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第114話 豚~牛~竜
しおりを挟むオークはあっさり殲滅された
あの盾は結構反則な武器になったようだ。
まあ、交通事故で死に体だったしな。
「盾は実は武器だった」
それな。
「俺も防具だと思っていたよ」
マーヤさんと意見の一致を見た。
でも考えてみればこの世界。盾ってのは重たいもので、それを重量軽減系のスキルでぶん回している。だけどこれって質量自体が下がるわけじゃないらしい。だから武器といえば武器なんだよな。鈍器。
改めて理解したよ。
さて、前述の通りこれは食べ物ではないので魔石だけを取ってあとは穴を掘って埋めてしまおう。
「こーら」
「おにく」
「それはバッチいからダーメ」
なんて思っていたらラウニーがオークのおなかにかみついていた。
ラウニーにとってはやはりお肉なんだろう。
ラウニーの場合はこのオークの母体が人間でも共食いにはならないしね。
でもそこをネムに見つかって注意されている。
「ぐすっ、おにく…」
「大丈夫よ。ちゃんとお肉持ってきたし、タレも持ってきているから。お昼はお肉ね」
「あい。うし~」
子供の教育はなかなか大変だ。
何が大変って可愛らしさにあらがうのが大変だ。
ちなみに〝うし~〟は〝うれしい〟の意味だと思う。でも持ってきた肉はバイソンの肉なので〝牛〟である可能性もある。
どっちだろうと思ってラウニーを見たらにぱっと笑った。
うん、かわいいからどうでもいいな。
そんなことを思っていたらまた魔物の反応。
「また何か来るわ」
ネムが気付いた。今度は狼の群れだった。
みんなを呼び集めて重力制御点を飛ばして歪曲フィールドを広げて結界にする。中に隠れて攻撃…と思っていたら狼たちはこちらに見向きもせずに逃げていった。
そしたら次に狼のうしろをウサギや鼠が追いかけていく。
逆やんけ。
「何か強力な魔物が出たみたいね…そのせいで中層や浅層の魔物が逃げているんだわ」
なるほどと納得した俺はセンサーを魔力視に切り替えで周辺を眺めてみる。
うん、いるな。かなり強力なやつだ。
強い魔力が遠くに見えた。
「位置的に空を飛んでいるね…でもワイバーンよりも強いかも…」
意識を集中してそれを見ようとするが移動速度が速いのと距離があるのとでうまく照準できない。
「うし~」
いや牛ではないとおも…牛だ。
いつの間にやら目の前にでっかい牛がいた。
俺の張ったフィールドに頭をぐりぐり押し付けている。
アックスバッファローだったな。
■ ■ ■
やっぱり別の所に集中すると抜けが出る。
俺が遠くを見ているうちに同じように逃げてきたのだろうアックスバッファローが目の前にいた。
間の悪いことにどうもこの牛の逃走経路上に俺たちがいたらしい。
俺たちだけならそのまま駆け抜けたのかもしれないがちょうど車が置いてあったからね。
アックスバッファロー肩高2m、全長3m強という巨体なんだけど、車の方が大きいしな。
「敵認定されてる?」
「はい、どうも逃走の邪魔をする敵。という感じじゃないでしょうか…」
つまりパニックになっているわけだ。
『くそー、こいつらなんで俺が逃げんの邪魔すんだよー、死んじゃうじゃんかよー、どけよー』
みたいな感じらしい。
しかしでっかいね。これって工事用の重機みたいな圧迫感だ。
シアさんが盾役の仕事と勇敢に前に出たけど震えている。
「がお~っ」
ラウニーはやる気でファイティングポーズ取ってます。両手を上げる怪獣のポーズだ。
おっ、シアさんが少しリラックスした。
「困ったわ、この相手だとさすがに有効な武器がないかも、ううん、かすり傷でも集中させれば…」
「武器プリーズ」
「やちゅける。がおーっ」
こちらやる気になっている三人です。
そしてマーヤさんが俺の前に出て手を『くれくれ』と動かす。
仕方ないので俺はAUGを置いてやる。
「アサルトライフル?」
「いいえ、ビームライフルです」
危険なので入っているのはただのエネルギーパック。つまり魔力ビーム砲ね。
そしてさすが現代人。マーヤさんはさっと膝をつくと肩に銃を当て、射撃姿勢をとったと思ったら引き金を引く。
たぱぱぱぱぱぱぱぱぱっ
ビームが飛びアックスバッファローの顔が血だらけになった。
目は庇ったようだが鼻にはちょくげき、ものすごく嫌がってる。
そして攻撃は最大の防御とばかりに突進してきて、ずるりと滑った。
歪曲フィールドはかかる力を流して均一化するという力場だ。運動エネルギーはフィールドにぶつかったとたんにフィールドに沿ってずれる。
もちろん運動エネルギーをもった物体も。
その結果盛大にステーンと転んでしまった。
次の瞬間三人が動いた。いや、四人だ。
ラウニーが起き上がろうともがく牛(もうこれでいいや)に向けて両手を上げてべちーんと叩き潰す振りをする。
ラウニーは俺の隣にいるので当然届くはずはないのだが…
ずんっ!!
と牛の身体が沈んだ。
地面にめり込んだ。
おお、これがラウの重力魔法か。
もう一回とばかりに手を上げるラウニーを俺は止める。
「もう十分だよ。えらい」
「やー、う~し」
頭をわしゃわしゃとなでてあげると嬉しそうに笑う。
それを見たネムがメロメロでラウニーに抱き付いている。
一方牛の方もすでに佳境だ。
マーヤさんが牛の顔面目掛けてビームを乱射し、目を鼻をつぶしていく。
そこに駆けつけたシアさんが牛の首に盾を打ち下ろす。
二度三度。
慣性制御の盾を打ち付けて…そして〝ゴキッ〟という音が響いた。
首の骨が折れたようだ。
魔物なのでそれで即死したりはしないけどさすがにこれは決まりだ。
それでも足を振り回し必死の抵抗を続ける牛。
うわっ、しぶとい。魔物は本当にしぶとい生き物なのだ。
脳を破壊するか心臓を破壊するか…首を切りおとせればいいんだけど、そこまでいい武器がない。
やはり武器はもっといいものを用意しないと中層にはいけないな。
あっ、そういえば…
「マーヤさん、銃剣で脳天ぶすっと」
「ん」
マーヤさんが俺の指示に従い後ろ側から回り込んで頭に近づく。横倒しになっているのでこれなら蹴られる心配がない。
頭の角は強力だが首が折れているのでうまく動かせない。
そしてドスッと。
実は現状一番攻撃力があるのがライフルについているバヨネットなんだよね。
ペークシスを固めたものだから無茶苦茶な強度と切れ味を持っている。
理不尽ナイフほどじゃないけどね。
そして頭部に剣が刺さった状態でマーヤさんが引き金を引いた。
ぱぱぱっ
そして今度こそ牛は完全に止まったのだった。
■ ■ ■
「ひょっとしてこの牛が…と思ったんですけど、違うみたいですね」
シアさんは遠くにある強力な魔力反応は見えないのでそういう発想になったようだ。
だがその後ろからさらに狼だの鹿だのウサギだのが逃げてくるからすぐに違うのが分かったのだろう。
問題の魔力反応は特にこっちに興味を示しているわけではなく、周辺の魔物を襲って食べているようだから…今のところ直接的な脅威ではない。
ちょっかいを出してこっちに来られても嫌だから放置で…
なんて思っていたら大概こっち来るんだよね。
魔力反応は荒れ狂いながら徐々にこちらに向かってくる。
やだなあー。
俺はちらりと車を見た。
(時速60kぐらいじゃ…逃げられないか…空を運んだりすると…見つかるかな?)
(おまけに放っておくと町にも影響が出るかも…)
これって俺が何とかする流れ?
「仕方ないか…」
俺は四人にちょっと様子を見てくることを告げた。
「えー、ずるい私も行きたい」
「あい、いく~」
戦闘狂二名。
「いえ、でもここから離れた方がよくないですか?」
慎重は一名。
「知らせるべき。でも詳細は必要」
賛成一名だ。
「まあ、何がいるかわからんから。ちょっと見てくるだけだし、面白い魔物がいるとは限らないよ」
「うーん、それもそうですね」
ネムが折れた。
念のためライフルは置いていこう、シアさんなら問題なく使えるだろうし、家の中にいればそう危険はないだろう。
俺は石の木の家を設置して四人にここで待つように言ってその場を飛び立った。
「面白い魔物? ドラゴンって魔物?」
そう、少し近づいて分かった。
あれはドラゴンだ。
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