1 / 2
舞姫
しおりを挟む
メドジェ族の幼い族長、狼の魔獣に変わるキヤイルはイルは不機嫌だった。
婆様が月と太陽に聞いたところ
「キヤイルとネリーの儀式は1年後の祝いの日に行うのが一番良い」
と返事が返ってきて、正式につがいになるのが一年先になってしまったのにも腹を立てていたし、ネリーが別にそれを不満に思っていないようなのも腹が立てているのだ。
自分の身体には一生分の魔力が満ちているから、嫌ならば別の娘を迎えればいいだろうと言われてしまうのも悔しかった。
「ネリーはメドジェの娘ではないからね、慎重に儀式は行わなければならないのさ」
と言う婆様を、魔獣に変わって食べてやってしまいたかったキアイルなのである。
キヤイルの身長はまだネリーの腰くらいしかない。
抱きしめることすらできないではないか。
「何をむくれているの?おやつが足りなかったかしら?」
すでに一緒の部屋で暮らしているネリーがメーユから届いた箱をガサゴソさせている。
こんなに近くにいるのに、なんで、なんで一年も待たなければならないのだ。
「おやつじゃない」
ぷい、とそっぽを向くとネリーは困り果ててしまう。
ひょい、とボルフがドアから顔を出した。
どこから聞いていたのだろう、この家には基本的にプライバシーがない。
孤児院育ちのネリーは慣れているけれど。
「ネリーの踊りを見せてあげたら機嫌も治るんじゃないかな。国の宝の踊り、僕も見てみたいよ」
「音楽がないわ」
「僕が少し歌って演奏できるよ」
あのミナモトでの踊りは、キヤイルももう一度見たい。
その気持ちが顔に出てしまったのだろうか、その日の夜にネリーは踊ることになった。
***
メドジェの夏は短い。
昼間は暑いが、朝夕はひんやりと冷え込む。
ひとしきり今日の分のメドジェの歌や踊りが終わって、みんなは酒や粥、あぶった肉を食べながらくつろいでいる。
小さな焚き火の前で、ネリーはポーズを取った。
久しぶりに着るメーユの舞台衣装はここでは少し寒い。
メドジェの楽器を器用に使い、ボルフはメーユの旋律を紡ぎ出す。
そして、見事な声で歌いだした。
(さすがはイズールのお父さんね)
と思いながらネリーは跳ね、舞った。
動くほどに体が温かくなってきて、久しぶりのメーユの踊りは新鮮で楽しかった。
「魔法をかける」と褒めたたえられた自分の踊りを思い出しながら、大事に、大事に時間を楽しむ。
手が優美に伸びたかとおもうと、くるくると独楽のように周り、大きく跳びあがる。
何度も、何度も。
汗を飛ばして最後の跳躍を終えると、不思議な沈黙が落ち、歌っていたボルフが楽器を止めて手を叩くと、メドジェの民がドオッ、と盛り上がった。
(うふふ、久しぶりに舞姫、楽しかったわ)
ネリーはご機嫌だったのである。
***
翌朝。
キヤイルとネリーの部屋に、男たちが押し寄せてきてキヤイルとネリーはびっくりした。
今日はキヤイルのお母さんに糸の紡ぎ方を習う予定である。
急な客は困るのだ。
男たちはネリーに花を差し出し、キヤイルに向かって口々に何かを言っている。
ネリーはまだここの言葉が上手に聞き取れない。
みるみるうちにキヤイルが不機嫌になるのを困って見ていた。
と、キヤイルが男たちの手から花を叩き落とした。
「何をするの!」
ネリーはとっさにキヤイルの頭を軽くげんこつで叩く。
痛くない程度の強さだったはずなのに、キヤイルはそのままうつむいて動かない。
(強かったかしら……?)
と心配しているネリーを突き飛ばして、キヤイルがそのまま外に向かって走り出した。
普段は族長として上に立つ身だし、自分と一緒にいる時くらいはちょっとわがままを出していいけれど、他の民に乱暴ではいけないだろう。
確か、花を差し出していたのは獣に変われない男達だったはずなのだ。
ネリーは呆然とし、男たちはまだネリーに向かって分からない言葉を繰り返している。
「ああー、案の定こうなっちゃったかな?ごめんよ、ネリー」
暴れるキヤイルの首根っこを掴んで、ひょいとドアからボルフがあらわれた。
***
「昨日の君の舞、さすがは国の宝というか……見事でね」
自分でも会心の踊りであった。
それが何だったんだろう。
「君とぜひ結婚したいという男たちがあらわれたのさ」
この穏やかなメドジェ族の男でもそうなるか。
魔獣に変わらない男たちが「どうせ魔力をとどめられないなら、ネリーと自分が結婚してもいいだろう」と騒ぎだしたというのだ。
あの花は求愛の花だったということ。
キヤイルにはもう一生分の魔力が貯まっていることも知られている。
二人がつがいになるまでにあと1年かかることも知られている。
「若さも美貌も限りがあるのに、男なんてどこも一緒ねぇ」
呆れてネリーは言った。
「いや、踊る君がまるで別人のようで……」
ボルフも困ったように言葉を探し、
「こら、いい加減離れないか」
と、ネリーにしがみついて離れないキヤイルに言う。
しばらくは外に出ない方がいいだろうということで、キヤイルの母に来てもらって糸紬ぎの練習をしている。
キヤイルの母がキヤイルに何か言い、ぷいとまたキヤイルがそっぽを向いた。
ネリーの身体からは離れない。
「今日は大変だったでしょう、って言ってる。」
「そうね、大人の男は怖いわ」
軽く返すと、キヤイルがこの世の終わりのような顔をした。
そして、つがいの儀式を延ばす、と言い出したのである。
婆様が月と太陽に聞いたところ
「キヤイルとネリーの儀式は1年後の祝いの日に行うのが一番良い」
と返事が返ってきて、正式につがいになるのが一年先になってしまったのにも腹を立てていたし、ネリーが別にそれを不満に思っていないようなのも腹が立てているのだ。
自分の身体には一生分の魔力が満ちているから、嫌ならば別の娘を迎えればいいだろうと言われてしまうのも悔しかった。
「ネリーはメドジェの娘ではないからね、慎重に儀式は行わなければならないのさ」
と言う婆様を、魔獣に変わって食べてやってしまいたかったキアイルなのである。
キヤイルの身長はまだネリーの腰くらいしかない。
抱きしめることすらできないではないか。
「何をむくれているの?おやつが足りなかったかしら?」
すでに一緒の部屋で暮らしているネリーがメーユから届いた箱をガサゴソさせている。
こんなに近くにいるのに、なんで、なんで一年も待たなければならないのだ。
「おやつじゃない」
ぷい、とそっぽを向くとネリーは困り果ててしまう。
ひょい、とボルフがドアから顔を出した。
どこから聞いていたのだろう、この家には基本的にプライバシーがない。
孤児院育ちのネリーは慣れているけれど。
「ネリーの踊りを見せてあげたら機嫌も治るんじゃないかな。国の宝の踊り、僕も見てみたいよ」
「音楽がないわ」
「僕が少し歌って演奏できるよ」
あのミナモトでの踊りは、キヤイルももう一度見たい。
その気持ちが顔に出てしまったのだろうか、その日の夜にネリーは踊ることになった。
***
メドジェの夏は短い。
昼間は暑いが、朝夕はひんやりと冷え込む。
ひとしきり今日の分のメドジェの歌や踊りが終わって、みんなは酒や粥、あぶった肉を食べながらくつろいでいる。
小さな焚き火の前で、ネリーはポーズを取った。
久しぶりに着るメーユの舞台衣装はここでは少し寒い。
メドジェの楽器を器用に使い、ボルフはメーユの旋律を紡ぎ出す。
そして、見事な声で歌いだした。
(さすがはイズールのお父さんね)
と思いながらネリーは跳ね、舞った。
動くほどに体が温かくなってきて、久しぶりのメーユの踊りは新鮮で楽しかった。
「魔法をかける」と褒めたたえられた自分の踊りを思い出しながら、大事に、大事に時間を楽しむ。
手が優美に伸びたかとおもうと、くるくると独楽のように周り、大きく跳びあがる。
何度も、何度も。
汗を飛ばして最後の跳躍を終えると、不思議な沈黙が落ち、歌っていたボルフが楽器を止めて手を叩くと、メドジェの民がドオッ、と盛り上がった。
(うふふ、久しぶりに舞姫、楽しかったわ)
ネリーはご機嫌だったのである。
***
翌朝。
キヤイルとネリーの部屋に、男たちが押し寄せてきてキヤイルとネリーはびっくりした。
今日はキヤイルのお母さんに糸の紡ぎ方を習う予定である。
急な客は困るのだ。
男たちはネリーに花を差し出し、キヤイルに向かって口々に何かを言っている。
ネリーはまだここの言葉が上手に聞き取れない。
みるみるうちにキヤイルが不機嫌になるのを困って見ていた。
と、キヤイルが男たちの手から花を叩き落とした。
「何をするの!」
ネリーはとっさにキヤイルの頭を軽くげんこつで叩く。
痛くない程度の強さだったはずなのに、キヤイルはそのままうつむいて動かない。
(強かったかしら……?)
