婚約者を追いかけるのはやめました

カレイ

文字の大きさ
3 / 8

3話

 自分でメイクをしてみようと思っても、まずはこの厚化粧を落とすべきよね。
 私は化粧台に置いてあるメイク落としを手に取ってそれを適量ガーゼに取ると、ゆっくりと顔に付けた。
 私の突然の行動に侍女たちが慌てて駆け寄ってくる。

「ク、クレア様?な、にを!」
「化粧を落としているだけよ」
「それなら私たちが」
「結構よ。これからは自分の身支度くらい自分でできるようにならなくては」
「ですがクレア様は公爵家の……」

 あれこれと煩い侍女たちを私は覚めた顔で振り返ると一言だけ告げた。

「少なくとも、私を騙すような貴方たちの手は借りないわ」

 侍女たちの顔の血の気がサーと引いていく。
 私がニッコリと笑って「出て行ってちょうだい」と言うと、すぐさま退出していった。
 それから私は一人でてきぱきと化粧を落とし、髪も解いて入浴した。
 素顔になった私……クレアを見てみれば、そちらの方がよほど可愛かった。縦巻きロールもサラサラのストレートになって手触りが柔らかい。大きな青い目は宝石のようにキラキラしている。

「何これ、凄い美少女じゃない!今は少しお肌が荒れているけれど、化粧をやめればすぐに綺麗になれそうね」

 私は浴室の中で一人で興奮していた。
 その後、静かになった侍女たちに頼んで、部屋に食事を持ってきてもらった。侍女たちは未だ青白い顔で私を見ているが、私は気にせず黙々と食べ進めていった。
 食事を終えると、歯磨きや最低限のことを済ませ、私は早めに寝ることにした。
 やっぱり睡眠がお肌には大切よね。
 クレアは美に対して、気を使う方向を間違っていただけだ。プライドの高い彼女は、侍女たちの煽てに上手いこと操られてしまっていた。だから今度こそ、彼女のためにもちゃんと美しくなろう。
 そう思って私は目を閉じた。





「クレア様……本当にそのような格好で学園へ?」
「えぇ」
「あの、やめといた方が……」
「ご忠告ありがとう。でももうこれで良いのよ」

 翌日ーー私は侍女たちが戸惑う中、身だしなみを整えていた。
 唇には薄くリップを塗った。他に化粧はなし。今はまずお肌を休めることが先だから。髪の毛もストレートのまま軽く編み込みを入れて、香水は付けない。
 ーーよし、完璧!
 いつもの何倍も可愛い自分を見て、私はニッコリと笑った。
 ーー侍女たちの意見に騙されてきた私だけれど、今の方が何倍も良いわ。
 健気な少女は、ただ周りに言われるがまま必死に背伸びをして婚約者に好かれようとした。おかしいと思うこともあった。でも自分たちより経験のある侍女たちの方が正しいと思った。
 それが前までの私。
 ーーでも侍女を信じたのはあくまで私。決定権は私にあったのに。
 だから私は彼女たちをこれ以上責めたりはしない。……調査をするつもりではあるけれど。

「行ってくるわね」

 戸惑う侍女たちを置いて、私はそのまま屋敷を後にした。

 

あなたにおすすめの小説

婚約者だと思っていた人に「俺が望んだことじゃない」と言われました。大好きだから、解放してあげようと思います

kieiku
恋愛
サリは商会の一人娘で、ジークと結婚して商会を継ぐと信じて頑張っていた。 でも近ごろのジークは非協力的で、結婚について聞いたら「俺が望んだことじゃない」と言われてしまった。 サリはたくさん泣いたあとで、ジークをずっと付き合わせてしまったことを反省し、解放してあげることにした。 ひとりで商会を継ぐことを決めたサリだったが、新たな申し出が……

王太子殿下との思い出は、泡雪のように消えていく

木風
恋愛
王太子殿下の生誕を祝う夜会。 侯爵令嬢にとって、それは一生に一度の夢。 震える手で差し出された御手を取り、ほんの数分だけ踊った奇跡。 二度目に誘われたとき、心は淡い期待に揺れる。 けれど、その瞳は一度も自分を映さなかった。 殿下の視線の先にいるのは誰よりも美しい、公爵令嬢。 「ご一緒いただき感謝します。この後も楽しんで」 優しくも残酷なその言葉に、胸の奥で夢が泡雪のように消えていくのを感じた。 ※本作は「小説家になろう」「アルファポリス」「エブリスタ」にて同時掲載しております。 表紙イラストは、雪乃さんに描いていただきました。 ※イラストは描き下ろし作品です。無断転載・無断使用・AI学習等は一切禁止しております。 ©︎泡雪 / 木風 雪乃

婚約者が私にだけ冷たい理由を、実は私は知っている

潮海璃月
恋愛
一見クールな公爵令息ユリアンは、婚約者のシャルロッテにも大変クールで素っ気ない。しかし最初からそうだったわけではなく、貴族学院に入学してある親しい友人ができて以来、シャルロッテへの態度が豹変した。

王子様への置き手紙

あおき華
恋愛
フィオナは王太子ジェラルドの婚約者。王宮で暮らしながら王太子妃教育を受けていた。そんなある日、ジェラルドと侯爵家令嬢のマデリーンがキスをする所を目撃してしまう。ショックを受けたフィオナは自ら修道院に行くことを決意し、護衛騎士のエルマーとともに王宮を逃げ出した。置き手紙を読んだ皇太子が追いかけてくるとは思いもせずに⋯⋯ 小説家になろうにも掲載しています。

【完】お望み通り婚約解消してあげたわ

さち姫
恋愛
婚約者から婚約解消を求められた。 愛する女性と出会ったから、だと言う。 そう、それなら喜んで婚約解消してあげるわ。 ゆるゆる設定です。3話完結で書き終わっています。

【完結】騙された侯爵令嬢は、政略結婚でも愛し愛されたかったのです

山葵
恋愛
政略結婚で結ばれた私達だったが、いつか愛し合う事が出来ると信じていた。 それなのに、彼には、ずっと好きな人が居たのだ。 私にはプレゼントさえ下さらなかったのに、その方には自分の瞳の宝石を贈っていたなんて…。

【完結】愛されない令嬢は全てを諦めた

ツカノ
恋愛
繰り返し夢を見る。それは男爵令嬢と真実の愛を見つけた婚約者に婚約破棄された挙げ句に処刑される夢。 夢を見る度に、婚約者との顔合わせの当日に巻き戻ってしまう。 令嬢が諦めの境地に至った時、いつもとは違う展開になったのだった。 三話完結予定。

結婚式の晩、「すまないが君を愛することはできない」と旦那様は言った。

雨野六月(旧アカウント)
恋愛
「俺には愛する人がいるんだ。両親がどうしてもというので仕方なく君と結婚したが、君を愛することはできないし、床を交わす気にもなれない。どうか了承してほしい」 結婚式の晩、新妻クロエが夫ロバートから要求されたのは、お飾りの妻になることだった。 「君さえ黙っていれば、なにもかも丸くおさまる」と諭されて、クロエはそれを受け入れる。そして――