
芽衣の返事を聞いている余裕はなかった。
食べ終わったゴミを分別する時間すら惜しかったほどだ。
恭介は店を出るや否や、2人を追いかけて走りだした。
そんな恭介をぽかんと見つめ、しばらくして芽衣は、顎に手を当てて推理する探偵のように、何かを考え込んでいたのだった。
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