24 / 45
episode15-1
しおりを挟む
蒼汰が漆原朔也を知ったのは美作本社の入社式だった。
新卒が集められて自己紹介をして交流するという場があったのだが、控えめに言って独壇場、悪く言えば一対全女性新卒の合コン状態だった。
それも明らかに本人は興味がないようでろくに会話もしない不遜な態度は男性陣を苛立たせた。
その中で唯一朔也と話した男性新卒が蒼汰だった。
「お前! 穂積蒼汰だろ! アンドロイド医療唯一の成功者!」
「せ、成功?」
この年の新卒で最も異色なのは蒼汰だった。
既に禁忌といっても過言ではないアンドロイド医療唯一の生存者で、当時は人ならざる人のようにも扱われた。それくらいアンドロイド医療は死と隣り合わせで、だから『成功』ではなく『生存』と呼ばれる。
だから蒼汰に好き好んで近付く者は少なく、近付いてくるのは下心のある研究者かマスコミくらいだった。他の人間は基本的には口をつぐみ腫れもの扱いだ。
それだけに、蒼汰にとって朔也はあまりにも型破りな存在だった。
「なんでアンドロイド医療なんてやろうと思ったの? 死ぬ確率の方が高いんだろ?」
「……真っ向からそういうこと聞く?」
「遠回しにじわじわ言えって? 嫌じゃねえ?」
「どっちにしろ嫌だよ」
「え、嫌なの?」
「嫌に決まってるだろ!」
「何で? せっかく生きてるのに?」
周囲がざわつく中で、朔也は無垢な眼差しで首を傾げた。
既に蒼汰と朔也は水の中に放り込まれた油のようだった。
「なあ、お前部署どこ?」
「え、だ、第二。パーソナル」
「俺第一。なあ、共同開発しようぜ。俺ボディ作るからお前パーソナル作れよ」
「え、な、なんで」
「面白いからに決まってんじゃん。アンドロイド医療なんて貴重な体験、活かさない手はないって!」
「……自分の成果のために僕を利用するの」
「利用? 馬鹿言え。活用だろ。失敗は成功のもと。お前にとってその目が失敗かどうかは知らないけど、その経験が誰かのためになれば失敗じゃない」
「失敗じゃ、ない……?」
「お前は失敗でいいの?」
「……それは」
それから朔也は蒼汰に付いて回り共に開発をし切磋琢磨し、気が付けば蒼汰はパーソナル開発を担当する第二のマネージャーになっていた。
その頃には既に蒼汰がアンドロイド医療の生存者であることなど誰も話題にしないくらい、朔也は抜きんでた存在になっていた。おかげで蒼汰が話しかけられる理由はアンドロイド医療ではなく漆原朔也唯一の友人というものにすり替わった。
朔也は何の意図もないだろうが、それは白い目を向けられることの多かった蒼汰にとって幸せなことだった。
だから蒼汰は朔也の頼みは断らない。朔也が意味のないことをするはずがないし、困っているのなら助けてやりたいと思っている。
(けど、まさか女の子の相談されるとは思ってなかったなあ)
珍しく社内で電話がかかって来た。何かと思えば、自分の部署のインターンの論文を見てほしいという話だった。
朔也がインターン一人に時間を割くこと自体が稀だったし、ましてや女の子なんて論外なのだ。
なにしろ女性インターンは朔也目当てであることが多く、過去にそれを見抜けずうっかり入社させたら色恋沙汰で問題になったことがあった。それも女性が一方的に熱を上げストーカー化した結果朔也に怪我をさせるというなかなか派手な事件があり、それ以来、女性インターン生には注意するようにというお達しが出ている。
だから朔也はインターンには優しくしないし必要以上に手を掛けることはしない。それがまさか特定の一人のために動くとは、誰も思っていなかった。
「朔也」
「おー。お疲れ」
朔也に頼まれたインターン生の久世美咲の論文を見てやった報告にやって来た。
既に二十一時を回っていて既にフロアには誰もいないが、朔也だけがパソコンに向かっている。
