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実家を追い出されて翌日。
昼休みに入った大学のカフェエリアに麻衣子の大きな笑い声が響いた。
「あはははははははは!」
「笑いごとじゃないわよ!」
「男目当てでインターンやったら勘当とか笑い話でしょ」
「違うわよ! お祖父ちゃんはアンドロイドが嫌いなの!」
「男目当てなんて倍嫌われるだろ」
「くっ……」
「そんで? 新居はどうなの」
「快適。なんなら最高」
何の準備も無しに放り出され呆然としていたら、母が管理人をしているというマンションの一室を用意してくれた。
不動産企業に勤めている父が時流に乗ってアンドロイド対応に改築したらしいが、祖父は息子にそんなマンションの管理をさせたくないと言い母に押し付けたらしい。
祖父のやりようには怒りがこみ上げ呆れもしたが、一人暮らしをしたかった美咲には有難くもあった。
「駅近の十五階角部屋で見晴らし良好。悪くない」
「家賃いらず?」
「うん。その代わり管理人代理やれって。お母さんアンドロイド全然分かんないから」
「お。アンドロイド管理資格三級が役に立つじゃん。ビジ職でも取れる基本資格が」
「一言余計よ」
アンドロイドを扱うためにはいくつかの資格が必要だ。
美作中央大学では単位取得扱いになる資格もあり、その一つに含まれているので取得した。追試続きの美咲にとっては有難い保険だ。
「ま、結局よかったじゃん」
「うん。ただ入居者のアンドロイド権利問題がめんどい」
「あー。そりゃしょうがないわ」
アンドロイドは時代の象徴ではあるものの問題も多い。
住民登録や住民税が必要だったり、個人所有でも家政型や護衛型のような職業特化型には給料が必要――という法律がある。
この手続きが非常に面倒くさく、個人商店を開くような手続きが必要で様々な管理者資格を取得する必要もある。
購入自体にも問題が多い。
アンドロイドが高性能であるが故に与える様々な影響を考慮し、法律で二十五歳以下は購入できない事になっている。
だが実際は無法地帯だ。親が購入して子供に与えれば所有者は親なので違法ではない。
このように、販売元企業が実情を把握できず取り締まれないのが現状だ。
この対策のためアンドロイド新法の制定が進められているが一進一退を繰り返している。
その原因はアンドロイド人権問題だ。
現時点でアンドロイドは形状に関わらず人権が無い。アンドロイドは家電扱いのため、首を切断しようが手足をもごうが法に触れる事は無い。
アンドロイド関連の法律は問題を起こしたアンドロイドを罰する法ばかりで、彼らを守る法律というのは存在しないのだ。
新法制定をするのならアンドロイドに人権を持たせろという団体もそれなりに多い。もし人権を持たせないのなら、保険やら住民税やらといった人間同等の税金がかかるのはおかしい、という意見もある。
これは政治家でも意見が真っ二つで、遅々として国の正が定まらないでいる。
しかも税金の合計額はおよそ毎月五十万円、職業特化型の高額機体は二百万円までいく物もある。アンドロイドはメンテナンス費用が毎月五十万円近くかかるし充電もしなくてはならない。
諸々を踏まえると『新機種出たから買い替えよう』なんてことは普通ではやらないことなのだ。
「けどそうそう事件なんてないでしょ」
「それが家政婦を所有者にしてたら持ち逃げされた家がいたんだって。だから注意して~ってさ」
「いや家政婦を所有者にするのが悪いだろ」
この権利関係もアンドロイドを語るうえでは切り離せない問題だ。
アンドロイドに関する主な権利は自由権と労働権、そして所有権がある。
自由権はアンドロイドに自由を与えるか――ではなく、『アンドロイドを自由に扱って良い悪いか』という意味だ。
例えば、購入者がアンドロイドで殺人ごっこをして破壊した場合これを良しとするかという事だ。
現状の法律で言えば問題は無いが、それを見た周囲の人間が気分を害して精神的被害を訴える場合があるため法改正が検討されている。
労働権は『アンドロイドに労働をさせて良いか悪いか』という意味だ。
市販のアンドロイドにはそれぞれ用途に伴う制約が定められている。
例えば、家政婦アンドロイドの用途は家事のため『収益を得てはならない』という規約がある。これはメーカーが国に提出している商品規定のため購入者も厳守する必要があるのだが、黙ってアルバイトをさせる人間が少なからずいる。
これは確実に違法なのだが、近年一部例外が発生している。労働ではなくお手伝いだと言い張り、給料を金銭では無く物品で行うケースだ。
これをされると違法ではなくなってしまい、そしてこれが最も発生しやすい問題で法改正が検討されている。
そして所有権。
これは単純に誰がアンドロイドの所有者かという事で、主に共有財産で購入した夫婦間で発生する。離婚する時どっちが持って行くかだ。
遺産相続時にも見られ、世話をしていた人間が持って行く権利があるとか生活能力の有無だとか、そういうった論争が繰り広げられる。
あまり多くは無いが、それなりに聞く問題である。
こういった権利問題が非常に多く『アンドロイド三大権利訴訟』と呼ばれるようになった。
購入よりも購入後の問題こそが富裕層以下の一般家庭に普及しない最大の要因だ。
「つーか持ち逃げは単なる窃盗じゃね?」
「そうだよ。でも警察来るとマンションの信用問題がありまして」
「めんど」
