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第11話 面倒くさい二人
しおりを挟むああ、なんてことだろう。
「今まで隠してたけどオレ、ラビラット星人なんだ」
何故か颯兎までもが、山田と同じような空想に囚われてしまったらしい。真剣な顔で自分が宇宙人なのだと話す颯兎に、星那はため息を吐いた。
昼休みに三年の教室まで突撃してきて、星那を連れ出したと思ったらこれだ。こんな話をするために体育館裏まで連れてこられたのかと思うと、いくら幼なじみといえど面倒くささを感じてしまう。
「……その宇宙人ごっこ、流行ってるの?それとも山田君の影響?一緒に遊ぶほど仲良くなったんだね」
「だ・れ・が!アイツなんかと仲良くなるかよ!ちげえって!マジで言ってんの!も~、オレの話信じてないな!?」
颯兎のほうが歳下だからか、やれやれといった様子で星那は颯兎をあしらおうとする。颯兎を小さな男の子のように扱うことが星那にはしばしばあった。
颯兎は焦っていた。この幼なじみに、山田の言動から始まる一連の話がすべて"本当である"ということを納得してもらわなければならないのだ。
「"星の乙女"とか、そういう話でしょ。もうその設定はわかったってば。でもそれに私を巻き込まないで欲しいっていうか」
「巻き込むも何も、星那が当事者なんだよ……」
はあぁ~、と颯兎は頭を抱えた。全く信じてないどころか、颯兎が山田と一緒になって宇宙人の設定で遊んでいると思われている。颯兎にとって、山田は敵なのだ。星那を母星に連れ帰ろうと企んでいる輩だ。そんな奴と同類にされるなど、まったくもって心外であった。
「マジでマジで、ほんとーっに、このままだと危険なんだって!」
切羽詰まった声で颯兎は言う。星那は面倒くさそうに肩を竦めた。ここ数日のこの意味不明で不毛なやりとりに、すっかり嫌気がさしているのだ。
「山田君がラピス星人で、"星の乙女"の私を拐うって話?はいはい、誘拐は犯罪だからやめてって言っておいて」
「だからそうじゃなくさ。あーもう、マジでどうしたら信じてくれんの?」
そんなこと言われても、と星那が困った顔を浮かべる。
その顔を見て、颯兎は罪悪感を覚えた。颯兎は星那を困らせたいわけではない。むしろ逆だ。星那にはずっと笑っていて欲しいし、何なら自分が星那を笑顔にしてやりたいのだ。
「……オレ、ただ星那のこと守りたいだけなんだよ」
「守るって、山田君から?そんな、大げさな」
「大げさじゃねーよ。星那は知らないだろうけど……"星の乙女"を狙う連中は山ほどいるんだ」
現段階では"星の乙女"の所在を知るのは、最初に星那を"星の乙女"であると発見した山田オリオンと、幼なじみの颯兎のみ。だが、他の星でも何らかの手段で星那に目星をつけている人間がいるかもしれない。それに、情報はいつどこで漏れるか解らないのだ。
颯兎が神妙な顔で説明するも、星那は他人事みたいに相槌を打つだけだった。
「とにかく、今のところ一番危ねぇのは山田だから。アイツになるべく近づかないで」
「私も出来ればそうしたいんだけど。山田君が寄って来るんだよ。ていうか同じクラスだし」
星那も近づかなくて済むならぜひそうしたいところなのだ。あんまり距離が近いと、ますます付き合っているだとか誤解されてしまう。そんな事実は無いのに、全くはた迷惑なことだった。
「はあ~、くそ!なんでオレは同じクラスじゃねーんだよ……!」
「学年違うんだから当たり前でしょ」
「心配だからオレ今日からずっと星那の傍にいる!朝は家まで迎えいくし、帰りも送っていくから。星那には指一本触れさせねーから!」
ぎゅ、と星那の手を両手で握り、颯兎はそう力強く言った。颯兎は星那を本気で宇宙人から守ろうとしてくれているらしい。複雑な気持ちではあるが、思わずキュンとするような台詞に、星那はちょっとだけ照れくさくなった。
とはいえ、ずっとそばにいるというのは現実的ではない。
「颯兎君、部活あるでしょ」
「う」
「朝練もあるのに朝の迎えは無理だよ。宇宙人ごっこのためにサボりはちょっと」
「だからごっこじゃないって!つーか部活より星那のほうが大事だし」
「サッカー部のエースが何言ってるの。無責任なこと言っちゃダメ。チームメイトに迷惑でしょ」
言われて、颯兎は言葉に詰まる。ぐうの音も出なかった。だって星那の言うことは正論なのだ。颯兎は星那を狙う輩がから星那を守ることが優先事項だと思っているが、星那から見たら颯兎は宇宙人が本当にいるという空想のもと、ごっこ遊びの延長で部活をサボると思われているのだ。
だいたい星那が簡単に信じてくれないのも、しかたのないことだった。
もしも自分が生粋の地球人だとしたら。どんなに親しい間柄の人間だろうと「自分は異星人です。あなたは特別な存在なので狙われています」などと絵空事を言われて、真面目に信じるだろうか?答えは否、そんな馬鹿なと一蹴するに決まっているのだ。
(くそ、やっぱり簡単に信じちゃくれないよな……)
だとしても、信じて貰えないとしても。颯兎は星那を守らなくてはならない。
