断罪魔嬢・ザ・ダークヒーロー ~破滅のさだめの令嬢は黒き魔鎧で無双する〜

草葉ノカゲ

文字の大きさ
7 / 64
第一部 誕嬢篇

魔学者ジブリール

しおりを挟む
「ジブリール卿のことです」

 ミオリの口から出たのは、父の客人である若い魔学者の名だった。
 一年ほど前から時折り屋敷に顔を出すようになったその二十代半ばの男は、確か今日も朝から訪問予定になっていたはずだ。
 今ごろ二人して地下の書斎兼魔学研究室にこもって侃々諤々ああだこうだを繰り広げていることだろう。

 長い赤髪に赤い服を着た、魔学者らしからぬ派手な外見の彼は、そう言えばゲームの公式サイトで攻略対象のひとりとして(真ん中より下あたりに)載っていたような気がする。──ちなみにまったく好みではない。

「あの方の話し方には、微かに帝国訛りがあるのです」

 私の目をまっすぐに見据えて、彼女は言った。

「そしてあの方からは、血の匂いがします。あの目は、自分以外を人間と思っていない──人殺しの目です」

 そこで、私は思い出していた。アニメで語られた、エリシャ わたし の父親による秘法の帝国への漏洩が「魔鎧マガイ」の元凶になったという衝撃的な情報。そしてエリシャ わたし の記憶によれば父とその男、ジブリールが共同研究しているのは、ダンケルハイト家に代々伝わる秘宝──神遺物レリックなのだ。

 どこかで、カチリと歯車が噛み合う音が聞こえた──気がした。

「私……お父様のところに、行かなくちゃ」

 もしかしたら今ここが、私の人生シナリオを破滅ルートから離脱させる分岐点かも知れない。

「お供いたします!」
 
 間髪入れずにミオリが言ってくれる。

「ありがとう、すごく心強い」
「侍女として……あ、姉としても、い、いも、妹を守るのは、とと当然ですから!」
「ええ、頼りにしています」
 
 思い詰めたような表情の彼女に、私は微笑みを返した。
 しかし、そこでふとひとつ疑問が浮かぶ。彼女はいつの間に「帝国訛り」や「血の匂い」を嗅ぎ分ける女スパイじみた能力を身に付けたのだろう。この世界の侍女って、そういうもの……というわけでも、なかったはずだけど。
 私の疑問もまた察知したらしいミオリは、少し目をそらしながら種明かしをしてくれた。

「あの、私がお暇をいただいていた三年間──我が父からは、侍女の修行とお伝えしていたと思うのですが、ほんとうは、エリシャ様を影からお守りできるよう、アイゼン流のシノビの技を継承する修行をしていたのです」
「えっ……えーと、つまり……ミオリって、忍者なの?」
「そういうことになります」

 この世界でも、東方の島国に「忍者」が存在しているらしい。父のクラウスが東方文化を好んでおり、そのへんは書物から得た知識でエリシャ わたし も知っていた。

 つまり、これから運命に対峙する私にとって、めちゃくちゃ頼りになるお姉ちゃんができたということになりそうだ。おそらくそれはゲームのエリシャ わたし が得ることのできなかった、最高の「味方」だろう。

「あっ! その前にエリシャ様、お着替えを……」

 ──うん。ほんとうに頼りになる。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます

山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。 でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。 それを証明すれば断罪回避できるはず。 幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。 チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。 処刑5秒前だから、今すぐに!

貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ

ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます! 貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。 前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?

一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫

むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。

笑顔が苦手な元公爵令嬢ですが、路地裏のパン屋さんで人生やり直し中です。~「悪役」なんて、もう言わせない!~

虹湖🌈
ファンタジー
不器用だっていいじゃない。焼きたてのパンがあればきっと明日は笑えるから 「悪役令嬢」と蔑まれ、婚約者にも捨てられた公爵令嬢フィオナ。彼女の唯一の慰めは、前世でパン職人だった頃の淡い記憶。居場所を失くした彼女が選んだのは、華やかな貴族社会とは無縁の、小さなパン屋を開くことだった。 人付き合いは苦手、笑顔もぎこちない。おまけにパン作りは素人も同然。 「私に、できるのだろうか……」 それでも、彼女が心を込めて焼き上げるパンは、なぜか人の心を惹きつける。幼馴染のツッコミ、忠実な執事のサポート、そしてパンの師匠との出会い。少しずつ開いていくフィオナの心と、広がっていく温かい人の輪。 これは、どん底から立ち上がり、自分の「好き」を信じて一歩ずつ前に進む少女の物語。彼女の焼くパンのように、優しくて、ちょっぴり切なくて、心がじんわり温かくなるお話です。読後、きっとあなたも誰かのために何かを作りたくなるはず。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ライバル悪役令嬢に転生したハズがどうしてこうなった!?

だましだまし
ファンタジー
長編サイズだけど文字数的には短編の範囲です。 七歳の誕生日、ロウソクをふうっと吹き消した瞬間私の中に走馬灯が流れた。 え?何これ?私?! どうやら私、ゲームの中に転生しちゃったっぽい!? しかも悪役令嬢として出て来た伯爵令嬢じゃないの? しかし流石伯爵家!使用人にかしずかれ美味しいご馳走に可愛いケーキ…ああ!最高! ヒロインが出てくるまでまだ時間もあるし令嬢生活を満喫しよう…って毎日過ごしてたら鏡に写るこの巨体はなに!? 悪役とはいえ美少女スチルどこ行った!?

処理中です...