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第二十一夜(1)
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自宅の短い廊下をうろうろと何往復もしながら、恭介は頭を悩ませる。
時間はもう夜中の0時をとっくに過ぎている。
覚悟を決めて海斗の部屋のドアノブに手をかける。……が、やっぱり離す。だけどまた掴んで……。
そんなことを繰り返しているうちに、じわじわと行き場のない後悔の念に駆られる。
一度寝たらちょっとやそっとじゃ起きない、という欠点を突かれて、恭介はルームシェアをしている幼なじみ──海斗に襲われていたらしい。
聞かされた時は、海斗を蹴り飛ばす程度にはムカついたし、絶交だって宣言したのだが……。
あのタイミングでのカミングアウトはずるいと思うのだ。
海斗への気持ちを自覚して、想いを伝えて、あんなふうに何度も抱かれたあとに言われたって、どうやって海斗を憎めばいいか分からない。
黙ってそんなことをしていたことは、未だに腹が立つが、記憶がないからか、海斗に対して嫌悪感すら抱けないでいる。襲われていたことを心から嫌だとは、どうしても思えないのだ。
しかし一方で海斗は、かなり負い目を感じているらしく、すっかりよそよそしくなってしまった。それも恭介は気に入らなかった。
被害者である恭介が許しかけているのに、この先も一生そんな態度を取られるなんて、耐えられない。
ならばその罪悪感を消すために、同じことをやり返してやろうと、幼なじみのために一肌脱ぐことを思いつた。
そして、その勢いのまま実行に移したのがつい昨日のことだった。
結局、経験値の低い恭介はほとんど襲い返されて、文字通り脱がされることになったのだが……。
こんなはずではなかったのに、と頭を抱えたのは、今朝海斗の腕の中で目を覚ましたときだ。
勢いで、毎晩襲い返すと口走ってしまったことを心の底から後悔した。
初回でこれでは先が思いやられる。
それに、恭介には何よりも気がかりなことがあった。
あの晩、身体を重ねたときから、その違和感にはなんとなく気づいていた。そして昨日、抜き合いをする羽目になって、ほぼ確信に変わった。
そんな情事を思い返していると、なんだか、無性に怒れてくる。全部海斗のせいだ。うじうじ躊躇しているのも馬鹿らしい。
恭介は海斗の部屋のドアを押して室内に入ると、まっすぐベッドに向かった。
中央がこんもりと膨らんでいる。
久しぶりのアルバイトから帰ってきて、疲れて眠ってしまったのだろうか。
マットレスに手をついて顔を覗き込もうと体重をかけたとき、勢いよく布団の中に引きずり込まれた。
「うわっ、起きてんのかよ!?」
「来るって分かってて寝ると思う?まあ、遅すぎて寝そうだったけど」
海斗の脚と腕が、するりと回り込んできて、恭介を抱き枕のようにきつく挟んだ。
「いやそこは寝てろよ」と押し除けながらも、ほらやっぱり、と思う。
海斗の手に触られているところは勿論、海斗の身体に触れている身体の全部が、どんどん熱を帯びていく。
静まれ気のせいだ、と思えば思うほど、意志とは反対に心臓は鼓動を速める。
寝ていた恭介は、海斗に何をされたのか全く知らない。これっぽっちも覚えていない。
でも、たぶん、恭介の身体は、違う。
それをよく知っている。身体はちゃんと覚えているのだ。
目の前のたくましい胸元から、石鹸の匂いと海斗の匂いが鼻腔をくすぐる。
それだけでもう恭介は、全身から力が抜けるほどの目眩を感じた。
どれもこれも、海斗のせいだ。
自分が怖い。それが恭介の心配事だ。
「今日はもうこのまま寝る?」
「え……」
頭の上からした声に、恭介は顔を上げた。漏れた自分の声音は、思いのほか不満の色が滲んでしまった。
──知ってるくせに。
抱きしめられただけだというのに、恭介の中心は芯を持ち始めている。それがしっかりと当たっているから、海斗は気づいているはずなのだ。
それなのに、そんなことを聞いてくるなんて、幼なじみはいつからこんなにも意地悪になってしまったのか。
「……やだ。襲いに来たんだし」
顔は見ていられなくて、目の前の鎖骨に向かって言うと、海斗の指先が、恭介の髪を梳いた。
撫でるように動く指が、時折頭皮に触れるだけで気持ちよくて、ぴくりと反応してしまう。
