断罪魔嬢・ザ・ダークヒーロー ~破滅のさだめの令嬢は黒き魔鎧で無双する〜

草葉ノカゲ

文字の大きさ
23 / 64
第一部 誕嬢篇

聖女と魔拳と

しおりを挟む
 マリカ。たしかにそれは聖女ヒロインの名前だった。

 であるなら、浄化の力も納得できる。そもそも、平民である彼女がその能力を見出され、王立学園に編入してくる、というのがゲームの導入だったはず。──そんな風に聞いた気がする。

 時間軸として、それはまだ先のことなのだろう。エリシャは未だ彼女を知らず、衿沙もまたアニメ絵にじげんの彼女しか見たことがないから、彼女が聖女そうであると把握できなかったのだ。

 そんな思考の間にも、まるでこちらをおちょくるように地面をごろごろと転がり尖踵ヒールの追撃をかわす瘴鬼ゴブリン。そのまま距離をとって跳ね起きると、ふたたび耳障りな笑い声をあげた。

 魔瘴ましょうの侵蝕が魔鎧マガイに及ぼす影響は未知数だが、だからこそこれ以上、不用意にそれを受けることは避けたい。音沙汰のないミオリ──影狐カゲコのことも心配だ。

 だが、相手のトリッキーな動きに対し初陣のレイジョーガーわたしはまだ決め手に欠けている。

 決め手──そこで真っ先に思い浮かんだのは、魔玄籠手マガントレットでアズライルに放ったあのロケットパンチである。

 オリジナルから魔紋マモンを移植する際、解析不能ブラックボックスのままとりあえず形を整えて組み込んだ部分もいくらかあると父は言っていた。なので、オリジナルで出来たことなら、何らかの形で再現されている可能性はある。

 ギギゲゲッ

 わらいながら再び間合いを詰めてくる瘴鬼ゴブリンを、道の真んなか仁王立ちで迎え撃つ私は、右腕に魔力を集中させた。あのとき優しい声のだれかが、悠久の時を超えて手を取り教えてくれた感覚を、再現するように。

 腰溜めに構えた右の拳が、紫の燐光に包まれてゆく。肘部分の装甲がカチャリと開口し、紫炎がちいさく後方に噴出しはじめた。

 ──行ける。

 のけ反ったまま駆け寄る瘴鬼ゴブリンが、間合いの外から体勢をぐいんと一気に前のめりに変化させつつ、左手の指を貫手まっすぐに揃えて突きを放つ。
 私の視界では、第三の目サードアイによってその攻撃の軌跡予測線が赤く空中に描かれていた。線の先は、私の喉元に吸い込まれている。

 ギギィ!

 一拍遅れて線をなぞるように走る爪の先を、右足一歩さげ半身になってやり過ごした私は、右手に溜めた魔力をここぞと解放した。肘から激しく噴射される紫炎ジェットの尾を彗星のように引いて、紫光に包まれた正拳突きが放たれる。

 それは例のごとく変態的に回避しようとする瘴鬼ゴブリンの挙動を遥かに上回る速度で、無防備な胴体を撃ち抜く!

零星レイジョー──パンチッ!!』

 籠手ロケットの飛ばないジェット推進パンチという形で搭載されていたその技に、昭和の特撮ヒーローのように思い切り叫びを乗せたかったけど、どうにか我慢して心の中だけに留めておく。

 直撃を受けた瘴鬼ゴブリンの体は、地面を何度もバウンドしながら遥か後方へと吹き飛んで、ようやく止まった。
 赤黒い剛毛も土埃で汚れ、ぼろ雑巾のように倒れた彼は、手足をおかしな方向に捻じ曲げながら、それでもゆっくりと立ち上がった。
 赤黒い霧をたちのぼらせながら風穴の開いてゆく自分の胴を見ると、頭が地面につくほどまで全身をのけぞらせてわらう。おかしくて仕方がない、という風に。

「いい加減に──」

 放っておいてもいずれ消滅することは目に見えたものの、止めトドメを刺すべく踏み出した私。
 しかしそれを嘲笑うように──次の瞬間、瘴鬼ゴブリンは限界までのけ反った脊椎のバネを解放し、すさまじい跳躍力で私の頭上を飛び越えて、遠くからこちらを見ていた子供たちのすぐ傍に、落下するようにぐちゃりと着地した。

 まずい。駆け出そうとする私だったが、装甲たちが唐突に本来の自重おもさを思い出したかのように、全身が重くて足がもつれる。おそらく「零星拳」で魔力を急激に消費した反動だろう。やはり、私にはまだまだ実戦経験が必要なようだ。

「逃げて!」

 私の声は届かない。くねくねと立ち上がり嗤い声をあげる瘴鬼ゴブリン。子供たちに合流していたマリカが、両手を広げてその前に立つ。

 そのとき何処いずこからか響いてきたのは、乾いたひづめの音だった。村と逆方向から凄まじい速度でこちらへと疾駆して来る純白の鉄騎馬てっきば、そしてその背に颯爽とまたがるは白い鎧に金髪の騎士。

