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一話

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 私の家では妹が可愛がられるのが当たり前だった。サラサラの金髪に長い睫毛に縁取られた緑色の目。
 平凡な容姿の両親から生まれた玉のように清らかな娘。
 儚いものの象徴のような美しい容姿をした一つ下の妹は、生まれてすぐに両親を魅了した。
 しかし私はと言うと蛙の子は蛙。
 両親に似た平凡な容姿である。
 その影響で両親は私に関心がなかったし、会うとしても小言くらい。この屋敷の最高権力者である両親に怯え、使用人は誰も近寄って来なかったので侍女も私にはつけられなかった。
 ただ救いだったのは、食事などの最低限の生活はきちんと保障されていたこと、私には前世の記憶があったことの二つだ。
 特に後者のお陰で、子供ながらに大人の精神力を持ってしてこの状況に耐えることが出来ていた。
 妹は自分が優遇されていることを自覚しており、それを良いことによく私につっかかってきては泣いて帰っていって、私が両親に怒鳴られるよう仕組んでいた。
 ……いや、本当に記憶があって良かった。
 なければ、一生心に傷を負う羽目になっていただろう。
 

 ある時、私に婚約者が出来た。
 婚約者は初めこそ私と仲良かったが、すぐに妹と頻繁に会うようになっていった。
 彼が私より妹に気があるのは明らかだった。
 なぜなら贈り物を持って来ても、私には安物の紅茶、妹には彼女と同じ瞳の色の宝石を送っていたからだ。
 そもそも私は何度も妹の方が婚約者に相応しいと思っていた。一度それを両親に伝えたところ、妹はもっと格上の方と婚約させるからダメだと言って否定された。
 それでも、やはり妹と婚約者の距離は近かった。
 私はある時、婚約者の希望でお菓子を作ることになった。
 前世でお菓子作りが趣味だった私は、その記憶を頼りにアイスボックスクッキーを作った。
 でも、クッキーが綺麗に焼き上がり冷ましている間の数時間、事件が起こった。
 クッキーがほとんど無くなっていたのだ。
 私は犯人の予測を立てながら、かろうじて残っているものをラッピング袋に入れた。
 それから婚約者にクッキーを渡しにいくと、そこには妹がいた。
 私は嫌な予感を感じながらも、彼にクッキーを渡す。

「これ、頼まれていたお菓子です。クッキーを作ってみました」

 でも、帰って来た婚約者の声は冷たかった。

「これは、君の妹が作ってくれたものじゃないのか?先程、君の妹からクッキーを貰ったが、君が持ってるそれは彼女が作ったものと瓜二つだ」

 彼は私の手から乱暴にクッキーを奪うと、ラッピングをビリビリ剥がし、クッキーを一つつまんで口に入れた。

「ほら、同じ味」

 彼の疑いの目は私に向いた。
 妹は私と目が合うと、微笑んで首を傾げた。

「お姉様?」

 それは、全てを知り尽くした上での言葉で。
 私はいたたまれなくなってその場から早歩きで逃げ出した。
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