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第四章 女神降臨編
まさかまさかの体内迷子になってしまった……。
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居ないなら、自分がやれば良い!
隙間産業にこそ、新規参入業者に活路はある――とは竹細工工房から今のバンブリア商会を興した父テラス・バンブリアの言葉だ。そう、今の状況はまさしく『隙間』。警護の専門家が太刀打ちできない特殊な状態。そして動けるわたしは、その隙間を狙える稀少なチャンスに臨んでいる。
「ここで動かなきゃ、商会令嬢の名が廃るわ」
自分を奮い立たせるために、声に出して宣言したけれど、こんな短時間で獅子の事なんて殆ど観察・理解は出来ていない。更に巨大な獅子の全身を観察しようとしたところで、どれだけの時間を要するのか想像もつかない。
既に獅子が、この国で一番高貴な人を前足でふみふみし続けている現状、そんな余裕はあるわけ無い。
だから、わたしは――
思い切って身体を覆う魔力を解除した。
「セレ!!!」
焦った表情でこちらに手を伸ばす赤髪がくっきり目に映る。
これまで、身分違いもいいところなのに、わたしを気にする姿勢を崩さないハディスに何も感じずにいる事なんて出来なかった。素直に手を取ることは出来ないけど、側に居ると嬉しいし、何かあれば助けたいって気持ちが強く湧く。
先の見通しのない中で、条件状況関係なしで側に居たいと思う理不尽な感情に名前は付けたくないけど、守りたい衝動には従っても良いだろう。
今、わたしがやりたいのは、さっさと観察を完了させて、ハディスが堂々と帰れる状況を作ること!要らぬ嫌疑を持たれる隙なんて与えないくらいの成果を挙げてみせる。
その為の最善手として、今のわたしの立ち位置から出来る、最も効果的な観察方法を採ることに決めた。見本は昼間、オルフェンズが見せてくれたあの攻撃。イメージは完璧。だから、きっと出来る!
事故じゃないよ、大丈夫!と伝えたいけど、魔力を解除したわたしは、獅子の上に留まることは出来ずに重力に従って落下するだけだ。言葉じゃ間に合わないから、せめて気持ちだけでも届け――!と、なけなしの令嬢スキルを総動員して可憐に微笑んでみせた。
――落ちる
――――獅子の体内へ引き込まれて行く
纏う魔力を解除したわたしは、獅子の背から滑り落ちるのではなく、その体内に向かって沈み混むように落ちて行く。
すぐに腹辺りから外に抜け出るかと身構えていたけれど、想像よりもずっと落下のスピードが緩い気がする。気がするとしか言えないのは、周囲の様子から自分の落下速度を推測できない状況にあるからだ。
意外にも獅子の体内は内臓とか生き物らしい器官が一切見当たらず、色の濃淡はあるものの、黒い泥濘がドロドロとした濁流をつくって上へ下へ左右へと規則性のない流れを作って渦巻いている。改めて、内部から見ることによって、この獅子が普通の生き物ではないことを思い知らされた。
全身に触れる黒い魔力は重く冷たくて、身体に纏わり付いて生き物の温かさを奪って行くように感じる。魔物が生き物を襲うのは、こんな風に冷えた体を温めるためなのかもしれない。
急速に身体から色んなものが溢れ出しているような気持の悪さに、くらりと眩暈がするけれど、ここで意識を失うわけにはいかない。いつの間にか握り締めていた両手を開いて左右から頬を挟み込むようにバチンと叩く。
――ちょっとでも温まりたい貴女には悪いけど、タダでわたしの命や魔力をあげるつもりはないわ。
気合を入れて魔力を全身に纏った。
『おぉぉぉぉ―――――――ぉぅぅん』
周囲に木霊す大音量で、獅子の咆哮が響き渡る。相変わらず、目の前には黒いモノが流れ行く景色しかない。だから、狭い中だから音が反響してぐわんぐわん響き渡ってるのか、広い所で相当な大音量が響いているのかも分からないけど、とにかくうるさい。
そして魔力を纏ったことにより、わたしの身体は落下を止めてしまったらしい。ふわふわとその場に漂い始めたのか、重力に引かれる感覚が無くなってしまった。
「うそ。イメージと何だか違うわ」
声が出せた。いや、それは些細なことだ。獅子の中で声が出せたところで、何の利点も思い当たらない。しかも、体内で魔力を纏った時の効果が思ったのと違っていた。イメージではオルフェンズがワイバーンの体内に隠遁で入り込んで、内部で実体化して破壊したのを真似たつもりだった。これだけ巨大な獅子だから、令嬢一人が実体化したところで吹き出物が破れた程度のダメージしか与えられないだろうけど、かぐや姫が混じっているかもしれないと云う点から、その程度のダメージが良かった。
何か、獅子の実体化を解くヒントが見つかったり、ハディス達が王様を救うために獅子に一矢報いたテイが示せたらそれで良かった。
けど現実には、まさかまさかの体内迷子になってしまった……。
隙間産業にこそ、新規参入業者に活路はある――とは竹細工工房から今のバンブリア商会を興した父テラス・バンブリアの言葉だ。そう、今の状況はまさしく『隙間』。警護の専門家が太刀打ちできない特殊な状態。そして動けるわたしは、その隙間を狙える稀少なチャンスに臨んでいる。
「ここで動かなきゃ、商会令嬢の名が廃るわ」
自分を奮い立たせるために、声に出して宣言したけれど、こんな短時間で獅子の事なんて殆ど観察・理解は出来ていない。更に巨大な獅子の全身を観察しようとしたところで、どれだけの時間を要するのか想像もつかない。
既に獅子が、この国で一番高貴な人を前足でふみふみし続けている現状、そんな余裕はあるわけ無い。
だから、わたしは――
思い切って身体を覆う魔力を解除した。
「セレ!!!」
焦った表情でこちらに手を伸ばす赤髪がくっきり目に映る。
これまで、身分違いもいいところなのに、わたしを気にする姿勢を崩さないハディスに何も感じずにいる事なんて出来なかった。素直に手を取ることは出来ないけど、側に居ると嬉しいし、何かあれば助けたいって気持ちが強く湧く。
先の見通しのない中で、条件状況関係なしで側に居たいと思う理不尽な感情に名前は付けたくないけど、守りたい衝動には従っても良いだろう。
今、わたしがやりたいのは、さっさと観察を完了させて、ハディスが堂々と帰れる状況を作ること!要らぬ嫌疑を持たれる隙なんて与えないくらいの成果を挙げてみせる。
その為の最善手として、今のわたしの立ち位置から出来る、最も効果的な観察方法を採ることに決めた。見本は昼間、オルフェンズが見せてくれたあの攻撃。イメージは完璧。だから、きっと出来る!
事故じゃないよ、大丈夫!と伝えたいけど、魔力を解除したわたしは、獅子の上に留まることは出来ずに重力に従って落下するだけだ。言葉じゃ間に合わないから、せめて気持ちだけでも届け――!と、なけなしの令嬢スキルを総動員して可憐に微笑んでみせた。
――落ちる
――――獅子の体内へ引き込まれて行く
纏う魔力を解除したわたしは、獅子の背から滑り落ちるのではなく、その体内に向かって沈み混むように落ちて行く。
すぐに腹辺りから外に抜け出るかと身構えていたけれど、想像よりもずっと落下のスピードが緩い気がする。気がするとしか言えないのは、周囲の様子から自分の落下速度を推測できない状況にあるからだ。
意外にも獅子の体内は内臓とか生き物らしい器官が一切見当たらず、色の濃淡はあるものの、黒い泥濘がドロドロとした濁流をつくって上へ下へ左右へと規則性のない流れを作って渦巻いている。改めて、内部から見ることによって、この獅子が普通の生き物ではないことを思い知らされた。
全身に触れる黒い魔力は重く冷たくて、身体に纏わり付いて生き物の温かさを奪って行くように感じる。魔物が生き物を襲うのは、こんな風に冷えた体を温めるためなのかもしれない。
急速に身体から色んなものが溢れ出しているような気持の悪さに、くらりと眩暈がするけれど、ここで意識を失うわけにはいかない。いつの間にか握り締めていた両手を開いて左右から頬を挟み込むようにバチンと叩く。
――ちょっとでも温まりたい貴女には悪いけど、タダでわたしの命や魔力をあげるつもりはないわ。
気合を入れて魔力を全身に纏った。
『おぉぉぉぉ―――――――ぉぅぅん』
周囲に木霊す大音量で、獅子の咆哮が響き渡る。相変わらず、目の前には黒いモノが流れ行く景色しかない。だから、狭い中だから音が反響してぐわんぐわん響き渡ってるのか、広い所で相当な大音量が響いているのかも分からないけど、とにかくうるさい。
そして魔力を纏ったことにより、わたしの身体は落下を止めてしまったらしい。ふわふわとその場に漂い始めたのか、重力に引かれる感覚が無くなってしまった。
「うそ。イメージと何だか違うわ」
声が出せた。いや、それは些細なことだ。獅子の中で声が出せたところで、何の利点も思い当たらない。しかも、体内で魔力を纏った時の効果が思ったのと違っていた。イメージではオルフェンズがワイバーンの体内に隠遁で入り込んで、内部で実体化して破壊したのを真似たつもりだった。これだけ巨大な獅子だから、令嬢一人が実体化したところで吹き出物が破れた程度のダメージしか与えられないだろうけど、かぐや姫が混じっているかもしれないと云う点から、その程度のダメージが良かった。
何か、獅子の実体化を解くヒントが見つかったり、ハディス達が王様を救うために獅子に一矢報いたテイが示せたらそれで良かった。
けど現実には、まさかまさかの体内迷子になってしまった……。
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