The blue moonlight

瀣田 花音

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Chapter.2

open up true mind

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例の一件、所謂、屋敷の火災で二人の尊い命を失うという悲劇があった中で、マルセルはその翌日、陽光の下、自身の記憶を振り返り、今の状況を振り返り、車庫を見た。
 車の燃料用のガソリン缶とライターがそれぞれ一つずつ無かった。
 ガソリンのような揮発性の高い液体を用いての発火であれば、再現に関して不可能では無いと考えたマルセルは、一瞬だけ、実験として、そこらにそれを振りまいてやってみようと刹那、考えたが、そこらには草木があった。それらは生きている。そう考えて、自分の身勝手なエゴで命を奪うだなんて真似はしたくなかったが故に、何もしなかった。出来なかった。
 そして、誰がこれをやったのか。
 マルセルの中で火を放ったという疑いがあった人物は一人。でも、周囲の人間には言えなかった。
 我慢を解きたい気持ちはあったものの、これだけは何があっても言葉にしてはならなかった。だから、その思いが涙という形で溢れてしまった。でも、どれだけ泣いても、今までの時など戻ってこない。
 自分が得ていた幸せというものが単なるエゴに過ぎなかった、という後悔が、事が起こってからようやく実感した。
 そして、一つ。マルセルには別の不安があった。この日の屋敷には家族以外に、もう一人の人間がいた、という事を。その人物が同じ事を考えていないか、これが彼の心境に闇をもたらした。
 仕事の都合で、マルセルの双子の妹にあたるサリエラ・ローズ・ルインツエイラを家に呼び込んでいて、それが今傍にいる。
 彼女も家事の一件で放心気味ではあったものの何かしら勘ぐっているかもしれない、というマルセルの疑いが晴れる事はなく、その不安は静かに拡大し続けた。


※ ※ ※


 とても静かな昼下がり。ライゼルカとエルゼイクはフィーヴァの街に、避難という形で再び戻ってきた。勿論、宿は結婚式の時に用いていた別荘なのだが、事情も事情だからか、これまでの意気揚々とした雰囲気は一切ない。
 人は多いのに、人の声すら聞こえない。所謂、自分という存在が小さく感じて、人を物として認識しながらも、それに怯えてエルゼイクは、それでも自身の感情を抑えながら、食品の買い出しに出ていた。
 美味しいものというものは舌で味わうものだけれど、エルゼイクには見て味わうという素養が備わっていた。これは彼女自身にだけあった能力、のようなもの。
 自身の心境のせいで息が詰まっていても、これは十二分に発揮されていた。だから、食材は迷わない。

 総てはライゼルカの為の行いに過ぎなかった。

 あれからというものの、マルセルの指示、及び、気遣いでここへやってきたものの、ライゼルカは食事を一切、とはいかないが、若者が取らねばいけない食事の量は取るに足りないという言葉に相応しい程に、取っていなかった。
 気付けば独り言を呟いて、気付けば唸って、気付けば叫んで、そして押し黙る。そんな時間のやり過ごしが日々続いていた。
 だからこそ、エルゼイクは、そんなライゼルカを元気付ける為に食材選びに奮闘していたのだが、上手くいく日は今もやって来ない。
 今やドアに背を預けて、膝を折って座っているうちに、食事が届くだなんて毎日に、ライゼルカは、

『食べ物だよ。食べないの?』
「いいの。なんか食べたくないの」
 こうやって、食事を拒否する日々が続いていた。その所為でライゼルカはどんどんと痩せて細っていった。

『そう言っても、どこかで食べるくせに』
「今は食べたくないの」
『なら、なんで食べる時に口が震えているの?』
「………………知らない」

 ライゼルカは火事の一件で、自分の事を酷く卑下していた。
 それもその筈、自分が心のどこかであの屋敷を破壊したかった願望があったからだが、これを見抜いたムーンライトが、まさか実行に移した上で、彼女にとって今後必要の無い二人―――レイラとマイケルの存在を都合良く消してしまった事と、その”都合良く”というものが自分自身に備わっている思想と乖離していた所為で余計に、心を暗闇の中に沈める結果となった。何より、命が無くなる事をどこかで望んでしまっていた事が全てであった。
 故に、総ての生き物の中で自分自身が最も最下層のカーストに位置していると認識してしまい、食べる事が生き物の命を奪う事、と定義して食事をしている彼女にとって、今の食事という行為を強く恥じていた。
 それでも、生きていたいのが命の欲望。だから、自然に手が動く。
 エルゼイクが集めた食材で作ったサンドイッチを食べる。
 いやいや食べる。

 そして――――――泣く。

 なんでこんなに美味な物を私に提供してくれるのだろうと、懐疑と感謝に心が溢れて涙となって形に出てしまう。美味しいのに、美味しいのに、美味しいのに、美味しいと思いたくない。美味しいと思ってはいけない。だって、命だから。端的に言えば、レイラとマイケルも命だったから。
『何も考えなくてもいいんだよ』
「………うっ、うえぇっ、ぐすっ、ぐずずぅっ………」
 よだれが食べ物を汚す。生き物だった物を口が汚す。食べ物になってしまった生き物なんて、痛みなんてきっとないのに、そこまで考えてしまいながら、涙を流して命を繋ぐ。
 吐き出したくても吐き出せない、それが食事。
 それが、生存。

 火事の一件は家庭だけには収まらず、世間でも大きな注目の的となったが故に、ライゼルカはともかくとして、エルゼイクも学校へ行くことは出来なくなった。
 友達を心配させていないか、とか、次はいつ学校へ行けるのだろうか、姉はいつ元気を取り戻してくれるのだろうか、等、フィーヴァに来たばかりの頃は不安で胸が苦しかった。
 父親も国内の新聞社を駆け巡って事態のもみ消しを図っていた故に、エルゼイクは独りであった。
 勿論、周りに人はいるけれど、同じ状況に置かれている人間は彼女以外いない。人に自分の事を話したい一心だったが、父やライゼルカの事を考えると話す訳にはいかなかった。そういう孤独であった。
 でも、寂しくはなかった。
 今こそが心豊かであった。何故かは解らないけれど、自分の中で、満たされていく何かが、そこにはあって、誰もが解らない。
 全ては、全てを失ったと思い込んでいるライゼルカの為。そして、自分の将来の為の行動を知らず知らずに取っていた。
 だから、あんな事があったにも関わらず、心豊かな笑みは今も誰にでも振りまいていた。邪気は一切無い。本物の笑み。
 いつか、自分が報われる事を信じて、行動を続けていた。今まで人に任せっぱなしで慣れない家事も買い物も全て一人でやっていた。
 最初こそ沢山悩んだが、今は慣れて自分の能力の高まりやその自覚を得た頃、彼女にとって想定外の幸福が起きた。
 買い物に行く前に、水分の補給を忘れていたエルゼイクだったが、そのまま自分のせっかちに任せて外へ出てしまって喉が渇いてしまったある昼下がり、頭が朦朧として、このままではいけないと身体が感じ取って辺りに飲食店が無いか見渡した。
 その時は正直、あまりの水分不足に思考なんて全く回っていなかったが、まさに適当という言葉に相応しい場所にたどり着いて、ため息を一つついて、ハンカチで汗を拭いながら、その飲食店の席に座った。
 そこは喫茶店であった。景色の見渡しもそんなに良いとは言えないけれど、雰囲気だけは独特で纏まっていた事もあり、エルゼイクはすんなりと落ち着きを取り戻せていた、が。奇妙な事態にも同じ時をして出くわした。
「いらっしゃいませ。ご注文は、いかがなさいますか」
 一人の女性店員がエルゼイクに話しかけるが、これを見て、その時は口をぽかんと開けざるを得なかった。
 その女性店員の姿形と来たらライゼルカそっくりとしかいいようがなかった。ほくろの位置こそ違えど、顔のパーツやその配置、輪郭から何から何まで同一と察せられる程似通っていた。
 とは言っても、かつての、ではあるが。
「ええと、ダージリンティー………と、えーとサンドイッチ」
「当店にはサンドイッチの種類にもいくつかございまして」
 店員が申し訳なさそうに告げると、エルゼイクははっと我に返り、今までずっとメニューではなく彼女の顔だけを見ていたのを自覚して、慌てて注文を取り直す。
「エビとレタスとトマトのサンドイッチで!」
 ライゼルカ似の店員がにっこりと笑うと、「かしこまりました」と一言告げてその場を去った。
 エルゼイクはそれを見て、過去を振り返ってしまった。
 何事もなく今までの生活を送ってあげられれば―――と。
 再び、こちらに注文通りの品を届けた際に、その後悔が一気にぶり返した。
「―――あ、あの、今日どこかで会えませんか?」
「ん?」
 そのライゼルカ似の店員は料理を届け終えた後に、不思議そうな表情だけはそのまま、エルゼイクに笑みだけ振りまいてその場を去った。そして、頼んだ物の伝票を届ける際に自分の意見を裏に書き記していた。

