とある世界、とある場所にて

晴れのち曇り

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とある世界の冒険者

十二話目

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 女は踊る。

 ザルツの戦場からおよそ二、三日歩いたとある廃墟に女はいる。その女の姿はまるで神話に登場する女神だとか聖女のようで、神聖な存在のようにも思える。陽の光よりも輝いているように感じる紅い髪に、燃えるような、いやそれの奥底では実際に燃えているのであろう茶色の瞳。

 女の周りには数えるのを諦めるほどの魔獣が群がっている。それは常人の想像するような事態、つまりは襲われているというわけではない。
 むしろように、女を護っているかのようにさえ見える。

 女は踊る。

 髪がまるで焔のように揺らめく。それに見惚れるように見つめる魔獣達。
 異様な光景だった。常人ならばおそらく己の眼を疑うだろう。

 あり得ない。誰かがこれを見ていたのなら零していたはずの言葉だ。
 何故、何故、何故……と。うわごとのように呟きながら。

 だが、ここには誰もいない。女と魔獣以外はいない。生きてはいない。
 総て死体となった。町人も、旅人も、職人も、学者も、冒険者も、行者も、兵士も、商人も、貴族も、メイドも、男も、女も、大人も、子供も、あらゆる人間が魔獣達によって切り裂かれ、喰い散らかされ、生命としての尊厳も、知性ありし者としての矜持まも、神に選ばれし種族としての誇りも、その総てが犯され、踏み躙られた。
 それは女が望んだこと。この世界に失望し、絶望し、滅びを望んだ彼女が。せめて残酷な真実を彼等が辿り着く前に、幸せなうちにそれらの生涯を断ち切ろうとした。
 故に教会から禁呪指定された魔獣支配を使用したのだ。魔獣を支配するというその術を。

 女は踊る。

 死に追いやった彼等に対して捧げるように。

 女は踊る。

 次の犠牲者に許しを請うように。

 女は踊る。

 ザルツの者達に向けて。

 女は踊る。

 次はお前達だとのたまう。

 女は踊る。

 許してくれと懇願する。

 女は踊る。



















「これで、14」

 肉を切り裂く感覚が剣を持つ右腕から伝わる。あまり良いものではないだろう。当然だ、殺すのは好きではない。
 それが人間を襲う魔獣であろうと変わりはない。命ある存在を手にかけるのだ。躊躇するのは当たり前といえよう。
 それは男も同じだった。いくら冒険者とはいえ良識はある。とは言うものの、僅かに不快感を感じる程度だ。だというのに宿屋の彼女から随分と心配されるのだ。だが、こればかりは性分だ。仕方ない。
 ふと、男はとある光景を思い出していた。














 戦端が開いてからというもの、一斉に魔獣と冒険者、兵士達等がぶつかり合った。それから一分と経たずに1人死んだ。五分と経たずに10人が死んだ。冒険者だった。
 いずれも若く、まだまだ新人と呼ばれる者達だった。名を挙げるチャンスだと奮い立っていた者達だった。前途が有望でこれからが楽しみだと噂されていた。

 その彼等が死んだ。呆気なく、簡単に、狼の鋭い牙で首を噛まれ、ゴブリンが手にする槍で腹を貫かれ、せめてもの抵抗として血飛沫を奴等に浴びせて生き絶えていった。

 そして彼等を殺した魔獣達を他の冒険者が殺した。その冒険者は最初に殺された冒険者達に期待し、眼をかけていた。いずれは自分を超え、大成することを楽しみにしていた。息子、娘のようにすら思っていた。三十の半ばに到達してしまった自分の夢を代わりに叶えてくれるのではないかと思っていた。人を疑うことを知らず、悪い冒険者に食い物にされるのではと心配もした。

 そんな我が子のように想っていた彼等を殺された。目の前が真っ赤になった。気づけば駆け出していた。僅かに残った理性が警鐘を鳴らしていた。だが、止まらなかった。止まれなかった。
 怒りに支配されながら魔獣を殺した。しばらくして冷静になってきた。腹を裂かれていた。
 燃えるような熱とかつて感じたことのない痛みを抱えながら生き絶えた。













 つい先程のことだ。男はそんな光景を思い出していた。

「15」

 殺した魔獣の数を数える。男は数えることをやめない。
 大勢がどうなっているのかなど分からない。それに興味もない。男にとっては生き残るか死ぬか、それしかない。

「16」

 また殺した。今度は眼を貫いた。剣が柔らかいものを、生き物の弱点の一つを抉る。
 ブチュ、そんな音が男の鼓膜に到達する。聞きなれた音だ。

「17」

 今度はゴブリンだ。足払いをかけて頭を踏み潰した。血や脳漿のような何かが飛び散った。これも聞きなれた音だ。

「18」

「19」

「20」

 終わりはまだ見えない。
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