5 / 6
平穏な日々
しおりを挟む
11月に入ると、父の容態は、少しずつだけれども、良くなって来ているように見えていた。
あくまでも、本当にそう、見えていた。
最初に入院した時よりも饒舌で、笑顔も穏やかで。
ただ、看護師さんや主治医の顔を見ると、少しその表情が翳る。そんな日が、続いた。
このまま、笑顔が増えれば、がん細胞も減ってくれるのでは?と希望を持たせてくれるような日が。
けれども、それは父の選んだ治療とは呼べない治療法のお陰だったのだ。
痛みを和らげる緩和ケア。
常時点滴で、鎮痛剤を身体に入れて痛みを和らげる方法。
知識としては、頭の中に有ったけれども、自分の父親が、そんな方法を取らなくてはいけなくなるなんて思いもしてなかった。
それでも、時々、
「腰が痛くて寝れんかった」
「座って無いと寝れんのさ」
薬で痛みを和らげてはいても、癌は堪えず父の身体を苛んでいる訳で。
食事も、まともに取れず、お茶しか受け付けなくなってしまったのが、11月の下旬。
日に日に父は痩せて弱っていった。
そして、暦は12月に。
固形物を食べられなくなってから、ちょうど1週間後の早朝。
病院から、連絡が入った。
「お父様が、今朝早くに下血されました!!
予断を許さない状態です!」
夫と娘を送り出した後の連絡に、私はバッグだけを掴んで車を走らせた。
心で願うのは、"間に合って!!"その一言だけ。
あくまでも、本当にそう、見えていた。
最初に入院した時よりも饒舌で、笑顔も穏やかで。
ただ、看護師さんや主治医の顔を見ると、少しその表情が翳る。そんな日が、続いた。
このまま、笑顔が増えれば、がん細胞も減ってくれるのでは?と希望を持たせてくれるような日が。
けれども、それは父の選んだ治療とは呼べない治療法のお陰だったのだ。
痛みを和らげる緩和ケア。
常時点滴で、鎮痛剤を身体に入れて痛みを和らげる方法。
知識としては、頭の中に有ったけれども、自分の父親が、そんな方法を取らなくてはいけなくなるなんて思いもしてなかった。
それでも、時々、
「腰が痛くて寝れんかった」
「座って無いと寝れんのさ」
薬で痛みを和らげてはいても、癌は堪えず父の身体を苛んでいる訳で。
食事も、まともに取れず、お茶しか受け付けなくなってしまったのが、11月の下旬。
日に日に父は痩せて弱っていった。
そして、暦は12月に。
固形物を食べられなくなってから、ちょうど1週間後の早朝。
病院から、連絡が入った。
「お父様が、今朝早くに下血されました!!
予断を許さない状態です!」
夫と娘を送り出した後の連絡に、私はバッグだけを掴んで車を走らせた。
心で願うのは、"間に合って!!"その一言だけ。
0
あなたにおすすめの小説
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
壊れていく音を聞きながら
夢窓(ゆめまど)
恋愛
結婚してまだ一か月。
妻の留守中、夫婦の家に突然やってきた母と姉と姪
何気ない日常のひと幕が、
思いもよらない“ひび”を生んでいく。
母と嫁、そしてその狭間で揺れる息子。
誰も気づきがないまま、
家族のかたちが静かに崩れていく――。
壊れていく音を聞きながら、
それでも誰かを思うことはできるのか。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる