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episode15-2
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「久世どうだった」
「んー、そうだなあ。朔也と似てるなと思った」
「は?」
「僕の目を成功だって言ったよ。朔也から二人目」
「……そんな話したわけ」
「僕が治験者だったってとこだけね」
「この大事な時に混乱させるなよ」
「どうだろう。あの子は大丈夫な気がするよ。感情的な子かと思ってたけど意外に冷静。話てても論文見ても、ちゃんと人間とアンドロイドの線引きをしてる」
「お前もそう思うか」
「うん。故人の代用じゃなく新たなパートナーになるのがアンドロイドの本懐で、でも依存症の良し悪しはまた別――だってさ」
「だろうな。あいつは依存症に無縁だからか一歩引いてやがる」
「無縁かは分からないよ」
「分かるさ。母親を守るために爺さんと喧嘩するくらい家族を愛してる。親が久世を汚いことから遠ざけたのは愛してるからだ。人間同士愛し愛されてる奴は依存症にはならない」
「愛し愛されねえ……」
朔也らしからぬ発言だな――と誰もが言うだろう。
朔也が感情を判断基準に含めることはない。無意識下で冷静な判断をできなくなるから異性との共同作業も嫌う。
自ら誰かの感情を揺さぶることもしないし揺さぶられることもない。決まった行動以外を会社という集団の中でみせることはほぼ無い。
だがこの数日で異例の事態が起きた。
「あの派手なスポーツカー出したの久しぶりだね」
「は? 何の話だよ」
「うちの部署の子が見かけたらしいけど、大騒ぎだったよ。ぜーったい恋人乗せてるんだって」
「阿保か。ありゃアンドロイド運ぶためだ」
「そんなの朔也がやる必要無いじゃない。メール室にトラック出してもらえばいいんだから。常設二台」
「手が空いて無かったんだよ。つーかほぼ私情だし」
「私情で動いちゃったんだ。へーえ」
「……何だよ」
「別に。あ、あのスーツは失敗だと思うよ。大学生は引くって」
「人の私服にケチつけんな。つーか何だよ。何だこの話」
「朔也の寝室、あのアロマ良い香りだよね。久世さんも同じ香りしてた」
「……オレンジのアロマなんていくらでもあんだろ」
「あ、同じ香り付けてたってのは否定しないんだ」
げ、と朔也は焦った顔をした。
(へー。朔也でもこういう顔するんだ)
つい蒼汰はくすくすと笑ってしまった。
いつもの朔也なら知らぬ存ぜぬ我関せずだ。それがこんないかにも嘘を吐いていたと丸わかりの態度を取るなんて、こんなことはありえない。
「初めてだよね、朔也に媚びず啖呵切る女の子って。人生でいた?」
「……いなかったら何だよ」
「別に。ただ目立ってるよ。女の子が朔也のインターン一週間越えも初だし」
「見込みのある奴は育てる。それだけだ」
「そんなの女の子には通じないから気を付けなよ。僕帰るけど、朔也は?」
「俺はもーちょい。妙なメールが来てて」
「クレーム?」
「いや、エラーアラート。でもこれどーも……」
「厄介事? 手伝うよ」
「いや。ほとんどプライベートみたいなもんだから……」
随分と歯切れが悪く、こういう態度もまた珍しい。基本的に白か黒かという性格なのだ。
「首突っ込んでいいなら手伝うよ。しばらく朔也忙しいんだし」
「……お前A-RGRY知ってるか?」
「そりゃまあ。どうしたの急に」
「久世が拾ったんだよ」
「ええ? 大丈夫なのそれ」
「それ自体は大丈夫。気になってるのは別件でさ。あれのパーソナルってどうなってんだ?」
「どうって、ほとんどサービスセンセーションだよ。あれの問題は本体じゃなくて不正対策が不十分なとこだ。パーソナルの問題を上げるとしたら完成度の低さかな。低すぎて大したことはできない」
「だよなあ……」
「何かあったの? エラーってA-RGRY?」
「いや、どうなんだろ……」
「A-RGRYなら回収でしょ。朔也が今頑張っても仕方ないよ」
「……だよな。明日にするか」
「そうそう。久世さんにくたびれた顔見せたくないでしょ」
「お前今日どうしたんだ?」
「それはこっちの台詞だよ。プライベートで人助けするほど優しかった?」
「優しいに決まってんだろ。俺は万人に優しい」
「はいはい」
「おいこら」
「さー、帰ろう帰ろう。残業すると怒られるからね」
蒼汰は強制的に帰宅させようと、ぱちぱちとフロアの電気を消した。
朔也億劫そうに立ち上がるとノートパソコンを鞄へしまい込んだ。会社を出たら仕事をしないのが朔也の信条なのに仕事用のパソコンを持ち帰るのは珍しい。