「でも赤ペンキ事件よりましだよ。あれは勘弁してほしいな」
「ああ、アンドロイド依存症ね」
昼休みに入った大学のカフェエリアに麻衣子の大きな笑い声が響いた。
「あはははははははは!」
「笑いごとじゃないわよ!」
「男目当てでインターンやったら勘当とか笑い話でしょ」
「違うわよ! お祖父ちゃんはアンドロイドが嫌いなの!」
「男目当てなんて倍嫌われるだろ」
「くっ……」
「そんで? 新居はどうなの」
「快適。なんなら最高」
何の準備も無しに放り出され呆然としていたら、母が管理人をしているというマンションの一室を用意してくれた。
不動産企業に勤めている父が時流に乗ってアンドロイド対応に改築したらしいが、祖父は息子にそんなマンションの管理をさせたくないと言い母に押し付けたらしい。
祖父のやりようには怒りがこみ上げ呆れもしたが、一人暮らしをしたかった美咲には有難くもあった。
「駅近の十五階角部屋で見晴らし良好。悪くない」
「家賃いらず?」
「うん。その代わり管理人代理やれって。お母さんアンドロイド全然分かんないから」
「お。アンドロイド管理資格三級が役に立つじゃん。ビジ職でも取れる基本資格が」
「一言余計よ」
アンドロイドを扱うためにはいくつかの資格が必要だ。
美作中央大学では単位取得扱いになる資格もあり、その一つに含まれているので取得した。追試続きの美咲にとっては有難い保険だ。
「ま、結局よかったじゃん」
「うん。ただ入居者のアンドロイド権利問題がめんどい」
「あー。そりゃしょうがないわ」
アンドロイドは時代の象徴ではあるものの問題も多い。
住民登録や住民税が必要だったり、個人所有でも家政型や護衛型のような職業特化型には給料が必要――という法律がある。
この手続きが非常に面倒くさく、個人商店を開くような手続きが必要で様々な管理者資格を取得する必要もある。
購入自体にも問題が多い。
アンドロイドが高性能であるが故に与える様々な影響を考慮し、法律で二十五歳以下は購入できない事になっている。
だが実際は無法地帯だ。親が購入して子供に与えれば所有者は親なので違法ではない。
このように、販売元企業が実情を把握できず取り締まれないのが現状だ。
この対策のためアンドロイド新法の制定が進められているが一進一退を繰り返している。
その原因はアンドロイド人権問題だ。
現時点でアンドロイドは形状に関わらず人権が無い。アンドロイドは家電扱いのため、首を切断しようが手足をもごうが法に触れる事は無い。
アンドロイド関連の法律は問題を起こしたアンドロイドを罰する法ばかりで、彼らを守る法律というのは存在しないのだ。
新法制定をするのならアンドロイドに人権を持たせろという団体もそれなりに多い。もし人権を持たせないのなら、保険やら住民税やらといった人間同等の税金がかかるのはおかしい、という意見もある。
これは政治家でも意見が真っ二つで、遅々として国の正が定まらないでいる。
しかも税金の合計額はおよそ毎月五十万円、職業特化型の高額機体は二百万円までいく物もある。アンドロイドはメンテナンス費用が毎月五十万円近くかかるし充電もしなくてはならない。
諸々を踏まえると『新機種出たから買い替えよう』なんてことは普通ではやらないことなのだ。
「けどそうそう事件なんてないでしょ」
「それが家政婦を所有者にしてたら持ち逃げされた家がいたんだって。だから注意して~ってさ」
「いや家政婦を所有者にするのが悪いだろ」
この権利関係もアンドロイドを語るうえでは切り離せない問題だ。
アンドロイドに関する主な権利は自由権と労働権、そして所有権がある。
自由権はアンドロイドに自由を与えるか――ではなく、『アンドロイドを自由に扱って良い悪いか』という意味だ。
例えば、購入者がアンドロイドで殺人ごっこをして破壊した場合これを良しとするかという事だ。
現状の法律で言えば問題は無いが、それを見た周囲の人間が気分を害して精神的被害を訴える場合があるため法改正が検討されている。
労働権は『アンドロイドに労働をさせて良いか悪いか』という意味だ。
市販のアンドロイドにはそれぞれ用途に伴う制約が定められている。
例えば、家政婦アンドロイドの用途は家事のため『収益を得てはならない』という規約がある。これはメーカーが国に提出している商品規定のため購入者も厳守する必要があるのだが、黙ってアルバイトをさせる人間が少なからずいる。
これは確実に違法なのだが、近年一部例外が発生している。労働ではなくお手伝いだと言い張り、給料を金銭では無く物品で行うケースだ。
これをされると違法ではなくなってしまい、そしてこれが最も発生しやすい問題で法改正が検討されている。
そして所有権。
これは単純に誰がアンドロイドの所有者かという事で、主に共有財産で購入した夫婦間で発生する。離婚する時どっちが持って行くかだ。
遺産相続時にも見られ、世話をしていた人間が持って行く権利があるとか生活能力の有無だとか、そういうった論争が繰り広げられる。
あまり多くは無いが、それなりに聞く問題である。
こういった権利問題が非常に多く『アンドロイド三大権利訴訟』と呼ばれるようになった。
購入よりも購入後の問題こそが富裕層以下の一般家庭に普及しない最大の要因だ。
「つーか持ち逃げは単なる窃盗じゃね?」
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