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第1章 精霊姫 編
第36話 【攻略対象 辺境伯令息】ネリネの花束を手に、いざドライアド・ラヴィリアへ!
しおりを挟むこのシュルベルツ領を拓いたのは、後に初代ドリアーデ辺境伯となる男と、忽然とこの地に現れた波打つ緑髪が美しい、嫋やかな一人の女だった。
その女こそが今なお樹海で生き続けている精霊姫だ。
彼らの間には子が生まれ、その子らの子孫が連綿と続いてドリアーデ辺境伯家を守ってきた。不思議なことに精霊姫の血を引く彼らは、各世代で必ず一人が彼女の特徴を引き継いで生まれてくる。光を受けると黄金に輝く緑の髪と、エメラルド色の瞳を持つ男児だ。その特徴を持つ子供は、特に精霊姫の強い加護を持つとされて辺境伯家当主に立てられてきた。
彼らが代々治める領地は、精霊姫の樹海がもたらす多種多様な動植物の恵みを得ることができた。近年ではそれを交易することにより、王族に準ずる影響力を持つまでの財力を得るに至った。その恵みは減少しつつあったものの、すぐに大きな問題となるほどの減少率ではなかったから、急を要しての対策までは取ってはいなかった。
それが、昨年――樹海での怪現象が始まったのを機に、急速に産出量が減ってしまった。いや、狩猟採取にほとんど踏み入ることが出来なくなってしまったのだ。
ネリネの花束を抱えたエドヴィンが先頭に立ち、緊張の面持ちで樹海に踏み込む。
今回も、ドリアーデ辺境伯の仕事の早さが、存分に発揮され、今はまだ太陽が中天に差し掛かる前だ。エドヴィンの背後には、彼と同じく警戒と緊張の色を濃く表情に乗せた15人の護衛とレーナ、そして辺境伯付きの執事が続く。
レーナ以外の全員は、いつ絶叫が響いて来るかと強張る表情を抑えきれていない。だが、1歩また1歩と、深い森の中に踏み入る足を進めるにつれ、彼らの内心は、緊張から驚愕へ、そして安堵へと変化していった。
「疑っていた訳ではないが、レーナ、これはもしかすると……」
「うん。精霊姫が待ってくれているんだよ、きっと。」
先行きの良い滑り出しに、興奮を隠しきれないエドヴィンとレーナが言葉を交わす。
祠の場所は辺境伯家に伝えられる古い文献に残されていた。けれど、はるか昔に描かれた樹海の地図は、精霊姫の愛と加護を受けて活き活きと生い茂った木々のお陰で実情との差異を年々大きくしていった。そうして樹海の奥深くに沈んでいった祠は、いつしか人々が容易に辿り着けない秘された場所となった。
地図を頼りに進みながら、領兵らが帰路を示すボタンサイズの小型発光器やロープを等間隔に仕掛けて行く。方位磁針を使い、慎重に伝来の地図と比べながら進んでいくと、足元に微かな発光体が散らばる場所が在った。
「エドヴィン様、この発光器は1年前にレーナ様を追って来た時に置いたものです」
地面で弱々しく光る器具を摘まみ上げ、領兵の一人が告げる。
(へぇぇー。随分奥まで来てたのねよく無事で――)
「よく無事で戻れたものだな」
レーナの考えに合わせた様に、エドヴィンが呆れた様子で呟く。
「だって、あの時はわたしが勝手に進んだっていうより、案内されちゃったんだもん。リュザス様色の蝶がいたんだから、仕方ないでしょ」
「仕方なくないからな! そのおかげで、今、とんでもないことになっている」
「反省してます……」
憮然としたエドヴィンに、謝るしかないレーナだ。
あの時は、何故か周りの物も人も目に入らなくなり、夢中で虹色の蝶に引き寄せられてしまったのだ。普段ならば、中身女子高生のレーナは、そんな幼児じみた危険な真似はしないのに、思い返してみても自分はどこかおかしかったとしか思えない。
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