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第1章 精霊姫 編
第22話 【攻略対象 辺境伯令息】はやく僕を見付けて
しおりを挟むメンヘラ精霊姫(仮)の号泣が響き渡る中、レーナは樹海崩壊の原因となる、真実の一端を掴んだ気がした。
(まさかだけど、きっとそのまさかなのよね……)
―― うんうん 気付いちゃったよね? さっすが僕が見込んだ玲於奈だよね ――
甲高い泣き声とは別の、青年のものであろう軽薄とも取れる陽気な声が、尚も話し続ける。しかもエドヴィンには知られたくない「玲於奈」のことを平然と口にするのだ。
もしや耳に入ってしまったかと、レーナが慌てて彼の顔色を窺えば、ピタリと視線が合って、怪訝そうに眉を顰められた。
「なんだ? 何かあるのか!?」
「今の……もしかして、聞こえ……」
「え?! なんだって?!」
恐々声を掛ければ、工事現場の騒音の中で話す様に大声で聞き返される。どうやら、普通の声では聞き取り辛いらしい。
「泣き声がキンキン響いて何も聞こえん! もっとはっきりしゃべってくれ!!」
苛立たしげに、険のある大声が帰って来る。この反応ならば、精霊姫以外の正体不明の声は、レーナにしか聞こえていないということだろう。嬉しくは無いが、秘密は守られていたらしい。その事実に安堵したレーナの表情は、無意識にほころんでいる。
―― 駄目だよぉ。そんな可愛い顔で笑って、僕以外の奴に気を持たせるような態度を取っちゃあ ――
すかさず青年の声が、レーナを窘める。
―― 僕が、大事な玲於奈との2人だけの秘密を、他の男に聞こえるようにベラベラしゃべるわけないだろぅ? ――
やだなぁ、と続く軽薄な声の正体は、きょろきょろと辺りを見回しても見付けることは出来ない。
(え!? 間違いなくわたしのこと見て言ってるよね? しかも考えてることが筒抜けてる!? 誰よ! アルルクやエドヴィンに会ったのも、一般庶民のわたしには想定外の出来事なのに。この上、まだ出て来ちゃうなんて誰よ??)
―― 誰だろうね、君が見付けてくれるのを楽しみに待っているよ ――
(そんなこと言われたら余計に気になるでしょ!? しかも普通にわたしが考えてること読み取ってるし! そんな凄い能力が使える人って言ったら、このダンテフォールでは攻略対象くらいよね。アルルクとエドヴィンは、声が全く違うから違うし。王子もまだ子供だから違うでしょ? あとは水の精霊王か、水龍、火龍、大魔法使いの誰かよね)
―― あれー? そんなに他の奴の名前を出されたら、僕は拗ねちゃうなぁ ――
のんびりマイペースな話し声は、精霊姫のギャン泣きをものともせず、しっかりと耳に響いて来る。けれど、やはりすぐ傍のエドヴィンには聞こえてはいないらしく、精霊姫の泣き声から身を護る様に、ぐっと眉を顰めて両耳を塞いでいる。
―― はやく僕を見付けて欲しいから、大ヒントとしてこれを残していくよ ――
青年が告げると、虹色の蝶が1羽ひらりとレーナの髪に舞い降りて、そのままピタリと静止する。
―― 奴らのことなんてサッサと片付けちゃって、早くこっちへおいで。そのために、早めに呼んだんだからさぁ。時間は有限だよ ――
じゃあね、と言いたいことだけ言い切った青年の声は、そこで一方的に途切れてしまった。
「大丈夫なのか!?」
切羽詰まったエドヴィンの強い声に、レーナがハッと我に返れば、至近距離で彼のエメラルドの瞳が不安げに揺れていた。どうやら、心配させてしまったらしい。
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