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第3章 乙女ゲーム始動 編
第127話 【攻略対象 美貌の大魔法使いと王子様】浮かれるモブ娘は大滑りする
しおりを挟む「あったわ!!」
巨木の優美で 雄渾な枝ぶりに心奪われていたレーナは、その声にはっと我に返った。声を上げたのはレーナではない。カロリーナの取り巻きの一人だ。
(え? え? 彼女たち、あっちの若い木の方を探してたわよね?)
レーナがこれぞと目を付け、これから調べようとしていたのは、樹齢100年を迎えようと云う大樹だ。
ヒントが、100年前の本を利用していたことから、当時イラストに描かれた双葉は既に巨木になっていると踏んでいたのだが――
(あ、確かに何か持ってる!)
令嬢の一人が、自分が発見したと思しき『光る塊』をカロリーナに渡している。
それは、赤ん坊の握り拳ほどの大きさの象牙色の塊で、赤茶けた光をポワリポワリと浮かべる不思議な物体だ。
『うっそぉ! レーナが負けちゃったのぉ!?』
「かっ、勝ち負けじゃないもの! わたしは答えが分かればそれで満足なんだもの!」
悔しくなんてないわと嘯くが、喉の奥で「ウググ」とくぐもった声が出そうになる。自分の推測に自信があっただけに、ショックも一層大きいのだ。更に、幼木を探していた彼女らは次々にその根元から光る塊を見つけ出してゆき、気付けばレーナ以外の令嬢4人は皆それを手に入れている。諦め悪く自論を信じて巨木の方を探し続けていたレーナは、未だ何も見つけ出せてはいない。
「うそでしょぉ……」
自慢げに戦利品を掲げられたレーナは、「イベントを熟しておきたいだけ」な自身の名目も忘れて思わず肩を落とした。
ゲーマーたるもの、やはり自分がクリアしたいのだ。平凡村娘ではありたいけれど、その前に彼女はコツコツと条件を変え、同じゲームを12回クリアしても苦にならない(苦になる前に転生してしまったらしい)ヘビーゲーマーだ。他人の攻略を、ただ傍観していて満足できるはずもない。その事実にようやく気付いてしまった。
「やっぱ、わたしも見付けたーい! あんなにいっぱい見付かっちゃうのも納得いかないけど、自分が見付けられないのは、もっと納得いかないのよぉぉ!」
『はいはい。レーナってば、ほんと自分の気持ちには鈍いのよねー』
プチドラが意味深な事を言うが、レーナはそれどころではない。今はとにかく正解が欲しい。
(若木が正解だったんなら、老木はひとまず置いといて、あっちを調べてみるべき!? うーん、でもこっちもやっぱり気になるっ)
楽しげに「目的は果たしましたし、ここからは課題の魔獣討伐ですわね!」と声を弾ませるカロリーナら。今日の実地訓練の主目的は、自分の技量に足る魔獣討伐を行うことだ。言わばこちらは加点要素でしかない。無理ならさっさと見切りを付けて、魔獣の方へ意識を切り替えなければならないのだ。
彼女たちは、悔しげなレーナの姿にほくそ笑みながら「申し訳ないんだけど私たち、ここでの作業は終えたみたいですわ」「お先に、討伐課題に取り掛かりますから、向こうへ行きますわね」「ごゆっくりどうぞ」などと、殊更余裕ぶった態度で、上品に声を掛けながら去って行く。
「うーん、あっちを探すべき!? でもやっぱり、こっちの木の方が気になるのよ。わたしのゲーマーの血が、そう告げてるわ! けど、実際見付かってるのはあっちで……」
揚々と去って行くカロリーナらの後ろ姿は、既に木々の影になって、視界から消えつつある。ぐぬぬ・と唸りながら片手を額に当てて、巨大な金花樹に寄りかかろうとしたところで――
ずるり
複雑に絡まる根と根の間に足が滑ったか、それとも幹の根本に大きな洞が口を開けていたのか。とにかく足元から地中へ、勢い良く身体が沈み込む。
しかも、ただの落下ではない。地中からの見えない力で引き込まれて、身動きもままならない。一瞬で視界が木の根を捕えるまでに下がり、これはまずいと思った瞬間、
声が響いた。
『みつけた……まに、あった……!』
誰のものともつかない、歓喜に満ちた言葉が、弱々しく、けれどはっきりと耳に飛び込む。
「だっ、れ……!!」
誰何の声を上げるが、返答はない。それ以上の言葉を口にする前に、レーナは巨木の根本に飲み込まれる。
『うっそぉ!?』
「おいっ!」
――落ちる瞬間、肩の上のプチドラが、苦笑の表情を見せ、バルザックが、レーナをつかもうと手を伸ばすのが見えた。
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