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第4話 星那の歌
しおりを挟む部活を終えて帰路についた星那は、家の近くの公園のブランコに座りながら今日の出来事を思い出していた。
ユラユラとなんとなくブランコを揺らしながら、コンクールの課題曲を口ずさむ。
――宙の向こう 手を伸ばして 光を 掴め
――きらめく星の 希望を 胸に
――抱いて 進め 進め 未来へ
ふう、と歌い終えて夕暮れの空を見上げる。
ひとけのない公園だ。普段から誰もいないのをいい事に、星那はこうしてたまに一人で歌の練習をしていた。けれど、遅くならないうちに帰らなくては。
(それにしてもすごかったなぁ、山田君)
山田オリオンという王子様みたいな転入生がクラスにやってきたと思ったら、星那の所属する合唱部に入部してきた。そして、驚くほど素敵なピアノ伴奏を披露したのだ。
(綺麗な音だった……)
星那は何度も繰り返しあの光景を思い出す。あんなふうに音一つで誰かの心を震わせられることに驚いたし、あの美しい音色を奏でる本人のまとう、儚げなのに力強い雰囲気がすごく印象的だったのだ。
星那は歌うことが好きだけれど、あれほど誰かに感動をもたらすような歌は歌えない。好きな歌を歌って、楽しんでいるだけだ。だから、今日の山田の演奏を、羨ましいとも思った。
あんなふうに誰かの心を動かすような歌を、自分もいつか歌うことが出来るだろうか?
「……なーんて、そんな大層なことむりむり」
考えを浮かべて、すぐに首を横にふった。夏の合唱コンクールに向けて、がんばるのが星那には精一杯だ。
「あれ、天川さん?」
「!?や、山田君?どうしてここに」
さあ帰ろうと立ち上がろうとした時だった。今まさに思い浮かべていた人物が、公園の入口に立っていた。
「俺は帰り道の途中で……天川さんこそ、どうしてここに?もう暗くなるから、一人じゃ危ないよ」
「あ、えと、自主練をしてて……もう帰るところ!」
「そうだったんだ。実は、歌声が聞こえたと思って見に来てみたんだけど……さっきのはやっぱり天川さんだったんだね」
「へっ?あ、そう……かも」
(やだ、聞かれてた!)
誰もいないつもりで歌っていたのに、まさか山田の耳に届いてしまっていたなんて。星那は恥ずかしい気持ちになって、目を逸らし俯いた。
ほんのり顔を赤くする星那を見て、山田は可笑しそうにふっと口角を上げる。そして、そっと星那の顔をのぞき込んだ。
「ねえ、天川さん」
「え?なに?……って、近い近い近い!!」
至近距離に顔を近づけられて、星那は思わず叫んだ。こんなに顔面の整った男子が目の前にいたら心臓が爆発してしまう!と、星那は山田の綺麗な顔立ちにドキドキして、耐えられずにぎゅっと目をつむった。
「さっき歌ってた課題曲、いや、違う曲でも良いんだけど……もう一度、歌ってくれないかな」
そう言われて、ぱっ、と星那は目を開けた。
「う、歌?」
「うん。歌」
星那のうるさく鳴る心臓のことなど知らない山田は、涼しい顔でそう口にした。星那の歌を聴かせて欲しい、というお願いだ。
「えっと、なんで……?」
「なんでって……聴きたいと思ったから。だめ?」
「だめっていうか、わ、わたしの歌なんて聴いてもたのしくないし」
「天川さんの、歌が聴きたいんだよ」
「……っ」
「お願い」
山田は星那にまっすぐ目を向ける。そんな顔をされてお願いと言われて、はいイヤですとは言いにくい。
「じゃあ……す、少しなら」
星那は一瞬迷って、それからためらいがちに頷いた。異性に対して、それも二人きりの状況で歌うなんて気恥しい。けれど、こうも真剣な表情でお願いされては歌うしかない気がした。
「――♪」
星那が選んだのは数年前に流行った女性歌手の歌だった。
普段からよく口ずさむ歌だ。初恋をした女の子が相手へのもどかしい気持ちを表現する、そんな歌。
――伝えたい 伝えられない この想い
――近いのに遠い 切ないこの距離が
――苦しくて だけど愛しくて
――この想い いつかきみに届けばいいのに
曲の一番だけ歌って、星那は歌うのをやめる。ふー、と緊張から深く息を吐きだした。
「……えっと、こんなんでよかった?山田君」
「……」
山田の反応が気になって、チラっと目を向ける。すると突然、山田がその場に膝まづいた。そして、そっと星那の右手を取る。
いきなり、それもまるでプロポーズする時のようなその姿勢をする山田に、星那はギョッと目を丸くする。
「えっ、え??」
山田の青い瞳が、星那を射抜くようにまっすぐに見つめた。
ザァッ、と風が星那と山田の間を通り抜ける。
「――見つけた」
その声は安堵したような、喜びに満ち溢れたようなものだった。
「やっぱり、君だった。音楽室で歌声を聞いた時から、もしかしたらと思ってたんだ」
星那はその場から動けなかった。困惑して身体が固まってしまったのだ。山田はそんな星那の様子など気にもとめず、次々とわけのわからない事を口にし始める。
「音楽室で……君の歌声に反応して、星晶石がわずかに光った。さっきの歌声で、さらに光を増した」
山田は何かを握りしめていた。よく見ると、それは透明感のある丸い石だった。表面に何か文字のようなものが刻まれている。淡い光を放って、彼の手のひらを照らしていた。
「間違いない。天川星那、きみが"星の乙女"だ」
「な、なにを言って……山田君、急にどうしちゃったの」
ようやく振り絞るように出した声で、星那は山田に問う。突然変なことを言い出して、頭でも打ったのだろうか。それとも冗談でこんなことを?
けれど山田はふざけている様子は一つもなかった。彼はおもむろに星那の右手の甲に自らの額をそっと触れさせる。まるで祈るようなそんな格好をして、星那に向かってこう言い放ったのだ。
「――お迎えに上がりました、星の乙女よ。どうか我が星においでください」
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