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盾は王太子と共に並び立つ
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「ベンジャミン、連れていって吐かせろ」
「はいはーい」
いつもどこかふざけた調子で、今だってニコニコ笑っているベンジャミンだけれど、弓形になった目の中に覗く瞳はゾッとするほど酷薄な光を湛えている。脳筋のわたしとは真逆の立ち位置で、アラステアを助けているのだ。何をやっているのかは……精神衛生上聞かない方が良さげだ。
「忘れられない一夜にして差し上げますよ?」
暗殺者兄妹にうっとりとした視線を向けながら、睦言じみた言葉を掛けたベンジャミンだったが、去って行く騎士達の最後に続こうとしたところでふと立ち止まり、こちらを振り返った。
テラスに残っているのは、アラステアの恰好をしたわたしと、騎士の恰好をしたアラステア本人だ。
「やっぱり貴方達は最高に良いコンビです。どうぞ、これからも末永くお2人で頑張ってくださいね」
わざとらしいくらいニッコリと笑んだベンジャミンが、上機嫌な足取りで立ち去って行く。
今度こそわたしはアラステアと2人きりになってしまった。 広間では、何事も無かったかのようにダンスが再開されて、楽団が軽やかなワルツを奏で始めた。騒ぎがあったのは明らかだけれど、敢えて平常時の運営を行うことにより、王太子の武功によってそれが問題なく制せられたことをアピールする意味合いもあるのだろう。ゴタゴタも力を誇示することに利用する見事な手腕だ。
今回の目的であった隣国からの暗殺者は無事捕縛し、わたしがここへ来た目的は達せられた。
「じゃ、帰りますね」
「待て、お前が今はアラステアだろう」
やっと終わったー、と開放感いっぱいの満面の笑顔で、本人の傍を通り抜けようとしたところでガッチリと腕を取られた。
「何言ってるんですか、わたしがこのまま残っても、貴方のお妃候補探しの邪魔にしかなりませんよ。王太子なんですからいつまでも独り身なんてわけにはいかないでしょう」
「お前がずっといれば独りにはならんさ」
にっこりと微笑みながら、とんでもない甘えた発言をする王太子に頭が痛くなる。この王太子は妃を決めるだけで、今の暗殺者接近の口実が半分は減ることが分かっていないのだろうか?
いや、それよりもわたしの事情に気付いていないのか、気付いていて無理を言っているのか……ここはちゃんと主張しておくべきよね。
「わたしが困りますよ。わたしだって令嬢の恰好で夜会や舞踏会に参加して、どっかの誰かに見初められなきゃならないんですから。うちの脳筋達は縁談の一つも持って来てくれないんですよ?やばいんですから。それに殿下の真似ばっかりしてて、女子力落ちちゃったらどうするんですか!」
「落ちてしまえばいい、俺の後ろに立って誰の眼にも入らなければいい」
「はぁぁぁ!?」
爽やかな笑顔で返されて、とんでもない声が出てしまった。
「一生一人でいろと!?」
「違うな、俺のところに来いと言っている」
「わたしの盾の身分を都合の良いように解釈して、自分のもとで飼い殺しにするつもりなんですね!?そうは行きませんよ、わたしは意地でも自分の幸せを掴み取りますから―――」
と言ったところで、ガッチリと拘束された。前方からの抱え込み拘束??いや、こんな型あったっけ?
「いつまでも聞き分けないことを言っていると不敬罪で拘束して、一生城から出られんようにしてしまうぞ?」
これは『不敬罪』ゆえの拘束なんだろうか?
しかも、こうも密着していると、同じ背格好だと思っていたアラステアが、いつの間にかわたしが覚えているよりずっと逞しくなっていることに気付いた。
そしたら急に心臓の音が気になりだして、顔に熱が集中してくる。
「ちっ……力尽くで出ますとも。うちのフルメタルアーマー連中が黙っていないですよ」
速くなった脈拍も、赤面なんてしてるのも、気付かれたら盾役として不適任だって思われちゃうよね!?それは嫌だな。早く抜け出さないと―――!
