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第4章 最高神 編
第203話 【攻略対象 最高神リュザス】最高神は、彼方から攫った少女の一途な愛を、ただ望む
しおりを挟む「ちょ、リュザス!? ワケ分かんないことやってないで、早く会議室に行くわよ!!」
「嫌だね。いざとなったら、最高神の僕がなんとか出来るから、レーナは余計な心配なんかしないで」
「だから、頼んないって言ってるでしょうがーーー!!」
そうして、再びリュザスの腰を両側から鷲掴みしたレーナが、無造作に彼を廊下の先へ放ったことで張り詰めた空気は瞬時に霧散した。
「万能すぎる最高神様に頼らないためにも、行くわよ! エド、アルルク!」
言いながら、再び呆気にとられた表情で固まる2人それぞれの手を引いて、速足で進みだす。
すぐに最高神はふわりと浮かんで、レーナに密着せんばかりに纏わりつくが、レーナは足を止めることなく今度こそ会議室へと突き進む。
「ねーねー、僕も頑張るってば」
「頼りませんってば」
「レーナの言うことは、ちゃんと聞かないと レーナに怒られるんだぞ」
『最高神さまを、あんたと一緒にするんじゃないわよ。赤髪』
「ご先祖様、お言葉ですが両者ともに、心のまま纏わりつくのは似たものだと思いますよ」
騒がしい一行が、そのまま王城の奥深い一角に辿り着けば、奥に見える扉の前で額に片手を当てたバルザックが立っている。3人と2柱が近付くと、彼は額の手を胸元に移動させ、頭を下げる辞儀の姿勢を取った。
「尊き最高神様が、美しき姫君らを従えて近付いて来られる気配がしたので、お出迎えをと控えておりました」
『さすがねぇ、人の身で魔力の質で誰が居るかも分かるなんて、あんたってばやっぱり見所があるわね』
「それもありますが、今の場合はどちらかと言うと、皆様のお声が扉の中にまではっきりと聞こえておりましたので。皆さまお待ち兼ねです」
バルザックの言葉に、レーナが恥ずかしさのあまり空気を求める魚の様に口をぱくぱくさせていると、静かに扉が開いて苦笑を浮かべるクラウディオ王子が姿を現した。
「レーナ嬢、大変なところ無理を言って済まないな。この世界の理を、我々とは異なる観点で見られる聖女レーナの力が必要なのだ。どうか私と共に、この国を救う手立てを考えて欲しい」
聖女と呼ばれるほど清廉でも清楚でも優雅でもない、ただの平凡村娘を自負するレーナは、自分をヒロインと錯覚させる、王子からの熱の籠った視線に思わず赤面する。
「僕の世界のために。レーナは、やるんだよね」
すかさず、狭量な最高神の声が切り込んでくる。
「そうですね。最高神様がお創りくださった世界の辿る未来を、暖かい光溢れるものとするための手立て、そして戦いです」
言葉を返したクラウディオ王子の瞳は、人の世の未来を掴み取る覇気に満ちている。――それと、稀有なる価値観と能力を秘めた彼女への、ひっそりとした想いの光も。
「全くやんなっちゃうよね。僕が創った世界なのにさ、思い通りになりやしない」
不穏な黒い気配を漂わせつつも、最高神らしい美しい微笑を湛える虹色髪の青年は、誰に伝えるともなく、どこか愉し気にうっそりと呟く。
「君だけがいればいいのに」
リュザスの望みは、自分のことを誰よりも一途に想っているレーナと共に在ること。ただその一点だ。
だがその唯一の望みを阻害する人間は多い。リュザス自身が予見し、異世界でゲームとして知らしめたストーリーさながらに、目の前の少年、青年らが彼女に興味を抱いているのが手に取る様に分かる。その誰もが、未だ彼女からの特別な想いを向けられてはいないのは僥倖であり、ままならぬ様が愉しくもあり。悠久の時を生きる彼にとって、久々の感覚に自然と表情は笑みを象る。
何でも思い通りに創れる最高神でさえも、不如意な人の想いはこんなにも愉快なものであったのか―――と。けれど、最後にはきっと望みのものを掴み取ってみせようと、心が忙しく騒ぎ出す。
「レーナは、どうしたら僕だけを想ってくれるようになるかな」
リュザスだけを頼りに願う人だけが入ることを許される、彼の個人的異空間。そこで獲物が網に掛かるのを、糸を張り巡らせた蜘蛛のように、じっと待っていた彼はもういない。
「リュザスったら、そんな事ばっかり言って! 今からこの世界の命運を切り拓くって大事な時に、茶化さないの」
「分かったってば、レーナ。僕がんばるからさ」
「だから、頼らないって言ってるでしょ!」
強い口調で拒絶を訴えるレーナの頬は、ほんのり暖かく色付いている。
無から有を作り出し、思い通りにしか動かない傀儡を幾つも創っても、心が満たされることは無かった。だから、何十億もの界を跨ぎ、そこに息衝く存在全てを巡って探し、望みを叶えてくれる存在を引き寄せた――それが羽角 玲於奈だ。
「玲於奈ったら、本当に僕を愉しませてくれるよね。だから僕がんばろうって思うんだよ」
「え? 玲於奈? それともレーナって言ったの?」
「ふふ、どっちだろうね」
どれだけ時間が掛かっても、余所見をしようとも、多少のままならなさは望みの唯一を飾る最高の宝石であり、自身の逸り苛立つ心は歓喜を手に入れるまでの最高のスパイスだと考えて、リュザスは口角を上げる。
最高神は、彼方から攫った少女の一途な愛を、ただ望む。
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