新卒が集められて自己紹介をして交流するという場があったのだが、控えめに言って独壇場、悪く言えば一対全女性新卒の合コン状態だった。
それも明らかに本人は興味がないようでろくに会話もしない不遜な態度は男性陣を苛立たせた。
その中で唯一朔也と話した男性新卒が蒼汰だった。
「お前! 穂積蒼汰だろ! アンドロイド医療唯一の成功者!」
「せ、成功?」
この年の新卒で最も異色なのは蒼汰だった。
既に禁忌といっても過言ではないアンドロイド医療唯一の生存者で、当時は人ならざる人のようにも扱われた。それくらいアンドロイド医療は死と隣り合わせで、だから『成功』ではなく『生存』と呼ばれる。
だから蒼汰に好き好んで近付く者は少なく、近付いてくるのは下心のある研究者かマスコミくらいだった。他の人間は基本的には口をつぐみ腫れもの扱いだ。
それだけに、蒼汰にとって朔也はあまりにも型破りな存在だった。
「なんでアンドロイド医療なんてやろうと思ったの? 死ぬ確率の方が高いんだろ?」
「……真っ向からそういうこと聞く?」
「遠回しにじわじわ言えって? 嫌じゃねえ?」
「どっちにしろ嫌だよ」
「え、嫌なの?」
「嫌に決まってるだろ!」
「何で? せっかく生きてるのに?」
周囲がざわつく中で、朔也は無垢な眼差しで首を傾げた。
既に蒼汰と朔也は水の中に放り込まれた油のようだった。
「なあ、お前部署どこ?」
「え、だ、第二。パーソナル」
「俺第一。なあ、共同開発しようぜ。俺ボディ作るからお前パーソナル作れよ」
「え、な、なんで」
「面白いからに決まってんじゃん。アンドロイド医療なんて貴重な体験、活かさない手はないって!」
「……自分の成果のために僕を利用するの」
「利用? 馬鹿言え。活用だろ。失敗は成功のもと。お前にとってその目が失敗かどうかは知らないけど、その経験が誰かのためになれば失敗じゃない」
「失敗じゃ、ない……?」
「お前は失敗でいいの?」
「……それは」
それから朔也は蒼汰に付いて回り共に開発をし切磋琢磨し、気が付けば蒼汰はパーソナル開発を担当する第二のマネージャーになっていた。
その頃には既に蒼汰がアンドロイド医療の生存者であることなど誰も話題にしないくらい、朔也は抜きんでた存在になっていた。おかげで蒼汰が話しかけられる理由はアンドロイド医療ではなく漆原朔也唯一の友人というものにすり替わった。
朔也は何の意図もないだろうが、それは白い目を向けられることの多かった蒼汰にとって幸せなことだった。
だから蒼汰は朔也の頼みは断らない。朔也が意味のないことをするはずがないし、困っているのなら助けてやりたいと思っている。
(けど、まさか女の子の相談されるとは思ってなかったなあ)
珍しく社内で電話がかかって来た。何かと思えば、自分の部署のインターンの論文を見てほしいという話だった。
朔也がインターン一人に時間を割くこと自体が稀だったし、ましてや女の子なんて論外なのだ。
なにしろ女性インターンは朔也目当てであることが多く、過去にそれを見抜けずうっかり入社させたら色恋沙汰で問題になったことがあった。それも女性が一方的に熱を上げストーカー化した結果朔也に怪我をさせるというなかなか派手な事件があり、それ以来、女性インターン生には注意するようにというお達しが出ている。
だから朔也はインターンには優しくしないし必要以上に手を掛けることはしない。それがまさか特定の一人のために動くとは、誰も思っていなかった。
「朔也」
「おー。お疲れ」
朔也に頼まれたインターン生の久世美咲の論文を見てやった報告にやって来た。
既に二十一時を回っていて既にフロアには誰もいないが、朔也だけがパソコンに向かっている。
0
あなたにおすすめの小説
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる