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とある世界の冒険者
十話目
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悪意、いやこれを悪意と呼んで良いものか。
世界の理に辿り着きその末に得た答え。神の存在、その装置としての役割を知った女は絶望した。
神とは世界を管理し、人類を魔獣の脅威から守ると教えられてきた。だからこそ神を讃え、信奉してきた。
だがそれは、己の信仰は裏切られた。それを知ってしまった瞬間から女は敬虔な信徒ではなくなった。
神を恨み、世界を憎み、そして己を憎悪した。何故知ってしまったのか、何故気づいてしまったのか。
人生のほとんどを信仰に費やしてきた女にとってそれは世界の終焉と等しかった。
一晩中泣いた。一日中絶望の中に漂っていた。
そんななかで女はある決断をした。
この世に私の信ずる神がおられないのであれば、壊そう。このような残酷な所業が神のなされることならば、殺そう。そしてーーーーーー私の信ずる神を創ろう。
そう、我が心の神はそれを望まれる。
ガルの店に武器を預けた後、特に何もすることがなかった男は取り敢えず宿に戻り、惰眠を貪った。
起きると既に夜もふけるという時間まで寝ており約束の時間に間に合わなかったということもあったがそれ以外は特に語ることもない一日だろう。
翌日、男は朝起きると何か慌ただしい空気をザルツから感じ取った。
「あっ、起きてきたんですね!貴方も早く逃げる準備をしてください!」
彼女は二階から降りて来た男を見るなりそう言った。随分と焦った様子で、それは彼女だけでなくその両親も同様であった。
「逃げる……?一体何があったんだ?」
「実は……!魔獣が、魔獣の群れがこっちに向かっているそうなんです!」
男は彼女の言葉に首を傾げた。男にとっては魔獣など慣れた相手でしかなく、群れと闘ったことも一度や二度ではきかない。
それに群れと言っても大体四匹から十匹程度である。男は十匹の群れ二つとやり合ったものの無事に生きて帰って来ている。
それは彼女も知っていることなのに何故自分まで避難を促すのか、それが分からなかった。
「魔獣の群れなら何度かやり合ったことがあるぞ?それにここザルツに来るんだろう?
なら俺以外にも腕の立つ冒険者はいる。それに兵士だって。だからそこまで慌てる必要は無いと思うが」
そう、普段群れと呼ばれる存在であれば、冒険者一パーティー程度なら脅威だが、街に、それもザルツに攻めて来るとなると話は別だ。
何にしても数が違う。冒険者や兵士などがかなりの数在中している。
冒険者の中には以来に出ており、いないということもあるが、それでもなお絶大と言える戦力がこのザルツにはある。
無論これは国中の都市部で見られるものかと言われればそうではない。ザルツが特殊に過ぎるのだ。
他の地域と比べると圧倒的に違う魔獣の数と一体一体の強さ。それ故にここザルツは「魔鏡」とも称され、そして恐れられている。
「違います、違います……」
彼女が、溌剌とした笑顔と元気さが特徴的な彼女が、震えていた。
恐怖に身体を震わせ、恐れに顔を歪め、その身に降りかかった理不尽に涙を浮かべた。
「そうじゃないんです……今回の群れは……千体を超えるそうです」
千、それは群れというにはあまりにも規模が大きいものであった。通常群れの最大数は十体である。
それはまさしく普通ではなく、異常と呼べる事態であって彼女が怯え、竦み青ざめることは当然とも言える反応だった。
「千……?何かの間違いではなくか?」
藁をも縋る気持ちだった。彼女が冗談で、演劇の練習で、自分を脅かすつもりでそう言ったと信じたかったのだ。
「いいえ……既に冒険者ギルドと領主様から発表がありました。非戦闘員は今すぐ、今すぐザルツから離れるようにと!」
焦燥を抑えきれなかったのか、思わず叫んだ彼女の瞳は先ほどよりもさらに潤んでいた。
「ニ日ほど前、偵察部隊をザルツ周辺に放ったところ魔獣の群れが見つかったそうです!もうすぐにでも、ザルツに来ると!」
だから早く逃げましょう、そう言うつもりだったのだろう。だがその言葉は男の言葉によって遮られた。
「なら俺は闘わないとな」
あまりにも自然。男はまるで先ほどまでの恐怖などなかったかのように軽く呟く。
「だって俺は非戦闘員じゃあない。冒険者だ」
何故、そう言おうとした。だが男の言葉を聞き口を開くことができなかった。
「きっと君は俺のことを心配して言ってくれたんだろうな」
その言葉は、その表情は柔らかい。
「ありがとう。だけど行かないと」
男は彼女に笑顔を見せる。優しい笑みだ。
「大丈夫、きっと帰る」
彼女の視界がさらにぼやける。
「だから待っててくれ、エリス」
男は死地に向かう。
男の口元は僅かに歓喜で歪んでいた。待ち望んでいたとでも言うかのように、目の前に現れるであろう闘争を待ち望んでいる。そういう自分がいることを男は自覚した。
「だから、俺は……」
ザルツだけではない。国中で大きく揺れる大事が今から、いやもっと前から既に起こっていたのだ。
歴史に残る戦になる。
誰かがそう言った。
世界の理に辿り着きその末に得た答え。神の存在、その装置としての役割を知った女は絶望した。
神とは世界を管理し、人類を魔獣の脅威から守ると教えられてきた。だからこそ神を讃え、信奉してきた。
だがそれは、己の信仰は裏切られた。それを知ってしまった瞬間から女は敬虔な信徒ではなくなった。
神を恨み、世界を憎み、そして己を憎悪した。何故知ってしまったのか、何故気づいてしまったのか。
人生のほとんどを信仰に費やしてきた女にとってそれは世界の終焉と等しかった。
一晩中泣いた。一日中絶望の中に漂っていた。
そんななかで女はある決断をした。
この世に私の信ずる神がおられないのであれば、壊そう。このような残酷な所業が神のなされることならば、殺そう。そしてーーーーーー私の信ずる神を創ろう。
そう、我が心の神はそれを望まれる。
ガルの店に武器を預けた後、特に何もすることがなかった男は取り敢えず宿に戻り、惰眠を貪った。
起きると既に夜もふけるという時間まで寝ており約束の時間に間に合わなかったということもあったがそれ以外は特に語ることもない一日だろう。
翌日、男は朝起きると何か慌ただしい空気をザルツから感じ取った。
「あっ、起きてきたんですね!貴方も早く逃げる準備をしてください!」
彼女は二階から降りて来た男を見るなりそう言った。随分と焦った様子で、それは彼女だけでなくその両親も同様であった。
「逃げる……?一体何があったんだ?」
「実は……!魔獣が、魔獣の群れがこっちに向かっているそうなんです!」
男は彼女の言葉に首を傾げた。男にとっては魔獣など慣れた相手でしかなく、群れと闘ったことも一度や二度ではきかない。
それに群れと言っても大体四匹から十匹程度である。男は十匹の群れ二つとやり合ったものの無事に生きて帰って来ている。
それは彼女も知っていることなのに何故自分まで避難を促すのか、それが分からなかった。
「魔獣の群れなら何度かやり合ったことがあるぞ?それにここザルツに来るんだろう?
なら俺以外にも腕の立つ冒険者はいる。それに兵士だって。だからそこまで慌てる必要は無いと思うが」
そう、普段群れと呼ばれる存在であれば、冒険者一パーティー程度なら脅威だが、街に、それもザルツに攻めて来るとなると話は別だ。
何にしても数が違う。冒険者や兵士などがかなりの数在中している。
冒険者の中には以来に出ており、いないということもあるが、それでもなお絶大と言える戦力がこのザルツにはある。
無論これは国中の都市部で見られるものかと言われればそうではない。ザルツが特殊に過ぎるのだ。
他の地域と比べると圧倒的に違う魔獣の数と一体一体の強さ。それ故にここザルツは「魔鏡」とも称され、そして恐れられている。
「違います、違います……」
彼女が、溌剌とした笑顔と元気さが特徴的な彼女が、震えていた。
恐怖に身体を震わせ、恐れに顔を歪め、その身に降りかかった理不尽に涙を浮かべた。
「そうじゃないんです……今回の群れは……千体を超えるそうです」
千、それは群れというにはあまりにも規模が大きいものであった。通常群れの最大数は十体である。
それはまさしく普通ではなく、異常と呼べる事態であって彼女が怯え、竦み青ざめることは当然とも言える反応だった。
「千……?何かの間違いではなくか?」
藁をも縋る気持ちだった。彼女が冗談で、演劇の練習で、自分を脅かすつもりでそう言ったと信じたかったのだ。
「いいえ……既に冒険者ギルドと領主様から発表がありました。非戦闘員は今すぐ、今すぐザルツから離れるようにと!」
焦燥を抑えきれなかったのか、思わず叫んだ彼女の瞳は先ほどよりもさらに潤んでいた。
「ニ日ほど前、偵察部隊をザルツ周辺に放ったところ魔獣の群れが見つかったそうです!もうすぐにでも、ザルツに来ると!」
だから早く逃げましょう、そう言うつもりだったのだろう。だがその言葉は男の言葉によって遮られた。
「なら俺は闘わないとな」
あまりにも自然。男はまるで先ほどまでの恐怖などなかったかのように軽く呟く。
「だって俺は非戦闘員じゃあない。冒険者だ」
何故、そう言おうとした。だが男の言葉を聞き口を開くことができなかった。
「きっと君は俺のことを心配して言ってくれたんだろうな」
その言葉は、その表情は柔らかい。
「ありがとう。だけど行かないと」
男は彼女に笑顔を見せる。優しい笑みだ。
「大丈夫、きっと帰る」
彼女の視界がさらにぼやける。
「だから待っててくれ、エリス」
男は死地に向かう。
男の口元は僅かに歓喜で歪んでいた。待ち望んでいたとでも言うかのように、目の前に現れるであろう闘争を待ち望んでいる。そういう自分がいることを男は自覚した。
「だから、俺は……」
ザルツだけではない。国中で大きく揺れる大事が今から、いやもっと前から既に起こっていたのだ。
歴史に残る戦になる。
誰かがそう言った。
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