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第二十七夜
しおりを挟むいつものアラーム音が聞こえてきて、恭介は目を閉じたまま手探りでスマホを掴んだ。
だが、どうやら鳴っているのは恭介のスマホではないらしい。
鳴り続ける騒音に顔をしかめて、今度は隣で眠る海斗を探るが、いつまでたっても恭介の指先は海斗を見つけられない。
昨夜は恭介のベッドで一緒に眠った。恭介が今下着しか身につけていないのがその確かな証拠だ。
背中側からプッと笑い漏れる声が聞こえてきて、もぞもぞとその声の方を向く。
「かいと……?」
ゴシゴシと目を擦って、見上げると、やはり海斗だ。
ベッド脇に立ち、手元のスマホのアラームを止めた。
「誕生日おめでとう」
そう言う彼は、薄いグレーのワイドパンツに、ゆったりとした白のTシャツとパンツよりも濃い色のカーディガンを着ている。
ワックスで整えられた髪には寝癖一つない。
「ありがと。けどそれ、もう聞いたけど……」
大きなあくびをしながら思い返す。その耳は次第に赤く染まっていく。
今日4月2日は恭介の誕生日だ。
日付が変わった頃に、恭介の奥の奥まで自身を沈めながら、たまらない場所を擦り上げながら、その言葉を言われたのを覚えている。
「それじゃあ、行くよ」
あんなにしたのに、何処かへ出かけるらしい。海斗の背後の壁掛け時計は朝の5時を指している。
フットサルでもあるのだろうと適当に推測して、元気だなあと感心してしまう。
野球をやめて4年が経とうとしている恭介には、もうそこまでの体力はない。
布団から片手を出して、ひらひらと振る。
「ん。いってら」
さてもう一度寝よう、と手を引っ込めようとしたとき、海斗がその手を取り引っ張ってきた。
「恭介も行くんだよ。早く起きて」
「無理無理。こんな朝っぱらから体動かすなんて」
「フットの日じゃない」
そう言えば、海斗はいつものジャージを着ていない。
「じゃあどこ行くんだよ」
「沖縄」
「ああ、ふうん、沖縄か…………え?なんだって?」
さすがに目が覚めて、布団を退けて起き上がると、海斗の横に見たことのないどでかいスーツケースがひとつ鎮座していて言葉を失う。
確かに昨夜、誕生日プレゼントは明日渡すからと言われたが。
「お前、プレゼントってまかさ……」
「サプライズ沖縄旅行」
にひひ、と楽しそうに、でも少し照れ臭そうに笑う海斗だが、恭介は何よりもまず、不安の表情を浮かべた。
「なんで当日に言うんだ……っ。明日も明後日も、いや今週ほとんどバイト入ってるけど俺……!」
今は春休みの終わり。そろそろ院試の対策を始めないといけないこともあって、稼ぎどきだとばかりにシフトを入れ込んである。
「まずそれ?真面目だな」
「笑ってる場合じゃない」
「バイトは大丈夫。休みもらっといたから」
ぽかんと海斗を見上げる。
恭介の誕生日サプライズ旅行は、かなり前から計画されていた。
海斗は事前に恭介のバイト先に足を運び、芽衣に事情を話したら快く協力してくれた。
シフトを管理している店長と付き合っている芽衣が一枚噛んでいたのだ。
「それにしたって準備とか……」
不満を零すと、海斗がスーツケースを叩いた。
「もうしてある。恭介の服とかも全部入れた」
「じゃあ俺はあと……」
小さな服の山を渡しながら、海斗がその続きを引き受ける。
「急いで顔洗って、この服着て、左の寝癖直して、ダッシュで出かける」
「はいはい」と手元の服を広げながら頷く。海斗が用意した恭介の服は、以前海斗と出掛けた時に買ったものだ。グレーのスキニーに、淡いグレージュの開襟シャツ。全部海斗が選んだ。
海斗と違って恭介は服装には疎い。海斗と同系色のコーディネートになっていることには気づくはずもない。
が、ぱっと顔を上げて海斗を仰ぎ見る。
「……おい今、急いでって言った?」
「そう。ごめん寝坊した。時間がちょっとやばい」
こういう時の海斗の"ちょっと"は、だいたいがちょっとの定義を超えることをよく知っている。
つまりこの場合、かなりやばいという意味になる。
言いたいことや聞きたいことは山ほどあったが、ほとんど声にならない叫び声を上げるに留めて、その後恭介は3分で家を出たのだった。
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