藻掻くけれど抜け出せないことで、いつの間にかわたしよりもアラステアの力の方がずっと強くなっていることを再認識する羽目になってしまった。お陰で妙に意識してしまい、頭のてっぺんまでもが熱くなる。
「――そうだな。早く敵対勢力を片付けて、少しでも安全にお前を迎えられるようにしないとな」
多分、顔は見えていないけれど、こんな密着したまんまではわたしの顔が真っ赤になっていることは体温で伝わってしまっているだろう。だから離さないでいてくれるのは有難いことなのかどうなのか……。そして更にそっと頭を撫でられて―――限界を迎えたわたしは火事場の馬鹿力を発揮してアラステアを跳ね飛ばした。
「大丈夫です!わたしが前に立ちますので!」
恥ずかしさも吹き飛ばす様に、握り拳をつくって仁王立ちで宣言するわたしに、尻もちをついたアラステアが眉を吊り上げる。最近全く見なくなっていた彼の素の表情だ。
「だから俺の前に立たんでいいといっているだろーが!!」
柔らかな笑みをかなぐり捨てた彼の表情が嬉しくて、わたしも久しぶりに大きく顔を綻ばせることになった。
この後、ほどなくアラステアは敵対勢力を気心の知れた相棒達と壊滅させた。
これまで共に工作を行って来た彼らの目的がようやく一つに纏まった為、その時期が早まったとも言われているが、真偽のほどは聞かれた関係者たちがどことなく居心地の悪い笑みを浮かべて黙するため定かではない。
そしてアラステア王太子は突如として、今まで寄せ付けようともしなかった令嬢の中から、いつ知り合ったのかも知れない辺境の妖精姫を妃として迎えた。妖精姫は王国の盾であるスタルージア辺境伯が領地に秘して、中央の社交の場には出さないほど大切にされて来た嫋やかな美姫であった。
彼女を妻としたことで、生来の明晰な頭脳だけでなく、強力な武力の後ろ盾も得た彼は、万人の支持を受けてついには国王となった。
美男美女の君主の誕生に王国中が沸き、3ケ月に亘って王国中が祝賀ムードに包まれた。
2人はどちらかが守られる関係ではなく、共に意見を述べ合い、助け合って対等に並び立つ王と王妃として、王国を末永く好く治めたという。
《完》
「はいはーい」
いつもどこかふざけた調子で、今だってニコニコ笑っているベンジャミンだけれど、弓形になった目の中に覗く瞳はゾッとするほど酷薄な光を湛えている。脳筋のわたしとは真逆の立ち位置で、アラステアを助けているのだ。何をやっているのかは……精神衛生上聞かない方が良さげだ。
「忘れられない一夜にして差し上げますよ?」
暗殺者兄妹にうっとりとした視線を向けながら、睦言じみた言葉を掛けたベンジャミンだったが、去って行く騎士達の最後に続こうとしたところでふと立ち止まり、こちらを振り返った。
テラスに残っているのは、アラステアの恰好をしたわたしと、騎士の恰好をしたアラステア本人だ。
「やっぱり貴方達は最高に良いコンビです。どうぞ、これからも末永くお2人で頑張ってくださいね」
わざとらしいくらいニッコリと笑んだベンジャミンが、上機嫌な足取りで立ち去って行く。
今度こそわたしはアラステアと2人きりになってしまった。 広間では、何事も無かったかのようにダンスが再開されて、楽団が軽やかなワルツを奏で始めた。騒ぎがあったのは明らかだけれど、敢えて平常時の運営を行うことにより、王太子の武功によってそれが問題なく制せられたことをアピールする意味合いもあるのだろう。ゴタゴタも力を誇示することに利用する見事な手腕だ。
今回の目的であった隣国からの暗殺者は無事捕縛し、わたしがここへ来た目的は達せられた。
「じゃ、帰りますね」
「待て、お前が今はアラステアだろう」
やっと終わったー、と開放感いっぱいの満面の笑顔で、本人の傍を通り抜けようとしたところでガッチリと腕を取られた。
「何言ってるんですか、わたしがこのまま残っても、貴方のお妃候補探しの邪魔にしかなりませんよ。王太子なんですからいつまでも独り身なんてわけにはいかないでしょう」
「お前がずっといれば独りにはならんさ」
にっこりと微笑みながら、とんでもない甘えた発言をする王太子に頭が痛くなる。この王太子は妃を決めるだけで、今の暗殺者接近の口実が半分は減ることが分かっていないのだろうか?
