【完結】女神が『かぐや姫』なんて! ~ 愛され令嬢は実利主義!理想の婿を追い求めたら、王国の救世主になりました~

弥生ちえ

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第三章 文化体育発表会編

女神が「かぐや姫」なんて、一体いつ誰が決めたのだろうか?

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 初夏らしい爽やかな晴天のもと、文化体育発表会当日を迎えた。

 いつもより少し早い時間に学園へと向かうわたしたちは、大門を潜った後はいつも通りの徒歩で、側を行く‥‥いや、渋滞して止まっている馬車行列を眺めながら悠々と玄関に辿り着いた。

「ご来賓の方々の分もあるからか、凄い馬車の数ね。これは非効率的過ぎるわ。」
「お姉さま、高位貴族の見栄で潤う経済もありますし、僕は歓迎ですよ。」

 そうは言うけど、この行列って大門までずっと続いてるのよね。学園生たちが遅れなきゃ良いけど。

 扉を潜る前に足を止めて一呼吸おく。

「お姉さま、どうなさったのですか?こんなところにいつまでもいらっしゃると余計な虫が‥‥いえ、登園する生徒達の妨げになりますよ。」
「あ、うん、そうね。けどいつもここで立ち止まってたから‥―――そっか、今日はあのコが来ないんだ。」

『貴女!どういうつもり!?そうやってあちこちのご令息に色目を使って、学園にまで侍らせてくるなんて!』

 甘ったるい高い声でキンキン喚く人工の美少女ユリアンの面影が脳裏に過る。あれはあれで、無かったら物足りないなんて‥‥気付かなかったわ。

「セレネ、どうしたの?ほんといつまでもこんな目立つ所に居ると悪い虫が寄ってきちゃうよ?」
「まぁ、どれだけ来たところで私が駆除いたしますが。」
「あなたたち口が悪いわ‥‥。えっと‥‥ね、失って気付く物足りなさがあるもんだなぁって、ちょっと感傷に浸ってたのよ。」
「「「え!?」」」

 ユリアンの姿を思い描きながら、つい遠い目でぽつりと零した言葉に、男性陣3人が揃って息を飲んでいる。

「どういうことです!?あなたたちが付いておきながら、この1か月の間に誰か近付けたんじゃないでしょうね!?」
「害虫駆除はしっかりしてたよ!?抜かるわけないでしょー!」
「赤いのの事です、何か格好をつけていて手抜かりがあったんじゃないんですか?」

 3人が円陣を組んで何やらひそひそとおかしな会話を繰り広げている。何!?害虫って‥‥ってひょっとしなくても最近交流の途絶えがちなご令息方のことよね。まさか結託して何かやってたの!?

「念のために言っておきますけど、わたしたち貴族令嬢がこの学園に通う目的の一つには、より良い結婚相手を探すことも含まれているんですからね!?ヘリオスだって姉が結婚もせずにいつまでも家に居座ってたら困るわよね?!」
「見くびらないでください。お姉さま一人くらいなんとでも養って見せますから。」

 恥ずかしげもなく言い放った弟に頭を抱えたところで、王城から繋がる長い渡り廊下を進んで来るアポロニウス王子一行が目に入った。王子とその側近候補である学友たちは、毎朝こうして王城から学園の入り口まで繋がる、専用通路を歩いて来る。

「ごきげんよう、アポロニウス副会長。晴れの舞台が好天に恵まれまして安堵いたしましたわ。」
「あぁ、おはよう、バンブリア嬢。恙無く当日を迎えられたのは貴女の尽力によるところが大きい。この文化体育発表会終了まで、貴女の名を貶めることが無い様、生徒会一同気を抜かず責務に努めるつもりだ。ともにやり切ろう。」

 王子が来るのを待ち、挨拶を交わしながら背後に連なる学友をさっと観察すると、王子を挟んだ左右には、宰相令息ロザリオン・レミングスと、神殿司であり前大神殿主令息ギリム・マイアロフが並び立ち、その背後に公爵・侯爵家を始めとした有力貴族の令息が続いて、殿しんがりに他の令息よりも頭一つ飛び出した恵まれた体躯の赤茶色の短髪が収まっていた。

 どことなく、スッキリとした憑き物の取れたような表情に見えたのは気のせいだろうか?
 彼の両隣に対照的な2人の令嬢が繋がっていないのは、ちょっとまだ見慣れなくて変な感じがしたけど、カインザの表情を見る限り、悪い結果になった訳ではないんだろう。

「ではまた後程。」
「はい、舞台を楽しみにしておりますね。」

 さらりと言葉を交わしたわたし達は、今度こそ立ち止まらずに校舎の中へと進んだ。



 歴史学の発表もそつなく纏められたと思う。

『かぐや姫が愛を貫いたら人類存亡の危機を回避して王国を造っちゃいました!女神とよばれて溺愛されてます!  ~帝と5人の貴公子の献身は少女を女神へと導く~』

 女神が「かぐや姫」なんて、一体いつ誰が決めたのだろうか?ただの女の子だった彼女が女神と称えられるまでに起こった出来事を、ここに記し考察する。

 そんな書き出しで始まるわたしたちのパネル。

 講義室の壁面いっぱいにいくつも並んだ歴史学パネルのうち、わたしたちのグループの発表パネルに大きく掲げられた題字を目で追う。手書きから、出版用の活字へ清書し直してもらえた完成形を目にするのは、これが初めてだ。

 ――小さな物で作られた校正原稿は何度もやり取りしたけれど、両腕を広げた程の大きなパネルになると、また雰囲気が変わって新鮮だから不思議なものね。

「うん。なかなか目を引くイイ感じに仕上がったわね。ワクワクしながら読み進められそう‥‥あれ?なんだろ、この感じ。」
「うん、奥様方が喜びそうな物から、流行小説のタイトルみたいな物に変わったよね。」

 スバルが笑いを嚙み殺してたわ。うん、確かにー。
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