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第二十三夜(2)
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しかし、芽衣のあの口ぶりは、どう考えても気づいているそれだった。
いつバレてしまったのかはさっぱり分からないが……。
「俺ちょうど4限終わりだったから、一緒に帰ろうかと思って」
飛ばしていた意識を、目の前の海斗に向ける。
その声音や表情はいつもと変わりない。ここ数日海斗と寝ることを避けまくっていた恭介を怪しんではいないのだろうか。
「ああ、教職だよな」
海斗とはほとんど同じ授業を取っているが、唯一違う点がある。それは海斗が教職課程の授業を取っている点だ。
1年の今はそれほど忙しくないようだが、2年からは一気に授業数も増える。
とりあえず教員免許取っとくか、という軽い気持ちで続けられるものではない。
「本気で教師になるのか?」
隣を歩く海斗をチラリと窺う。
「んー、実習とか試験とかあるしまだ分かんないけど、なれたらいいなって思ってる。ウケるよな、ど文系の俺が数学のセンセーとか」
2人の学部では小中高の教員免許が取得できる。
海斗は中学か高校の教師になりたいらしいが、それよりも今は予想にない単語が聞こえてきて、恭介は思わず足を止めた。
「……ドブンケイ??」
まるで初めて聞く外国語みたいに、聞こえたままその言葉を繰り返す。
もしそれが日本語なら、文系と理系、学問をニ分類する際に用いるあの文系のことだろうか。
「なんだ、気付いてなかった?俺好きな教科国語だよ。現国と古文が超得意だったもん」
けたけたと楽しそうに笑う海斗が、恭介には理解できなかった。
なぜなら、海斗とは小学校から大学までずっと同じだからだ。高校の3年間は理系クラスだったし、今は理工学部の電子工学科に通っている。
確かに高校時代、海斗は稀に数学や理科のテストで赤点を取っていた。昔から読書が趣味だし、今でも難しそうな小説や新書をよく読んでいる。
もし本当に文系だというのなら……、
「……じゃあ、なんで──」
疑問を口にしかけて、ある一つの可能性に行き着く。でもそれは、あまりにも自意識過剰な考え方だ。そんなわけないと、かぶりを振る。
「なんでだと思う?」
そう問われて、いつの間にか俯いていた顔を上げる。海斗が素知らぬ顔で笑みを浮かべている。
それはもうほとんど、答えを言われているようなものだった。
「……俺と一緒にいたかったから……?だから、高校も大学も……?」
「うん。正解」
背後の夕日に負けないくらいの眩しい笑顔を向けられて、恭介は身体の横で自身の拳を握りしめた。爪が食い込むほど強く、ぐっと握った。
そうでもしないと、海斗に触りたいという気持ちを抑えられなかった。
「だからさ、俺はもう年季が違うわけよ。今更お前のこと嫌いになったりとか、絶対ないから」
「え……」
不意に、今1番悩んでいて、1番欲しかった言葉を掛けられる。
「恭介が最近何を悩んでるのかは知らないけど、やっぱ別れたいって言うなら、俺はいつでも受け入れるよ」
「そんなこと……っ」
「なあ、ラーメンでも食べてから帰らね?」
沈んだ空気を吹き飛ばすような明るい声音で、海斗が止めていた足を進めた。気がつくと恭介は、そんな海斗の服の背中を掴んでいた。
「……いやだ」
「あー、じゃあ、うどん?俺パスタって気分じゃないんだけど」
なんで麺縛りなんだと、ツッコミを入れる余裕はなかった。
返事がないことを不思議に思ったらしい海斗が恭介を振り返って、わずかに目を見開く。
「なんて顔してんの」
そう言われても、自分で自分の顔は分からない。
指先で少しだけ恭介の頰を撫でて、離れていく海斗の手が名残惜しい。もっと、もっとちゃんと触って欲しいし、触りたい。
「……はやく帰りたい」
消えそうな声で恭介がそれだけ言うと、
「分かった。帰ろう」
うんと優しい声色で応えた海斗に手を取られた。