『今夜の七時にあがるよ』

 エルゼイクはそれを見て、七時までの自身の行動を逆算して、自分のスケジュールを本能的に組んだ。

 ここには大切な物なんて無いのだけれど、将来や憧れの為に、エルゼイクは相手に対して期待に応えるようと、今日行ったカフェの裏で待っていた。
 少し肌寒かったので、一旦家に戻ってコートを取ってきてからここへ来ていたが、七時という指定の時間から暫く待たされた。
 そこらの土から生えている草木を眺めて待っていると、ようやくライゼルカに似た女性が現れた。
「お待たせ。何か私に用があるみたいだから来たけれど、どうかしたの?」
 エルゼイクはその女性を改めて見つめると同じ顔をしているなぁ、と再認識した。
「ずっと見つめてばっかじゃ何で呼ばれた―――」
「あ、ごめんなさい! 少し用があって、というか、なんというか」
「ふぅむ。でも、君には何か私に対して思う事があったから、呼んだんでしょ? じゃあ、言葉にしないと私も何でここに来たのかわかんなくなっちゃうよ」
「………うーん、すみません。上手く言葉に出来なくて」
 エルゼイクは自身がルインツエイラの人間である事が頭の中で邪魔をして上手く言葉が紡ぎ出せなかった。それもその筈、今世間を賑わせているのは自分自身の身に起きてしまった事であるが故。
「じゃあ、今日は帰るね。ふふっ、でもなんか君、面白い。昔の私を見ているみたい」
「えぇ、あ―――」
「私の名前はキャサリン。キャサリン・ミント。私が仕事ある日の終わり、この時間にいつも来る事にするから、君は君の来たいタイミングでおいで。私、逃げないから。
 あと、二つ助言。私に嘘をついてもいい。でも、私は嘘を看破するのが得意みたいだから、あんまり言わない方が得策かも。そしてもう一つ。私は人の内緒話は他の人に黙っていられるタイプだから。
 それじゃ」
 キャサリンはそう言うと、暗闇の中に消えて行った。
 エルゼイクは申し訳なさを覚えながらも、姉とはまた違う自信に溢れた女性の姿に安心感を覚えて、帰路についた。
 次の日、キャサリンは店にはいなかった。その次の日も。エルゼイクは少し不安を覚えながらも迎えた次の日の夜、彼女は街灯背を預け、照らされながら本を読んでいた。
「―――あ、あの、こん………ばんは」
「あ、来てくれたんだ。昨日と一昨日はごめんね。二日間も休み貰っちゃってたから、少し遠くへ旅行してたんだ」
「あ、いえ、謝られるだなんてとんでもない」
「ふっ、礼儀正しいね、君。もしかして、結構お金持ちの子―――だったりして」
 言われてきゅっと胸が閉まる思いをしたエルゼイクは言った。
「うわっ、いや、そんなことは―――」
 そんな彼女の姿を見てキャサリンは笑顔で返す。
「ふふっ、解りやすいね、君。大丈夫、私もそこそこ親がお金持ちだったから気持ちは分かるよ」
「………………やっぱり隠し事はできないみたいですね。ええ、私はそこらの人よりかは恵まれた生活を送っている自覚はあります」
「でも、何故かここにいる。ここに住んでいる。ここって、観光地としては有名だけれど、お金を欲しがる人―――所謂、お金に余裕のない人が住む街でもあるけれど、君は見るからに若い。若いのに言葉遣いが極めて丁寧。なのに、ここに住んでいる。なんかあったのかな?」
「また、返し辛い質問ですね。言いません」
「でもそのうち言うでしょ?」
「今日は言いません」
「ふふふっ、あはは。君ってほんっとうに私に似てる」
「今日は帰ります」
 頬を膨らした顔つきでぷいっとキャサリンから首を背けるエルゼイク。
「あ、あれ、ちょっと―――」
「また来ます」
 エルゼイクは振り返ったまま、その言葉だけは信じて自身の帰路を辿った。
 それを見ながら、キャサリンは「ほんっとうに私に似てる」と、独り言を呟いて、こちらも帰路を辿った。
 キャサリンにとって、このやりとりは少し寂しくて、でもなんだか暖かい不思議な感覚であった。

 明くる日もエルゼイクは同じ場所にやってきた。ライゼルカの件で少し苛立ちみたいな感情も交えつつ、相手の気遣いを裏切ってはいけないという教えのため、そして自分のために、ここへ足を運んだ。勿論、用らしい用は無かったが、何かあるかもしれない、相手に無礼を働いてはいけないと思ってここへやってきた。勿論、最低限の社交的な装いは自身に施している。
「こんばんは。先日は失礼な事を言って―――」
「いいのよ。君、見てるとこっちの成長にも繋がるから」
「―――と、言うと?」
「なんでもないの。で、今日は話題というものを持ってきているのかな?」
「持ってきて、というか、なんというか………―――その、少し場所を変えませんか?」
「ええ」
 そう言ってエルゼイクはある場所へ案内を促した。それも自身の今の住処であった。ルインツエイラの別荘。
 一見、普通の一軒家だが、要所要所にルインツエイラという名家を誇示せんとする装飾が施されていた。
 勿論、キャサリンは何も知らないまま、ああ、この子本当に育ちが良いんだ、と思いながら客間に案内された。エルゼイクが「座ってもいいですよ」と言って、その言葉通りに背もたれに花の形で象られた椅子に座っても、この貴族的な緊張感は解かれない。
「ところで、なんの用かな」
 キャサリン自体このような経験は初めてだった。だから、言葉が少しだけ震えた。ほんの少しだけ。
 エルゼイクはそんな事を耳にしているのを察しながら、自分の中で彼女が何を言おうか、というものを整理して、受け取って、やがて、発した。
「今、ここで話します。私という存在を。そして、私の置かれている立場を」

 そして、エルゼイクは自分が背負わされてしまったものの全てを話した。キャサリンは何も言わなかった。ただ、聞いていただけ。
 不安の中で揺れ動くエルゼイクの感情というものは、キャサリンがぼんやりと察していた世界を動かしかねない力がある、というものと類似していて、口を開くに戸惑いがあった。何故なら、同じような経験があったから。
 だからといって暗い感情に浸り続ける訳ではなく、必死に語った。ここにライゼルカという傷を背負った少女の心の傷を抉りながら話した。
 でも、キャサリンは何も言わなかった。

 それがエルゼイクの友情の始まりだった。そして、ライゼルカの自我の終わりも始まった。


※ ※ ※


 家を焼かれてからのマルセルの日常と言えば、そこらで蔓延る噂の数々のもみ消し、所謂、別の意味での火消しという行動であった。
 かねてよりルインツエイラという家系はそれなりに、国民に名の通っているが故に、本家の屋敷が火事になったという出来事は他者に関心を集めやすく、今もかなりの噂になっている。
 また、この件に関していえば、自分自身とその家族が容疑者となり得る可能性も秘めていたので、マルセルとしてはその部分を覆い隠しておきたかった。
 それも歴史あるルインツエイラ家のため。そして、家族のため。

 アルデラント北東部に位置しているバネッサという港町まで足を運んだマルセルはフォート社と呼ばれる新聞社へ訪れていた。この辺は国内でもかなり経済が栄えており、いつも人がごった返していた。地図を見ても人の流れに流されれば自分がどこに行ってしまったのかも見失う位に人の流れが速い街でもあった。
 マルセルは顔をしかめながら、黒いスーツと黒いハットを深く被り、車に乗ってそこから降りて、歩いて人の流れを上手くかいくぐって来たわけだが、目的地に到達した頃には体力をかなり消耗してしまっており、自身の衰えを痛感したが、立ち止まる訳にもいかない。
「失礼」
 顔つきを、仕事をしている時と同じく、きりっと眉をつり上げる位の鋭い目つきに変えて、ドアを二回ノックすると、マルセルより頭一つ分小さい背丈の老人がドアから飛び出してきた。そして、マルセルの顔を見るなり、慌ててお辞儀をしてフォート社の建物へ招き入れた。
「あ、あのう、ルインツエイラ様。だ、大丈夫―――」
「大丈夫だ。それに人と会うときは最初に挨拶をしなさい」
「あ、すみません。ご機嫌よう」
「ご機嫌よう」
 革靴と大理石の床がかち合う音がこつこつと響くこの大きな建物の中で、今のマルセルの姿と来たら、仕事中の周囲の人間の注目を浴びる程の存在でもあった。勿論彼はありとあらゆる視線など一切気にせずに、自分が行くべき方向へ、行かねばならぬ方向へとまごうことなく足を進めて、とりわけ仲の良い―――というより仲の良かった、新聞の編集長のいる部屋の扉の前までやってきて、ノックを2回した。すると、「どうぞ」の声が返ってきた瞬間に、扉を開けたマルセルは相手の「かけてくだい」の声なんか聞かずに室内にあった皮のソファに尻を預けた。
「――――誰かと思えばルインツエイラ公ではありませんか。もしよろしければ、うちの社長をお呼びしましょうか?」
「話は通っているのか。ならこちらも話が早い。さっさと出せ」
「承知しました」
 マルセルがそう言うと、編集長は部屋を出た。貧乏揺すりをしながら待っているとフォート社の社長のレオがウィスキーの瓶を片手に、葉巻を咥えて陽気にマルセルに手を振りながらやってきた。
「よお、マルセル。そんな深刻そうな顔をして。家でも燃えたのか?」
「意地の悪い。家は燃えましたが、そういう話をしに来たわけではありません」
「なら、なんの用で来たんだ。売れっ子新聞社フォートの長である俺に」
「ある一件に関して沈黙を貫いて欲しいのです」
「ほお、どういうもんだい。それは」
「この火事の一件について、とある子が容疑者にあがっているのではないのか、と。そして、その子が記事にあがってしまうのではないか、と」
「それは考えすぎだよ、マルセルくん」
「考えすぎるくらいじゃないと、今回の件は―――」
「お前は本当に気付かないんだな。というより、気付けないんだな」
「―――なんだいきなり」
「お前がここへ来る前にここに来たルインツエイラの人間がいる」
「―――………詳しく聞かせろ」
「いくら出せる?」
 そう問われるとマルセルは懐から小切手を取り出した。それを見たレオがペンをテーブルに置くと、黙ってマルセルはそれを取って、小切手に金額を書き記した。
「これでどうだ」
「………ほう、解ってるね。君が今右腕に身につけている腕時計分の金額だ。そこらの庶民が人生で稼ぐ金額の何倍もの価値のある腕時計のね」
「いいから早くしろ」
「―――昔から君はせっかちだな。いいだろう。
 はじめに言っておくが、今後出回るであろう記事の揉み消しはできない。要は君より先にここへ来たルインツエイラの人間というのは君の妹のサリエラだ。君は俺よりも彼女を知っているだろうが、サリエラは君よりも他者に潔白を求める人間だ。その上、ルインツエイラの家柄を重んじている人物でもある。だから、容疑者たり得る人物を知っているし憎んでいる。名をライゼルカ=フリージア=ルインツエイラというが」
「――――――っ!?」
「話はここからだ。これを既に他の新聞社やラジオ局に売ってしてしまったものだから、今後ルインツエイラの分家が取る行動に関していえば、その容疑者そのものの存在を抹消する事だろうな。その名のために。そして、その資産の為に。
 だから、敢えて言っておく。お前が自分を守りたいのであれば、この場にいて不幸を演ずる事だ。どうせ、娘の一人―――」
 マルセルは咄嗟に扉を開けて新聞社を出た。行き交う人々をなぎ倒す勢いで自動車に乗ると、タイヤを自分達の娘のいるところへと向かわせんが為にエンジンを回してこの場を去った。
 

※ ※ ※


 生きていたくないと、生きていたいの葛藤の最中にいるライゼルカ。傍にはいつも、指の間を蛇のように這うムーンライトがいた。
 時に彼女に対して、世の中の疑問を問いかけて、対して捻くれた返答をする時間が続いた。

『どうして世の中の人間は、上の人間の奴隷でありながらも、喜びを謳うの?』
「………それはね、愛があるからだって。私は知らない」
『え、知ってるじゃん。君も何かを失ったから、今こうしてうなだれて―――』
「ええ、そうね。うなだれているわね。何もかも失って、自分の歪んだ希望も叶って、後悔して、そうして引きこもりになってる」
『君らしいね』
 こうして花と会話しているライゼルカだったが、たまに息をする事を忘れるくらいには疲弊していた。生きてなんかいなくないのに、生き物としての自分がそれを自覚させてきたのだ。
「なんでこうなっちゃったんだろう」
『そんな事なんか考えなくてもいいよ。僕は君が君でいてくれる事の方が嬉しいから』
「それはどうも。でもね、考えちゃうの。色々考え過ぎちゃうのが私なの」
『知ってる。でも、沢山考えた分だけ人間って幸せになれるんだと思う。僕は植物だから、花だから、君を励ましたり慰める事しか出来ないけれど、人間は他人を一歩先へ進ませてくれる才があるから、また前向きになって欲しいんだ』
「それは無理よ。私には自信が無いの。無くなっちゃったの」
『顔に傷を負ってしまったから?』
「きっかけよ、そんなの。思ってはいけないことを心の底から願ってしまったから。そして、叶ってしまった事に喜びを感じてしまったから。さっきも言った」
『それくらい誰にでもあるよ。きっと。破滅的な願望っていうのは』
「貴方には願いというものがあるの?」
『勿論あるよ。でもね、僕は植物だから、君の言う破滅的な願望という概念そのものが人とは違うと思うんだ』
「例えば?」
『世界を愛する事』
「何言っているのか全然解らない」
『なら、教えるよ。こっちに来て』
 ムーンライトはカーテンで光を遮られた部屋の窓際まで登って、太陽の光を浴びにいったのかと思えば、そのまま―――
「あ」
 ライゼルカが言葉を発した時には既に遅かった。なんと、ムーンライトは部屋の外へ自分の身を投げてしまったのだ。
 エルゼイクも外出していて、唯一の話相手であった彼がいなくなるのがライゼルカにとって強烈な寂しさを植え付けたのか、顔を隠すためだけにスカーフを頭に巻いて急いでドアを開けて外へ出た。
 久しぶりの太陽の光が目を眩ませるも、下を見て必死にムーンライトの姿を目でくまなく探していた。社会を絶ち過ぎていたせいで、今まで培ってきたマナーや礼儀を弁えない、人間という名の獣のような動きで。
 四つん這いになって地面だけ見て、必死にその姿を追っていると―――こつん、とライゼルカの頭に何かが当たった。正面を向けば立っている人の足だ。
「あ、あ、あ、すみま、せん」
 謝罪をしたい一心で、上を見上げたかったが、顔の傷を晒すのはたやすい事では無く、頭に巻いたスカーフと一緒に自分の長い髪を顔に巻き付ける形でチラリとぶつかった相手の顔を、自分で遮蔽した視界の中に収めると、見覚えのある男性の姿があった。
「これかい? 君が探していた物は」
 声も聞き覚えがあった。
 レベッカの結婚式の時に偶然ぶつかってしまった男性だった。ライゼルカはその男性の名前も覚えていた。
「あ、ありがとうございます。ジェインさん」
 と、一言告げて、手のひらに差し出された一輪の花を貰うと、そそくさと自分が住んでいた別荘へ引き返した。
「どうかしたのか、ジェイン。あんな気味の悪そうな女にでも気があるのか? と、いうかなんであいつ、お前の名前知ってるんだ?」
 ジェインと並んで歩いていた、同じくらいの背丈の男が彼に問うた。
「気とかはそう言うのでは無いけれど、僕も何かその人を知っている気が、いや、顔はよく見えなかった。でも、声は聞き覚えがあるなって。それだけだよ」
「お前も本当に変わってるよな」
「目があんまり良くないからね。なんでここにいられているのか自分でも不思議だけど、僕にはそういう運があるんだと思う」
「お前って本当に……… やっぱいいや、言わない」
「なんでさ」
「そういう優しさだよ」

 慌てて逃げるようにその場を去ったライゼルカはすぐに別荘の自室に引きこもって蹲った。
 そして手のひらに握られた、ジェインから受け取った花をもう一度見返すと、先ほどまでの動くムーンライトの姿に戻っていた。
『びっくりした? 普通の花の姿にも戻れるんだよ』
「びっくりとか、そういうのはない」
『じゃあ、君の気になっていた人にもう一度会えた時の気持ちは何?』
「………そういうのは聞かないで」
『嬉しかったんでしょう?』
 ライゼルカはムーンライトという生き物を殺す勢いで思い切り握り締めて、
「嬉しくなんかないわよ! 最悪よ!」
 まだ昼間の、外は活気に溢れかえっている部屋の中に怒号を鳴らすと、刹那、静寂が一辺を包んだ。キーンとした残響が周辺を包み込む。ライゼルカには、残酷にも孤独を映していた。
 そして、暫く、一時間ほどの静寂が訪れて。

『そう、君の事がなんか少し解った気がするよ。うん、君が悪いんじゃない。誰も、悪くないよ』

 ムーンライトが呟いた。

 まだ昼間だというのに、陽光をカーテンに遮られたこの部屋の空気は夜そのものだった。


※ ※ ※


 エルゼイクはいつもキャサリンとの密会を続けていた。
 いつも時は夜間で、季節も相まって、時には街灯に虫が這ったりもしたが、そんなことも気にとめる事もなく延々と話していられる間柄となった今では、〝蛍ってなんで頭とお尻を入れ替えないのかしらね〟等という冗談を言い合える仲にもなり、ついには―――
「お待たせ、エルゼイクちゃん」
「私も今来た所です」
 休みの日に予定を合わせて遊びに行くようにもなった。
 実際の所、エルゼイクはキャサリンを三十分ほど待っていたが、それも社交的な挨拶の一つ。
 キャサリンが遅れた理由も、エルゼイクからすれば一目瞭然だった。とても綺麗な格好をしていたからだ。深紅の口紅に、真珠に近い色の白粉。気合いを入れていたから。それに服装や装飾品にも拘っていたのか、自然的であった。そこに関心が行った。
 化粧や服装を選ぶのに時間がかかったのだろう、と考えて、敢えて尋ねてみると―――
「お洒落ですね。結構考えてこちらと?」
「いや、格好なんていつも適当だけど。それがどうかした?」
「いえ、なんでも」
 遅れた理由を聞き出したかったが、エルゼイクが想定していたものと違った返答が来た事もあって、口を閉ざした。
「ま、ちょっとは悩むよ? だって相手はエルゼイクちゃんだもん。人に合わせて服装を変えるのは社会のマナーの一つなんだから」
「私は……… いえ、なんでもありません。行きましょう」
 気を遣ってもらう事を恥じらう性格のせいか、再び言葉選びに時間がかかったエルゼイクだったが、相手は自分より生きている大人だから、それに従うだけ。
「変わってる」
「そのうち分かるわよ」
 ここにいる今のエルゼイクが彼女の全てでないと思ってキャサリンは言った。

 しかしながら、互いの関係に恥じらいを必要とする間柄でも無くなっていた事もあって、動向そのものは恙なく、楽しく、そして麗しいものであった。2人の素っ気ない素振りそのものが人を振り向かせ、関心を与え、時に笑みをももたらした。
 明るい日差しのお陰なのだろうか。それともこの街がもたらしている陽気のせいだのだろうか。
 海辺の方へやってきた2人は並んでる屋台を眺めつつ、昼食を摂る場所を探していた。2人の好きな食べ物は被っている訳でもなかったが、互いに嫌いな食べ物も無かったが故に、とても会話の展開はたやすいものだった。
「私はパインを使った料理がいいなぁって思います」
「冷やしパイン?」
「そんな簡素なものは食べません。昼ご飯を食べるんですよ? カムイの伝統料理とか色々あるでしょう?」
「あったとしても、屋台にはならんでないかな」
「じゃあ私が作ります。家も近いので」
「はは、なんかほんっとうに昔の私みたい」
「いつも、それ言ってますよね。そんなに似てます?」
「ほら、この前言ったでしょう? 私も割とお金持ちの家系だったって。んで、周りとの接し方にすっごい悩んでたの。今の貴方がその頃の私そっくりなのよ」
 ぶすっとした顔でキャサリンを睨むエルゼイクだったが、彼女の視点からはどこからどう見ても似つかわしくない大人の女性そのものだった。自分の自信の無さがが未だどこかにあったエルゼイクは惨めな気持ちを覚えつつも、キャサリンにも色々あってここにいるんだな、と察しつつ言葉には敢えてしなかった。
 結局、色々話し込んで、どういうわけかそこらにあったチリソースの屋台で食を済ませる事になった訳だが、日差しが強いのになんでこれを選んだのだろうと、互いにおかしくて笑い合った。

 ここは笑顔が絶えない街。
 誰もが不幸を知らぬように出来ているような、活気に溢れた街。活気で己の不幸を掻き消せる街。消したものを本当に無かったものになくしてしまえる街。
 ずっと二人きりで笑い合っていられたのもこの街ならではの空気感が生み出したものかもと思えば、それに越した事はないのだけれど、笑顔が無くなる頃合いという物はいつもどこかで、必ず訪れてしまう。
「………エルゼイク? と、ライゼルカ―――いや、違う」
 名前を呼ばれて振り返ったエルゼイクの視線の先に居たのは叔母のサリエラであった。火事当日に屋敷に居合わせた人間の一人であった事から、エルゼイクは彼女を畏怖していた。
「………………おばさま。どうも」
 上手く言葉を紡ぐ事が出来ず、軽い返答をする。
「ごきげんよう―――その」
 次にサリエラはキャサリンに向かって挨拶。
「こ、こんにちは」
 こちらも状況の把握が出来ていないので、困惑気味に挨拶をした。横目で見たエルゼイクの表情の曇り方が今までに見たこと無いものだった事も起因している。
「ごきげんよう。エルゼイクのお友達さん。私の姪にとても似ていて近親感がありますね。ところでエルゼイク、ライゼルカはどうしているの?」
「え、あ、あの………」
「今のあの子は一人じゃ生きてはいけない。どうせ、貴方が何かしらしているのでしょう。その場所を教えて頂戴」
 サリエラとはいえ、ルインツエイラが所有している別荘の全てを把握している訳ではなく、この街に別荘があるだなんて事も勿論知らない。だが、エルゼイクが曖昧な返答を繰り返す事で疑いというものは深くなっていく一方である。
 エルゼイクとしては、傍から見れば怠け者かつ心の弱い人間であるライゼルカの事を言いたくはなかったが、言わざるを得ない状況であるのは明確。
「やめて頂けますか?」
 この不気味な緊張感に包まれた中で口を開いたのはキャサリンだった。
 普段から威圧感などというものを一切放つ事なんてなかった彼女の発言にエルゼイクですら萎縮した。
「なによ。あなた、部外者で―――」
「見て分からないの? この子嫌がってる。私はこの子の事を知っているから言えるけれど、これ以上問い詰めないほしいの。私はこの子の笑っている姿が好きだから」
「―――部外者のくせに」
「す、すみません、おばさま」
「いい。あなたにも、この女にも関係の無い事話そうとしてたから」
 そう言ってサリエラは去って行った。彼女の姿が見えなくなるのを確認すると、キャサリンはほっと一息吐いて、エルゼイクの頭を撫でた。
「大丈夫?」
「………すみません、あんなこと言わせてしまって」
「言ったのは私だから大丈夫よ。それより貴方の方が心配。大丈夫なの? 叔母さんなんでしょ?」
「ええ、まぁ。少し気まずくて」
「これ以上は追求しないけれど、でも、そのうちなんとかなるわよ。貴方ならなんとか出来るはずだから」
 相手がまだ思春期の少女である事を鑑み、どうせすぐには気持ちがあがらないだろうと考えたキャサリンが選んだ言葉は曖昧なものだったが、エルゼイクの心の琴線には触れなかった。
 しかしながら、すっかりと暗い雰囲気に包まれてしまった。
 空はまだ明るいのに。雲が太陽に隠れる風の流れはないのに、気持ちが曇っているエルゼイクにキャサリンは敢えて言葉をエルゼイクにかけなかった。
 それでも、彼女は言った。
「よければお姉ちゃんに会ってあげてください。あの人は顔を見せないだろうけれど」
「いいの? というより、ライゼルカちゃん的には大丈夫なの?」
「解らないけれど、今はそうした方がいい気がするんです」
 エルゼイク自身も何故こう言ってしまったのか、明確な理由はなかった。でも、エルゼイクなりの合理が直感として発言に至ってしまった事に彼女が彼女の発言を取り消す意味はどこにもない。
 キャサリンもエルゼイクの表情を見て、何かあると察したのだろう。彼女が無言で歩んでいく足取りを辿って、フィーヴァのルインツエイラの別荘までやってきた。
 エルゼイクがドアを開けて、それに続いてキャサリンも室内に入る訳だが、陽光に煌く埃を気にしつつ、彼女の苦労も垣間見て沈黙を貫いた。
「どうぞ」
「そんなの、いいのに」
 客間に案内されて紅茶を差し出されたキャサリンは言った。
「ルインツエイラの家の人間としての振るまいです。要らないならそのままでかまいません」
「じゃあ、林檎も頂けるかな」
 キャサリンがいたずらっぽく言うと、キッチンのバスケットに入っていた林檎を六つに切って、剥いて、皿に盛り付けて、客間のテーブルに置いた。勿論フォークも用意して。
「私は貴方の言うこと全部聞くようにしてるので、あんまり変な事言わないでくださいね」
「知ってるよ。君が私に優しい人間だってのは。でも、優しさは弱さの裏返しだから、とは言っておくよ」
「私と似てちょっと嫌みったらしいかも」
 エルゼイクから差し出されたものは全て頂いたキャサリンだったが、呼ばれた理由は食べ物飲み物を頂くだけではないのは彼女も自覚している。
「そろそろいいかな」
「すみません。ちょっと自信がなくて」
「今はあなたの自信じゃなくて、ライゼルカちゃんの自信の方が大事。私も私で私の時間が欲しいから、手短に済ませたいなって思うんだ」
「………すみません」
「あと、謝ってばっかだと気が滅入るよ。感謝する方向へ持ってかないと」
「もしかして、キャサリンさんって性格悪い?」
「相当悪いかも」
「悪くても、話してくれるならいいです」
「どうも」
 エルゼイクにそう言われて若干の心労をため込んだキャサリンだったが、案内された所には向かった。
 ライゼルカの部屋のドアの前。
 何を言うべきかはキャサリンにはまだ解らなかったけれど、それでも言葉を発した。産んだ。

「こんばんは。初めまして。
 私は君の妹の友達をさせてもらってるキャサリン。君の事はエルゼイクちゃんからよく聞いてる。とても賢くて、優しくて、それで、今は悩んでる子なんだって。だかこら引きこもってるんだって。
 今の君の事に関してこちらから言える事なんて何も無いし、何も問わない。
 でも、ライゼルカちゃん。あ、ごめんね、妹から勝手に名前聞いちゃって。
 君の、君の周りも、あらゆる事があって、あらゆる事が因果になって、それが行動として世の中って動いていくの。人によってトリガーの種類は、幼少期の体験で変わるみたいだけれど、でも、エルゼイクちゃんのお話を聞いている限り君は世界を変えられる力を持っていると思うんだ。
 うん、この言葉に嘘偽りはないね。
 もし世の中や世間に不満があるなら、身の回りの全てを使ってでも、自分という存在を誇示して欲しい
 君が今引きこもっている理由は、きっと、君の優しさがそうさせてるからだと思うから
 それじゃ、元気で居てね」

 キャサリンにとって、これは独り言ではあった。
 ただ、ライゼルカにとってはこれがとても大きな原動力となっていた。

 世間が期待している物とは全く別の意味合いで、であるが。

 
 
※ ※ ※


 賑やかで暖かな空気感に包まれていたこの街だが、ようやくこの場にたどり着いたマルセルにとっては冷ややかな雰囲気を感じとっていた。今の彼には全ての人間が敵に見えるくらいに、精神が追い込まれていた。きっと、誰もが、ライゼルカが家を燃やしていて、それを隠蔽する為に、動いている親が自分なのだろうと思い込みながら、今も歩いている。
 マルセルの顔自体はそこまで有名ではないが、ルインツエイラと言う名はそれなりに有名ではあったが故に、今の自分の顔を恥じる訳はあった。どこへ行っても居辛さがあった。
 迷いを含んだ足取りでようやく別荘にたどり着くが、部屋に入っても誰もいなかった。
 散らかっていて生活感を感じるところに、マルセルは親ながら安心感を覚えたのの、違和感もあった。

 ライゼルカの姿もそこになかったのだ。

 エルゼイクはともかく今のライゼルカがどこかへ出歩ける状態ではないのはマルセルも把握しているが故か、焦ってどこにいるのか探してもどこにもいない。
 マルセルはこれをよしとせずに、懸命にライゼルカの行方を追うも手がかりなどどこにもなく、何をすればいいのか解らない状態だった。
 ため息を何度も吐いて状況と自身の心境を整えようと努力はするが何も思い浮かぶことは無く、ただ、虚無の時間を過ごすばかり。
 そこで、マルセルは、今現在最も合いたくない人間と遭遇した。
 がちゃり、と別荘の戸が開く音の方へ振り向けば、そこにいたのは自身の妹であるサリエラの存在があった。
「な、なにを」
 咄嗟に口を開いたマルセルに、サリエラは彼の表情を読み取って上手に出られる、と判断し、余裕を持って言った。
「こんな所に別荘があっただなんて、知らなかったわ。なんでも隠すんですね。あなたという人間は、昔から知っていましたけれど」
「………サリエラは何が言いたいんだ?」
「今後のルインツエイラの為に、と思って行動したまでです。ここがルインツエイラの所有物だったら、私も使って良いわよね?」
 マルセルもサリエラの強引な行動の切り口に口を開くことは叶わなかった。
 ただ、無言で首を縦に振ってはみるものの、自分の意思に背いた行動であるのはマルセルも自覚の上であった。
 どうしよう、と模索はし続けるがサリエラには上手く口を開くことは困難であった。
 狙われているのは自分の娘であるから、というものを自覚していたから。
「ちなみに、あなたに危害を加えるつもりはありませんよ、お兄様」
「何をするつもりなんだ?」
「言いません。でも、何となく察しがつくでしょう。
 もう新聞などには誰が屋敷が焼いたのか、という疑いの情報を売りました。警察の捜査も進んでいる事でしょう。今やマイケルという跡取りを失った以上、ルインツエイラの遺産を相続するのはあなたの―――人を殺した疑いがかけられている子供。こうなったら、私だけでなく、あなたもエルゼイクも他の親族にも迷惑がかかるし、かといって世間は真実を望む。起こってしまった事が大きすぎるから余計に、ね。でも、私もルインツエイラを守りたい。だから決めたの」

「―――ライゼルカを消そうとしているのか?」
 
 マルセルの放った言葉にサリエラは何も返す事はなかった。
 今はライゼルカの姿はないものの、ルインツエイラの側近などに見つかれば結果などすぐに解る。
 家の事を思う気持ちとしてはサリエラと同意見だったが、家族として、娘としてはこれを許すべきではなかった。許してはならなかった。
 自分の親としての姿勢を貫かねば、と、別荘を飛び出し、ライゼルカの行きそうな場所をあたってみるが、どこもどこにも人がごった返していた。この中から一人の人間を見つけ出すなど困難を極めるが、マルセルは迷わず人混みに飛び込んだ。
 名前こそ叫ばなかったが、耳と目を澄まして、今の彼女の影を追う。顔に傷があって、髪は洗っていなくて髪がべっとりと、散らかっている女の子の姿を。今の娘の姿を。かつてでは考えられなかった娘の姿を。
 きっと、外に出ているなら目立つだろう、と思い、懸命に探していた。すると、俯いていた見覚えのある少女の姿がそこにはあった。
 エルゼイクだ。ライゼルカよりも少し明るい、金髪に近い髪色を持った少女。見つけるなり人混みを合間縫ってそろそろと寄って、
「どうされたんですか?」
 と、一言かけると、その少女からも返ってきた。
「なんでもありません―――って、え」
 少女がようやくマルセルの顔へ見上げて返した。
「すまない。完全に知らないふりをした訳じゃ無いんだ。エルゼイク。大丈夫だったか?」
 振り返るとエルゼイクの素顔がそこにあった。なんで俯いて泣いていたのかは解らなかった。こんな賑やかな街で、ライゼルカを差し置いて遊んでいたから、のような罪悪感までは感じるような人物ではないのはマルセルも知っている。
「何か資料探しか?」
「いえ、遊んでいただけです」
「では、誰と?」
「………………」
「私です」
 刹那の時を経て現れたのはライゼルカに似た、それでも、ライゼルカではない誰か。礼儀、というか人付き合いという意味合いでは人を惹きつける魅力はあるものの、彼女の気品正しさというものには及ばない人物でもあった。
「キャサリンと申します。エルゼイクちゃんのなんなのですか?」
「………私が、エルゼイクの父です。マルセル―――」
「ここで名乗るとまずいのでここまでで大丈夫です。マルセルさん。あと、エルゼイクちゃんから話は聞いています。そして、口外もしていません」
 キャサリンは周囲に配慮して小さな声でマルセルに囁くと、人気のない街の外れの草木の物陰まで、父娘二人を連れ出した。
 街の喧噪こそは聞こえるものの、三人の小声の会話を聞き取るものなどどこにもいない。それくらいに遠い位置にキャサリンは二人を手を引いて連れて行った。
「すみません、突然こんな所へ連れ出して」
「いや、構わないが、どうして知って―――いや、聞く必要はないか」
 マルセルは心のどこかで、キャサリンという友人がエルゼイクに出来て良かった、と安堵した。
 しかし、見れば見るほどこのキャサリンという少女は自身の娘であるライゼルカに瓜二つだな、とも思った。性格はややフランクだが。
「妹………さんですか。その、人の、目の前の人の親族を悪く言うのもなんですが、とても感情的な方なんですね」
「まぁ、昔からそんなもんだよ。私も変わらないが。だが、今回の件に関して言えば、そのなんというのだろう………」
「愛情、ですか?」
「………………なのかな。この歳になって言えない事があるというのも恥じらう事ではあるのだが」
「どんなに歳をとっても言いたくないことってあると思いますよ。傷なんて誰だってつきたくない。痛みなんて誰も背負いたくない。どこへ行っても、どこに言っても。どうなっても、そのおもいというものは変わらない。通じ合えばいいだけなんです。こういうのって」
「随分、達観な考えを持っているんだな」
「私も作家を目指していましたから。知っていますよ。マルセルさんのこと。色々書いていられましたよね」
「種類とかは何も考えてなかったけどな。うん。ただ、自分が気に障ったものとか、そういったものを深く考えて、執筆する事でいつの間にか形になっていた。いつもそうだった」
「芸術家、みたいですね」
「文芸って言うからな、こういうの」
 キャサリンとしては軽い話で済ませようとしていたが、思いのほか会話が弾んだのか楽しく時間を過ごすことが出来た。だが、マルセルとしてはあまりこのような時間をだらだらと過ごす訳にもいかず、日が暮れる前には戻ろうと思っていた。
「では、そろそろこっちも動く。久々に楽しい会話が出来たよ。ありがとう、キャサリンさん」
 街にもどったマルセルはキャサリンに告げた。
「いえいえ、とんでもありません。娘さんの事、大事にしてあげてくださいね。あと、もし、時間があれば、なんですけど耳寄りの情報をお伝えしておきますね。
 ―――今日の夜だったかな? この街で軍主催のパレードとパーティが開催されるらしいんです。もし正体を隠す事が出来れば気晴らしに参加でも」
「誘って貰って申し訳ないがそんな時間はないな。また、機会があれば」
「ですよね。色んな事で手一杯だとは思いますが、無理はあまりしちゃダメですよ」
「どうも」
「また、遊んでくれますか?」
 エルゼイクがそういうと、キャサリンは「もちろん」と、エルゼイクに一言告げると、振り返って人混みに溶けていった。
「しかし、似てるな。ライゼルカに」
「性格はそこまで似てないけど」
「いや、似てたと思うぞ。根本的な思考の仕方がとても似ている」
「少し話しただけでそこまで解るなんて凄いね」
「作家やってるからな。空想ではあれ、複数の人間を管理するにあたって、人をよく観察する必要がある。
 しかし、すまないな。お前には何もしてやれなくて。看護師か何か目指すんだろう?」
「ううん。いいの。こういうの乗り越えられないと何やっても結局失敗しちゃうし」
「また、落ち着いたら、海外にでも行っていい学校に行って、そこで頑張ろう。この国だけが世界じゃない」
「………ふっ。らしくないね。いつものパパとは違う人みたい」
「今までの自分が父親として間違ってた事にようやく気が付いた。だから、ライゼルカにも落ち着いたら色々話す気でいる。あいつには負担をかけすぎた」
「しかし、お姉ちゃん。どこに行ったんだろう」
「ずっと引きこもっているのが嫌になったんだろう。普段はあんなに塞ぎ込むような奴じゃないからな」
「それもそっか。お父様はこれから何をしにいくの?」
「ちょっとサリエラと話をつけて、そこから色んな所に行く。事態の収束は穏やかであって欲しい。エルゼイクはどうするんだ?」
「私は今のあの人と会いたくないから、海でも見てこようかな。ジュース片手に」
「今のお前には気晴らしもいいのかもな」
 久しぶりの父娘二人の、腹を割っての会話は互いの心に安心感をもたらした。
 二人とも、孤独の寂しさを行動で埋めてきたからか、別れ際は少しだけ寂しさを覚えた。


※ ※ ※


 顔も知らない女の人の声に、ライゼルカは少しだけ希望の光のようなものを見出しつつあったが、それでも、身体は上手く動いてはくれなかった。
 何日もご飯を食べていないせいで、頭は上手く働かないし、動こうと思っても身体が言うことを聞かない。それどころかたまに呼吸をする事すらも忘れてしまう。
 ライゼルカはこの事実に深く後悔した。せめて、もう少し早く心を開いておけば、こんなことにはならなかったはずだ、と。
 再び気を落としたが、そこでムーンライトが語りかけた。
『大丈夫だよ。まだ救いはある。ぼくには算段があるんだ』
「もう何をやっても無駄よ。このまま私は朽ち果てて死んでいくんだわ。水を与えられなかった植物みたいに干からびて死んでいくの」
『ううん。死なないよ。ぼくは永遠の花だから、君がぼくを取り込んで君のからだをサポートすれば、きっと今の体調の不良も治る。それに、君の顔の傷も消せる。今まで通りに戻れるよ』
「あなたはどうなるの?」
『ぼくは君の中で生き続けるよ。消えたりなんてしない』
 それでも、とライゼルカはふとあの火事が起こった夜を振り返った。願ったのは自分だけれど、実行したのは目の前にある花。所謂人殺し。共謀者。それが植え付けられた罪悪感を再確認させた。
「訳分からない事まで起こして、それでも私の所にいて。家族に合わせる顔が無いわ」
『その時は逃げてもいいんだよ』
「それは………分からない。君はなんでそこまで私に尽くしてくれるのか分からない」
『ぼくを見つけてくれたからだよ。それだけでぼくは幸せなんだ』
「………………少し、考えさせて」
 名も知らない女性から貰った元気には応えたい一心だったライゼルカ。きっと、エルゼイクがこの地で、殆ど一人で自分の事と彼女の事をこなしてきた姿が誰かの目に止まってできた人脈なんだろう、と想像しながら、カーテンの隙間からの差す穏やかな月の光を眺めていた。
『外に出たい?』
「出たいけど、顔の傷が突然治っていたら変、よね」
『そういうときは相手を選んで傷を浮き上がらせる事もできるよ』
「仮に、顔の傷が治った後に友達が出来たとして、私の顔の傷の人が偶然居合わせてしまったら?」
『きみならその前に何かしら策を練られるよ。きみが利口なのをぼくは知っている』
「………今は何も思い浮かばないわよ」
『きみは今だけのきみじゃないから。それに、きみには気になるひとがいる。ぼくはきみの幸せを願いたいから。きみは幸せになるべき人間。どうせなら、幸せを選びなよ』
「………幸せ、か。なったことあるのかな。人生で、一度でも」
『幸せだったから、今こうして落ち込めるんでしょう? なら、幸せになれるよ』
 最後に「うん」とそれっきり、ライゼルカは深い眠りについた。少し早い夜の眠りだった。同じ朝を迎えた起床。少し長い眠りだった。

 迎えた次の朝はライゼルカにとってなんとなく気分がよかった。が、頭が回っていないのは事実。
 ここで初めてライゼルカはなんとか立ち上がって部屋の戸を開けた。が、そこには誰も居なかった。でも、ライゼルカは不思議と寂しくは無かった。
 シンクには洗いっぱなしの皿とカップ。キッチンに行けばしまっていない包丁とまな板。そして、部屋の真ん中に位置していたテーブルの上には、いつか食べてくれるだろう、と作り置きされたライゼルカの朝食があった。
『妹さんもいい子だね。君の事諦めなかったんだ』
「ええ、そうね」
 朝食はパン一切れと小さく盛り付けられたサラダ、そして小さめのベーコンエッグ。
 折角作ってくれたのだから、椅子に座って添えてあったフォークでサラダをつつく。サニーレタスにトマトとキャベツと、簡素な食材に、ドレッシングはオリーブオイルとレモン汁、そしてワインビネガーと王道なものだったが、これを食べているうちに何故か涙が溢れてきた。
 ライゼルカにとってエルゼイクといえば、ものの良さを見分ける能力はあったが、料理そのものは不得手だった。それを不器用ながらに毎日頑張って形にしてくれた、という努力を舌で味わった。ベーコンエッグを食べている時も、買ってそのまま添えただけであろうパンを食した時も、彼女の涙ぐましい努力が目にしみた。
 全て食べ終えた後も、体調の改善は見られなかったが、食べたものがすぐに体調に出るわけでは無いのはライゼルカも重々承知だった。だからこそ、ライゼルカは口を開いた。

「………たい。………せでありたい。笑顔になりたい。私も、幸せでいたい。だから、最初は罪の、償いを―――」

『しなくてもいいんだよ。やったのはぼくだから。きみはなにも言っていない』

「………でも、モヤモヤするの。せめて、罪の償いだけでも―――」

『ぼくは、永遠を知っている。ぼくは〝花〟。即ち植物。植物も誰かの命の片鱗を食べて生きている。それは人は殺生と言うけれど、生きる事って誰かの命を奪う事と同じだよ。だから、気にしなくてもいいんだよ。それに罪を感じるきみの優しさはきっと自分を幸せにできる。次を間違えなければいいだけ』

 そう言われ、ライゼルカは暫く黙って長考した。


 ――――――そして。


「では、あなたの提案を、受け入れるわ」

『ありがとう。これで君も、ようやく幸せに………』

 テーブルの上にいたムーンライトはその身体を小さな蛇のようにうねらせ、ライゼルカの腕に纏うように顔の傷の方まで登り詰めた。そして、みるみるうちに顔の傷口に入り込むかと思えば、一体化し、緑色だった茎の部分がライゼルカの頬の色を元のように染め上げていった。痛みもなく、不思議だとおもいつつ、別荘の化粧室の鏡で自分の顔を見つめると、傷口は無くなっていた。
 口角を上げ下げしてちゃんと動くし、表情も自然に、自在に変化させられる。
 ライゼルカ自身も嬉しかったのか、気付けば自然と喜びに溢れた表情になっていた。らしくもない、とむすっとしてみても口角が緩む。
『うれしそうだね』
「嬉しい………んだろうね。私が私を取り戻せて」
『それは良かった。本当に』
 久しぶりにキッチンの小窓から見える景色を見つめて、ようやく外に出られる、と自信を持って、別荘の戸を開ける。
 ふと、部屋を振り返り、エルゼイクを待っていた方がいいのかな、とも思ったが、すぐに帰ってこればいいと考え直して、外に出た。
 久々に浴びた陽光はやや眩しかったが、それでも外に出られたという快感が、なによりも心地良さを物語っていた。
『どう? 久々の空だよ。景色だよ。そして、人だよ』
「人は少しうるさく感じるけれど、産まれて初めて空を綺麗に感じる。少しだけ、散歩しようかな」
『それもいいね』
 喧噪は確かに耳に残るものだったが、僅かに響く風の音、波の音に新鮮さを覚え、足取りも軽かった。見渡す景色も同じ。少し前に訪れたばかりなのにどこか久しく、色そのものについても、懐かしさを感じた。
 少し風が強い日だったのか、浜辺の脇の草木が揺れ動いているその中に、ライゼルカはくしゃくしゃになった薄い緑色の紙を見つけた。少し気になったので拾って広げてみると、
「………軍事パレード―――と、パーティ………」
『軍事パレードといえば、きみの気になっている人は軍服を着て―――』
「ちょっと静かにして」
 今やムーンライトの姿は誰にも視認出来ず、会話もライゼルカとしか出来ない状況。赤面しながらも、小声で言った。
 本音で言えば参加したいのは山々だが、今の手持ちの衣服は普段着のワンピースくらいで、ドレスコードのような衣服は屋敷と一緒に全部燃えた。化粧品も無い。
 丁度、ライゼルカの立っている隣の店のマネキンはガラス越しにドレスを着ていて、それが普段よりとても美しく、そして妬ましく思えた。しかし、無い物はない。
 結局、全部自分が悪いのだ、ともう一度心を値に堕とそうとしたその時、ムーンライトは囁いた。

『いまのきみはどんな姿にだってなれるよ。きみにしか思い浮かばない、きみだけの姿に』

 聞いたライゼルカは足早に人気の無い建物の影に隠れて、

「どういうこと?」
『時が来たら見せてあげるよ』

 困惑気味に頷きはしてみるものの、何が起きるのかは全くもって想像出来てはいなかった。
 そして迎えた夕暮れ。兵士達の行進が街の真ん中の大通りで始まった。先頭を歩む指揮が国旗を頭上に掲げると、それに続いて音楽隊がリズム良くトランペットとドラムで音楽を奏で、後続から階級が高い兵士から順に足並み揃えて街の大通りを歩んでいく。
 ただ、このパレードは戦の前のような形式的なものではなく、街おこしの一環としての側面もあってか、兵士達の表情を見てみれば、面倒くさそうにしているものもいれば、ただただ笑みを浮かべているもの、はたまた街の人達に手を振って愛想を振りまいているものもいた。
「サーカスみたいね」
『きっと、この後にパーティをやるから、街の人たちに気を張らせたくないのかもね』
「この国は徴兵制じゃないから、きっと兵士の募集を呼びかけているのだと思うわ。にしても、気がたるみすぎてる」
『厳しいね』
「一応、この国の国民よ。どんな意見だって投げかけたくなるわよ。それは私のためでも、そしてここにいる全ての人のためでもあるわ」
『いつか、この国が壊れる時が来たとして、その中に一人でも栄誉ある人々を救える人がいるのであれば、ぼくはそれでいいと思うんだ』
「兵士―――というより、これは軍。軍は群れて目的を達成するのに、個人の話をしても仕方ないと思うけれど」
『群れを統括して一つの行動を行うのも、個人が意見を出し合うからだと思うよ。人の集合が神を作りあげ、文化や文明を紡むいで今という時間を創ってきたんだ』
「あなたは植物なのに、大層な考えを持っているのね」
『ずっと生きてきたからね。今まで一度も死なずに色んなものを見てきた。群れないものも、群れるものも、とにかく色んなものを。でも、人間くらいだよ。群れに所属する中で孤独を謳歌出来る存在って』
「そうでないと、人は生きていけないから。そして、それはルールだから」
『話を遮るけど、今こっち側で灰色の馬に乗っている人を見て』
 ふと、そう言われて騎士隊の方へと目をやった。騎士隊の兵士達は鹿毛に青鹿毛、黒鹿毛、栗毛の馬に乗っている中、唯一の芦毛の馬に跨がっている兵士がいた。
 その兵士を見て、ライゼルカは驚嘆して目を大きく丸めた。
 友人の結婚式と、自分が塞ぎ込んでいた時に偶然鉢合わせたあの男性の姿があった。勿論、名前も覚えている。

 ジェイン・ヴァルバロード。

 大人しく、そして凜々しく馬を駆るジェインの姿を見て、これだけうるさい歓声の中で、何も聞こえない程の昂揚感で胸が高鳴った。
『わかりやすいね』
 ムーンライトの声にも耳を貸さない位であった。
『でも、これはチャンスだよ。きみが今行動を起こせば、きっと彼は振り向いてくれるはず。何度も巡り合わせがあるということは、運命的な何かもそこにあるはずだから』
 ライゼルカは急いでパレードをやっている大通りとは反対の方向へ、人の合間を縫って再び人のいない路地へと駆け出した。
 そして、
「さっき言ってたこと、やって頂戴」
『わかった。今はパレードでみんな大通りにいるから、今のここなら誰にも見つからない。運がいいね。きみは』

 ムーンライトがそう言うと、ライゼルカの来ていた白いワンピースが薄らと輝きはじめた。穏やかな月の光のような輝きだった。
 衣服が光るだなんて現象にライゼルカは刹那の焦りを覚えたが、それも束の間、袖の部分にコイン程の大きさの小さな花が咲いていた。薄い水色の花だ。最初はブローチか何かだと勘違いしたが、気づけばその花は二つ、三つと増えていきいつの間にか衣服全てを覆った。
 驚愕は隠せなかったものの、その感情すらも忘れる速さで覆った花は破裂するかのように舞い散り辺り一面に花吹雪を舞わせた。一片一片、水色の花弁が空気と風に攫われて、地面に落ちてゆくと同時に小さな青白い光の粒になって消えていく。
「………何、したの?」
『商店街の店の方へ出て、ガラスに反射してる自分の姿を見てみるといいよ』
 言われた通りに商店街側の道に出て、際にあったカフェの窓ガラスに反射した自分の姿を見た。
 着ていた衣服はいつの間にか、上品なドレスコードへと変貌を遂げていた。それもライゼルカが好みそうな、重々しさを感じさせないようで、彼女らしさを存分に振る舞える気品を備えていながら、彼女の見たことない造りでもあった。
「………………」
 今度ばかりは息を呑むばかりで、それこそ呆気にとられたという表現に他ならない表情を顔に表していた。
『次はこのドレスに似合うネックレス。そしてリスト。靴と靴下。ピアス。髪飾りに化粧』
 ムーンライトは次々にライゼルカを、ドレス着せたのと同じように花でそれぞれの箇所を覆って、見事に飾ってみせた。
 その姿はいつの間にか、どこかの国のお姫様のような装いに相応しく、見た者全てを虜に出来ると言っても過言ではないまとまりと美しさを放っていた。
『最後に―――』
 ライゼルカの指の周りが輝きだし、花で覆われた。だが、ライゼルカは―――
「それは、また今度がいい。今じゃダメ」
『こだわりがあるんだね。いい心がけだと思うよ』
「誰にだってあるわよ」
『きみがあの人が好きなのもこだわり』
「………………」
『ごめんごめん。あと、一応、顔も変えておくよ。きみの正体が世間にバレると後で色々面倒だから』
「………それは相手方に―――」
『大丈夫。きみが選ぶ人はきみを顔で選んだりなんかしないから』
 ムーンライトなりの気配りなのだろう、とライゼルカはその言葉を呑み、この場は顔を変えた。
 しかし、複雑だった。
 自分が自分で在ることの証明はしたいはずなのに、今の自分という存在が悪い意味で世間の注目の的になっているせいで、その道は塞がれている。
 罪の償いは確かにすべきなんだろう、と心のどこかで思ってはいるのに、今は目の前の幸福の方へと目が眩む。
 それでも、自分の幸福を願う存在がいる、という期待が渋々とパーティ会場へと足を運ばせた。

『何も気にする必要はないんだよ。罪の意識なんて、人間にしかない。今は、生き物であればいいんだから』



 パーティ会場となる駐屯地の第一ホールにはかなりの人で賑わっていた。国民であれば、誰でも参加出来るが故に、多くの人が駆けつけていた。
 特に珍しい文化的な装いや催しなどもなく、極めて王道なパーティであり、食事も有料。所謂、祭りに近いものだったが、アルデラント軍を称えるものとしては充分過ぎる賑わいを見せていた。
 しかしながら、正体を隠しているライゼルカは国民である証明は出来ない。正体を明かした所で、ここに居る人達をパニック、或いは疑惑の種を振りまくだけだ。
 折角ここまで装って貰って、ここまで来たにも関わらず、門前払いを食らい、再び罪の意識に思考が戻った。
『こればかりはどうしようもない』
「やっぱり私に幸せは―――」
「どうかしたのかい?」
 後ろから聞き覚えのある男性の声が耳を触り、振り返った。
「え、あ、あの、その」
 ライゼルカの視線には確かに男性の姿があった。しかし、なんの巡り合わせか、
「あ、すみません。僕はジェイン、ジェイン・ヴァルバロード。階級は軍曹。何かありましたか? お嬢さん?」
 ライゼルカがずっと気にかけて来た男性―――ジェインであった。
 薄めの青眼を細い金縁の眼鏡で覆った端正かつ整った顔立ちはパレードを終えてなお健在だった。
 そんなジェインの優しい微笑みに、ライゼルカは顔を真っ赤にして、
「え、え、ええ、っと」
「もしかして、外国の方………? かな? 多分、そうだよね。パレード見に来て、楽しそうって思ってここまで足を運んで門前払い。そうでしょ?」
 推理は全然違っていたが、ライゼルカは顔を背けながらうんうん、と無理に頷いた。
「僕がなんとかするから、安心して。ある程度階級を積んだ軍人の紹介だったら、国籍問わずに入れる場所だから、ここ」
 ジェインはそう言ってライゼルカの腕を引いて受付に「僕が留学してた頃の友人です」と、襟のバッジを嬢に見せつけると、「どうぞ」と一言告げられ、その場を凌ぐ事が出来た。
「あ、ありがとうございます」
「どういたしまして」
 普段はロッカーとして使われているであろう通路脇には赤いカーペットが吊り下げられていて、その麓には目映く通路を照らす照明が会場への道を記している。通路の天井には灯りが無く、久しぶりに外に出たライゼルカは下を向いて歩く癖ができあがっていたが、下を向くとこれがかなり眩しく、前を向かざるを得ない。
 自然と首が真っ直ぐ向いて、ぼんやりと忘れかけていたルインツエイラでのマナーというものを、会場へ足を運ぶにつれて思い出していった。
 本会場へ着くと、ここでようやくライゼルカはほっと息をなで下ろして、辺りを見渡す余裕が出来た。
 先も言ったとおり、祭りに近い雰囲気のここだが、人も同じだ。節度を持って楽しむものもいれば、思い切り酒をかっくらって既に出来上がっているものもいた。他にも様々いて、久しく人には色々な種類がいる事をライゼルカは再確認した。
「面白いでしょ。一見普通のパーティだけど、軍人の軍人らしい所が見れる」
「軍人らしいって、私の中では軍人さんはとても真面目で礼儀正しくて―――」
「それは表向きの話。誰だって傍から見れば仕事をしている時は真面目に見える。どんな職業でも、その職に対する知識が無くともスペシャリストに見えてしまう。でも、本来の姿ってのは絶対にどこかにある。それが今の彼らさ」
「普段から真面目に見えない人は?」
「それは特別優秀な人、或いは単なる怠け者」
「よく見てるんですね」
「目はあまり良くないよ。ほら、この位置でも君の顔がぼやける」
 そう言ってジェインは急にライゼルカに顔を近づけた。あまりに急だったもので、ライゼルカは息が詰まって、首元から頭にかけて顔が赤く染まった。
「あ、あやっ!」
「あや?」
「い、いえ、なんでもない………です」
 ライゼルカの反応を不思議そうに見つめるジェインだったが、そろそろ腹の空いた頃合いだったもので、近くにあったチキンバーを二人分買って、一つを手渡した。ホイルと紙で包まれた骨の部位を握ったが、出来たてで段々と熱が籠もってきて、これが段々熱く感じてしまい、紙皿を取りに行こうとしたとき、ジェインの方が先にそれを取って渡した。
「ごめん、気づけなくて」
「い、いえ、熱いのが苦手で寧ろ申し訳ありません」
「得手不得手に謝罪は不要だよ。君、結構真面目な性格って言われるでしょ?」
「い、いや、そんなこと………」
「僕は君の事、誠実で真面目な性格だと思うな。あまりよく見えないけれど、動きそのものは最初こそぎこちなかった。でも、今はとても自信がある素振りをしているのがぼんやりと伝わる。たまに崩れるけど」
「た、たまにって……… だってそれは………」
「それは?」
「―――いいません!」
「急に怒った」
 ジェインは笑いながら言って、傍にあったバーでグラスに入ったワインを購入し、再びライゼルカの元へ戻ってきて、
「君も飲むかい?」
「いえ、私はあまり」
「これは失敬。飲ませて頂くよ」
 そう言ってグラスに入ったワインを少しだけ口に含んで、舌で香りと味を楽しみ、ゆっくりと飲み込んだ。
「いい酒だ。渋みと香りに強い癖がある。若いな、これは」
「お酒の良さなんて分かりたくもありませんよ。私」
「大人になれば分かるさ」
「大人になっても飲みませんよ。思考が鈍る」
「人によっては冴える人もいるかもよ?」
「そんな人に会ったことないです」
「と、言うことは君も若いって事だ。いくつだい?」
「16です」
「ほら、若い。僕は24」
「あなたも若いじゃないですか」
「僕は兵士だ。24まで生きていられる事自体稀なんだよ。ここの駐屯地に在中している兵士の年齢の中央値は18。即ちそれまでに亡くなってしまう人が多い」
「大変なお仕事なんですね」
「訓練とかで亡くなる人もいる。本物の武器を使うからね」
「遊び、とか?」
「いや、単純に使い方が分からなくて、間違えて、ってパターンが大半さ。軍は誰でも入れる。学校に行ったことないやつもいるさ。そういう奴は銃とか爆弾とかってのを知らないから、こういう事はよくある」
「………軍でも、そういうことってあるんですね」
「僕も例外じゃないさ。さっきも言ったとおり僕は非常に目が悪い。だから普通の職には就けない。でも、両親を支える為に金がいるから軍に入った。ここに入れば保険も自動的に加入されるから、万が一僕が死んでも両親に金が行く」
「破滅願望………ですか」
「それとは似ているようで違う。現に僕は生きている。生きて君と喋っているじゃないか。ちゃんと算段があってここまで来られたんだ。なんも考えてないけど」
「思考もないのに算段って」
「きっと僕の無意識に働いている神様、のようなものが導いてくれたんだと思う」
「ここで神様ですか」
「何かを信じる事って悪い事じゃないよ。時には人よりも神様を信じる事だって大事さ。そうやって人間は自己を得られるんじゃないのかな」
「酔ってます?」
 ライゼルカはふとジェインの顔を見上げて真っ赤になっていた事を確認して言った。
「酔ってる、かもね。でも、酒は人間に神を宿す。人はそれを気が大きくなるって言うけれど」
「飲み過ぎると人間に戻る時に酒が必要になりますよ。さ、一旦お外に出ましょう」
 今度はライゼルカがジェインの手を引いて、ホールの二階のバルコニーへと誘った。空はもうすっかりと暗くなっていて、天辺にはまん丸な月が浮かぶ穏やかな空間が広がっていた。
 麓はパーティをしているホールの灯りが漏れてうっすらと周囲の、芝生の緑色を照らしていた。
『今日の月は綺麗だね』
「ちょっと喋んないで」
「おや、誰かいるのかい?」
「いえ、誰も、独り………言です」
「疲れが溜まってるのかな。それとも僕が溜めさせちゃった?」
「………それは違います」
「ま、今は月を楽しもう。少し飲み過ぎたのかもしれない」
 二人、肩を並べて眺める月の光に変化はない。不変の光。不変の安らぎ。
 あまりにも優しい光に誰もが目をとどめる事は無く、ただ見る者だけに安らぎを与える花のような空を彩る、たった一色のブローチ。
「綺麗ね」
「僕にとっては狂気染みていると思うんだ。この光」
「―――と、いうと?」
「世の中は常に変わるのに、空を照らす光は大体同じ周期で、同じ位置で、同じように光っている。ここにいる僕らだって何かしらで変わっているはずなのに、不変のものであり続ける存在が少し恐ろしい。死を知らないみたいで」
「あなたが死と隣合わせだから」
「ううん、誰だって死と隣り合わせさ。産まれた以上、死は確約されている。どう死ぬかなんて自分が決める事じゃないんだ。いつも、どんな生き物もそうだ。そこに憐れみは不要だよ」
「………私は、私は………」
 ライゼルカは先日の火事の事をまた思い出した。自分の願いの果て。所謂、罪。
 屋敷から燃え上がった炎と煙は未だにライゼルカの目に焼き付いている。
 義母と義弟の悲鳴はまだ耳に残響している。
 思い返せば思い返すほど、息が荒くなり、額から汗が流れてくる。
「………君も、罪を重ねたのかい?」
「………………はい」
「大丈夫。誰だって、何かを奪って生きている。僕も、人の命を奪って生きている。それと比べれば、君のは―――いや、比較は良くない。
 ああ、知ってるさ。あらゆる状況下で殺しは禁じ手だって。でも、人は人と争って、そのたびに一つになって、大きな集合体になって平和を生んでいく。でも、平和はいつも人を幸福に導くとは限らない。
 人との争いはいつも守るべきものがあって、それが引き金になるんだ。君は君を守りたかった。だから罪を犯したんだろう。
 僕も、こんな不出来な僕に居場所をくれるこの国を守りたくて罪を犯す。至って真面目にね」
「あなたは、それで―――」
「いいんだ。何かを愛する事は自己を保つ為に必要不可欠な事だ。物でも人でも未来でも過去でも事でも、全部そう。そこに善悪は必要ない。
 社会規範から逸脱した行為を愛するものには法という裁きが待っているだけで、僕はその範疇の外にいる人間」
「殺したいとかはないの?」
「人も、動物も、殺したくはないさ。でも、殺さなきゃいけない時は殺す。それが生きるって事。さっきも言ったよ」
「それは、失礼しました」
「謝る事はないさ。どんな罪を犯しても、それを許されたいが故に人は悩む。自分を追い込む必要なんてどこにもない。許されたいと思うだけでいいんだ。それすらしようとしない人間よりかは、罰を受けたいと思う心の方が大事だよ」
「あなたは、そんなに罪を重ねて―――」
「うん、そして。今も罪を重ねた」
 ジェインはそういうと、ライゼルカ両手を、支えるようにそっと握った。暖かくも、皮の分厚いごつごつとした手だった。
 それでも、ライゼルカにとってはとても柔らかく、優しいものをものに感じた。
「まだ酔ってるんですか?」
「酒には酔ってないよ。君に―――」
「結構、女たらし―――」

「そう言われても仕方が無い。僕は国を、国民を愛している。愛していられるように人や国を貶める新聞とかラジオは読まない耳を傾けないようにしている。国を愛する為に。自分が信じているものを、自分の中で信じたい形にする為に」

「どういうこと?」

「僕は今確信したんだ。君を愛している、って」

「突然言われても信じられないわ」

「知っているよ。君の事。初めて会ったときは結婚式だったね。とても透き通った声をしていた。少し風が凪ぐと全て散ってしまう位の微かな香水の香りも覚えている。とても、品性がある響きだった。
 そして、この前、住処から花を落として僕が拾って渡したよね。その時の君は自信なさげだったけれど、芯はどこかに感じた。少し声が震えていて、心配だった。
 そして、今の君は何かから立ち上がって、ここまで来た。無くしてしまった自信も全てではないけれど、取り戻して、僕の元へやって来てくれた。
 君の事はよく見えないけれど、声の通りとその香りが示してくれる」

「―――私の事、知っているの? 何をしたのかも」


「君がしたことは知らない。でも、君が『ライゼルカ・フリージア・ルインツエイラ』だということはずっと知っていたよ」


 一時の沈黙があった。
 ホールからはまだパーティの喧噪が残っているのに、それすらも置き去りにする位、ライゼルカの胸に大きな鼓動が鳴った。

「………わ、わた、私」

「言わせないよ。僕から言うから」


『今なら魔法が使えるよ』


 ジェインがライゼルカに何かを告げようとしたところで、パーティの会場からどよめきのような声が多数あがった。
「なんだあれは!」
「ここって確か芝生だったような」
「電装は会場内だけの予定だったはずでは」
 様々な声が渦巻いていたもので、二人も一緒になって芝生の所へ目をやると、そこには一面の花畑が広がっていた。それも、ふんわりとした電飾が施されているのかのような光を携えて。
 極めて幻想的な空間だったもので、会場に参加していた者達も驚いた。
「………なん、だ。これは」
 ジェインも驚愕をあらわにせざるを得なかった。それも、そのはず、さっきまで眺めていたものが急に変貌したからだ。
「多分、おまじない、なのかな」
「おまじない?」
「分からない。でも、いいことなんだと思います。そして、ジェインさん。まだお酒抜けてないです」
「………言われた」
 くすっとジェインが笑うと、ライゼルカもつられてそれに反応した。

『二人が喜んでくれて良かった。これからも、未来永劫、お幸せに。全ての命の永遠をぼくはずっと望んでいるからね』
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