26 / 47
誰が敵で、誰が味方か
第26話
しおりを挟む「え、冗談でしょ」
「いやマジ。いつかは忘れたけど、透も隣にいたんじゃなかったかな」
「いや、いやいや、ないないない。夢だよきっと」
というか夢であってくれ。
「だとしたら相当な悪夢じゃん。お祓いしてもらおうかな」
愛華は透の言葉を真に受けたようで、「近くにお祓いできるところあるかな」などと検索を始めた。
一方、言い出した透のほうは、妙に落ち着かない気持ちになった。
「俺が一緒にいたってことは、今年に入ってから?」
「いや、そんな最近のことなら、どこで会ったとかちゃんと覚えてると思う。顔覚えるの得意だし」
「だとしたらだいぶ昔ってことになるけど」
「かもね。……あ、あった。駅から徒歩15分。お祓い無料で承りますって。今日やってるじゃん」
「お祓いって無料でできるものなの?」
「わかんないけど、そうなんじゃない? そうだ、カレシに聞いてみよ」
「詳しいの?」
愛華はスマホを耳元にあてたまま、器用に片目を閉じた。
「マジで何でも知ってるよ。天動説の正しさを証明するのが今の目標。世間の当たり前をひっくり返したいんだって。超カッコよくない?」
「それ、1回ひっくり返されたやつだよね」
「え?」
「ああいや、なんでもない」
愛華の通話を聞き流しながら、透はまったく別のことを考えた。
あれ以来、姿を見ていないランのことだ。
スマホを持っていないし、連絡の取りようがない。1度、公衆電話から自分のスマホへ電話をしてみたが、電源が入っていないようで繋がらなかった。
無事だろうか。今も誰かと電話をしながら、全国を車で走り回っているのだろうか。
いったい何が目的だったのか、最後までわからなかった。危険の渦中にいることだけはわかっていた。警官に追われていたようだったし、寝言で「やめろ」と叫んでいたこともあった。
その悲痛な寝顔を思い出し、透は激しい憤りを感じた。
叶うことならランを苦しめている存在を、綺麗さっぱりこの世から消し去ってしまいたかった。暴力はよくないなどと言っている場合ではない。
子どもじみた考えだとは、自分でもよくわかっている。透のように無知で無力で権力も財力もない若造に、そんなことはできない。
「何その顔。蜂に刺された?」
電話を切った愛華が、おかしさを堪えるように口を押さえている。
「失礼な。刺されてないし」
「ひどい顔してたよ」
蜂に刺された顔って、どんな顔だ。ぶすくれる透に、愛華が声を出して笑った。ひとしきり笑うと、愛華は目尻を拭って言った。
「なんか、若返ったね」
「喜んでいいのそれ」
「いいんじゃない。前よりだいぶマシ」
「ああそうですか」
「それじゃあお祓い行ってくるから」と腰を上げた愛華を、透は引き止めた。
「本当に行くのかよ。夢だろって話、信じたの?」
「別に。でもお祓いしてもらいたいのは本当だから」
愛華は透をちらりと見てから、目を伏せた。
「それ、早く治るといいね」
首に手をやると、ごわついた包帯の感触があった。
透は「おう」とぶっきらぼうに返し、軽く身じろぎをした。
透は受けるべき講義を終えても、帰路にはつかなかった。講義室を出たその足で、コンピューター室に向かった。
講義が行われていないときであれば、学生は自由に、室内に設置されているコンピューターを使うことができるのだ。
電源を入れ、検索エンジンを立ち上げる。数秒、指先をキーボードの上で彷徨わせてから、文字を打ち込んだ。
〈〇〇県 高校生〉
カーソルを幾ばくか見つめ、「溺死」と打ちかけてやめる。代わりに「川」と入れた。
〈〇〇県 高校生 川〉
検索をかけると、関係のない自由研究や川遊びの記録が出てきてしまい、慌てた。地名を入れればいいのかと考え直し、地名を入れた。
〈〇〇県△△市 高校生 川〉
少し考えて「事故」と付け足し、検索した。
スクロールし、それらしいタイトルの記事を開く。6年前の記事だ。
〝4日午後6時頃、〇〇県△△市の××付近で、川で溺れている中学生(15歳)を救出しようと高校生(16歳)が川に入り、行方不明となっていた事件で、捜索開始から1日後の本日、遺体となって発見された。〟
簡潔に事実だけを述べた文章の下には、川の写真が添付されていた。家の近くのあの川だ。あの日見たよりもずっと濁っていて、水かさが高くなっている様子だった。カッパを着て捜索している大人たちの姿が写っている。
スクロールすると、次の文が目に入った。
「……え」
透はすぐさま検索結果のページに戻り、別の記事を開いた。確認すると閉じて、その下の記事を見、また閉じて別の記事を見た。
次から次へと記事に目を通し、関係のない記事が見え出したところでやめた。電源を落とし、パソコン室を出た。
無心で足を動かし、改札に入り、電車に乗り、改札を抜け、バスに乗り、最寄りの停留所で降り、家についた。
汗の染みた服を脱ぎ、痒くなったので包帯を取った。熱いシャワーを浴びて、身体の汚れを落とし、清潔な服を着た。
コップ1杯の冷えた水を飲んで、クーラーをつけ、ベッドに横になった。
涙が止まらなかった。
〝なお溺れていた中学生は、病院に搬送され、一命をとりとめた――〟
0
あなたにおすすめの小説
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
鍛えられた肉体、高潔な魂――
それは選ばれし“供物”の条件。
山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。
見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。
誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。
心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。
ふたなり治験棟 企画12月31公開
ほたる
BL
ふたなりとして生を受けた柊は、16歳の年に国の義務により、ふたなり治験棟に入所する事になる。
男として育ってきた為、子供を孕み産むふたなりに成り下がりたくないと抗うが…?!
冴えないおじさんが雌になっちゃうお話。
丸井まー(旧:まー)
BL
馴染みの居酒屋で冴えないおじさんが雌オチしちゃうお話。
イケメン青年×オッサン。
リクエストをくださった棗様に捧げます!
【リクエスト】冴えないおじさんリーマンの雌オチ。
楽しいリクエストをありがとうございました!
※ムーンライトノベルズさんでも公開しております。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
シスルの花束を
碧月 晶
BL
年下俺様モデル×年上訳あり青年
~人物紹介~
○氷室 三門(ひむろ みかど)
・攻め(主人公)
・23歳、身長178cm
・モデル
・俺様な性格、短気
・訳あって、雨月の所に転がり込んだ
○寒河江 雨月(さがえ うげつ)
・受け
・26歳、身長170cm
・常に無表情で、人形のように顔が整っている
・童顔
※作中に英会話が出てきますが、翻訳アプリで訳したため正しいとは限りません。
※濡れ場があるシーンはタイトルに*マークが付きます。
※基本、三門視点で進みます。
※表紙絵は作者が生成AIで試しに作ってみたものです。
オメガ修道院〜破戒の繁殖城〜
トマトふぁ之助
BL
某国の最北端に位置する陸の孤島、エゼキエラ修道院。
そこは迫害を受けやすいオメガ性を持つ修道士を保護するための施設であった。修道士たちは互いに助け合いながら厳しい冬越えを行っていたが、ある夜の訪問者によってその平穏な生活は終焉を迎える。
聖なる家で嬲られる哀れな修道士たち。アルファ性の兵士のみで構成された王家の私設部隊が逃げ場のない極寒の城を蹂躙し尽くしていく。その裏に棲まうものの正体とは。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる