独占欲強めの最高神は、モブ娘からの一途な愛をお望みです!

弥生ちえ

文字の大きさ
55 / 237
第1章 精霊姫 編

第55話 【攻略対象 辺境伯令息】プチ・ドライアドの帰郷

しおりを挟む

 小さな精霊姫プチ・ドライアドの効果はどうだったかと言えば、想像通りの通信機能を発揮してくれた。

 精霊姫自身は今まで通り樹海中央のほこらに留まり、エドヴィンをはじめとした一行は小さな精霊姫プチ・ドライアドを伴って街へ戻ったのだ。
 彼女は、馬車の小さな窓に張り付いたまま懐かしい景色を凝視していた。そして、街へ入る門に刻まれたネリネの花と精霊姫のレリーフにまず息を飲み、続いて銅像や噴水、街路灯やフェンス、家の外構に装飾として取り入れられた「精霊姫とネリネの花」モチーフの溢れた景色に大きく目を見開いて、ぽろぽろと涙を零し始めた。

 頬を赤く染め、ほころぶ口元を見るに、それが悲しみの涙ではないことは一目瞭然だった。

「嘘じゃなかったでしょ?」

『うん、うん……彼、ちゃんと約束を守ってたんだね。こんなに、いっぱい、いっぱい……』

 レーナの言葉に応える小さな精霊姫プチ・ドライアドは、片時も窓から目を離さない。ゆっくりと馬車で街を巡った一行は、そのまま領主館へ戻った。

 領主館では、先まわりしてドリアーデ辺境伯へ帰宅を報告していた領兵の働きによって、小さな精霊姫プチ・ドライアドを迎え入れる準備が為されていた。馬車の扉が外から開かれ、真っ先にエドヴィン以外のドリアーデ辺境伯一家が彼女を迎え入れる。使用人らはネリネの花を撒いて彼女を歓迎し、玄関ホールに続く階段に飾られた大きな精霊姫の肖像画を見て、彼女はまた涙した。

「良かった。これでこそハッピーエンドよね。ヒロインが現れる前に、シュルベルツを滅亡させなくてよかったぁー」

 はぁーっと、大きな溜息を吐いたところで、屋敷へ入場した集団の一番最後尾にひっそりと紛れていたはずのレーナの顔に影が差した。

「お主、やはり何かやったのであろう?」

 感情の籠らない涼やかな声に恐る恐る視線を上げれば、美しい笑顔の口元を計算しつくされた美麗な角度に釣り上げたドリアーで辺境伯が、右肩に小さな精霊姫プチ・ドライアドを乗せて、レーナの真正面から彼女を見下ろしている。

「へ、え、いやぁー。……気のせいじゃあ無いですかねー」

 うふふと笑って誤魔化そうとするも、腹話術人形の様な精霊姫が『レーナも望みを叶えてくれたけど、リュザス様のお陰なのよね』などと要らぬ情報を付け加える。

「我には、魔力の質が分かると言うたであろう? よもや最高神の名がまた出て来るとは思いもよらなんだが、お主はそれでもただの村娘と言い張るか」

 ジリリと一歩迫られて、反射的に1歩退くレーナだ。

「だ、誰が、何と言おうと一般モブ村娘ですからっ」

「おい! レーナを虐めるとゆるさないぞ!!」

 豪奢な玄関ホールを物珍し気に見回っていたアルルクが、いつの間にかレーナと辺境伯の間に身体を滑り込ませてくる。

「なんじゃ、この少年は。こやつもこの愛らしい精霊姫と同じく、お主の魔力を纏っておるぞ?」

『あら、ほんと。面白いわね』

 ここへ来て、初めてアルルクを見た辺境伯が、片眉を上げてニヤリと口角を上げつつレーナを見遣る。小さな精霊姫《プチ・ドライアド》まで同意して、レーナに興味深げな視線を向けて来る。

(まずい、なんだか知られちゃいけないことが、どんどんバレて行ってる気がするわ……)

 なんとか誤魔化す方法を、と考えるレーナらの所へ「父上? レーナと何を話しておられるのです」と、怪訝な表情をしたエドヴィンまでもが近付いて来る。攻略対象2人を含めた、ゲームの主軸に関わるメンバーの揃い様に、レーナは背筋に緊張の汗が流れる思いだ。

「気のせいじゃないかなぁーあははは。わたしは、リュザス様探しの旅を夢見る、ただの特徴のない平凡モブ村娘ですからー!!」

 これ以上、ゲームの主軸に関わるつもりはない・とばかりにモブを強調した捨て台詞を吐きながら踵を返す。その勢いのまま領主館から逃げ出すレーナの後を、龍化したアルルクが追い、その後を追おうとするエドヴィンの肩に『面白そう!』と小さな精霊姫《プチ・ドライアド》が乗る。

「追ってこないで! わたしはリュザス様一筋のモブで、ヒロイン聖女なんかじゃないんだからっ!!」

 叫ぶも、騒がしい集団はレーナの背後を離れない。

「リュザス様ぁぁぁ!! ぜったいに旅に出て見付けるんだからぁ!!!」

 平凡モブ村娘を貫こうとする彼女の意志は固い。


 けれど彼女の意思に関わらず、彼女をここダンテフォールに導いた最高神の思惑により、レーナはこれからも容赦なくゲーム本筋と攻略対象たちの元へと導かれてしまうのである。


 そのリュザスの思惑とは――それこそ最高神のみぞ知るところである。



【攻略対象 辺境伯令息】編 ― 完 ―
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

追放聖女だってお茶したい!─セカンドライフはティーサロン経営を志望中─

石田空
ファンタジー
「ミーナ今までありがとう。聖女の座を降りてもらおう」 貴族の利権関係が原因でいきなり聖女をクビになった庶民出身のミーナ。その上あてがわれた婚約者のルカは甘味嫌いで食の趣味が合わない。 「嫌! 人の横暴に付き合うのはもうこりごり! 私は逃げます!」 かくしてミーナは神殿から脱走し、ティーサロン経営のために奔走しはじめた。 ときどき舞い込んでくるトラブル。 慌ててミーナを探しているルカ。 果たしてミーナは理想のセカンドライフを歩めるのか。 甘いお菓子とお茶。そしてちょっとの恋模様。 *サイトより転載になります。

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

悪役令嬢はモブ化した

F.conoe
ファンタジー
乙女ゲーム? なにそれ食べ物? な悪役令嬢、普通にシナリオ負けして退場しました。 しかし貴族令嬢としてダメの烙印をおされた卒業パーティーで、彼女は本当の自分を取り戻す! 領地改革にいそしむ充実した日々のその裏で、乙女ゲームは着々と進行していくのである。 「……なんなのこれは。意味がわからないわ」 乙女ゲームのシナリオはこわい。 *注*誰にも前世の記憶はありません。 ざまぁが地味だと思っていましたが、オーバーキルだという意見もあるので、優しい結末を期待してる人は読まない方が良さげ。 性格悪いけど自覚がなくて自分を優しいと思っている乙女ゲームヒロインの心理描写と因果応報がメインテーマ(番外編で登場)なので、叩かれようがざまぁ改変して救う気はない。 作者の趣味100%でダンジョンが出ました。

人見知りと悪役令嬢がフェードアウトしたら

渡里あずま
恋愛
転生先は、乙女ゲーの「悪役」ポジション!? このまま、謀殺とか絶対に嫌なので、絶望中のルームメイト(魂)連れて、修道院へ遁走!! 前世(現代)の智慧で、快適生活目指します♡ 「この娘は、私が幸せにしなくちゃ!!」 ※※※ 現代の知識を持つ主人公と、異世界の幼女がルームシェア状態で生きていく話です。ざまぁなし。 今年、ダウンロード販売を考えているのでタイトル変更しました!(旧題:人見知りな私が、悪役令嬢? しかも気づかずフェードアウトしたら、今度は聖女と呼ばれています!)そして、第三章開始しました! ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます

山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。 でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。 それを証明すれば断罪回避できるはず。 幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。 チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。 処刑5秒前だから、今すぐに!

お兄様、冷血貴公子じゃなかったんですか?~7歳から始める第二の聖女人生~

みつまめ つぼみ
ファンタジー
 17歳で偽りの聖女として処刑された記憶を持つ7歳の女の子が、今度こそ世界を救うためにエルメーテ公爵家に引き取られて人生をやり直します。  記憶では冷血貴公子と呼ばれていた公爵令息は、義妹である主人公一筋。  そんな義兄に戸惑いながらも甘える日々。 「お兄様? シスコンもほどほどにしてくださいね?」  恋愛ポンコツと冷血貴公子の、コミカルでシリアスな救世物語開幕!

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

処理中です...