前にもこうして、手を繋いで急いで家に帰ったことがあったなと、恭介は恋人の背中を見つめながら思った。
いつバレてしまったのかはさっぱり分からないが……。
「俺ちょうど4限終わりだったから、一緒に帰ろうかと思って」
飛ばしていた意識を、目の前の海斗に向ける。
その声音や表情はいつもと変わりない。ここ数日海斗と寝ることを避けまくっていた恭介を怪しんではいないのだろうか。
「ああ、教職だよな」
海斗とはほとんど同じ授業を取っているが、唯一違う点がある。それは海斗が教職課程の授業を取っている点だ。
1年の今はそれほど忙しくないようだが、2年からは一気に授業数も増える。
とりあえず教員免許取っとくか、という軽い気持ちで続けられるものではない。
「本気で教師になるのか?」
隣を歩く海斗をチラリと窺う。
「んー、実習とか試験とかあるしまだ分かんないけど、なれたらいいなって思ってる。ウケるよな、ど文系の俺が数学のセンセーとか」
2人の学部では小中高の教員免許が取得できる。
海斗は中学か高校の教師になりたいらしいが、それよりも今は予想にない単語が聞こえてきて、恭介は思わず足を止めた。
「……ドブンケイ??」
まるで初めて聞く外国語みたいに、聞こえたままその言葉を繰り返す。
もしそれが日本語なら、文系と理系、学問をニ分類する際に用いるあの文系のことだろうか。
「なんだ、気付いてなかった?俺好きな教科国語だよ。現国と古文が超得意だったもん」
けたけたと楽しそうに笑う海斗が、恭介には理解できなかった。
なぜなら、海斗とは小学校から大学までずっと同じだからだ。高校の3年間は理系クラスだったし、今は理工学部の電子工学科に通っている。
確かに高校時代、海斗は稀に数学や理科のテストで赤点を取っていた。昔から読書が趣味だし、今でも難しそうな小説や新書をよく読んでいる。
もし本当に文系だというのなら……、
「……じゃあ、なんで──」
疑問を口にしかけて、ある一つの可能性に行き着く。でもそれは、あまりにも自意識過剰な考え方だ。そんなわけないと、かぶりを振る。
「なんでだと思う?」
そう問われて、いつの間にか俯いていた顔を上げる。海斗が素知らぬ顔で笑みを浮かべている。
それはもうほとんど、答えを言われているようなものだった。
「……俺と一緒にいたかったから……?だから、高校も大学も……?」
「うん。正解」
背後の夕日に負けないくらいの眩しい笑顔を向けられて、恭介は身体の横で自身の拳を握りしめた。爪が食い込むほど強く、ぐっと握った。
そうでもしないと、海斗に触りたいという気持ちを抑えられなかった。
「だからさ、俺はもう年季が違うわけよ。今更お前のこと嫌いになったりとか、絶対ないから」
「え……」
不意に、今1番悩んでいて、1番欲しかった言葉を掛けられる。
「恭介が最近何を悩んでるのかは知らないけど、やっぱ別れたいって言うなら、俺はいつでも受け入れるよ」
「そんなこと……っ」
「なあ、ラーメンでも食べてから帰らね?」
沈んだ空気を吹き飛ばすような明るい声音で、海斗が止めていた足を進めた。気がつくと恭介は、そんな海斗の服の背中を掴んでいた。
「……いやだ」
「あー、じゃあ、うどん?俺パスタって気分じゃないんだけど」
なんで麺縛りなんだと、ツッコミを入れる余裕はなかった。
返事がないことを不思議に思ったらしい海斗が恭介を振り返って、わずかに目を見開く。
「なんて顔してんの」
そう言われても、自分で自分の顔は分からない。
指先で少しだけ恭介の頰を撫でて、離れていく海斗の手が名残惜しい。もっと、もっとちゃんと触って欲しいし、触りたい。
「……はやく帰りたい」
消えそうな声で恭介がそれだけ言うと、
「分かった。帰ろう」
うんと優しい声色で応えた海斗に手を取られた。
前にもこうして、手を繋いで急いで家に帰ったことがあったなと、恭介は恋人の背中を見つめながら思った。
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