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第三章 輪廻
因果
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次の日、
将虎に言われた様に墓地の傍を通り、 清香は昨日行った茅葺屋根の”職場”に出向いた。
なぜか此処だけ年中咲いた曼珠沙華の切ない景色の中で、 儚いかげろうの様に座敷わらしが笑いながら毬をついていた。
相変わらず夕方なのに灯りも付けない暗がりの茅葺屋根で古い一室に将虎と九尾の狐が居て何かを話して居たが、
清香の姿を見て九尾の狐は意味ありげに部屋を出て行った。
「九尾さん……」
思わず九尾の狐を呼んだものの、 何処に姿を消したのか誰も知らない。
強い妖力を持つ九尾の狐は神出鬼没なのだ。
将虎はわざとらしい咳払いをした。
昨夜九尾の狐から清香に恋をして居るのではないのかと問われたことが原因らしかった。
「あぁ……、 お前にして貰いたい”仕事”はパソコンで必要経費の計算と管理を頼む。 計算ソフトだ。 使えるな?」
昨日と少し様子が違う将虎だったが、 閻魔の心まで読めない清香。
「ええ、 経費管理ソフトなら使えます……」
将虎は溜息をついた。
「ここに居るメンバーは皆遠い昔のモノばかりでな。 パソコンなど使えないから、 お前に頼む」
清香は一瞬躊躇ったが、 どうしても知りたくて将虎に聞いて居た。
「聞いちゃいけないかも知れないけれど……。 九尾さんやろくろ首さん、 火車さん、 座敷わらしちゃんの過去って一体何が有って成仏できなかったんですか? ……そして、 将虎さんは……?」
将虎は一瞬黙ったが、 口を開いた。
「そうだな。 お前にも知る権利はあるだろう。
まずろくろ首は江戸時代の女でな。 惚れた男も居たのに哀れな末路を辿りそのまま妖怪になってしまった。
だが、 ろくろ首も恐ろしい妖怪に変わりない。 あまり近付くな。
座敷わらしも見た目通り小さな童だ。 自分がこの世のモノでないと気付いていない……。
よく座敷わらしが出る家は栄えると言われて居るが、 去った後に災い見舞われる。
見た人間もお前以外に居るのか居ないのか解らないな。 山で彷徨って居るところを俺が保護した。
この家が人や他の妖怪に知られないのは座敷わらしのお陰かもな。
あの童が去ったら……。 この家も消えてしまうだろう。
火車はアレも見た目若いし男らしいが実際の正体は年老いた猫だ。 あまりにも悪さをするから俺が諭して傍に置いて居る。 今は人の道に外れた悪行をしたモノを此処に運んで来る役目をしている。
九尾の狐は何の因果かアレも平安時代の妖怪でな。 一度退治されて居るが業と言うモノは繰り返される輪廻だ。
当時から思えば妖力も弱まっているが美しい女に化けて悪さを繰り返したな。 今でも美形な男女に化けている狐
でな。 性別は恐らく雄だろう。 皆、 輪廻をしても業によりあのままだな。
……昨日少し言ったが俺は平安時代の武士で数えきれない人を斬り、 最期は謀反の罪で首を落とされた。
……それ以上は聞くな」
将虎は少し鋭い目で清香を睨んだが、 清香は将虎の予想から外れた行動を取った。
正座をして静かに目を閉じ、 数珠を握って居る。
「何のマネだ……? 俺達に悪霊退散でもなさそうに思えるが」
清香は寂しそうな顔をして静かな口調で答えた。
「お仏壇ある部屋に行ってもいい……? 私を可愛がってくれた父方のお婆ちゃんから生前に聞いたけれど、 妖怪や霊の類に憑かれるから情けを掛けちゃいけないって。 でも、 こうして巡り会ったのも何かの縁。
……貴方たちを弔わせて欲しい」
将虎は額を抑えた。
「やれやれ……。 妙な女を雇ったもんだ。 尼さんを呼んだ覚えも無いが」
清香は真顔だった。
「尼さんじゃないけれど人として。 それに、 妙な女だからこそ、 こうして知り合えたんじゃないの?」
将虎はまた心眼でジッと清香を見ると目を伏せて”あっちに行け”と、 手で清香を追い払う真似をした。
「勝手にしろ。 あとで経費管理を忘れない様に頼んだぞ」
清香が仏壇のある部屋に行った後でボソッと将虎は呟いた。
「名前通り本当に清らかな心を持つ女だ。 九尾の言ったことは間違っていないかも知れないな。
