断罪魔嬢・ザ・ダークヒーロー ~破滅のさだめの令嬢は黒き魔鎧で無双する〜

草葉ノカゲ

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第二部 炎嬢編

オーダーチェンジ

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『さあ、次の質問で三つめだ』
「──え? 今のはきみが勝手に話したんだから、まだあと二つじゃない?」
『なっ……』

 絶句するマスター。とても、人間らしい反応リアクションだ。

「ふふ、冗談だよ。こちらにしても、そろそろ先を急ぎたい」
『……マスターをからかうんじゃあない。難易度を爆上げしてやるぞ』
「だって、きみはそういう不正ことはしない性分タイプじゃないか」
『……早く、最後の質問をしろ』

 否定しないことが、何よりの肯定だった。

「わかった。それじゃあ、最後にきみの──」

 そして私は、今度こそ最後の質問を口にした。

「──ほんとの名前を教えて欲しい」

 沈黙が落ちる。マリカが首を傾げ、ラファエルも怪訝そうな表情を浮かべていた。
 いちばん欲しかった情報はすでに入手してある。私が気になったのは、きわめて人間的なマスターが何者かということ。しかし最初に「who」を問いかけたときの反応から、素直に教えてくれるかは疑わしい。それなら、いっそ。

『アリオス。そう、呼ばれていたこともあったな』

 彼は名乗った。過去形で。

「アリオスか、うん、綺麗な響きの名だね。それじゃあ、いろいろありがとう」

 私はどこにいるかもわからない彼に丁寧に頭を下げ、感謝を伝える。
 影狐もそれに習い、マリカは天井に向かってぶんぶんと手を振っていた。ラファエルは、穏やかに微笑んでそれらを見ている。

「またね、アリオス」

 そして私たちが、歩き出そうとしたそのとき。彼の声が足を止めさせた。

『待って』
「うん?」
『いや、なんでもない。気をつけ──』

 と、その言葉を遮るように。影狐が、片腕を斜め上に向けて払った。

「──曲者っ!」

 空を裂いて飛ぶ一本の苦無くない。それは石造りの天井に影のようにわだかまる赤黒い塊を刺し貫き──と思えば塊はぐにゃりと形を変えながら、石の隙間に沁み込むように消えていった。
 からん、と苦無くないが石床に落ちる。

「へえ、珍しい。あれは瘴粘スライムですね。魔物の原型ともされる不定形の存在です」

 エリシャわたしの知識にもうっすらとしかないそれを、ラファエルが解説してくれる。

「陽光に弱いらしく地上では見かけないけど、小動物を捕えるほどのことしかできないから、スルーしても大丈夫だと思いますよ」
「そうか、危険がないから私もぜんぜん気付かなかったんですね。でも、気付いた影狐ちゃんはさすが忍者!」

 うんうんと、二つ結びを揺らして激しくうなずくマリカである。
 そしてそれきり、アリオスの声が聞こえることはなかった。 

「さてと」

 改めて。歩きだしつつ、私は考えていたひとつの提案をする。

「マリカは、先を急ぎたいよね?」
「うん。できればすぐにいきたい。私だけなら、回復魔法を自分に使ってずっと走っていけるから」

 体力スタミナを回復魔法でカバーしながら走り続けるとか、聞いたこともない話だ。しかし、さきほどの壁と化した聖套ヴェールを例に考えれば、きっとそういうこともできるのだろう。聖魔紋への異常適性。それもまた聖女のスキルか。
 とは言えひとりで特攻させるのはさすがに無謀すぎるだろう。聖女である彼女の身は修正力で守られている、という考え方もできるけれど、ゲーム的には主人公が脱落ミスした時点でぜんぶ終わりゲームオーバーという可能性だってある。

 当然、そんなリスクは冒せない。

「迷宮攻略のセオリーからは外れるけれど、パーティを二手に分けようと思う。マリカと影狐が道しるべを残しながら先行して、私とラファエルはそれに追従する」

 そこで考えたのが、パーティ分割だ。影狐が付いていってくれれば安心できる。それに、道しるべの目印なんてものは忍者ならお手の物だろう。

「なるほど任せて!」

 満面の笑顔を浮かべ、前のめりに即答するマリカ。

「いえ私はエリオット様のおそばに」
「影狐、お願い」
「……御意」

 影狐も渋々ながら承諾してくれる。

ラファエルせんぱいも、それでいい?」
「そうですね。先遣隊は心配だけど、僕は体力がないし、きっとその作戦ほうがいい。ただし、くれぐれも無理はしないこと。敵わないと思ったら、撤退して合流を待つんだよ」

 ラファエルの賛同をもって、私の提案は実行に移されることになった。
 
「それじゃ、二人ともあとでね!」
「エリオット様、どうかお気をつけて」
 
 同じ王立学園制服ワンピーススカートの裾を翻して、栗色の二つ結びと銀色のポニーテールを揺らし駆け出してゆく二人。その背中を見送った私とラファエルも、後を追って歩き出す。アリオスの話では、少なくともこのフロアに魔物はもういないはずだ。
 
「信用してくれて、ありがとう」

 一息ついて、隣を歩きながら改めて感謝の言葉を述べる。彼にとっては今日はじめて出会った年下の編入生に過ぎないはずのエリオットわたしの言葉を、すべて当たり前のように受け入れてくれたことに。
 やはり、このひとになら全てを話してしまっても──

「いいえ、礼には及びませんよ。はじめに思った通り、きみはとても聡明で、そして他人ひとの心に寄り添える人間ひとだった。それだけのことです」

 彼は優しく微笑みながら、言葉をつなげた。 

「──そう、昔からね」

 …………え!?
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