とある世界、とある場所にて

晴れのち曇り

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とある世界の冒険者

十三話目

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「36」

 男は自身が殺めた魔獣の数を数える。正確な時間は分からないが、既にそれなりの時間が過ぎたはずだ。
 しかし、男は疲れを見せるどころか息ひとつ切らすことなく剣を振るい続ける。
 男は長年冒険者をしている上で身についた「手を抜く」ということをし続けていた。
 故に三十代の低下した体力にもかかわらず、これほどの動きをすることが出来るのだ。

 男が剣を振るたびに血が撒き散らされ、青々とした草原に降り注ぐ。周囲には魔獣の死体が至る所に見られ、心臓の弱い者には到底見せられない惨状となっている。
 草花は紅く染まり、大地には臓物と死体が無造作に放置されている。普段の草原の面影すら見当たらない。

「47」

 戦友は倒れ伏し、剣は血に染まり、半ばから折れた。周りに転がっていた長剣を拾い上げ、また振るった。

「63」

 まだ終わらない。これでもまだ、湧いてくる。魔獣の群れはザルツを飲み込まんとする。

「85」

 地獄もかくや、というような光景を未だに創り上げる。

「104」

 ついに百に達した時、何かが近づいて来た。

 ズシン、ズシンと足元が揺れる。地震かとも考えたがこれは違うと断じる。ではなんだと言うのか。この大地を揺らす存在とは一体、何者だと言うのか。

 悪夢が戦場に舞い降りた。

















 side 新人冒険者

「何だよ……あれ……」

 声を震わせながら恐れ、慄いた表情で一点を見つめる若き冒険者。
 誰もその冒険者を「臆病者」と揶揄することはしない。いや、できないと言うべきか。
 その場にいる者の殆どがの姿に我が身を凍らせた。

「あんなのが……何でこんなとこないるんだよ……」

 若き冒険者は哀れなほどに恐怖を見に纏わせた様子で一歩、また一歩と後ずさりする。

 大きい、の姿を見てまずはそう感じた。まるで山のようだと。
 もちろん、それが恐怖から相手を本当の姿よりもより大きく見えていることは分かっている。
 理性では分かっている、しかし本能が、生物に宿っている生存本能がそう見せている。

 逃げろと、お前ではこいつには勝てない。ただ蹂躙されるだけだと、そう叫んでいる。
 目の前の相手にかかればまるで火の粉のごとく命さえも散らされることだろう。
 いいや、火の粉ですらないだろう。僅かな火傷すら負わせることも叶わずに、まるで羽虫を払うかのように殺されることだろう。

 体長二メートルはゆうに超えているだろう巨体。その巨体からは水蒸気だろうか、湯気のようなものが絶えず発生してその巨体が隠れそうになるほどだ。
 その水蒸気からちらりちらりと見え隠れする身体は黒く、しかしそのところどころかに赤い線が走っている。
 その赤い線がの持つ筋肉を強調しているようであった。
 ドクンドクンと脈動している筋肉はまるで周りの者達を威嚇しているようで、弱者を近づけることすら許さない。
 無手であるがそれが付け入る隙だとは到底思えない。むしろ、武器を持たない方が余程強いと、そう感じる。

 山の如き巨体と鋼を連想させるほどの強靭な肉体。

 怪物、そう呼ぶに相応しい。

 その者の名は、オーガ。そう呼ばれ恐れられてきた、伝説や御伽噺でしか登場しないような存在である。

 嗚呼、

 信じてもいなかった神に祈る。

 生涯でこれほど神に縋りたいと思ったことはないだろう。己にはどうすることもできない存在。
 それは、天災のようですらある。それから我が身を守るためには祈るしか残ってはいないのだ。

 いくら魔法なんてものが扱えようと、

 いくら剣や槍を振るおうと、

 いくら魔獣を殺す力や技を身につけようと、

 それ天災に敵うわけがないのだ。

 魔法で地震が鎮められようか、

 剣で津波が割れようか、

 槍で嵐を貫けようか、

 否である。

 決して人の身では勝てない。

 ただ蹂躙されるのを待つことしかできない。








 オーガの丸太のような腕が振り上げられる。

「どうして……俺は……」

 後悔だろうか、怨嗟だろうか、怒りだろうか、絶望だろうか、しかしその言葉は最期まで紡がれることはなかった。

 side out
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