「──聖伐コンヴィクション!」

 見る間に子供たちの真横を駆け抜けて、瘴鬼ゴブリンと交錯しながら高らかに叫んだ彼は、その一瞬で抜刀した長剣を一閃する。

 天高く飛翔するのは、ね上げられた瘴鬼ゴブリン頭部くびだった。それは頂点で赤黒い霧と化し、空に消える。地上に遺された体も、後を追うように霧散していた。
 
 更に彼はそこで止まることなく、馬上から跳躍すると私を目掛けて美しい銀の長剣を振り下ろしてきた。まあ、悪役てき側と思われるのは無理もない。

 しかし軌跡予測レッドラインは私の目の前でぷっつり途切れている。つまり。

「貴公、何者だ」

 両手を広げて待ち受ける私の眼前で、剣の切っ先をぴたりと寸止めし、彼は問いかけてきた。

 きらめく美しい金髪と端正な顔立ち、左目周辺を覆う白い三角帯デルタ状の眼帯には黄金獅子紋ゴルドリオン──グランツ家の紋章。文武両道、眉目秀麗、彼の名はリヒト・グランツ。いわゆる『メイン攻略対象』だ。

 もしかすると──いやしなくても、どうやら私は聖女ヒロインと彼の運命的な出会いイベントに、知らず割り込んでしまったらしい。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

記憶を失くして転生しました…転生先は悪役令嬢?

ねこママ
恋愛
「いいかげんにしないかっ!」 バシッ!! わたくしは咄嗟に、フリード様の腕に抱き付くメリンダ様を引き離さなければと手を伸ばしてしまい…頬を叩かれてバランスを崩し倒れこみ、壁に頭を強く打ち付け意識を失いました。 目が覚めると知らない部屋、豪華な寝台に…近付いてくるのはメイド? 何故髪が緑なの? 最後の記憶は私に向かって来る車のライト…交通事故? ここは何処? 家族? 友人? 誰も思い出せない…… 前世を思い出したセレンディアだが、事故の衝撃で記憶を失くしていた…… 前世の自分を含む人物の記憶だけが消えているようです。 転生した先の記憶すら全く無く、頭に浮かぶものと違い過ぎる世界観に戸惑っていると……?

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

異世界転生したおっさんが普通に生きる

カジキカジキ
ファンタジー
 第18回 ファンタジー小説大賞 読者投票93位 応援頂きありがとうございました!  異世界転生したおっさんが唯一のチートだけで生き抜く世界  主人公のゴウは異世界転生した元冒険者  引退して狩をして過ごしていたが、ある日、ギルドで雇った子どもに出会い思い出す。  知識チートで町の食と環境を改善します!! ユルくのんびり過ごしたいのに、何故にこんなに忙しい!?

転生モブは分岐点に立つ〜悪役令嬢かヒロインか、それが問題だ!〜

みおな
恋愛
 転生したら、乙女ゲームのモブ令嬢でした。って、どれだけラノベの世界なの?  だけど、ありがたいことに悪役令嬢でもヒロインでもなく、完全なモブ!!  これは離れたところから、乙女ゲームの展開を楽しもうと思っていたのに、どうして私が巻き込まれるの?  私ってモブですよね? さて、選択です。悪役令嬢ルート?ヒロインルート?

政治家の娘が悪役令嬢転生 ~前パパの教えで異世界政治をぶっ壊させていただきますわ~

巫叶月良成
ファンタジー
政治家の娘として生まれ、父から様々なことを学んだ少女が異世界の悪徳政治をぶった切る!? //////////////////////////////////////////////////// 悪役令嬢に転生させられた琴音は政治家の娘。 しかしテンプレも何もわからないまま放り出された悪役令嬢の世界で、しかもすでに婚約破棄から令嬢が暗殺された後のお話。 琴音は前世の父親の教えをもとに、口先と策謀で相手を騙し、男を篭絡しながら自分を陥れた相手に復讐し、歪んだ王国の政治ゲームを支配しようという一大謀略劇! ※魔法とかゲーム的要素はありません。恋愛要素、バトル要素も薄め……? ※注意:作者が悪役令嬢知識ほぼゼロで書いてます。こんなの悪役令嬢ものじゃねぇという内容かもしれませんが、ご留意ください。 ※あくまでこの物語はフィクションです。政治家が全部そういう思考回路とかいうわけではないのでこちらもご留意を。 隔日くらいに更新出来たらいいな、の更新です。のんびりお楽しみください。

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!

古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。 その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。 『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』 昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。 領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。 一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――

転生『悪役』公爵令嬢はやり直し人生で楽隠居を目指す

RINFAM
ファンタジー
 なんの罰ゲームだ、これ!!!!  あああああ!!! 本当ならあと数年で年金ライフが送れたはずなのに!!  そのために国民年金の他に利率のいい個人年金も掛け、さらに少ない給料の中からちまちまと老後の生活費を貯めてきたと言うのに!!!!  一銭も貰えないまま人生終わるだなんて、あんまりです神様仏様あああ!!  かくなる上はこのやり直し転生人生で、前世以上に楽して暮らせる隠居生活を手に入れなければ。 年金受給前に死んでしまった『心は常に18歳』な享年62歳の初老女『成瀬裕子』はある日突然死しファンタジー世界で公爵令嬢に転生!!しかし、数年後に待っていた年金生活を夢見ていた彼女は、やり直し人生で再び若いままでの楽隠居生活を目指すことに。 4コマ漫画版もあります。

処理中です...