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第四章 女神降臨編
こんな現れ方するなんてヒーローなの!?嬉しいに決まってるじゃない!
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ドッジボール投擲は、想像以上の効果をもたらした。
その効果はどの程度かと云うと、以前に見た対ワイバーン戦でエウレア領主軍が使っていた巨大な十字弓型魔道武器に近い殺傷力というところか。投げる物がボールじゃないだけであんなことになるなんて……さすがに貫通はしなかったけど……。
「おぉぅ……」
わたしの投擲姿を見ていた兵士達は低く唸り、見ていなかった兵士達からは「今の攻撃はなんだ!?」とざわめきが起こっている。
隣を見れば、オルフェンズが学習参観で我が子の発表を見る母親の様な満足気な表情で頷いているんだけど、こんな一投じゃあワイバーンは倒せないからね!?領主軍は20撃近くの攻撃を当てて、ようやくワイバーンを落とせたんだから、こんなのが決定打になんてならないもの。
「さすが桜の君です。普段の学園での児戯も、こんなにも眩い至高の技に昇華されるとは」
「技にした覚えもなければ、倒せると思って投げたのでもないから!あくまで撹乱効果のつもりよ?」
これ以上の攻撃を期待されても困るから、戦闘に巻き込まないでね!と必死で言い募るけど、スパルタ暗殺者は綺麗な笑顔で「フフッ」と声を漏らす。
不穏な反応に、恐る恐る表情を伺えば、アイスブルーの瞳にギラリと怜悧な光を湛えた酷薄な笑みを浮かべている。
魔王だ……。くそぅ。
今度から「スパルタ暗殺者」改め、「魔王」って呼んでやる―――!
心の中で罵詈雑言を並べ立てていると、更に愉快そうに目を半月形に細めた魔王は、噛んで含めるようにゆっくりと言葉を紡ぐ。
「何と仰られても、月の忌子が桜の君をどう捉えるかは別でしょう?」
え?何?どう云うコト……
『ゲギャギャギャォ―――ス!!!』
怒り狂った様子のワイバーンの真っ赤な目が、更に充血して、わたしを凝視してる気がするんですけど―――!?
「魔物風情のくせに、桜の君のお力だけは良く分かっているようですね。そこだけは誉めてやりましょうか?」
「オルフェ!貴方どっちの味方なのぉぉぉ―――!」
わたしを睨み付けながら急降下して来るワイバーンを、右へ左へ駆け回り、瓦礫の隙間を転がり這い出て、やっとの思いで躱し続ける。
ワイバーンが、何故かわたし1人を執拗に狙い続けたお陰で、その間に兵士達は攻撃体制を整えて一斉攻撃を仕掛けたりしているのに、一向にターゲットから離れられない。
「なんてしつこいのぉぉぉ!!!」
「それは、桜の君が一番の脅威であると共に、桜の君の魔力が一番魅力的だからでしょう。倒せば身の安全と美味な魔力が手に入る訳ですから。一挙両得、桜の君の好きそうな言葉ですね」
「聞きたくなかったぁぁぁ!!!何その最悪な2コンボ!自分に利益があることは好きだけど、魔物の餌になっての益なんて捨身飼虎の境地には至ってないから無理無理無理無理!!」
……この時、わたしは気付く事が出来なかった。大騒ぎするから余計にワイバーンに場所を把握されて追い掛け回されているって簡単な事実に。わたしはまんまと魔王の煽りに乗せられて大騒ぎをした挙句、ワイバーンに追い掛けられ続ける悪循環を作り出していたのだ。
決め手に欠ける攻撃のお陰で、いつまでも勢いの衰えないワイバーンに追い掛けられ続けるわたしも、大変だったけど、追い掛ける方も体力を消耗した様で、命懸けの鬼ごっこで何時間かが過ぎた頃、ワイバーンは突然上空へと舞い上がってその場を離れた。
そんな時だった。
ワイバーンと入れ替わる様に、暢気な表情のネズミたちと一緒に、青龍に乗った一行が現れたのは。
文句を言いたくて、言いたいことがいっぱいあって、けど思い切れなくて伝えられなくて――――。そうしてまごまごしているうちに、約束を破って行き先も用件も言わずにふらりと消えて、近付けないように手をまわす様な真似までしていた押し掛け護衛。
フルフェイスマスク付きの甲冑姿が現れた時は驚いたけど、その甲冑が全身緋色一色で、『火鼠の裘』の魔力の化身達と同じ色の魔力から出来ているとすぐに気付き、色々あった文句が一つも浮かばずに、ただ無意識に疲れ果てたはずの足が急く様にそちらに向かい、無意識の言葉が唇から零れる。
「ハディっ……!来てくれ……」
――ちがう!わたしはこの押し掛け護衛にちゃんと文句を言うんだから!
感情のままの言葉を、ぐっと押し留めて、流されないように瞳に力を入れてキッと緋色の甲冑を睨む。
「――何しに来たのよ!!」
それだけ言ったものの、後に続く文句が何も浮かばない。
――だって、来てくれて嬉しかったんだもの。本当に困ってるタイミングで、来れるはず無いハディスが現れるって、何よこれ!?こんな現れ方するなんてヒーローなの!?嬉しいに決まってるじゃない、怒れないじゃない~~~~!!!
今のわたしはきっと、ツンデレでもない、ただのデレデレとした情けない表情をしているんだろう……。くぅっ。
その効果はどの程度かと云うと、以前に見た対ワイバーン戦でエウレア領主軍が使っていた巨大な十字弓型魔道武器に近い殺傷力というところか。投げる物がボールじゃないだけであんなことになるなんて……さすがに貫通はしなかったけど……。
「おぉぅ……」
わたしの投擲姿を見ていた兵士達は低く唸り、見ていなかった兵士達からは「今の攻撃はなんだ!?」とざわめきが起こっている。
隣を見れば、オルフェンズが学習参観で我が子の発表を見る母親の様な満足気な表情で頷いているんだけど、こんな一投じゃあワイバーンは倒せないからね!?領主軍は20撃近くの攻撃を当てて、ようやくワイバーンを落とせたんだから、こんなのが決定打になんてならないもの。
「さすが桜の君です。普段の学園での児戯も、こんなにも眩い至高の技に昇華されるとは」
「技にした覚えもなければ、倒せると思って投げたのでもないから!あくまで撹乱効果のつもりよ?」
これ以上の攻撃を期待されても困るから、戦闘に巻き込まないでね!と必死で言い募るけど、スパルタ暗殺者は綺麗な笑顔で「フフッ」と声を漏らす。
不穏な反応に、恐る恐る表情を伺えば、アイスブルーの瞳にギラリと怜悧な光を湛えた酷薄な笑みを浮かべている。
魔王だ……。くそぅ。
今度から「スパルタ暗殺者」改め、「魔王」って呼んでやる―――!
心の中で罵詈雑言を並べ立てていると、更に愉快そうに目を半月形に細めた魔王は、噛んで含めるようにゆっくりと言葉を紡ぐ。
「何と仰られても、月の忌子が桜の君をどう捉えるかは別でしょう?」
え?何?どう云うコト……
『ゲギャギャギャォ―――ス!!!』
怒り狂った様子のワイバーンの真っ赤な目が、更に充血して、わたしを凝視してる気がするんですけど―――!?
「魔物風情のくせに、桜の君のお力だけは良く分かっているようですね。そこだけは誉めてやりましょうか?」
「オルフェ!貴方どっちの味方なのぉぉぉ―――!」
わたしを睨み付けながら急降下して来るワイバーンを、右へ左へ駆け回り、瓦礫の隙間を転がり這い出て、やっとの思いで躱し続ける。
ワイバーンが、何故かわたし1人を執拗に狙い続けたお陰で、その間に兵士達は攻撃体制を整えて一斉攻撃を仕掛けたりしているのに、一向にターゲットから離れられない。
「なんてしつこいのぉぉぉ!!!」
「それは、桜の君が一番の脅威であると共に、桜の君の魔力が一番魅力的だからでしょう。倒せば身の安全と美味な魔力が手に入る訳ですから。一挙両得、桜の君の好きそうな言葉ですね」
「聞きたくなかったぁぁぁ!!!何その最悪な2コンボ!自分に利益があることは好きだけど、魔物の餌になっての益なんて捨身飼虎の境地には至ってないから無理無理無理無理!!」
……この時、わたしは気付く事が出来なかった。大騒ぎするから余計にワイバーンに場所を把握されて追い掛け回されているって簡単な事実に。わたしはまんまと魔王の煽りに乗せられて大騒ぎをした挙句、ワイバーンに追い掛けられ続ける悪循環を作り出していたのだ。
決め手に欠ける攻撃のお陰で、いつまでも勢いの衰えないワイバーンに追い掛けられ続けるわたしも、大変だったけど、追い掛ける方も体力を消耗した様で、命懸けの鬼ごっこで何時間かが過ぎた頃、ワイバーンは突然上空へと舞い上がってその場を離れた。
そんな時だった。
ワイバーンと入れ替わる様に、暢気な表情のネズミたちと一緒に、青龍に乗った一行が現れたのは。
文句を言いたくて、言いたいことがいっぱいあって、けど思い切れなくて伝えられなくて――――。そうしてまごまごしているうちに、約束を破って行き先も用件も言わずにふらりと消えて、近付けないように手をまわす様な真似までしていた押し掛け護衛。
フルフェイスマスク付きの甲冑姿が現れた時は驚いたけど、その甲冑が全身緋色一色で、『火鼠の裘』の魔力の化身達と同じ色の魔力から出来ているとすぐに気付き、色々あった文句が一つも浮かばずに、ただ無意識に疲れ果てたはずの足が急く様にそちらに向かい、無意識の言葉が唇から零れる。
「ハディっ……!来てくれ……」
――ちがう!わたしはこの押し掛け護衛にちゃんと文句を言うんだから!
感情のままの言葉を、ぐっと押し留めて、流されないように瞳に力を入れてキッと緋色の甲冑を睨む。
「――何しに来たのよ!!」
それだけ言ったものの、後に続く文句が何も浮かばない。
――だって、来てくれて嬉しかったんだもの。本当に困ってるタイミングで、来れるはず無いハディスが現れるって、何よこれ!?こんな現れ方するなんてヒーローなの!?嬉しいに決まってるじゃない、怒れないじゃない~~~~!!!
今のわたしはきっと、ツンデレでもない、ただのデレデレとした情けない表情をしているんだろう……。くぅっ。
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