追想のヒガンバナ

希塔司

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第1章 「悪魔」

第2話「冷たい心」

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 私は依頼人との待ち合わせ場所まで向かった。依頼は様々な人から受ける。中には他に好きな女ができたからと自身の妻を殺そうとする者までいる始末。


 今回の依頼人は中年の男。
見た感じ手にまめができていることから何かしらの技術職の人間だろう。


「よく来てくれたな、これが今回の依頼書と前金だ。」


 私は聞かされた内容を確認していく。
獲物は武器製造会社の御曹司、最近になり業績を飛躍的に成長させて政府からも武器の製造依頼が来たりしている。

 また、元々異国に留学をしていた経歴などから輸出の貿易にも力を入れている。


「この男を殺すのね、わかったわ」


 私は依頼人から前金を受け取り、さっそくこの男を殺しに向かう。依頼をする理由なんてハッキリ言ってどうでもいい、殺しで生計を立てている以上私には関係ないことだから。


 さてと、まずはこの男の今いる場所を特定しよう。依頼人から聞いた話だと彼はよくバーというお店で秘密の接待パーティーを開くという。

 帝都には異国から伝わったバーという飲み屋が新たに作られた。現在はまだ帝都にも2軒しか存在しない。今日は金曜日、おそらく次の日はゆっくりできるだろうと考えているためどちらかのバーにはいるだろうとのこと。


 まずは客として店に入り、状況を調べていく。そして本人だと断定できたら彼を誘っていく。私も一応は女だ。女の武器を使えば男はすぐ鼻の下を伸ばしてついていくものだからな。


 私は帝都の中で1番有名なバー『朧』へと赴いた。成金などの金持ちはまずこのお店を選ぶ、異国へ武者修行したバーテンダーが新規でオープンしたお店でたちまち有名になった。

 バーの中は薄暗く、カウンター7席と奥にカーテン越しにテーブル席が一つある。テーブル席に若い男が2人、女が4人いるのは確認できた。私は様子を伺いながらまずは酒を注文する。


「ブラッディーペイン【1899年】ものをお願い」

「かしこまりました」


 グラスに赤のワインである銘柄が注がれていく。私は風味をまた楽しみながら飲んでいく。

 秀の国原産のワイン、この国とは違い西暦と呼ばれる暦が使われている。いや、この国が独自なだけで世界共通の暦だから。


 赤ワインにしては少し苦味がある。
まるで鉄を舐めているような金属の苦味が。


 少しずつワインを堪能しながらテーブル席の状況を確認していく。どうやら本当に接待と言った感じでいかにも高級な素材を使っているスーツを着た男が私の獲物だ。その隣の男がせっせと気を遣っている様子。女は獲物の話を聞いていかにもなオーバーなリアクションをしている。

 私がテーブル席を見ていると、向こうも私に気付いたのか獲物自らが私の隣の席へと来た。


「おやおや、女性1人でお酒を飲むなんて寂しいことで」


なんともイラつかせるような言い方。いかにも裕福な温室育ちな感じだ。まぁここは相手をまずは盛り上げて私に興味を持ってもらう。


「たしかに今日、私は1人で飲みに参りました。ですがお酒には弱いので、誰かと一緒に飲みたい気分でございます。」


 お淑やかな淑女をイメージして私は獲物に迫っていった。上目遣いで相手を見て一目惚れをしてもらう算段。


「ほぅーこれは随分とお綺麗な方じゃないか!
 気に入った!こっちへ来い!今日はたっぷりと楽しもうじゃないか」


 ほら、早速釣れた。私は席を移動してテーブル席へと向かう。すでに従者はベロンベロンに酔っ払っていて周りの女に甘えている最中だ。


「さぁ何を飲む?好きなのを選べ」


「では、このsinsをよろしくお願い致します。」


 これも秀の国が原産の赤ワインだ。店員がすぐに持ってきたので私が獲物のグラスに注いでいく。その名前の通り罪深いワインで、酔いによって既成事実を作るための金持ちのためのワインだ。


「では、あなたに出会えたことに乾杯を」


 私はそう言い、グラスを目線あたりまで持ち乾杯をする。しばらくは男の自慢話を作り笑顔で聞きながら会話していった。


 飲み始めて1時間が経ち、酔いが回って彼は眠りたくなったとのことなので私はゆっくりと寝かしつけた。従者もすでに寝ていたのでついに行動を起こすことにする。


 私は周りの女に送りに行くと言い、近くに待ち合わせていたある人物と合流をする。戸惑いなどはされたがまずは愛嬌で誤魔化して、そこから私の絶望に満ちた目を見せる。

 女たちは私にビビったのか、何も言えない状態になり私は彼を、獲物をお持ち帰りしていくのだった。


      ーーーーーーー

「お、あやめ今日ももう収穫したのか?」


「まぁね、回りくどいことはしたくないんだけどねー...」


 私は獲物を車に乗せていくつか抑えてある廃倉庫へと連れて行った。この男はすぐには殺さない、ある情報を引き出していくために尋問をする予定だから。


「しっかし相変わらずえぐいことするなあやめは、あの水にいつ睡眠薬なんて仕込んだんだ?」


「彼が注文をした時に、錠剤系じゃなく果実の液体を入れていたの。さくらんぼのね。
普段は私が睡眠薬として使ってるから持ってるだけ。」


 さくらんぼには睡眠を促す成分が含まれているから普段から服用していた。この仕事がらもう自然に寝ることも難しくなっていたから。

 ちなみに彼は殺し屋稼業を始めて間もない頃に出会った。名前は葛木周、一緒に仕事をする前は帝国軍の諜報部にいたと話していた。


 最初は胡散臭いやつだと軽蔑をしていたが獲物に関する情報などを頼んでもないのに送りつけていた。気がついたら同行までしてきて...今に至る。


 全く、世の中にはこんなにもがめつい人間がいるのだなと思う。けど情報を仕入れてきてるのは確か。その情報も理にかなっている。そして周は私の体の秘密についても知っている。


 まぁ仕方ない。ここまで知られている以上は協力関係にあえてしておくのが正解だと思う。


「ところで今回はちゃんと分け前の比率はあってんだろうな?お前、前科あるからな。」


「わかってるよ、ちゃんと今回は渡すわよ。」


「とか言って変な饅頭だったり渡されても鯉のエサにしてしまうからな?」


「はいはいw」


  周のドライブは相変わらず文句ばかりが飛び交ってくるけど意外と嫌いじゃない。


      ーーーーーーー

 車で20分、例の廃倉庫に辿り着き男を柱に縛りつけ起きるのを待つ。


「周、あと何分で政府にバレる?」


「10分くらいだな、それが限界だ。」


 常に帝国内では諜報部により人々の生活を監視している。それこそゴミのポイ捨てをしただけで帝と帝都へ向けての反逆罪とされて公開処刑。そんな国なんだここは。

 ただ周は帝国内で諜報部として功績を残した。そして内部事情に詳しい。周によるとある音波を流していくだけで一時的に諜報部の脳を撹乱させていく。

 気づかれるそれまでに情報を聞き出してさっさと殺そう。刺激臭のする植物の葉をかがせ、目を覚まさせる。


「うぐ、はぁはぁ...

 ここは...ってなんで縛られてるんだ...」


「あら、やっと目が冷めたのね」


「お、お前は...なんで僕をこんな目に...」


「時間がないの、質問に答えなさい。


 まず一つ、あなたの貿易先を答えなさい。」


「だ、誰が教えるもんか。お前さては政府のスパイだな!」


 ムカつく言葉を言ってきた。
私をあんなやつらと一緒にするなんて、そう思い獲物の右腕を忍刀で切り落とす。


「あがぁー!!う、腕が、腕がぁー!!」


「うるさい、さっさと質問に答えなさい。
次は左足をいくわよ」


「わ、わ、わかった...答えるからやめてくれ...


 式の国だ...最近麦の国が秀の国と同盟を組んで皆の国と戦争を始めると言っていたから武器を流していたんだ...

 お前だって、海の向こうで世界を巻き込む戦争について知ってるんだろう?」

 そんなことお前に聞かれなくたって新聞などで情報は得ている。


 3年前、要の国の皇太子が皆の国出身の市民に暗殺されたことをきっかけに戦争に。その後、各国が結んでいる安全保障条約が働き世界を巻き込む大戦争に発展した。


 秀、式、華の三国を中心とする連合軍
 皆、阿、傷の三国の同盟軍の二つの勢力に別れて...


 幸いこの帝国はその戦争の最戦地から遠いため、基本的には中立の立場を貫いている。



「なるほど、なら次の質問よ。その流した武器の情報を教えなさい」


「さ、最近開発を進めていた新兵器だ。機装というものだ。」


「それはどういうものなの?」


「名前の通り、体の部位に機械を取り付け飛躍的に身体能力を向上させるものだ。

 最大限の出力を発揮すれば、戦車などの兵器も一撃で粉砕できるほどの破壊力だ...」


 今はそういうものも作られているのか。もし集落みんなが生きていたら、忍の人間に装着できれば、きっとこの時代においても大義を果たせるのかもしれなかった。



「そう、なら最期の質問よ。」

 私は核心を突く質問を獲物に投げかけていく。


「帝国は今後、その大戦に参戦していくつもりなの。」


「そ、それだけは...」


 もう面倒だ。左足も切ってやれ。そう思い左足を切り落とそうとすると怯えながらあっさりと白状する。


「そ、そうだ!!
麦の国の大使が我々帝国と同盟を結びたいと海軍の大将に言っていたのを軍部会議で話していた!!」

 やはり、帝国はこれを期に始めていくようだ。侵略を...またどこかで私が味わった惨劇が繰り返されると思うとはらわたが煮えくりかえる。


 怒りで我を忘れそうになる、その前に終わりにしようと忍刀を口にぶちこみ、


「あぐっ!ぐご、ごびゅごびゅ.....」


 首根本に忍刀を刺し、男はいろいろと漏らしながら息絶えた...
 

 いろいろと問題のあるような殺し方をしてしまったと私は反省する。蝶のように舞い、蜂のように刺すような綺麗な殺し方が私の主流なのだから。


「あーあ、やっちゃった...

 相変わらず短気なやつだなあやめは、もっといろいろと情報を手に入れられたのかもしんないのに」


「こいつはさっさとやった方が世の中のためよ。こいつの売った武器を乱用して侵略するのが帝国のやり方よ。

 つまり、こいつも帝国のグル。生きていちゃいけない人間なの」


 帝国を崇拝するくだらない市民も、帝国のために命を張る軍人まがいも、帝国議会でアホな論争をする政治家も

 みんな死ねばいい。こんな小物を殺したところで私の心が満たされるわけがない。やるせなさと反してより復讐心が募る一方だ。


「行くわよ周。」


「あいよ。」


 私たちは倉庫を後にした。

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