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番外編⑥ ─清彦side─
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全てをさらけ出して、誰にも侵入を許したことのない身体の内側まで、他人に触られている。
浅い呼吸を繰り返しながら、滲む視界で翔太を見上げる。
恋人に接するような優しい手つき。蕩けそうなほど熱い視線。嘘みたいに甘い睦言。触れ合う身体の端々が心地良くて、もっと、より深く、この男と重なりたいと思ってしまう。
翔太ももしかしたら同じ思いだったのかもしれない。
「ここに俺のを挿れていい?」
上体を起こしながら下腹部を撫でられ、清彦は迷わず頷いた。
ずちゅっ、と卑猥な音を立てて指が抜かれる。散々解されたそこは、もう充分なほど蕩けている。
広げた脚の間から翔太を眺める。
綺麗に割れた腹筋の下に濃い茂みがあって、猛々しく勃起した肉棒が悠々とそびえ勃っていた。
コンドームを纏わせた昂りにローションを塗りつけ、ぬちゅ、ぬちゅ、と数回扱き上げると、清彦の窄まりにその先端が押し当てられた。
「……んぅ……っ」
丁寧に解してくれていたが、翔太のそれは太すぎる。肉襞を押し広げて熱杭がめり込んでくるのがまざまざと感じられる。
思わず奥歯を噛み締めると、そっと頬に手が伸びてきた。
「ごめんね……深呼吸して力抜いて。大丈夫、ゆっくり入れるから」
そう言う翔太だが、その額には汗が浮かんでいて、苦しそうに眉根を寄せている。
「いいよ……きて」
首の後ろに手をかけて引き寄せる。
痛くたっていいと思った。今夜限りなのだ。忘れたくない。忘れられないほどの強烈な思い出をこの身体に残して欲しい。
「……先輩、好きです」
翔太がぽつりと呟いた。
快楽の渦に飲まれてほとんど働かない思考だけど、それが場を盛り上げるための甘い嘘だということはまだはっきりと理解できた。
──勘違いしたらだめだ。
でも、開きかけた口が、肯定の言葉を呟きそうになる。
──勘違いしたらだめだ。
「しょうた……」
本来ならば、カイトと呼ぶはずだった相手は、後輩の翔太だった。でも、ホストと客という関係に変わりはない。
なぜかじわりと、目尻に涙が浮かぶ。
それを拭うように目蓋にキスが落ちてきて、ふっと力を抜いた瞬間、翔太に腰骨を掴まれ、ぐっと最奥まで貫かれた。
「ッ──……!」
翌朝、目が覚めると翔太はもうどこにもいなかった。清彦はぐっすりと眠っていたようで、もう10時を過ぎていた。
汗や体液でどろどろだった身体も綺麗になっていて、脱いだはずの服もちゃんと着ていて、もしかしてあれは夢だったのでは、とさえ思った。
でもベッドから下りてすぐに、かくっと膝から床に崩れ落ちてしまって、すべて現実だったのだと思い知らされた。
下半身に力が入らない。それは、昨晩の激しい情交のせいだ。
『好き』だとか『愛してる』とか、そんな目眩がするほどの甘言に加えて、翔太のセックスは気が遠くなるほど濃厚で激しかった。
清彦が早々にもう無理だと懇願しても、翔太は絶対に離してくれなかった。何度も何度も執拗に腰を穿たれた。
様々な体位で経験したことのない快感を矢継ぎ早に与えられ、自分が自分でなくなるような、どうにかなってしまうんじゃないかという恐怖に襲われた。
あまりの快楽に気を失いそうになるたびに、行為は一旦中断され引き戻された。そうして清彦は、半ば強制的に何度も絶頂を味わわされたのだった。
翔太の手つきや腰遣い、耳元でたくさん囁かれた睦言までもが蘇ってきて、もう朝だというのに腹の奥が疼いてしまう。
邪念を払うように頭を振ると、ふとローテーブルの上に名刺が置かれていることに気がついた。カイトの名刺だ。
何か書いてある。手書きのメッセージだ。飛びつくように急いでそれを掴んで、内容を確認する。
『鍵はポストに入れておきます。ラインしますね』
どういう意味だろうと思った。けれどそこに、事務的なニュアンスは感じられない。
『ご利用有り難うございました』と書かれていてもおかしくないと思ったのに、次があるのかと、馬鹿みたいな期待をしてしまう。
けれど、待っても待っても翔太から連絡は来なかった。
2日たって、3日たって、4日目になってやっと、ああ社交辞令だったのか、と肩を落とした。
そして落胆した自分自身に失望した。
たった一度抱かれたくらいで、何を期待していたのか。女々しいにもほどがある。
寂しさを埋めるためにホストを買ったのに、おかしなことに、ちっともそれは埋まらなかった。
それどころか、寂しさに虚しさがプラスされてしまって、清彦は毎夜膝を抱えて小さく縮こまって眠った。
浅い呼吸を繰り返しながら、滲む視界で翔太を見上げる。
恋人に接するような優しい手つき。蕩けそうなほど熱い視線。嘘みたいに甘い睦言。触れ合う身体の端々が心地良くて、もっと、より深く、この男と重なりたいと思ってしまう。
翔太ももしかしたら同じ思いだったのかもしれない。
「ここに俺のを挿れていい?」
上体を起こしながら下腹部を撫でられ、清彦は迷わず頷いた。
ずちゅっ、と卑猥な音を立てて指が抜かれる。散々解されたそこは、もう充分なほど蕩けている。
広げた脚の間から翔太を眺める。
綺麗に割れた腹筋の下に濃い茂みがあって、猛々しく勃起した肉棒が悠々とそびえ勃っていた。
コンドームを纏わせた昂りにローションを塗りつけ、ぬちゅ、ぬちゅ、と数回扱き上げると、清彦の窄まりにその先端が押し当てられた。
「……んぅ……っ」
丁寧に解してくれていたが、翔太のそれは太すぎる。肉襞を押し広げて熱杭がめり込んでくるのがまざまざと感じられる。
思わず奥歯を噛み締めると、そっと頬に手が伸びてきた。
「ごめんね……深呼吸して力抜いて。大丈夫、ゆっくり入れるから」
そう言う翔太だが、その額には汗が浮かんでいて、苦しそうに眉根を寄せている。
「いいよ……きて」
首の後ろに手をかけて引き寄せる。
痛くたっていいと思った。今夜限りなのだ。忘れたくない。忘れられないほどの強烈な思い出をこの身体に残して欲しい。
「……先輩、好きです」
翔太がぽつりと呟いた。
快楽の渦に飲まれてほとんど働かない思考だけど、それが場を盛り上げるための甘い嘘だということはまだはっきりと理解できた。
──勘違いしたらだめだ。
でも、開きかけた口が、肯定の言葉を呟きそうになる。
──勘違いしたらだめだ。
「しょうた……」
本来ならば、カイトと呼ぶはずだった相手は、後輩の翔太だった。でも、ホストと客という関係に変わりはない。
なぜかじわりと、目尻に涙が浮かぶ。
それを拭うように目蓋にキスが落ちてきて、ふっと力を抜いた瞬間、翔太に腰骨を掴まれ、ぐっと最奥まで貫かれた。
「ッ──……!」
翌朝、目が覚めると翔太はもうどこにもいなかった。清彦はぐっすりと眠っていたようで、もう10時を過ぎていた。
汗や体液でどろどろだった身体も綺麗になっていて、脱いだはずの服もちゃんと着ていて、もしかしてあれは夢だったのでは、とさえ思った。
でもベッドから下りてすぐに、かくっと膝から床に崩れ落ちてしまって、すべて現実だったのだと思い知らされた。
下半身に力が入らない。それは、昨晩の激しい情交のせいだ。
『好き』だとか『愛してる』とか、そんな目眩がするほどの甘言に加えて、翔太のセックスは気が遠くなるほど濃厚で激しかった。
清彦が早々にもう無理だと懇願しても、翔太は絶対に離してくれなかった。何度も何度も執拗に腰を穿たれた。
様々な体位で経験したことのない快感を矢継ぎ早に与えられ、自分が自分でなくなるような、どうにかなってしまうんじゃないかという恐怖に襲われた。
あまりの快楽に気を失いそうになるたびに、行為は一旦中断され引き戻された。そうして清彦は、半ば強制的に何度も絶頂を味わわされたのだった。
翔太の手つきや腰遣い、耳元でたくさん囁かれた睦言までもが蘇ってきて、もう朝だというのに腹の奥が疼いてしまう。
邪念を払うように頭を振ると、ふとローテーブルの上に名刺が置かれていることに気がついた。カイトの名刺だ。
何か書いてある。手書きのメッセージだ。飛びつくように急いでそれを掴んで、内容を確認する。
『鍵はポストに入れておきます。ラインしますね』
どういう意味だろうと思った。けれどそこに、事務的なニュアンスは感じられない。
『ご利用有り難うございました』と書かれていてもおかしくないと思ったのに、次があるのかと、馬鹿みたいな期待をしてしまう。
けれど、待っても待っても翔太から連絡は来なかった。
2日たって、3日たって、4日目になってやっと、ああ社交辞令だったのか、と肩を落とした。
そして落胆した自分自身に失望した。
たった一度抱かれたくらいで、何を期待していたのか。女々しいにもほどがある。
寂しさを埋めるためにホストを買ったのに、おかしなことに、ちっともそれは埋まらなかった。
それどころか、寂しさに虚しさがプラスされてしまって、清彦は毎夜膝を抱えて小さく縮こまって眠った。
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