【キャラ文芸大賞 奨励賞】壊れたアンドロイドの独り言

真野蒼子

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episode17-2

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 明日以降は分からないが、今日の客は開発者が多い。何しろあの漆原朔也がやっているというだけで注目の的だからだ。
 しかしこの客は見るからにお金持ちのお嬢様といった風で、有名ブランドのバッグに眩いアクセサリーをこれでもかと身に付けている。
 これは買ってくれそうだな、と美咲は低姿勢で微笑んだ。

「お呼びでしょうか」
「あのぉ、この子って売ってるんですか?」
「申し訳ありません。こちらは弊社社員の個人制作でして、商品化の予定はないんです」
「え~。じゃあ譲ってもらうのは? 新しく同じの作ってくれるんでもいいんだけど」 
「オーダーメイドですね。少々お待ち下さい」

 美咲はやった、と心の中でガッツポーズをして漆原に駆け寄った。

「漆原さん! お客さんが安西君のNICOLA欲しいって!」
「きたか。おい、安西」
「はい! 何か問題ありましたか!?」
「NICOLAの買取希望だ。売るか新規製作か断るか。どうする?」
「え!? そ、そんな、え!? そんな事あるんですか!?」
「そりゃあるよ。ただし美作のオーダーメイド専門子会社通してもらう事になるけど」
「あ、え、えっと……」

 購入希望は毎年ある事で、一般販売より速く手に入れられる事から富裕層の間では一つのステータスのようになっている。
 しかも今回は漆原朔也が率いる新規事業で、彼の育てている若手が作ったというだけでその価値は高い。
 社員もそれは聞いていたけれど、まさか開始一時間足らずで出て来るとは思っていなかった。ましてや新卒で右も左も分からない安西にとっては衝撃の出来事で、おろおろとしている。

「落ち着け。作る気あるなら前向きに検討、後日相談って伝えてくるぞ」
「っは、はい! 検討します!」
「よし。じゃあ俺が行ってくる」

 漆原は安西の肩をぽんと軽く叩き、客の元へ行くと少しだけ何か話して名刺交換をしたようだった。
 美咲達はその様子をドキドキしながら見守ると、客は名残惜しそうにNICOLAに手を振りブースを出ていった。
 漆原はそれを見送ると、にやりと笑って戻って来る。

「ど、どうなったんですか」
「予算五千万円で新規作成。双子にしてほしいってさ」
「っご!? ご、ごせんまんえんっ!?」
「うっそぉ! 安西君凄いじゃん!!」
「週明け連絡するぞ。準備しとけよ」
「っは、はい!!」

 アンドロイドは確かに高額だしオーダーメイドはそれを上回るが、それでも五千万円などありえない。
 過去に二千万円を超える開発を要望した客がいたらしいが、そんなのは美作の歴史を見てもほんの数件だ。
 オーダーメイド専門の子会社もあるが、なかなか顧客が得られず成長に乏しい。それがまさか新卒が寄せ集めで作ったアンドロイド一機で超えるなど、それこそ歴史的快挙だ。
 その場の全員でわあわあと盛り上がっていたが、美咲はこそりとその輪を抜けて漆原の袖を引いた。

「水を差したくないのでこっそりとご報告しますが」
「分かってるよ。製品版のエラーだろ」
「あ、知ってたんですね」
「ああ。エラーメールがしこたま届いてる」
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