エンドロールに誰を流そう

大野

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これは現実のお話

春の風

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次の日がやってくるのはあっという間だった。


今朝はなにを考えながら起きたか、どうやってシャワールームまで行ったのか、よく覚えていない。

ただただ漠然とした不安と、微かな高揚で
心がいっぱいだった。


どうして去り際に私はあんなことを言ったのかしら。
馬鹿。
せめて来週とかにしておけばよかったわ。
でも、来週までこの気持ちが続くなんて耐えられない。
神様なんていないのね。

もやもやと考えていたら、いつの間にか
掃除のおばさんのところまでたどり着いていた。

「あら、おはよう。今日は早いのね。」

おばさんは、相変わらずの優しい笑顔で挨拶をしてくれる。

「あっ、おはようございます。
ええ、今日は少し、予定があって。
昨日は、美味しいマドレーヌをどうもありがとうございました。
友人と、昼休みにお気に入りの場所で一緒に食べました。とっても幸せで、友人も、お礼を言っておいてと。」

さっきまでの気持ちは少し掠れ、
昨日のお昼休みの出来事が鮮明に思い浮かぶ。
ふへへ、とにやけた顔になってしまう。

「あら、それは嬉しいわ。また作ったら受け取ってくれるかしら。」

おばさんの声はとても弾んでいて、心底嬉しそうだった。

そんな声を聞いているとこちらまでとても嬉しくなり、ついついいつもより大きな声で返事をしてしまう。

「本当ですかっ!あっ、ごめんなさい。
でも私、お返しできるものがなくて、、、。
おかし作りなどしたこともないので、、、。」

ついつい声が大きくなってしまったことと、なにもお返しができない不甲斐なさで赤面する。

「まあ、そうやって、お話を聞けるだけで、本当に嬉しいのよ。
でも、そうね、せっかくだし、そうだわ、今週末にでも、お家にお菓子を作りにいらっしゃいな。お友達も連れて。」

また思ってもみないおばさんの発言に、わたわたとする。

「えっええっ!そんなの、申し訳ないです、
たくさんご迷惑もかけてしまうことかと思いますし、、、」

しどろもどろになりながらも、
はなとおばさんのお家でお菓子づくりができたら幸せだなと考える。

「まあ、迷惑だなんて思わないわ。
それに、私のマドレーヌをあなたと一緒に食べてくれたお友達を一目見ておきたいもの。」

やはり母のような優しさで、
先ほどまでのモヤモヤは全て消えていた。

「ほ、本当ですか?嬉しい、、、
お友達にも、言ってみますねっ」

笑顔を抑えきれず、表情筋を駆使して笑う。

「ええ、楽しみにしているわ。
用事があるのでしょう?
ほら、早く行かないとっ。」

そう言って、また、優しく背を押す。

でも今回は、私は振り返り、

「ありがとうございます!
あなたは、春の風のようなお方ですねっ!
また明日!」

と大きな声で言って、そのまま走った。

少し照れくさい気持ちと、嬉しい気持ちが相まって
心臓が高鳴っていた。
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