やはり今までの朔也とは少し違う様子は心配にもなったけれど、蒼汰は何となく嬉しく感じていた。
「んー、そうだなあ。朔也と似てるなと思った」
「は?」
「僕の目を成功だって言ったよ。朔也から二人目」
「……そんな話したわけ」
「僕が治験者だったってとこだけね」
「この大事な時に混乱させるなよ」
「どうだろう。あの子は大丈夫な気がするよ。感情的な子かと思ってたけど意外に冷静。話てても論文見ても、ちゃんと人間とアンドロイドの線引きをしてる」
「お前もそう思うか」
「うん。故人の代用じゃなく新たなパートナーになるのがアンドロイドの本懐で、でも依存症の良し悪しはまた別――だってさ」
「だろうな。あいつは依存症に無縁だからか一歩引いてやがる」
「無縁かは分からないよ」
「分かるさ。母親を守るために爺さんと喧嘩するくらい家族を愛してる。親が久世を汚いことから遠ざけたのは愛してるからだ。人間同士愛し愛されてる奴は依存症にはならない」
「愛し愛されねえ……」
朔也らしからぬ発言だな――と誰もが言うだろう。
朔也が感情を判断基準に含めることはない。無意識下で冷静な判断をできなくなるから異性との共同作業も嫌う。
自ら誰かの感情を揺さぶることもしないし揺さぶられることもない。決まった行動以外を会社という集団の中でみせることはほぼ無い。
だがこの数日で異例の事態が起きた。
「あの派手なスポーツカー出したの久しぶりだね」
「は? 何の話だよ」
「うちの部署の子が見かけたらしいけど、大騒ぎだったよ。ぜーったい恋人乗せてるんだって」
「阿保か。ありゃアンドロイド運ぶためだ」
「そんなの朔也がやる必要無いじゃない。メール室にトラック出してもらえばいいんだから。常設二台」
「手が空いて無かったんだよ。つーかほぼ私情だし」
「私情で動いちゃったんだ。へーえ」
「……何だよ」
「別に。あ、あのスーツは失敗だと思うよ。大学生は引くって」
「人の私服にケチつけんな。つーか何だよ。何だこの話」
「朔也の寝室、あのアロマ良い香りだよね。久世さんも同じ香りしてた」
「……オレンジのアロマなんていくらでもあんだろ」
「あ、同じ香り付けてたってのは否定しないんだ」
げ、と朔也は焦った顔をした。
(へー。朔也でもこういう顔するんだ)
つい蒼汰はくすくすと笑ってしまった。
いつもの朔也なら知らぬ存ぜぬ我関せずだ。それがこんないかにも嘘を吐いていたと丸わかりの態度を取るなんて、こんなことはありえない。
「初めてだよね、朔也に媚びず啖呵切る女の子って。人生でいた?」
「……いなかったら何だよ」
「別に。ただ目立ってるよ。女の子が朔也のインターン一週間越えも初だし」
「見込みのある奴は育てる。それだけだ」
「そんなの女の子には通じないから気を付けなよ。僕帰るけど、朔也は?」
「俺はもーちょい。妙なメールが来てて」
「クレーム?」
「いや、エラーアラート。でもこれどーも……」
「厄介事? 手伝うよ」
「いや。ほとんどプライベートみたいなもんだから……」
随分と歯切れが悪く、こういう態度もまた珍しい。基本的に白か黒かという性格なのだ。
「首突っ込んでいいなら手伝うよ。しばらく朔也忙しいんだし」
「……お前A-RGRY知ってるか?」
「そりゃまあ。どうしたの急に」
「久世が拾ったんだよ」
「ええ? 大丈夫なのそれ」
「それ自体は大丈夫。気になってるのは別件でさ。あれのパーソナルってどうなってんだ?」
「どうって、ほとんどサービスセンセーションだよ。あれの問題は本体じゃなくて不正対策が不十分なとこだ。パーソナルの問題を上げるとしたら完成度の低さかな。低すぎて大したことはできない」
「だよなあ……」
「何かあったの? エラーってA-RGRY?」
「いや、どうなんだろ……」
「A-RGRYなら回収でしょ。朔也が今頑張っても仕方ないよ」
「……だよな。明日にするか」
「そうそう。久世さんにくたびれた顔見せたくないでしょ」
「お前今日どうしたんだ?」
「それはこっちの台詞だよ。プライベートで人助けするほど優しかった?」
「優しいに決まってんだろ。俺は万人に優しい」
「はいはい」
「おいこら」
「さー、帰ろう帰ろう。残業すると怒られるからね」
蒼汰は強制的に帰宅させようと、ぱちぱちとフロアの電気を消した。
朔也億劫そうに立ち上がるとノートパソコンを鞄へしまい込んだ。会社を出たら仕事をしないのが朔也の信条なのに仕事用のパソコンを持ち帰るのは珍しい。
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