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第37話 対カラスゴリラ(仮名)戦

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 この野郎! と思わずにいられない。
 魔物に対してか自分に対してか。

 だが痛みは一瞬だった。
 腕が無くなったと認識したとたんに回復魔法が腕に集中。出血が止まり再生が始まる。
 魔力回路に常時流している回復魔法の仕業だ。

 カラスゴリラは俺の腕がなくなったのを見て大喜びをしている。

『ザ・・・ザマ・・・ミロ』

 たのしそうに笑っている。だが、それは油断。
 油断は手痛いしっぺ返しを連れてくる。

 痛覚も遮断されたために痛みもないし、ちょっとバランスが悪い程度の障害だ。

 俺は右手を手刀の形にしてへらへら笑うカラスゴリラに突き出した。

 手刀は力場に覆われ、それ自体が鋭い刃だ。
 俺の手はそのままざっくりとカラスゴリラの左目を貫いた。

『ギアウアァァァァァァァァァァァァァァ!』

 そのまま脳まで貫きたかったがカラスゴリラの飛び退るのは早かった。
 だが目をつぶしたし、足でつかんでいた俺の腕も落としていった。

 空中で受け止めるとすぐに分解が始まる。

 肉体を再生するためにはたんぱく質が必要だ。もっと言うとアミノ酸。
 切り口の状態が良ければくっつけて直すというのもある何だろうが、握りつぶされ引きちぎられた腕はもう元には戻らない。
 ならば分解して素材として肉体を再構築する方が効率がいい。

 普通出来るようなことではないが、俺は半年もわずかな栄養素を魔法で補強して肉体を維持し続けてきたのだ。
 他人は無理でも自分の体ならできる。
 というかこれだけ上質の素材があれば何の問題もない。

 まあ、すぐにとはいかないけどね。

「それ!」

 俺は【魔光神槍】を構築して連続で撃ち出す。

 シャン。シャン。シャシャン!

 高速で撃ち出される魔槍。しかも今回は近接信管搭載型だ。
 片目を失ったこと、そして蜘蛛の子ミサイルを受けたことで魔物のダメージは確実に蓄積している。

「それでも躱すかよ!」

 魔光神槍は魔物の最も近くで爆発し、その衝撃波と魔力波をまき散らす。
 確実にダメージを与えているはずなのに…

「やっぱ強いなこいつ…倒しきれない」

 決定打がないのだ。
 魔法も有効なものがない。

 いや、天より降り注ぐものとか地より沸き立つものとかを使えば行けると思う。
 あれは範囲魔法だ。
 逃げられない範囲でぶちかませばいいのだ。

 だがあれを当てようとしたらかなり広範囲に展開しないといけないし、しかも魔法の効果が一応程度にしか分かっていない。
 となると広範囲にどんな副作用が出るのかわからない魔法をぶちかますと言うことになってしまう。

 しかも魔法の構築には少し時間がかかる。これは致命的だ。

 となるとちまちま削っていくしかないのだが、ここはゲームじゃない。
 ダメージが多くなると逃げ出すだろう。
 それはちび助の危機になるかもしれない。
 それはダメだ。何とか決定的なダメージが…

 腕を振り回し突っ込んでくるカラスゴリラの攻撃をかわし、ライフルを連射する。
 しまうぞう君は本当に便利だ。

 自動回収機能もあって設定しておいたものは一定時間、あるいは一定距離離れると自動的にしまうぞう君に戻ってくる。

 何度でも取り出して撃てる。
 攻撃をかわしてライフル射撃。そして魔光神槍での攻撃。

 さらに近づいてきたら…

「思いきりぶんなぐる」

 ガツガツガツ!

「そしてぶっさす」

 ドスドスドス!

 銃剣の正しい使いかただ。?

 だが敵もただの魔物じゃない。
 砂塵の槍が飛んできて、風の刃が襲い来る。

 魔法を放ちながらの空中戦がしばらく続くことになった。

 ◆・◆・◆

 怒り狂ったように…いや、実際怒り狂って突進しては腕を振るい、空を掻き、攻撃がかわされたといっては『ホーホー』ドラミング。
 そういう生き物が『オノレ』とか『シネシネ』とか人語を解するのは一種異様な光景だ。
 まあ頭がカラスなので喋れるっちゃ喋れるんだろうけどね。

 最初はお互いに攻撃が当たらなかったが次第に状況は改善していった。

 時間は俺の味方だったのだ。
 俺は空中戦は初めてだった。ということは俺には伸びしろがあったということだ。

 最初点から点への瞬間移動みたいな飛行だった俺は気が付けば自由に空を飛んでいた。
 難しい理屈は分からない。なんとなくやり方が染みついたのだ。
 行きたい方向に自由に移動できるようになっていた。

 しかも俺の飛行方向は前に限らない。
 カラスゴリラがその構造上、前にしか飛べないのに対して俺は後ろ向きだろうと、さかさまだろうと飛ぶのに支障がないのだ。

 後ろ向きで飛びながら追いかけてくるカラスゴリラを正面から迎え撃つというような戦い方もできる。

 ビームを撃ちこみ、ミサイル撃ちこみ、近づけは銃剣で切るのだ。

 こうなるとカラスゴリラの放ってくる砂塵の槍を迎撃するのも難しくないし、風の刃をかわすのも難しくない。

 定点で戦うと四方八方から襲ってくる砂塵の槍も空中を高速移動しながらでは常に本体であるカラスゴリラの方向からしかやってこない。

 空中戦の優位はすでに俺のものになりつつある。大勢は大きく傾きつつあった。

 カラスゴリラはダメージが蓄積して次第に動きが悪くなり、俺は飛ぶのに慣れてくる。
 こうなってくるとライフルが意外と役に立ってくる。

 毎分一二〇〇発はものすごい量だ。
 しかも本物のように弾切れがない。実際に一二〇〇発連射も可能なのだ。
 この攻撃をすべて躱すことはおそらく誰にもできない(うーん、言いすぎかな…)。

 そして最初防御力場と丈夫な毛皮と羽毛に守られてほとんど届かなかった攻撃が、地味に蓄積する傷口にヒットするようになってきたのだ。
 そしてそれは確実なダメージとなる。

 一番ダメな子だと思われたアサルトライフルが実は最大のダメージソースだったとか?

 だがここでまずいことが一つ。
 カラスゴリラはダメージか大きくなってくると攻撃に迷いが出てき始めた。

 俺のことを殺したいと思ってるのは間違いないようだが同時に逃げたいとも思っているようで、俺はそろそろまずいかな? と思い始めていた。

(ちょっと危ない気はするけど…誘ってみるか…)

 砂塵の槍は相変わらずうねうねと伸びては払われるの繰り返しをしている。
 そのうち一本を払い損ねたふりをして、あっ、マジ! 本当に払い損ねた。

 右腕に突き刺さる砂塵の槍、ずっと空中なのですでに砂はなくて風だけだった。
 かすり傷を負うつもりで防御力場を解除していたところにもろに突き刺さる槍。
 結構いたい。

 でもすぐに痛覚が遮断され、槍が吹き散らされると同時に再生が始まる。
 だがその一瞬でライフルは下に向けて落ちていった。

 まあ少し離れると自動でしまうぞう君に戻るからいいんだけどね。

『ゲゲ! トドメ、シネ』

 瞬時に近づいてその猛禽の爪でつかみかかってくるカラスゴリラ。
 いまだ、今しかない。

 達人の境地というのだろうか、それともとびぬけた集中力ゆえか。敵の動きがゆっくりに見えた。だから顔面にパンチ。

『ナゼ』

 すでに左手の再生は終わっていたのだ。
 抱え込んで見えないようにしていたけどね。

 俺の力場で包まれたパンチはカラスゴリラの嘴を砕き、顔面を抉った。
 そして右手にはあのナイフ。
 刃もないのに何でも切れるナイフ。

 そうそう、これがあったんだよ。

 そして右手の修復もどんどん進んでいる。すでに動くのに支障がないレベルだ。

 袈裟懸けの一撃。

 鎖骨から肋骨、胸骨を切り裂き脇に抜ける。
 魔物の口からピンク色の血泡が噴き出した。

 どうやら攻撃は肺にまで届いたようだ。

『グオ…ゲエェェ…イ・ヤ・・・・・・ダ』

 最後に振り回された腕が頭に当たった。
 力場のおかげで直接は当たらなかったがかなり頭が揺さぶられた。

 あっ、ふらふら…

 俺たちはそろって地面に落ちていく。

 俺は力場で衝撃を殺し何とか軟着陸。
 魔物の方は激突すれすれで体勢を立て直しふらふらと逃げていく…

 逃がすか…と思ったが体が付いてこない。
 再生とか魔法の連続使用とかで俺もへとへとだったらしい。
 それに最後にもらった攻撃が結構効いたようだ。

 常時流している回復魔法や魔力回路が活性化して、そちらに力を取られて逆に出力が落ちてしまった…

『ア…ダス…ダスゲ…』

 ふらふらと逃げる魔物の方もう余裕がないようだ。
 満身創痍…再生もしないし、魔力反応も徐々に落ちている。
 致命傷だと思う…

 今こそトドメ…と思って足に力を入れたがドシャリと崩れた。
 なんか体を酷使しすぎてもう限界。

 魔力視で魔物を観察し、おそらく死ぬだろうということと、飛んで行った方向があの幼女たちの行った方向と違うこと。
 そのまま魔物がずーーーっと進んでいくことを、その行く様を確認し…『まるで墜落する飛行機みたいだ…』なんて思いながら俺は意識を失った。

 まあ、ここまでやれば何とか…ね。


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