「ああ、こんなところにいた。探してたんだよ、星那」
ふと、颯兎と星那の背後から声がかかる。
「げっ」
振り向くと、まさに颯兎が危険視している一番厄介な奴。山田オリオンがそこにいた。
「俺が少し教室から離れた隙にハヤトに拐われたって聞いて。大丈夫だった?星那」
「はあ~!?拐ってねーわ!お前だろ拐う気なのは!とっと自分の星に帰れ!」
飄々とした態度で颯兎を煽るような台詞を吐く山田に、颯兎は思い切りガンを飛ばし声を荒らげる。
「ハヤトは口が悪いね。ちょっと席を外してくれないか。星那に話があるんだけど……」
「星那はお前に話なんかねぇーし!行こ、星那」
「え、ちょっと待ってよ。もしかしたら部活の話かもしれないし。言ったでしょ、山田君も合唱部入ったって」
空想の話や悪ふざけみたいな口説き文句なら聞くのは遠慮したいが、そうじゃないなら無視はできない。と、星那は、一緒にこの場を去ろうとする颯兎を止める。
「残念ながら、部の話とかではないんだよね」
「あ、そうなの。じゃあ……」
「デートの誘いに来たんだ」
「へ?」
星那は固まった。サラッと吐かれた台詞に、思考がショートする。
「い、今なんて」
驚いて思わず声がどもってしまった。困惑する星那を見て、山田はにこやかに微笑んだ。そして、今度はもっとゆっくりと、言い聞かせるようにその言葉を口にする。
「星那、デートしよう。あさっての日曜日、俺と」
キラキラの王子様が何故かデートに誘ってきた。そのことに星那の脳内はパニックだった。
「…………冗談?」
「本気」
だっていくら自称宇宙人の変人だろうと、顔がイケメンなことに変わりは無いのだ。こんな整った顔立ちと聞き惚れるような声でデートの誘いを受けたら、たとえ好きな人じゃなくたってときめいてしまうに決まっている。
「な、え……?」
「ふ。顔真っ赤だね。昨日と一緒だ」
からかうように、くすくす笑って山田は星那の顔をのぞきこんだ。その時だった。
「ちょっと待て!!!おま、何を言うかと思えば!デっ、デートとか……!!俺もまだ誘えたことないのにふざけんなよ!!!」
バリッ、と星那と山田を引き剥がすように、颯兎が割って入り叫んだ。星那を後ろから抱きしめるようにして腕を回し、颯兎は山田を睨みつける。
「は、えっ、ちょっと……!?」
颯兎からの突然の抱擁に、星那の顔はかあっと赤くなった。じゃれつくようなハグをされたことはあっても、こんな風に背後から抱きしめられるのは初めてのことである。
「星那!こんな奴とのデートなんか行かなくていいからな!どさくさに紛れて星那を拐うつもりだこいつ!!!」
「人聞きの悪いこと言わないでもらえるかな。俺は彼女と仲良くなりたいだけだよ」
とんでもないことになった。と、星那は顔を赤くしながらも、内心ため息が出そうだった。
傍目から見たら、二人の男子が星那を取り合っている状態。恋愛経験も乏しい星那にとって、イケメン二人に囲まれているというこの状況は、恥ずかしいことこの上なかった。ドキドキよりもはるかに羞恥が勝つ。
「誰がお前なんかと仲良くするかばーーか!!!この誘拐犯!宇宙人!!」
「宇宙人は君もだろ」
しかも二人の会話はお互いが宇宙人設定で進められている。
やっぱり宇宙人になりきるごっこが流行っているらしい。それにしたって、中学生にもなってこんな誰が見てるとも解らない屋外で大声でやることなのか?恥ずかしさに、星那はもう消えてしまいたいくらいの気持ちである。
「何この状況。もうやだ……」
二人に聞こえないくらいの小さな声で、ため息混じりに星那はそう口にした。それでも依然として、山田と颯兎はやいやいと言い合っている。
「お前とのデートに行くくらいなら、星那はオレとデートするっつーの!!お前は引っ込んでろ!」
「ここまで邪魔されるとは思わなかったな……。先に誘ったのは俺なんだから、ハヤトこそ引っ込んでてくれる?」
心底迷惑そうな顔で山田が言う。颯兎はその言いようにむきーっと顔をゆがめた。そして星那を抱きしめていた腕をゆるめ、今度は両肩を掴んで叫ぶ。
「星那!!デートするならオレがいいよな!なっ!?」
「星那、先に誘ったのは俺なんだから。俺とデートしてくれるよね?」
二人ほぼ同時に、そう言って星那に迫った。
(どうしてこうなったんだろ……)
星那の先程まで羞恥に赤くなっていた顔はすっかり熱が引いて、いっそ冷静になっていた。これは、どちらかかを選ばなければ争いが終わらない状況なのだろう。究極の選択だな、と星那は思った。だって、多分どっちを取っても後々が面倒くさそうなのだ。
ぶっちゃけ星那からすればデート自体が面倒だった。先程山田に誘われた時は、ちょっとドキッとしたけれど。相手はあの山田である。イケメンだけれど、変人の。
断った時の面倒くささと、誘いを受けた時の面倒くささ。どちらにせよ面倒ならば、いっそこうしてしまえば良い。
星那は投げやりな気分で、渋々こう口にした。
「――もう、三人で遊びに行けばいいんじゃない?」
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