と心配しているネリーを突き飛ばして、キヤイルがそのまま外に向かって走り出した。
普段は族長として上に立つ身だし、自分と一緒にいる時くらいはちょっとわがままを出していいけれど、他の民に乱暴ではいけないだろう。
確か、花を差し出していたのは獣に変われない男達だったはずなのだ。
ネリーは呆然とし、男たちはまだネリーに向かって分からない言葉を繰り返している。
「ああー、案の定こうなっちゃったかな?ごめんよ、ネリー」
暴れるキヤイルの首根っこを掴んで、ひょいとドアからボルフがあらわれた。
***
「昨日の君の舞、さすがは国の宝というか……見事でね」
自分でも会心の踊りであった。
それが何だったんだろう。
「君とぜひ結婚したいという男たちがあらわれたのさ」
この穏やかなメドジェ族の男でもそうなるか。
魔獣に変わらない男たちが「どうせ魔力をとどめられないなら、ネリーと自分が結婚してもいいだろう」と騒ぎだしたというのだ。
あの花は求愛の花だったということ。
キヤイルにはもう一生分の魔力が貯まっていることも知られている。
二人がつがいになるまでにあと1年かかることも知られている。
「若さも美貌も限りがあるのに、男なんてどこも一緒ねぇ」
呆れてネリーは言った。
「いや、踊る君がまるで別人のようで……」
ボルフも困ったように言葉を探し、
「こら、いい加減離れないか」
と、ネリーにしがみついて離れないキヤイルに言う。
しばらくは外に出ない方がいいだろうということで、キヤイルの母に来てもらって糸紬ぎの練習をしている。
キヤイルの母がキヤイルに何か言い、ぷいとまたキヤイルがそっぽを向いた。
ネリーの身体からは離れない。
「今日は大変だったでしょう、って言ってる。」
「そうね、大人の男は怖いわ」
軽く返すと、キヤイルがこの世の終わりのような顔をした。
そして、つがいの儀式を延ばす、と言い出したのである。
0
あなたにおすすめの小説
妹を選んで婚約破棄した婚約者は、平民になる現実を理解していなかったようです
藤原遊
恋愛
跡継ぎとして育てられた私には、将来を約束された婚約者がいた。
――けれど彼は、私ではなく「妹」を選んだ。
妹は父の愛人の子。
身分も立場も分かったうえでの選択だと思っていたのに、
彼はどうやら、何も理解していなかったらしい。
婚約を破棄し、妹と結ばれた彼は、
当然のように貴族の立場を失い、平民として生きることになる。
一方で、妹は覚悟を決めて現実に向き合っていく。
だが彼だけが、最後まで「元に戻れる」と信じ続けていた。
これは、誰かが罰した物語ではない。
ただ、選んだ道の先にあった現実の話。
覚悟のなかった婚約者が、
自分の選択と向き合うまでを描いた、静かなざまぁ物語。
初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】
星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。
だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。
しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。
王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。
そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。
地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。
⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
夫が運命の番と出会いました
重田いの
恋愛
幼馴染のいいなづけとして育ってきた銀狼族の族長エーリヒと、妻ローゼマリー。
だがエーリヒに運命の番が現れたことにより、二人は離別する。
しかし二年後、修道院に暮らすローゼマリーの元へエーリヒが現れ――!?
お前は要らない、ですか。そうですか、分かりました。では私は去りますね。あ、私、こう見えても人気があるので、次の相手もすぐに見つかりますよ。
四季
恋愛
お前は要らない、ですか。
そうですか、分かりました。
では私は去りますね。
【完結】冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない
くろねこ
恋愛
名門伯爵家に政略結婚で嫁いだ、正妻エレノア・リーヴェルト。夫である伯爵ディートリヒ・フォン・アイゼンヴァルトは、
軍務と義務を最優先し、彼女に関心を向けることはなかった。
言葉も、視線も、愛情も与えられない日々。それでも伯爵夫人として尽くし続けたエレノアは、ある一言をきっかけに、静かに伯爵家を去る決意をする。
――そして初めて、夫は気づく。
自分がどれほど多くのものを、彼女から与えられていたのかを。
一方、エレノアは新たな地でその才覚と人柄を評価され、
「必要とされる存在」として歩き始めていた。
去った妻を想い、今さら後悔する冷酷伯爵。前を向いて生きる正妻令嬢。
これは、失ってから愛に気づいた男と、
二度と戻らないかもしれない夫婦の物語。
――今さら、遅いのです。
蝋燭
悠十
恋愛
教会の鐘が鳴る。
それは、祝福の鐘だ。
今日、世界を救った勇者と、この国の姫が結婚したのだ。
カレンは幸せそうな二人を見て、悲し気に目を伏せた。
彼女は勇者の恋人だった。
あの日、勇者が記憶を失うまでは……
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる