とある世界、とある場所にて

晴れのち曇り

文字の大きさ
9 / 20
とある世界の冒険者

九話目

しおりを挟む
 その男の名はガルと言う。生まれてこのかた鍛治にしか興味を持たない変わった男だった。
 父親が鍛治士だったからかもしれない。
 物心ついた頃には槌を持ち、金床の前に座り、力の限り赤く染まった鉄を叩いていた。
 幼い頃から力は人一倍は強かったので鉄で造られた槌も軽々と持ち上げることが出来たのだ。

 やがてガルの周りにも鍛治士を志す者がちらほらと出てくるようになった。
 皆男だった。昔からこうだ、どうにも女には鍛治の良さが分からないらしい。こういうのを「ロマンが分からない」と言うそうだ。
 昔出会った冒険者がそんなことを言っていた。
 まあ、そんなことには興味はなかったが。

 それから鍛治を勉強する奴らが見られ るようになった。
 俺の親父にも何人か弟子入りした奴がいる。今はもういないが。
 あいつらは一年もしないうちに鍛治士を諦めていった。
 根性のない奴等だったのだろう、時間の無駄だったな。

 親父が言うには、俺は才能があったらしい。鉄の温度や槌を叩く力の入れ具合なんかは自然と分かった。
 まるで鉄が語りかけてくるように感じていた。これができるものはそうそういないらしい。

 親父から才能があると言われたその日から俺は更に鍛治に打ち込んだ。
 寝ても覚めても槌を振るった。苦にはならなかった。それよりも自分が今よりもより優れた武具を打つことにしか興味が湧かなかった。

 こんな生活を何年もつづけているといつしか親父を超え、ザルツで一番の鍛治士と言われるようになった。
 そうするとやがて様々な冒険者が俺を訪ねるようになった。
 いろんな奴がいた。才能が感じられる奴もいれば、全く感じない奴もいた。強い奴もいれば弱い奴もいた。ベテランもいれば新人もいた。
 冒険者だけでなく兵士も俺のところへ来るようになった。

 その中で俺が武具を打ちたいと思った奴のためにだけ槌を振るった。
 そうしないとひっきりなしに依頼が来て、最小限の休息さえ取れなくなったからだ。

 そんな中で夏の日差しがきついある日、がやって来た。
 最初はあいつがこのザルツで一番の冒険者とは分からなかった。中堅どまりのそこそこの腕しかないたいして見るとこもない奴だと思った。
 だから最初はあいつの依頼を断った。

 だがあいつは強かった。この辺りではなかなか見ない大物を狩ってきたのだ。
 その時俺はこいつの剣を打ちたいと思ったのだ。

 チリンチリンと来客を告げる鐘の音がする。

 そういえばそろそろか、あいつが点検やら修理に来るのは。












「らっしゃい……あんたか、修理か」

「そうだ、今日中に頼む」

 言葉少なげに、必要なことだけを互いに言葉にするといった感じのやり取りはひどく素っ気ないようにさえ感じる。
 だが、これこそが二人の信頼の証であり、男とガルの間に確かな繋がりがあることを証左するものでもあった。

「……これだ」

 やはり言葉は最小限に、しかし必要なことはしっかりと伝える。このような会話のようなものをしながら、男は剣を取り出した。

「他は?」

「……問題なく使用できる」

「凹み歪みは?」

「ない」

「そうか」

 そんな言葉を交わしながら、ガルは男の剣を受け取り眺めた。

「何を切った?」

「ファングウルフの強化種だ」

「どう切った?」

「叩きつけるように切った」

「なるほどな」

 どうやらいつもの劣化の仕方とは違っていたらしい。
 やはりは随分な強敵だったということだろう。自分が生き残っていたのは運が良かったということか。

「…………無茶を、したな」

 ガルがそう零した。何を思っての言葉だったのか。
 長年の友人に対して心配したようにみえる。もしくは無茶をしたことで武器を余計に劣化させたことを責めているようにもみえる。いや、その両方だろうか。

 そんな言葉に男は少しバツが悪そうな顔をした。

「……すまん」

 ガルは男の謝罪の言葉に首を振る。

「いや、お前の人生だ。お前の好きに生きたらいい」

「……ああ、そうだな」

「だが……」

「……何だ?」

 ガルの言葉に男は不思議そうに返す。

「ちゃんと戻ってこい」

「……ああ、そうだな」

 そう言うと、二人してふっと笑った。

 その姿には確かな友情と信頼が感じられた。









 男は店を出る。

 また戻って来るために。

 男は店を出る。

 生きるために。

 男は店を出る。

 この無愛想な店主にまた会うために。

 男は生きてまた戻って来る。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?

ちょっと大人な物語はこちらです

神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な短編物語集です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

処刑された王女、時間を巻き戻して復讐を誓う

yukataka
ファンタジー
断頭台で首を刎ねられた王女セリーヌは、女神の加護により処刑の一年前へと時間を巻き戻された。信じていた者たちに裏切られ、民衆に石を投げられた記憶を胸に、彼女は証拠を集め、法を武器に、陰謀の網を逆手に取る。復讐か、赦しか——その選択が、リオネール王国の未来を決める。 これは、王弟の陰謀で処刑された王女が、一年前へと時間を巻き戻され、証拠と同盟と知略で玉座と尊厳を奪還する復讐と再生の物語です。彼女は二度と誰も失わないために、正義を手続きとして示し、赦すか裁くかの決断を自らの手で下します。舞台は剣と魔法の王国リオネール。法と証拠、裁判と契約が逆転の核となり、感情と理性の葛藤を経て、王女は新たな国の夜明けへと歩を進めます。

花鳥見聞録

木野もくば
ファンタジー
花の妖精のルイは、メジロのモクの背中に乗って旅をしています。ルイは記憶喪失でした。自分が花の妖精だったことしか思い出せません。失くした記憶を探すため、さまざまな世界を冒険します。 記憶を取り戻して真実を知った時、ルイとモクの選ぶ道は?

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...