こんなふうに恭介は、頭がついていかないうちに、先に身体だけがぐずぐずに蕩けてしまうのだ。
時間はもう夜中の0時をとっくに過ぎている。
覚悟を決めて海斗の部屋のドアノブに手をかける。……が、やっぱり離す。だけどまた掴んで……。
そんなことを繰り返しているうちに、じわじわと行き場のない後悔の念に駆られる。
一度寝たらちょっとやそっとじゃ起きない、という欠点を突かれて、恭介はルームシェアをしている幼なじみ──海斗に襲われていたらしい。
聞かされた時は、海斗を蹴り飛ばす程度にはムカついたし、絶交だって宣言したのだが……。
あのタイミングでのカミングアウトはずるいと思うのだ。
海斗への気持ちを自覚して、想いを伝えて、あんなふうに何度も抱かれたあとに言われたって、どうやって海斗を憎めばいいか分からない。
黙ってそんなことをしていたことは、未だに腹が立つが、記憶がないからか、海斗に対して嫌悪感すら抱けないでいる。襲われていたことを心から嫌だとは、どうしても思えないのだ。
しかし一方で海斗は、かなり負い目を感じているらしく、すっかりよそよそしくなってしまった。それも恭介は気に入らなかった。
被害者である恭介が許しかけているのに、この先も一生そんな態度を取られるなんて、耐えられない。
ならばその罪悪感を消すために、同じことをやり返してやろうと、幼なじみのために一肌脱ぐことを思いつた。
そして、その勢いのまま実行に移したのがつい昨日のことだった。
結局、経験値の低い恭介はほとんど襲い返されて、文字通り脱がされることになったのだが……。
こんなはずではなかったのに、と頭を抱えたのは、今朝海斗の腕の中で目を覚ましたときだ。
勢いで、毎晩襲い返すと口走ってしまったことを心の底から後悔した。
初回でこれでは先が思いやられる。
それに、恭介には何よりも気がかりなことがあった。
あの晩、身体を重ねたときから、その違和感にはなんとなく気づいていた。そして昨日、抜き合いをする羽目になって、ほぼ確信に変わった。
そんな情事を思い返していると、なんだか、無性に怒れてくる。全部海斗のせいだ。うじうじ躊躇しているのも馬鹿らしい。
恭介は海斗の部屋のドアを押して室内に入ると、まっすぐベッドに向かった。
中央がこんもりと膨らんでいる。
久しぶりのアルバイトから帰ってきて、疲れて眠ってしまったのだろうか。
マットレスに手をついて顔を覗き込もうと体重をかけたとき、勢いよく布団の中に引きずり込まれた。
「うわっ、起きてんのかよ!?」
「来るって分かってて寝ると思う?まあ、遅すぎて寝そうだったけど」
海斗の脚と腕が、するりと回り込んできて、恭介を抱き枕のようにきつく挟んだ。
「いやそこは寝てろよ」と押し除けながらも、ほらやっぱり、と思う。
海斗の手に触られているところは勿論、海斗の身体に触れている身体の全部が、どんどん熱を帯びていく。
静まれ気のせいだ、と思えば思うほど、意志とは反対に心臓は鼓動を速める。
寝ていた恭介は、海斗に何をされたのか全く知らない。これっぽっちも覚えていない。
でも、たぶん、恭介の身体は、違う。
それをよく知っている。身体はちゃんと覚えているのだ。
目の前のたくましい胸元から、石鹸の匂いと海斗の匂いが鼻腔をくすぐる。
それだけでもう恭介は、全身から力が抜けるほどの目眩を感じた。
どれもこれも、海斗のせいだ。
自分が怖い。それが恭介の心配事だ。
「今日はもうこのまま寝る?」
「え……」
頭の上からした声に、恭介は顔を上げた。漏れた自分の声音は、思いのほか不満の色が滲んでしまった。
──知ってるくせに。
抱きしめられただけだというのに、恭介の中心は芯を持ち始めている。それがしっかりと当たっているから、海斗は気づいているはずなのだ。
それなのに、そんなことを聞いてくるなんて、幼なじみはいつからこんなにも意地悪になってしまったのか。
「……やだ。襲いに来たんだし」
顔は見ていられなくて、目の前の鎖骨に向かって言うと、海斗の指先が、恭介の髪を梳いた。
撫でるように動く指が、時折頭皮に触れるだけで気持ちよくて、ぴくりと反応してしまう。
こんなふうに恭介は、頭がついていかないうちに、先に身体だけがぐずぐずに蕩けてしまうのだ。
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