俺は柄にもなく……。 何処まで近付こうにも近付くことのできない女なのに」
将虎に言われた様に墓地の傍を通り、 清香は昨日行った茅葺屋根の”職場”に出向いた。
なぜか此処だけ年中咲いた曼珠沙華の切ない景色の中で、 儚いかげろうの様に座敷わらしが笑いながら毬をついていた。
相変わらず夕方なのに灯りも付けない暗がりの茅葺屋根で古い一室に将虎と九尾の狐が居て何かを話して居たが、
清香の姿を見て九尾の狐は意味ありげに部屋を出て行った。
「九尾さん……」
思わず九尾の狐を呼んだものの、 何処に姿を消したのか誰も知らない。
強い妖力を持つ九尾の狐は神出鬼没なのだ。
将虎はわざとらしい咳払いをした。
昨夜九尾の狐から清香に恋をして居るのではないのかと問われたことが原因らしかった。
「あぁ……、 お前にして貰いたい”仕事”はパソコンで必要経費の計算と管理を頼む。 計算ソフトだ。 使えるな?」
昨日と少し様子が違う将虎だったが、 閻魔の心まで読めない清香。
「ええ、 経費管理ソフトなら使えます……」
将虎は溜息をついた。
「ここに居るメンバーは皆遠い昔のモノばかりでな。 パソコンなど使えないから、 お前に頼む」
清香は一瞬躊躇ったが、 どうしても知りたくて将虎に聞いて居た。
「聞いちゃいけないかも知れないけれど……。 九尾さんやろくろ首さん、 火車さん、 座敷わらしちゃんの過去って一体何が有って成仏できなかったんですか? ……そして、 将虎さんは……?」
将虎は一瞬黙ったが、 口を開いた。
「そうだな。 お前にも知る権利はあるだろう。
まずろくろ首は江戸時代の女でな。 惚れた男も居たのに哀れな末路を辿りそのまま妖怪になってしまった。
だが、 ろくろ首も恐ろしい妖怪に変わりない。 あまり近付くな。
座敷わらしも見た目通り小さな童だ。 自分がこの世のモノでないと気付いていない……。
よく座敷わらしが出る家は栄えると言われて居るが、 去った後に災い見舞われる。
見た人間もお前以外に居るのか居ないのか解らないな。 山で彷徨って居るところを俺が保護した。
この家が人や他の妖怪に知られないのは座敷わらしのお陰かもな。
あの童が去ったら……。 この家も消えてしまうだろう。
火車はアレも見た目若いし男らしいが実際の正体は年老いた猫だ。 あまりにも悪さをするから俺が諭して傍に置いて居る。 今は人の道に外れた悪行をしたモノを此処に運んで来る役目をしている。
九尾の狐は何の因果かアレも平安時代の妖怪でな。 一度退治されて居るが業と言うモノは繰り返される輪廻だ。
当時から思えば妖力も弱まっているが美しい女に化けて悪さを繰り返したな。 今でも美形な男女に化けている狐
でな。 性別は恐らく雄だろう。 皆、 輪廻をしても業によりあのままだな。
……昨日少し言ったが俺は平安時代の武士で数えきれない人を斬り、 最期は謀反の罪で首を落とされた。
……それ以上は聞くな」
将虎は少し鋭い目で清香を睨んだが、 清香は将虎の予想から外れた行動を取った。
正座をして静かに目を閉じ、 数珠を握って居る。
「何のマネだ……? 俺達に悪霊退散でもなさそうに思えるが」
清香は寂しそうな顔をして静かな口調で答えた。
「お仏壇ある部屋に行ってもいい……? 私を可愛がってくれた父方のお婆ちゃんから生前に聞いたけれど、 妖怪や霊の類に憑かれるから情けを掛けちゃいけないって。 でも、 こうして巡り会ったのも何かの縁。
……貴方たちを弔わせて欲しい」
将虎は額を抑えた。
「やれやれ……。 妙な女を雇ったもんだ。 尼さんを呼んだ覚えも無いが」
清香は真顔だった。
「尼さんじゃないけれど人として。 それに、 妙な女だからこそ、 こうして知り合えたんじゃないの?」
将虎はまた心眼でジッと清香を見ると目を伏せて”あっちに行け”と、 手で清香を追い払う真似をした。
「勝手にしろ。 あとで経費管理を忘れない様に頼んだぞ」
清香が仏壇のある部屋に行った後でボソッと将虎は呟いた。
「名前通り本当に清らかな心を持つ女だ。 九尾の言ったことは間違っていないかも知れないな。
俺は柄にもなく……。 何処まで近付こうにも近付くことのできない女なのに」
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