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【プロローグ】運命の日
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「聖女様、私めの背に!」
凛然と言い放ったのは、陽光にきらめく金髪も麗しき騎士殿だ。そして彼が白く高貴な礼服の背にかばうのは、空色の法衣に栗色の髪の愛らしい少女。
目の端でそれを捉えた私の胸にチリリと、ほんの少しの羨望がくすぶる。
周囲は、怒号と悲鳴がない混ぜの喧騒で包まれていた。
王国あげての荘厳な聖騎士任命式典の上空に、突如として開いた禁呪「転移門《ゲート》」の黒い穴。そこから出現した帝国兵士たちの急襲により、いまや王城庭園は阿鼻叫喚だった。
──さて、そろそろかしら。
そのさなかで、私は優雅に紅茶のカップを傾ける。
「いたぞ! こいつが侯爵令嬢だ!」
暴力に酔い痴れた声が響く。血のように紅い鎧で全身をくまなく覆った帝国兵たちが、豪奢な紫のドレスに長い黒髪の少女──つまりこの私、ダンケルハイト侯爵家令嬢・エリシャを取り囲んでいた。
悠然とカップをテーブルに置き、周囲を見渡す。
体の線に近いスマートな彼らの鎧は、一見すると軽武装にも思えるけれど、実態は魔力を凝縮して装甲化した【魔鎧】と呼ばれる代物だ。
鉄壁の防御力のみならず、装着者の身体能力まで格段に強化するそれを前に、王国兵士の通常装備では成すすべもないだろう。
「我らに従っていただければ、あなたの命だけは保証しましょう」
ひとり進み出た帝国兵が、表情のない鉄仮面の下から紳士的に脅迫する。彼の魔鎧は他と違って、各所に黄金のラインが走っていた。おそらく指揮官用といったところだろう。
「そ、ご丁寧にありがとう。けれど──」
私は知っている。ここで彼の言葉に従い人質となれば、そのせいで国王様と王妃様の命をはじめ、王国にとって取り返しのつかない数多の害が及ぶことを。
その逆境のさなかで、さきほどの騎士殿が聖女様から愛の証として「絶聖の加護」の力を授かり、聖剣片手に一騎当千の大活躍のすえ帝国軍を退けることも。
そうして私は、我が身のかわいさに王国を滅ぼしかけた悪女として断罪され、もちろん第三王子との婚約も破棄、国外追放の憂き目にあう。
その挙句、流浪の道のりで野盗に襲われ、なにもかも奪われて、ひとり惨めに生涯を終えるのだ。まったく、冗談じゃない。だからそんなものは──
「──お断りさせていただくわ」
私は毅然と吐き捨てた。
その態度が鼻についたのだろう、噴出する帝国兵たちの殺意に私の白い肌が粟立つ。
彼らの魔鎧には人間の残虐性を引き出すという副作用──ただし戦場においては副次効果──がある。
ゆえにこのまま要求を断った場合、私は彼らに蹂躙されて、見るも無惨に殺されてしまうだろう。その結末もまた、私は知っていた。
けれど、あきらめたわけじゃない。むしろ逆。
すっ──と私が天に掲げた右の手首には、ダンケルハイト家の鷲獅子紋が刻まれた黒い腕輪が輝く。そう、今の私には「これ」がある。
「纏装──」
左手の指先を鷲獅子紋に添えて、私はその銘を高らかに呼んだ。
「レイ! ジョー! ガーッ!」
紋から溢れた紫の炎が全身を包み込んで、一瞬後、散華するように消える。その址に凛と立つ私は、悪魔の如き漆黒の魔鎧を全身に纏っていた。
「──どうなっている!? 王国に魔鎧は存在しないはずだ!」
「なんて禍々しい姿……それにこの凄まじい魔力は……」
動揺する帝国兵たちの声に重なって、彼らの魔鎧から、ヴーンと小虫の羽音のような音が鳴りはじめる。
「これは……我々の魔鎧が……震えているのか……」
後ずさる彼らを追い込むように一歩踏み出しながら、私は優雅に言い放つのだ。
「さあ、仮面舞踏会の開宴よ──!」
運命に抗う変身──黒き魔鎧、レイジョーガー。これは、その鋼の魔拳で破滅を砕く、私の誓いと戦いの物語。
凛然と言い放ったのは、陽光にきらめく金髪も麗しき騎士殿だ。そして彼が白く高貴な礼服の背にかばうのは、空色の法衣に栗色の髪の愛らしい少女。
目の端でそれを捉えた私の胸にチリリと、ほんの少しの羨望がくすぶる。
周囲は、怒号と悲鳴がない混ぜの喧騒で包まれていた。
王国あげての荘厳な聖騎士任命式典の上空に、突如として開いた禁呪「転移門《ゲート》」の黒い穴。そこから出現した帝国兵士たちの急襲により、いまや王城庭園は阿鼻叫喚だった。
──さて、そろそろかしら。
そのさなかで、私は優雅に紅茶のカップを傾ける。
「いたぞ! こいつが侯爵令嬢だ!」
暴力に酔い痴れた声が響く。血のように紅い鎧で全身をくまなく覆った帝国兵たちが、豪奢な紫のドレスに長い黒髪の少女──つまりこの私、ダンケルハイト侯爵家令嬢・エリシャを取り囲んでいた。
悠然とカップをテーブルに置き、周囲を見渡す。
体の線に近いスマートな彼らの鎧は、一見すると軽武装にも思えるけれど、実態は魔力を凝縮して装甲化した【魔鎧】と呼ばれる代物だ。
鉄壁の防御力のみならず、装着者の身体能力まで格段に強化するそれを前に、王国兵士の通常装備では成すすべもないだろう。
「我らに従っていただければ、あなたの命だけは保証しましょう」
ひとり進み出た帝国兵が、表情のない鉄仮面の下から紳士的に脅迫する。彼の魔鎧は他と違って、各所に黄金のラインが走っていた。おそらく指揮官用といったところだろう。
「そ、ご丁寧にありがとう。けれど──」
私は知っている。ここで彼の言葉に従い人質となれば、そのせいで国王様と王妃様の命をはじめ、王国にとって取り返しのつかない数多の害が及ぶことを。
その逆境のさなかで、さきほどの騎士殿が聖女様から愛の証として「絶聖の加護」の力を授かり、聖剣片手に一騎当千の大活躍のすえ帝国軍を退けることも。
そうして私は、我が身のかわいさに王国を滅ぼしかけた悪女として断罪され、もちろん第三王子との婚約も破棄、国外追放の憂き目にあう。
その挙句、流浪の道のりで野盗に襲われ、なにもかも奪われて、ひとり惨めに生涯を終えるのだ。まったく、冗談じゃない。だからそんなものは──
「──お断りさせていただくわ」
私は毅然と吐き捨てた。
その態度が鼻についたのだろう、噴出する帝国兵たちの殺意に私の白い肌が粟立つ。
彼らの魔鎧には人間の残虐性を引き出すという副作用──ただし戦場においては副次効果──がある。
ゆえにこのまま要求を断った場合、私は彼らに蹂躙されて、見るも無惨に殺されてしまうだろう。その結末もまた、私は知っていた。
けれど、あきらめたわけじゃない。むしろ逆。
すっ──と私が天に掲げた右の手首には、ダンケルハイト家の鷲獅子紋が刻まれた黒い腕輪が輝く。そう、今の私には「これ」がある。
「纏装──」
左手の指先を鷲獅子紋に添えて、私はその銘を高らかに呼んだ。
「レイ! ジョー! ガーッ!」
紋から溢れた紫の炎が全身を包み込んで、一瞬後、散華するように消える。その址に凛と立つ私は、悪魔の如き漆黒の魔鎧を全身に纏っていた。
「──どうなっている!? 王国に魔鎧は存在しないはずだ!」
「なんて禍々しい姿……それにこの凄まじい魔力は……」
動揺する帝国兵たちの声に重なって、彼らの魔鎧から、ヴーンと小虫の羽音のような音が鳴りはじめる。
「これは……我々の魔鎧が……震えているのか……」
後ずさる彼らを追い込むように一歩踏み出しながら、私は優雅に言い放つのだ。
「さあ、仮面舞踏会の開宴よ──!」
運命に抗う変身──黒き魔鎧、レイジョーガー。これは、その鋼の魔拳で破滅を砕く、私の誓いと戦いの物語。
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