8 / 11
久遠類 編
美術館2
しおりを挟む「あーっ!こんなところにいた!!」
私の肩を後ろから掴んだのは澄華だった。
「…なんで絵画に近づいてるの?」
ドン引きしたような目で私を見つめてくる。
次の瞬間には意識がはっきりとした。
絵画が近づいてきたのではなく、絵画に私が近づいていたのだ。
「ちょっとボーっとしてた…」
曖昧に流し、絵画から離れた。
どうやら澄華は先生に事情を話せたみたいだ。
「さっき適当にレポート書いたから、類もさっさとなんか書いときなよ~」
澄華はそう言って自分のプリントをぺらぺらとこちらに振った。
適当とは思えないくらい丁寧に字が紡がれている。
「近づいて見るくらい気に入ったのなら、この絵画のことでも書いたらぁ?」
さっきの光景を思い出し私はとっさに顔を赤くした。
「なっ!…さっきのは忘れてよ!」
と言いつつ、時間ももうやばい。
そう思って仕方なくその絵画についてレポートを書いた。
「あれ、火憐がいない…」
火憐の待つ椅子に戻ってきた私と澄華は驚いた。
「九栗ならさっき帰らせたぞ」
千川先生がやって来てそう言った。
たしかに、とてもしんどそうだったし家に帰ってゆっくり寝るのが1番だと思う。
そんな話をしていると
「よかったー。やっぱりみんなここに戻ってきてたんだ」
蛍の声。
ということは…
恐る恐る振り返ると蛍の少し後ろに蓮巳がいた。
蓮巳は付けていたメガネの位置を調節し私に目を合わせた。
逃げ出したくなった。
何故かはわからない。
でも今は顔を合わせたくはなかったんだ。
「鳴宮と松風?なんか珍しい組み合わせだな。」
先生が2人を見てそう言った。
そんな余計なことを言わないでよ、って心の奥で叫んだ。
仕方の無いことか。だって幼なじみの蓮巳とはクラスは違うけどいつも一緒だったから。
登下校も一緒だし。
ましてや、私と蛍が一緒ならよく見かけるけど
蓮巳と蛍の2人組なんて普段なら有り得ないコンビだから。
先生がツッコむのもよく分かるのだ。
「蛍に聞きたいことがあったから。」
私の気持ちなんて知らず蓮巳はそう言って笑う。
こんな機嫌の良さそうな蓮巳は初めて見た。
胸がざわざわと騒がしくなる。
「待ってよ類!」
また夢の中。
あれは小学一年生のお祭りのときだ。
両親の傍から離れて2人でお祭りを楽しんでいた。
走り回る私に蓮巳が必死に付いてきている。
「はい!これ、蓮巳にあげる!」
私がそう言って渡したのはくじ引きで当てた2等の光る金魚のキーホルダー。
蓮巳は満面の笑みで幸せそうに受け取る。
ーーああ。この頃に戻りたい。
蓮巳はこんなにも素直で優しい子なのに。
どうしてこんな事になってしまったんだろう。
気づけばまた海水に浸る私。
もう疲れた。
底はまだなのか。
どれだけ沈んでも一向に底は来ない。
一体いつまで…。
いつまでこうして沈んでいればいいの?
苛立ちを通り越して現状に呆れた。
やがて疲れた私は全てから逃げるように目を閉じた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
【完結】知られてはいけない
ひなこ
ホラー
中学一年の女子・遠野莉々亜(とおの・りりあ)は、黒い封筒を開けたせいで仮想空間の学校へ閉じ込められる。
他にも中一から中三の男女十五人が同じように誘拐されて、現実世界に帰る一人になるために戦わなければならない。
登録させられた「あなたの大切なものは?」を、互いにバトルで当てあって相手の票を集めるデスゲーム。
勝ち残りと友情を天秤にかけて、ゲームは進んでいく。
一つ年上の男子・加川準(かがわ・じゅん)は敵か味方か?莉々亜は果たして、元の世界へ帰ることができるのか?
心理戦が飛び交う、四日間の戦いの物語。
(第二回きずな児童書大賞で奨励賞を受賞しました)
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
痩せたがりの姫言(ひめごと)
エフ=宝泉薫
青春
ヒロインは痩せ姫。
姫自身、あるいは周囲の人たちが密かな本音をつぶやきます。
だから「姫言」と書いてひめごと。
別サイト(カクヨム)で書いている「隠し部屋のシルフィーたち」もテイストが似ているので、混ぜることにしました。
語り手も、語られる対象も、作品ごとに異なります。
10秒で読めるちょっと怖い話。
絢郷水沙
ホラー
ほんのりと不条理な『ギャグ』が香るホラーテイスト・ショートショートです。意味怖的要素も含んでおりますので、意味怖好きならぜひ読んでみてください。(毎日昼頃1話更新中!)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる