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第一章 婚約破棄編
癒し不足が過ぎるよね!?
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こつ・こつ
室内から足音が近付き、何とかしなければと気は焦るのに、ざわりと触れ心地の悪いもので全身を撫でられたような嫌な感覚が纏わりついて上手くものが考えられない。
飛べる!いや飛べない!飛べる? トベル!デキル!トベル!! いやちょっと待って! トベル! 違う!けど見付かっちゃう!なんとかしなきゃ!えぇーい!
窓枠を蹴る。
ふわりと吹いた風が前髪をかき上げ、周囲の木々が葉を揺らす音が耳に入る。
わたしは無我夢中で両腕を伸ばす。
「――と、気のせいか?」
濃いグレーの短髪を後ろに撫でつけた青年が窓から姿を現し、きょろりと眼下を見渡すが、ヘリオスとハディスは間一髪、木々の影に隠れることが出来た様だ。
「こうおかしなことが続くと、些細な事にも過敏になってしまうものだな……」
フィガリオが呟き、頬を撫でる風に目を細めると踵を返し、また室内へ戻って行った。
わたしはそっと息を吐きながらその後姿を見送る。苦々しく見遣ったわたしの腕には薄黄色い魔力が纏わりついている。
もしかして、トベル、デキル と心の中で繰り返したあの衝動は、この黄色い魔力のせいだったのかも……?
けれどわたしはその衝動に逆らい、こんもりと葉を茂らせた傍の木の枝に前世で見たナマケモノの様にぶら下がっていた。
えぇ、ハディスの胸目掛けてアイ・キャン・フライ!は遠慮しましたとも。
今度は安堵のため息をついたわたしを、憮然として見上げる双子かわいいはずの顔が、掴まっている木の陰から覗く。
一方、呆れているかと思われたハディスは、ヘリオスと同じようにそっと姿を現したものの、こちらは不安げに顔を曇らせている。
スルスルと木の幹を伝って、静かに地面を踏む。
「お姉さま!あなたはどれだけ僕に心配をかければ気が済むんですか?」
眉を吊り上げたヘリオスが、小声で怒鳴ると云う器用な芸当を見せてくれる。
あーこれは長時間コースのお説教かな?お姉さまは、君にはまだまだ可愛い弟でいて欲しいんだよ~。あ、ハディスまで近付いてきた、二人がかりでお説教は勘弁してほしいなぁ。
「それもあるけど、君……何ともない?」
「へ?」
痛いところなんかないけどなぁ?お兄さんの振りをしてたせいで過保護になってるぅ?
「なにニヤニヤしてるのか意味が分からないけど……そうじゃなくてー、あの色が乗り移っていたよね?」
「あぁ、焦りました」
「なんの話です?」
気付いていなかったヘリオスに、不審な黄色い魔力の話をすると、また一段と険しい表情になってしまった。そんな顔されても、黄色の魔力に関してはわたしこそが被害者だと思うんだけどー!?
「黄色かどうかは解りませんけど、ここに長く居るのはまずいです。搬入も僕とあんちゃんで、しっかり片づけたので、さっさと帰りますよ」
ぐいぐい腕を引かれて、足早に搬入口のあった使用人区画へ戻る。遠くにラシン邸の使用人の姿を認めたヘリオスが小さく息を飲んだのが、掴まれた手を通して伝わってきた。既に、使用人が居てもおかしくない区画に入っているはずなのに、何の緊張だろう?と首を傾げる。立ち止まったわたしたちに気付いたハディスが、小さく「あぁ」と何かに納得したように呟く。
「あの後、目立たない為にも2人で追いかける訳にはいかなくて……、最悪別の騒ぎを起こそうかとも考えていたんだけど、取り敢えず急いで搬入を済ませてしまおうとしていたら、大変だったんだよねー」
どうやらハディスが、ヘリオスの反応の説明をしてくれるらしい。あと、別の騒ぎを起こそうとしたとか聞き捨てならないことを言った気がするけど、反省しなきゃならないわたしは大人しく聞き流しておこう。
「あの厨房の人たち……クッキーをくれたお姉さんは、執拗に色んな菓子を持ってきてね。親切と云うよりも押しつけといった感じで。ほかの使用人たちにしても、こっちに関心を示した使用人たちは執着がひどくてねー……僕もちょっと想定外で困ったくらいだよ」
苦笑しつつ頬を掻く。
こちらに気付いたラシン邸の使用人が、満面の笑みで「あらあら!ここにいたのねー!」と大声をあげて近付いて来る。
ちょっと前まで、ただの気の良いお姉さん、おっちゃんだと思っていた人達だけど、そう言われてみると大袈裟に好意を伝えてくる姿に、何故かメルセンツが重なる。ちょっと怖い。
わたしを掴むヘリオスの手にも一層力が入る。僅かに全身が強張っている気もする。とどめを刺すように、低い声でハディスが告げる。
「君もあそこをもう一度通るんだ、気をつけろよ」
結果、二人揃ったわたしたちの求心力は更にパワーアップしたらしく、馬車に乗るまでおっちゃんや、お姉さん方に追い掛け回されました。
癒し不足が過ぎるよね!?
室内から足音が近付き、何とかしなければと気は焦るのに、ざわりと触れ心地の悪いもので全身を撫でられたような嫌な感覚が纏わりついて上手くものが考えられない。
飛べる!いや飛べない!飛べる? トベル!デキル!トベル!! いやちょっと待って! トベル! 違う!けど見付かっちゃう!なんとかしなきゃ!えぇーい!
窓枠を蹴る。
ふわりと吹いた風が前髪をかき上げ、周囲の木々が葉を揺らす音が耳に入る。
わたしは無我夢中で両腕を伸ばす。
「――と、気のせいか?」
濃いグレーの短髪を後ろに撫でつけた青年が窓から姿を現し、きょろりと眼下を見渡すが、ヘリオスとハディスは間一髪、木々の影に隠れることが出来た様だ。
「こうおかしなことが続くと、些細な事にも過敏になってしまうものだな……」
フィガリオが呟き、頬を撫でる風に目を細めると踵を返し、また室内へ戻って行った。
わたしはそっと息を吐きながらその後姿を見送る。苦々しく見遣ったわたしの腕には薄黄色い魔力が纏わりついている。
もしかして、トベル、デキル と心の中で繰り返したあの衝動は、この黄色い魔力のせいだったのかも……?
けれどわたしはその衝動に逆らい、こんもりと葉を茂らせた傍の木の枝に前世で見たナマケモノの様にぶら下がっていた。
えぇ、ハディスの胸目掛けてアイ・キャン・フライ!は遠慮しましたとも。
今度は安堵のため息をついたわたしを、憮然として見上げる双子かわいいはずの顔が、掴まっている木の陰から覗く。
一方、呆れているかと思われたハディスは、ヘリオスと同じようにそっと姿を現したものの、こちらは不安げに顔を曇らせている。
スルスルと木の幹を伝って、静かに地面を踏む。
「お姉さま!あなたはどれだけ僕に心配をかければ気が済むんですか?」
眉を吊り上げたヘリオスが、小声で怒鳴ると云う器用な芸当を見せてくれる。
あーこれは長時間コースのお説教かな?お姉さまは、君にはまだまだ可愛い弟でいて欲しいんだよ~。あ、ハディスまで近付いてきた、二人がかりでお説教は勘弁してほしいなぁ。
「それもあるけど、君……何ともない?」
「へ?」
痛いところなんかないけどなぁ?お兄さんの振りをしてたせいで過保護になってるぅ?
「なにニヤニヤしてるのか意味が分からないけど……そうじゃなくてー、あの色が乗り移っていたよね?」
「あぁ、焦りました」
「なんの話です?」
気付いていなかったヘリオスに、不審な黄色い魔力の話をすると、また一段と険しい表情になってしまった。そんな顔されても、黄色の魔力に関してはわたしこそが被害者だと思うんだけどー!?
「黄色かどうかは解りませんけど、ここに長く居るのはまずいです。搬入も僕とあんちゃんで、しっかり片づけたので、さっさと帰りますよ」
ぐいぐい腕を引かれて、足早に搬入口のあった使用人区画へ戻る。遠くにラシン邸の使用人の姿を認めたヘリオスが小さく息を飲んだのが、掴まれた手を通して伝わってきた。既に、使用人が居てもおかしくない区画に入っているはずなのに、何の緊張だろう?と首を傾げる。立ち止まったわたしたちに気付いたハディスが、小さく「あぁ」と何かに納得したように呟く。
「あの後、目立たない為にも2人で追いかける訳にはいかなくて……、最悪別の騒ぎを起こそうかとも考えていたんだけど、取り敢えず急いで搬入を済ませてしまおうとしていたら、大変だったんだよねー」
どうやらハディスが、ヘリオスの反応の説明をしてくれるらしい。あと、別の騒ぎを起こそうとしたとか聞き捨てならないことを言った気がするけど、反省しなきゃならないわたしは大人しく聞き流しておこう。
「あの厨房の人たち……クッキーをくれたお姉さんは、執拗に色んな菓子を持ってきてね。親切と云うよりも押しつけといった感じで。ほかの使用人たちにしても、こっちに関心を示した使用人たちは執着がひどくてねー……僕もちょっと想定外で困ったくらいだよ」
苦笑しつつ頬を掻く。
こちらに気付いたラシン邸の使用人が、満面の笑みで「あらあら!ここにいたのねー!」と大声をあげて近付いて来る。
ちょっと前まで、ただの気の良いお姉さん、おっちゃんだと思っていた人達だけど、そう言われてみると大袈裟に好意を伝えてくる姿に、何故かメルセンツが重なる。ちょっと怖い。
わたしを掴むヘリオスの手にも一層力が入る。僅かに全身が強張っている気もする。とどめを刺すように、低い声でハディスが告げる。
「君もあそこをもう一度通るんだ、気をつけろよ」
結果、二人揃ったわたしたちの求心力は更にパワーアップしたらしく、馬車に乗るまでおっちゃんや、お姉さん方に追い掛け回されました。
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