いや、それよりもわたしの事情に気付いていないのか、気付いていて無理を言っているのか……ここはちゃんと主張しておくべきよね。
「わたしが困りますよ。わたしだって令嬢の恰好で夜会や舞踏会に参加して、どっかの誰かに見初められなきゃならないんですから。うちの脳筋達は縁談の一つも持って来てくれないんですよ?やばいんですから。それに殿下の真似ばっかりしてて、女子力落ちちゃったらどうするんですか!」
「落ちてしまえばいい、俺の後ろに立って誰の眼にも入らなければいい」
「はぁぁぁ!?」
爽やかな笑顔で返されて、とんでもない声が出てしまった。
「一生一人でいろと!?」
「違うな、俺のところに来いと言っている」
「わたしの盾の身分を都合の良いように解釈して、自分のもとで飼い殺しにするつもりなんですね!?そうは行きませんよ、わたしは意地でも自分の幸せを掴み取りますから―――」
と言ったところで、ガッチリと拘束された。前方からの抱え込み拘束??いや、こんな型あったっけ?
「いつまでも聞き分けないことを言っていると不敬罪で拘束して、一生城から出られんようにしてしまうぞ?」
これは『不敬罪』ゆえの拘束なんだろうか?
しかも、こうも密着していると、同じ背格好だと思っていたアラステアが、いつの間にかわたしが覚えているよりずっと逞しくなっていることに気付いた。
そしたら急に心臓の音が気になりだして、顔に熱が集中してくる。
「ちっ……力尽くで出ますとも。うちのフルメタルアーマー連中が黙っていないですよ」
速くなった脈拍も、赤面なんてしてるのも、気付かれたら盾役として不適任だって思われちゃうよね!?それは嫌だな。早く抜け出さないと―――!
藻掻くけれど抜け出せないことで、いつの間にかわたしよりもアラステアの力の方がずっと強くなっていることを再認識する羽目になってしまった。お陰で妙に意識してしまい、頭のてっぺんまでもが熱くなる。
「――そうだな。早く敵対勢力を片付けて、少しでも安全にお前を迎えられるようにしないとな」
多分、顔は見えていないけれど、こんな密着したまんまではわたしの顔が真っ赤になっていることは体温で伝わってしまっているだろう。だから離さないでいてくれるのは有難いことなのかどうなのか……。そして更にそっと頭を撫でられて―――限界を迎えたわたしは火事場の馬鹿力を発揮してアラステアを跳ね飛ばした。
「大丈夫です!わたしが前に立ちますので!」
恥ずかしさも吹き飛ばす様に、握り拳をつくって仁王立ちで宣言するわたしに、尻もちをついたアラステアが眉を吊り上げる。最近全く見なくなっていた彼の素の表情だ。
「だから俺の前に立たんでいいといっているだろーが!!」
柔らかな笑みをかなぐり捨てた彼の表情が嬉しくて、わたしも久しぶりに大きく顔を綻ばせることになった。
この後、ほどなくアラステアは敵対勢力を気心の知れた相棒達と壊滅させた。
これまで共に工作を行って来た彼らの目的がようやく一つに纏まった為、その時期が早まったとも言われているが、真偽のほどは聞かれた関係者たちがどことなく居心地の悪い笑みを浮かべて黙するため定かではない。
そしてアラステア王太子は突如として、今まで寄せ付けようともしなかった令嬢の中から、いつ知り合ったのかも知れない辺境の妖精姫を妃として迎えた。妖精姫は王国の盾であるスタルージア辺境伯が領地に秘して、中央の社交の場には出さないほど大切にされて来た嫋やかな美姫であった。
彼女を妻としたことで、生来の明晰な頭脳だけでなく、強力な武力の後ろ盾も得た彼は、万人の支持を受けてついには国王となった。
美男美女の君主の誕生に王国中が沸き、3ケ月に亘って王国中が祝賀ムードに包まれた。
2人はどちらかが守られる関係ではなく、共に意見を述べ合い、助け合って対等に並び立つ王と王妃として、王国を末永く好く治めたという。
《完》
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