エンドロールに誰を流そう

これは現実のお話

亀裂

ようやく、
おどろおどろしく発した言葉は

慎重に発したにもかかわらず
とても乱暴なものだった。

自分自身、馬鹿げていると気付いている。

でも、自分が酷く穢らわしく思えて仕方がないの。


「君は。」

抓っていた手に爪の型がくっきりと残り、
もうすぐ血が滲む頃、
彼は先ほどとは違い、昨日会った太陽さんのような声を出す。

「君は、僕の何を知っているの？」

どくどくと胸が鳴る。
言葉の衝撃で耳のすぐ近くにまで心臓が動いてしまったかのように、
鼓動がうるさい。

「なっ」

何をって、知っているわよ、
あなたが想像と同じように綺麗な人間だということを！

言葉を発しそうになり、留まる。

あれ？
私は彼の、何を知っている？

おずおずと顔を上げ、彼を見る。

「僕の生い立ちは？普段の生活は？趣味は？
どれか１つでもいい。答えられる？」


彼は私を睨み、先ほどの優しさなど消えてしまったかのように刺々しく言葉を刺す。

初めて、彼の決定的な闇を見た気がした。
抱えているもの全てが溢れ出しそうな彼の姿は、
儚くて、小さかった。


そしてまた、言葉にもないことを伝わるか伝わらないか、程度の声で、小さく話す。
「知らないけれど、知ってどうするの？
私があなたに抱いた印象は、想像でも現実でも違わない美しい人だということだけよ。
そして、それは、私とはあまりに違っているということだけ。
これではいけないのかしら。」


「誤解しているよ。
僕は、何度も言うけれど、綺麗な人間ではないんだ。
君がどうして僕を綺麗な人間だと思ったのかは分からない。
そして、君が君自身を汚いと言う理由もね。
僕は、君の発言を聞いて、更に、君は綺麗な人だと思ったよ。」

鋭く刺すその視線に耐えることができない。
彼の言っている言葉が理解できない。
複雑な感情が混ざっている。
どこから話せばいいのか。
何を話せばこの時間は過ぎてくれるのか。


「あなたこそ！私について何も知らないくせに、綺麗だ何だと、わざと言っているの？
私の反応を見て楽しんでいるの？
馬鹿馬鹿しいわ。
こんなに意義を感じない時間は久しぶりよ。」

今度は刺さるような彼の目を見て、睨み返す。

頭の中では、もう散々に酷いことを言ってしまったのだから、落ち着かなければ、と思っている。
だが、言葉は裏腹に、止んでくれない。

「そっか。そうだね、もういいよ。
今はこれでいい。また、夜、会おう。」

ふう、と一息ついて、彼は鋭い視線を鈍くして、呆れたように私を見る。

「いやよ、会わないわ。」

「それでも待ってるよ。」